奇妙な物語

海藤日本

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変人マンション

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 ある日職場の転勤で、とある町の賃貸マンションに引っ越して来た「春樹」という一人の若い男性が居た。
 その賃貸マンションは、ワンルームではあるが近くにはコンビニも駅もある。
 それに家賃もそこまで高くはなかった為、一人暮らしには十分である。
 
 その賃貸マンションは五階建てであり、春樹は三階の角部屋に住む事になった。
 春樹は、角部屋だった為、部屋の横にも小さな窓があった。
 マンションの横もマンションが建っている為、窓を開けると隣のマンションに住んでいる若い女性も同時に窓を開けた。
 二人は目が合い、軽く会釈をした。
 
 春樹は、真上、隣、真下に住んでいる人に挨拶へと向かった。
 しかし、その日は日曜日であるのに誰も出て来なかった。
「まあ、出掛けているのだろう」
 その時は、そう思った。
 次の日の月曜日、春樹は夜食を買いにコンビニへと向かい帰ってくる時に、マンションのベランダを見ると、昨日訪ねた部屋は全て電気がついていた。
 
 春樹は昨日の事を思い出し、すぐに挨拶へと向かった。
 しかし、またしても全員出て来なかった。
「おかしいなぁ。居る筈なのに……」
 春樹はしばらく考えた結果、「もう、挨拶はいいだろう」と思いそれ以降、訪ねるのを止めた。引っ越して来て、二ヶ月程経った夜の事である。
 春樹は仕事から帰宅し、風呂に入って夜ご飯を食べた後、パソコンを扱っている時であった。「ピンポーン」とチャイムが鳴ったので、春樹は玄関の扉を開けた。
 
 そこには、強面の五十代くらいの男性が、煙草を吸いながら立っていた。
「どうされました?」
 春樹がそう言うと、「兄ちゃん、部屋で何かしてんの? ちょっとうるさいんやけど?」と言ってきた。

「いえ、私はパソコンを扱っていただけなので、特に大きな音は出していないですよ」
「おかしいなぁ。ハンマーで壁を叩くような音がしたんだが……」
「ハンマー? ……それは流石に私ではありません」
「そっか、邪魔したな……。一応やけど俺、兄ちゃんの真上に住んどるから……」
 強面の男性はそう言い、部屋へと戻って行った。

「俺の上の人、ちょっとヤバい人だなぁ。てかあの人、俺の真上なんだよな? ハンマーで叩く程の音がしたら普通、俺の部屋まで聞こえてくる筈だが……」
 春樹はこの時、上に住んでいる強面の男性の言っている事が、変だったことに気付いた。

「もしかして俺、変なマンションに引っ越して来たか……。いや、まだ二ヶ月しか経っていないし、決めつけるのは早いか」
 春樹はパソコンをやめ、その日は早目に寝る事にした。
 
 それから、また二ヶ月程経った頃である。   
 その日は土曜日で春樹は休みであり、まだ眠っている時であった。
 突然「ガンガンガン!」と物凄い音で春樹は飛び起きた。
 咄嗟に時計を見ると、時刻は午前十一時。
「ガンガンガン!」とまた物凄い音がし、春樹は動揺していた。
 
 明らかにこの音は隣から、聞こえてくる。
「流石に言いに行こう」
 春樹がそう思ったと同時であった。
 今度は突然、春樹の部屋の扉を「ガンガンガン!」と誰かが強く叩いてきた。
 春樹は、考えるより先にすぐに玄関の扉を開けた。
 そこには、あの強面の男性が物凄い形相で立っていた。

「うるさいんじゃ! ボケ!」
 あまりの理不尽に春樹は激怒した。
「俺じゃねぇよ! 俺の隣から聞こえているんだよ!」
 それを聞いた強面の男性は、隣の玄関のドアを叩き出した。
 すると隣のドアが開き、中から大人しそうな外見の若い男性が出て来た。
「お前か?」
 
 強面の男性がそう言うと、隣の男性はニコッと微笑み、落ち着いた声で言った。

「違いますよ。恐らく、私の上の人です。もう、管理会社の方に連絡は入れておいたので、もうじき止むと思いますよ」
 
 それを聞いた強面の男性は「あんたの上なら、俺の隣か? 俺は明らかに下から聞こえたが……」と言ったかと思うと、次の瞬間には「いや……もしかしたら俺の上の奴かもしれねぇな。俺の上の奴はアル中なんだ」とまた変な事を言い出した。

「いや、真逆じゃん。言うこと、コロコロ変わるなぁ」と春樹は心の中で呆れていた。
「まぁ、いずれにせよ管理会社に、連絡は入れておいたので時期に止みますよ。……では、私はこれで」
 
 隣の人は、軽く会釈をして扉を閉めた。
 春樹も「これ以上、変な奴らと関わりたくない」と思い「失礼します」と言い、部屋へと戻った。
 隣の人が言う通り、あの物凄い音はすぐに止んだ。

「しかし、おかしいなぁ。俺は確かに隣から音がしたんだが……。でも、あんなに落ち着いた男性が物凄い音を出すのは考えにくい……。いずれにせよ、変なマンションだなぁ」
 
 春樹は、パソコンを扱いながらそう思った。
 実は、変な体験はこれだけではなかった。
 春樹は、車で会社に通勤している。
 その為、マンションの横に駐車場を借りているのだが、春樹の隣に止めている男性はいつも、車の中に居る。
 
 春樹が仕事から帰って来ても、車の中でスマホをいじっており、夜に用事があって駐車場へ行くと、車の中で眠っている。
 それが一度ならまだしも、春樹が駐車場に行くと殆んど車内に居るのである。
 それに一度、春樹が仕事から帰って来た時、春樹がいつも停めている場所に、別の車が停まっていた。
 
 車の中には、六十代くらいの女性が乗っていた。
 春樹は「すみません、そこは私が借りている場所なんですけど……」と言うと、その女性は「あら、すみませんねぇ。息子に会いに来たもので……。あ、ちなみにあなたの横に停めてる車の人が私の息子です。一階に住んでるので、よろしくお願いします。」と言い、去って行った。
「あの変な男の母親か。……それにしても何故、あの男は家がすぐ側にあるのに、よく車内に居るんだ? 相変わらず、変な人が多いマンションだなぁ」
 
 これだけではない。
 まだ、駐車場には変な人が居るのだ。
 これも春樹が仕事から帰宅し、車から降りた時であった。
 駐車スペースではない所に、小さな軽自動車を洗車している中年男性が居た。
 常識はないにしても、ここまで変な人達を見てきた春樹からしたら可愛いものであった。
 しかし、次の瞬間にはその考えは何処かへ飛んで行ってしまった。
 
 何故なら、その中年男性はよく見ると、パンツ一丁で洗車をしていたからである。
 春樹は思わず目を疑った。
 しかし、それは錯覚ではなくその中年男性は、自分の身体も洗車していたのだ。
 一歩間違えば警察沙汰である。
 車と中年男性は見事に泡だらけになっており、春樹はこの光景を後二回見ることになる。
 
 そして、春樹の隣に住んでいる人だが、気付いた時にはもう居なくなっていた。
 それが分かったのは、春樹が仕事に行く時であった。
 玄関の扉を開けた際に、タイミングよく隣の玄関の扉も開いた。
 そこから出て来たのはあの落ち着いた男性ではなく、少し小汚ない四十代くらいの男性であった。
 
 その男性は、物凄い量のペットボトルを入れた袋を次々に外に出しており、春樹の道を塞ぐ程であった。
「あの、通りたいのですが……」
 春樹がそう言うと、その男性は何も言わずペットボトルの袋を退けた。
 その日から、春樹はほぼ毎週同じ体験をするのであった。

「しかし、あの量のペットボトルは異常だ。あの量を部屋に入れていたら、歩く場所など殆んどなくなってしまう。しかも毎週……どう考えても可笑しいだろ」
 
 そして、春樹の真下に住む人間も恐らく変人であった。
 何故かと言うと、ある日の夕方、仕事から帰ると、ポストに一通の手紙が入っていた。
 その内容は、「夜中にあなたの騒音で下の住人が困っています」との事であった。
 勿論、春樹に心当たりはない。
「何かの間違いだろう」と思い、ゴミ箱に捨てた。

 しかし、それから三日後に春樹のスマホに一本の電話が鳴った。
 出ると、相手はこのマンションの管理会社の職員であった。
 その内容とは下の住人が、「最近、夜に上から物凄い音が聞こえてくる。注意してくれないか?」と言ってきたそうだ。
「あの手紙は、間違いではなかったのか」
 
 春樹は「私は、夜中に物凄い音などたててません」と言ったが「とにかく注意して下さい」との事であった。
「注意も何も、俺は何もしていない」と少し腹が立った春樹は、事情を聞く為に下の住人を訪ねたがやはり出て来ない。

「ここまで、変人が揃うマンションは稀だ。お金に余裕はないが……」
 
 春樹は、パソコンを扱いながら引っ越しを考えるようになった。
 それからすぐの事であった。
「ガンガンガン!」と物凄い音で、春樹は目を覚ました。
 時計を見ると、時刻は夜中の午前二時。
 音は真上から聞こえくる。
「あの強面のおっさんか……」
 音は一向に鳴り止む気配がない。

「流石に注意しに行くか……。いや、でも相手はまともではない……。こんな夜中にトラブルはごめんだ。警察に通報するか」
 
 春樹は警察に「私が通報したとは言わないでくれ」と念を押した。 
 後から、仕返しでもされたら面倒だったからである。
 音はしばらくすると止んだ。
 
 次の日、春樹がコンビニから帰って来てマンションのエレベーターを乗ろうとした時、一人の住人が入って来た。
 その人は、見た目はごく普通の男性で初めて見る人であった。 
 軽く会釈をすると、その男性が話しかけてきた。

「昨日、うるさかったでしょ? 四階の人……。どうやら警察が来たらしいですよ」
「呼んだのは俺だが……」と春樹は思いながら「そうなんですね。確かにうるさかったですね」と適当に返した。

「なんか、五階の人と揉めたらしいですよ。五階の人がうるさくて、四階の人がそれに腹を立てたとか……」
「……と言う事は、あの強面のおっさんの更に真上に住んでる人か……確か、アル中とか言ったいたなぁ」
 春樹がそう思っていると、その男性は変な事を言い出した。

「でもね……居ないんですよ。」 
「どういうことですか?」
「あの人の真上には、誰も住んで居ないんですよ。四階の人はよく、私にも愚痴を言ってくるのですが……。まぁ、少し変わってらっしゃるのでしょう」 
 
 男性はニヤリと笑い二階に下りた。
 そして、春樹の真下にある部屋へと入って行った。

「もう……引っ越そう」
 
 お金はなかったが、春樹はとうとう決断した。無事に次の部屋が見つかり、引っ越す日の事であった。
 パソコンが入っているバッグを手に持ち、車に乗ろうとした時、一人の男性が声をかけてきた。
 あの、強面の男性である。

「兄ちゃん、引っ越すのかい?」
「あ……はい、お世話になりました」
「いえ、こちらこそ」
「ん? こんな感じだったか?」
 
 春樹は違和感を感じていると、強面の男性は最後に変な事を言い出した。

「兄ちゃん、次は変な人が居ない所だったらいいねぇ。此処は、変人だらけさ。何故か、このマンションはそういう奴らが集まる。最初から、変人だったか……此処に来てたら、変人になったか……どっちかだ」
 
 強面の男性は春樹が持っているバッグをじっと見つめニヤリと笑った。
 
 それに気付いた春樹はドキッとした。
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