奇妙な物語

海藤日本

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五分の扉 前編

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 俺の名前は「風谷春樹」仕事を転々とする金なしのフリーターだ。
 俺は、今まで色んな仕事をしてきたが、全く続かない。
 今だって、日雇いで食い繋ぐ日々を送っている。
 
 実は、こんなだらしない俺にも一人の愛する彼女が居る。
 名前は「山寺せな」
 彼女は俺とは正反対で、看護師として毎日、一生懸命働いている。
 せなはとても優しくて、こんなだらしない俺に「少しでも役に立ちたい」とお金を渡してきた事があった。
 
 だが、俺はそれを断った。
 気持ちは嬉しかったが、彼女に生活面を手助けしてもらうなんて、俺のプライドが許さなかった。
 俺は何か刺激を求めていた。
「何か、面白い仕事とかねぇかな? てか、腹減ってきたなぁ」
 俺はとりあえず腹が減ったので、近くにあるコンビニでおにぎりを買った。
 そして、近くにある公園のベンチに座り、ボーッと空を眺めながらおにぎりを食べていた。
「そう言えばこの前、せなと喫茶店でこんな話したっけなぁ……」
 
 それは一週間前の事。

「そっか……。春樹、仕事辞めたんだ。……でも、私達まだ若いんだから、次はいい所見つかるよ」
「そうかねぇ。……せな、悪いな。いつも、変な心配ばかりかけて」
「ううん、全然。……それに、いくら安定した職に勤めているからといって、絶対に幸せだって限らないしね」
「ん? 仕事で何かあったのか?」
「んーまぁ、ちょっとね。人間関係とかが、少し面倒くさいなぁって。……春樹、私思うの。本当に自分がしたい事をするのが、一番いいんじゃないかって。それなら、多少給料が少なくても、自分の合う仕事をした方が、幸せなんじゃないかなって」
「せな……」
「だから、春樹はそんなに急がなくてもいいと思うよ。私も居るんだし。……見つかるといいね。春樹が本当に合う仕事。」
 
 せなは笑っていたが、何か悲しそうな目をしていた。
「せな、何かあったら言ってくれよ? 話ぐらいなら俺でも聞けるからさ」
 すると、せなはニコッと笑って言った。
「春樹、ありがとう」
 
 時は戻り、俺は残っているおにぎりを口にしようとした。
 すると突然、俺の目の前に黒服を着た中年の男性が現れた。
「あのー、すみません。お食事中に。少しよろしいですか?」
「……何だ? あんたは?」
「申し遅れました。わたくし、黒木と申します。失礼かと思いますがあなた今、お金に困っているのでは? 後、何か刺激がある体験をしたいと思っているんじゃないでしょうか?」
 
 俺は、まるでこの黒木という男に心を見られているみたいで気味が悪かった。
 そして、思わず嘘をついた。

「何なんだあんた? いきなり来て、意味不明なこと言ってんじゃねぇよ。早くどっか行ってくれ」
「まぁまぁ、落ち着きなされ。私は、別にあなたが思っているような者ではないので、ご安心を」
「よく言うぜ」
 そう思った俺はこの場から離れようとした。

「飯も喰ったし、俺今から用事あるから。じゃあな、おっさん」
「まぁまぁ、少し待ちなされ」
「何だよ? 忙しいって言ってんだろ?」
「お話ぐらいは聞く価値はあると思いますよ?」

 そう言うと、黒木は懐からある物を出した。
 それは、平たく言うと魔法使いが持っていそうな棒だった。
 そして、その棒を振ると謎の扉が出てきた。
 その扉は水色で、およそ3mぐらいはある大きな扉だった。
 あまりの非現実的な光景を見て、俺は驚きを隠せなかった。

「あんた、まさか魔法使いか?」
 それと同時、俺は周りを見てある事に気づいた。
「ちょっと待て。周りの人達、俺達が見えていないのか? 俺がこんなに騒いでいるのに、目の前にこんな変な扉があるのに、気づいていないどころか目もくれていない。」
 俺は、額から冷たい汗を流した。
「あんた、俺に何をした? 何が目的なんだ?」
 黒木はニヤリとして答えた。

「別に私は魔法使いでもなければ、あなたをどうこうするつもりもないですよ。只……目的があるとするなら、あなたの気持ちに答えてあげようと思っただけです。それに、私が凄いのではない。私の持っているこの棒が凄いのですよ。この棒の名前は、『アナザーロッド』これを持った者は、周りから自身を消す事が出来る。そのせいですよ。周りの人から気付かれないのは」

「いや待て。だったらあんたがその棒を持った瞬間、俺もあんたの姿が見えなくなる筈だ。それに俺はそのアナザーロッドって奴をまだ持っていない。なのに何故、周りの人は俺の姿も見えないんだ?」

「まぁ、そんな細かい事は気にしなくてよいのでは? ……そんな事よりあなた今、物凄くワクワクしているでしょ?」

 その問いに、俺もニヤリとして答えた。

「当たり前だ。俺はこんな刺激のある事を求めていたんだからなぁ。この際、あんたが何者なのかはもうどうでもいい。……それよりこの扉の中に入れば、俺は金持ちにでもなれるのか?」

「えぇ、なれますよ。その為に今から説明しますので、しっかり聞いて下さいね?」
「俺は、長い話は嫌いだから手短に頼むぜ?」

 黒木という男は話始めた。

「この扉の名前は『五分の扉』今、私がやった通り、このアナザーロッドを一振りすると出てきます。そしてこの五分の扉の中に入れば、そこは異世界。只、この異世界は今の現実世界と何ら変わりはありません。そして、この五分の扉は名前の通り、この異世界に居れる時間はたったの五分です。それに、この異世界での五分間は、現実世界では一瞬にも満たない」

「ちょっと待てよ。そんな所に行って、俺に何の得があるんだ。俺は、異世界に散歩しに行きたい訳じゃねぇんだよ。刺激と金が欲しいんだよ」

「ほっほっほっほっ。お口が悪く、せっかちなお方ですね。あなたが求めている物。それは、今からお話しますよ。まず、あなたが欲しているお金。それは、五分間この異世界で生き残る事が出来れば、一万円貰えますよ」

「何? たった五分で一万円?」
「えぇ、只、この五分の扉を出現させられるのは一日に一回だけ」
「何だよ。一日に一回だけかよ。なら一日に一万しか稼げないのかよ」
「でも、たった五分で一万円と考えたら、これ程おいしい話はないでしょ?」
「まぁ、確かにそうだが……」
「それに私は、一日に一万円しか稼げないとは言っていませんよ? ちゃんと、ボーナスもあるんです」

「まぢかよ! それを早く話してくれ!」
「はい、只、これを話す前にあなたが五分の扉の中に入ると、何が起こるのかについてお話しをする必要があります」
「もー、話しが長いっておっさん」

「まぁまぁ、これが結構重要なんですよ。もし、あなたが五分の扉の中に入ると、あなたはあらゆる生物から襲われます。いわば皆が敵。あらゆる生き物が、あなたを殺しにかかって来るでしょう。あなたは、この五分間生き残らなければお金も貰えません」

「おい、もし俺が五分以内に殺されたらどうなるんだ?」

 俺の問いに、黒木の目が濁った。

「もし、あなたが五分の扉の中で死ぬと、現実世界であなたの身体は消滅し、今まで関わった人達の頭の中から、『風谷春樹』と言う存在自体、記憶から抹消されます。」

 俺は眉間にしわを寄せた。

「まさか、今になって腰が引けたとか?」 
「なわけねぇだろ! こんぐらい刺激ねぇと燃えないんだよ!」
「流石です。では、あなたが一番気になっているボーナスについてお話しましょう」

 そう言うと、再び黒木の目がどす黒く濁った。

「それは、生き物を殺すことですよ。犬や猫、鳥等の動物は一律で五千円。人間は老若男女、勿論子供も含め、一律三万円です。まぁ、金額からすると人間を殺した方が、断然お得ですね。ねぇ? 簡単でしょ?」

「俺に、人や動物を殺せと言うのか?」

「安心して下さい。五分の扉の中で、人や動物を
殺しても、怪我をさせても、現実世界でその生物達が傷つく事も、死ぬ事もありません。勿論、あなたも五分間生き残る事さえ出来れば、いくら傷ついても、現実世界に戻れば全て完治していますよ」 

「なんだよ。驚かせやがって。……なら、思いっきりやれるってもんだ」
「えぇ、ただし……」
「あー、もういいよおっさん! それだけ聞ければ充分だ」
「はぁ……そうですか。……では、あなたにはこのアナザーロッドを差し上げましょう」
「サンキューおっさん! なら、行って来るわ」
「はい。ご武運をお祈りしております」

 こうして俺は、五分の扉の前に立った。
 ふと後ろを振り返ると、黒木という謎の男は既に消えていた。
「何だったんだ? あのおっさん。てか、なんであのおっさん、俺の名前知ってたんだ? ……まぁいいか」

 その頃、黒木は既に人目のないある道を歩いていた。

「ほっほっほっほっ。それにしても、久しぶりに面白いお方に出会えた。只、人のお話は最後まで聞くものですよ? 風谷春樹さん」

 扉の前に立っている俺は一応、説明された事を頭の中で整理をした。

 一、アナザーロッドを一振りすると五分の扉が出現する。
 二、五分の扉を出す事が出来るのは一日に一回だけ。
 三、五分の扉の中の異世界は、現実世界と何ら変わりはなく、この異世界での五分間は現実世界では、一瞬にも満たない。
 四、アナザーロッドを持った者は、周りから自身を消す事が出来る。
 五、異世界は五分間しか滞在出来ない。
 六、異世界で五分間、生き残る事が出来れば一万円貰える。
 七、異世界ではあらゆる生物から襲われる。
 八、もし、異世界で死ぬことがあれば現実世界でも自身の身体は消滅し、自分の存在は他人の頭の記憶から抹消される。ただし、どんな怪我を負っても生き残る事さえ出来れば、現実世界に戻った時点で傷は消える。
 九、異世界で生物を殺しても、殺された生物は現実世界では死なない。
 十、犬、猫、鳥等の動物を殺せば、一匹につき一律五千円貰える。
 人間を殺せば、老若男女、子供も含め、一人につき一律三万円貰える。

「まぁ、こんな感じだな。……よし、ならいっちょ行くか!」

 こうして俺は、五分の扉を開き中に入った。  
 異世界に入ると、本当に現実世界と何ら変わりはなかった。
「本当に、ここ異世界なのか?」
 そう思っていると、周りを歩いている人、散歩している犬、そして野良猫と、空を飛んでいるカラスが一斉に俺の方を見た。
 次の瞬間、あらゆる生物達が俺を目掛けて襲って来た。
「うお! まぢで来やがった!」
 俺はとにかく全力で逃げた。

 全ての生物が、物凄い形相で俺を追いかけて来る。
 俺は逃げる事しか出来ず、道の裏路地に入り一旦身を隠す事にした。
「甘く見ていた。今思えば全員敵なんだよな。こんな数、相手してられないぞ」
 次の瞬間、俺の左腕になにか付いているのに気付いた。
「なんだこれ? 腕時計?」

 説明しよう。今、春樹の腕にある物。
 これは「アナザータイムウォッチ」
 通称アナタイは、異世界に入ると自動的に身につく。
 そして、これは五分間のタイムを測ってくれるのだ。
 つまり、春樹はこのタイムウォッチを見ながら、行動する事が出来るというアイテムなのだ。 
 まぁ、普通の時計です。

「まだ二分しかたってねーよ。とりあえず今日は初陣だし、このまま隠れて一万円だけ頂くか」
 俺はそう思ったが、現実はそう甘くはなかった。
「ガルルルゥ」となにか獣の声がする。
 振り向くと、後ろに犬が物凄い形相で俺に近づいて来る。
 それと同時に、上からはカラスが俺を見つけて突進して来た。
 俺は、横に落ちてある棒を拾って、カラスの眼球を目掛けて投げると、それがクリンヒットした。

 俺は、学生時代野球をしていた。
 ここで役に立つとは思ってもいなかった。
 カラスは落下し、俺はカラスを全力で踏んづけた。
 するとカラスは死んだ。
「よっしゃ! 舐めんなよ!」
 でも、俺は犬の存在を忘れていた。
 ガブッと鈍い音がした。
 俺は、右足に猛烈な痛みを感じる。
 そう、犬が俺の右足を思いっきり噛みついていた。

 俺は痛みに耐えながら、左足で犬を踏んづけた。
 それで犬は離れはしたが、俺の右太ももの肉が噛みちぎられていた。
「やられた……。この出血はひどい。痛みで歩けねぇ……」
 犬は再び起き上がり、俺に向かって突進して来た。
「嘘だろ? ……まさか、初陣で俺は死ぬのか?」
 
 次の瞬間、俺は現実世界に戻り犬も居なくなり、右太ももの傷も完治していた。
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