奇妙な物語

海藤日本

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五分の扉 後編

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「……助かった……五分経ったのか。時間を見る余裕もなかった」
 
 その時、俺の手元に一万五千円があった。「そっか……カラスを一匹殺したから、+で五千円ってことか。……でも、いくら五分とは言え、あの痛みに耐えて一万五千円か」
 俺は、家に帰って必死に考えた。

「最初は逃げて、人目のない所で五分隠れているだけで一万円ならそれにすべきか? いや、俺は犬とカラスにバレた。動物は嗅覚が優れている。隠れてもまず見つかるぞ。……それに、カラスは空から見れる。厄介だ。……後、俺は手ぶらであの異世界に行った。手ぶらでたった五分は、流石に誰も殺せねぇ」

 考えぬいた結果、俺は決心した。
 俺は店に行き、ロングナイフを買った。

「これで、人間や他の動物の急所を刺せば一撃で殺せる」
 本当はマシンガンとかロケットランシャーとか使用して、一気に殺せば大量にお金が入ってくるが、そんな物が手に入る訳がない。
「……いや待てよ」
 俺は、更なるいい考えを思いついた。

「まずは、このロングナイフで一日最低でも四、五人は殺せる。人間を殺せば、一人につき三万円だ。と言うことは、一日十万以上は稼げる。それを三十日やれたら……三百万を超える。月に三百万以上も稼げれば、俺はすぐにでも金持ちになれるぞ。そっから金に余裕が出来たら、外国からマシンガンとか、ロケットランシャーとか買えばもっと金が増える。なに、どうせ裏でそんな取引やってるだろ。金さえ払えば奴らも売ってくれるだろ。よし! 明日からこれで行こう」

 次の日。

「場所は、なるべく安全な所からがいいな。……となると自宅か」
 俺はアナザーロッド使い、5分の扉を自宅で出現させた。
「やっぱこの扉もすげーな。触れるのに、家に置いてある物をすり抜けてやがる。……いや、これも俺がアナザーロッドを持っているからか? まぁ、そんな事はどーでもいい。とりあえず行くか!」
 
 こうして俺は、五分の扉の中に入った。
「やっぱり扉の中も俺の部屋か。今日は、昨日買ったロングナイフがある。あまり、装備を重くしすぎても動きが鈍るからなぁ。今日は、しっかりアナタイも見ながら……」
 
 次の瞬間、俺の部屋の窓ガラスが割れた。
 そこに現れたのは、一人の中年の男だった。
 俺は驚きを隠せなかった。
 何故なら、俺が住んでいる部屋は二階だからだ。
 それと同時、玄関の扉を殴る音も聞こえてきた。

「玄関は、そう簡単にやぶれねぇ。…それにしても、このおっさん、運動神経いいじゃねぇか」
 おっさんは、鋭い眼光で俺に襲いかかって来た。
「わりぃなおっさん。恨みはねぇが、死んでくれ!」
 俺は、ロングナイフでおっさんの心臓を貫いた。
 ナイフを抜くと、おっさんは大量の血しぶきをあげて死んだ。
 
 その返り血がおれの身体についた。
 いくら異世界とはいえど、俺は初めて人間を殺した。
 昨日カラスを踏み殺したが、正直その時よりも全く感覚が違う。
 その時、俺の中の悪魔が目覚めた。

「最高じゃねーか! こんなおっさん殺すだけで金が貰えるなんてよ! しかも、この世界じゃ捕まらねぇ!」

 俺は、叫ぶと同時に玄関の方へ走って行き扉を開けた。
 目の前には、十人くらい人間が居た。  
 その中には女、子供、老人も居た。
 だが、俺はそいつらが金にしか見えなかった。

「ヒィアアー!!」

 俺は、叫びながらロングナイフでその場にいた十人を刺し殺した。
 俺の身体は、返り血で真っ赤に染まっていた。
 俺はアナタイを見た。

「もう終わりか」

 五分が経ち、現実世界に戻ると全てが元通りになる。
 俺の身体も綺麗になっている。
 勿論、俺が殺した人間も死んでいない。
 俺は今回、合計十一人殺した。
 そして、俺は生き残った。
 俺の手元には、合計で三十四万円があった。
 俺はお金を手に持ち、それを部屋にばら撒いて大声で笑った。

「あーはっはっはっはっ! 楽勝じゃねーか! たった五分で三十四万だ! 最高だ! あのおっさんに感謝しねぇとな!」

 もう、俺の心は完全に悪魔に取り憑かれていた。
 そして、俺は最悪な事を思いついた。

「そうだ。病人を狙おう。人間は一律三万だ。病人なら動けないから殺し放題だ。よし、明日は大きい病院にでも行くか」

 俺は、既に自分を制御出来ていなかった。
 もう、周りすら見えていなかった。
 俺の頭の中はお金の欲で支配されていた。
 その時、俺はせなのあの言葉を思い出した。

「見つかるといいね。春樹が本当に合う仕事……」

「せな……やっと見つけたよ。俺の合う仕事。……今週末、会う予定だから、せなにいっぱいご馳走してやるか。」

 次の日、俺はロングナイフを持って近くにある大きな病院に足を運んだ。
 ナイフを持っていても、アナザーロッドを持っているから周りから俺は見えない。
 もう、俺は正気じゃなかった。

「金金金金金……」

 周りを歩いている人が全部、金に見えた。「おっと、危ねぇ。危うく、現実世界と異世界の区別がつかねぇとこだった。そんなへまはしねぇよ」

 俺は病院に入り、適当に病室を選びんだ。
 病室に入るとアナザーロッドを使い、五分の扉を出現させた。
「さぁ、今日は百万くらい稼ぐか」
 俺は扉の中に入った瞬間、一瞬で病人に襲いかかった。

「やっぱり病人だから動きが鈍いなぁ!」
 俺は、瞬く間にその病室にいる八人を殺した。
「さぁ、次だ!」
 俺が廊下に出ると、患者が一生懸命俺の方に向かって来る。
「そんな動きじゃ、俺は殺せねーよ!」
 俺は、向かってくる患者を容赦なく刺し殺していく。

 もう、何人殺したのか分からない。
 数を数えるのも忘れ、俺はひたすら目の前の人間を殺していった。
 次の瞬間、俺の目の前にある人物が現れた。

「……せな?」

 俺は完全に忘れていた。
 せなは、この病院で働いていたのだ。
 せなはナイフを手にしており、無表情で俺の方へ近づいて来た。

「せな……やめてくれ。俺は、いくら異世界でも、せなを殺す事なんてできねぇ」

 そう思った瞬間、俺の中の悪魔が呟いた。

「なにが、愛する人は殺せないだ。お前は今、何人殺してる? さっきまでの威勢はどうした。あの女も、ここで殺しても、現実世界じゃ死にはしないんだ。それに今、あの女はお前を狙っている。ここで死んだら、全てが失くなるんだぞ? お前が死んだら、あの女からも忘れられる。それでもいいのか? あの女の為にも……山寺せなを殺せ!」

「そうだ……俺は死ねない。せなの為にも!」   
 せながナイフで俺を刺して来た。
 俺は、それを皮一枚でかわした。

「うぉぉぉぉ!」

 俺は、叫びながらせなの心臓目掛けて、ロングナイフを突き刺した。
 ナイフを抜くと、せなは血しぶきをあげながら崩れ落ちた。

 一方その頃。

 私の名前は「山寺せな」
 少し、仕事に疲れている看護師だ。
 私は、子供の頃から憧れだった看護師になった。
 最初は頑張ってはいたが、仕事のプレッシャーや、先輩達のパワハラで少し悩んでいた。 
 勤務形態も不規則で、徐々に私の身体は悲鳴を上げていた。
 
 でも、それでも頑張れる理由は私にはあった。
 それは、私の彼氏の「風谷春樹」
 春樹は、仕事を転々としている。 
 一見、だらしない人だと思われるが、私にはそうは見えなかった。
 私は、春樹が学生時代の頃から知っている。    
 春樹は、野球をしている時はとても真剣だった。
 春樹は、チームワークをとても大事にしていた。
 同じチームの仲間達を励ましたり、応援したりよく気にかけていた。
 そんな一生懸命な姿を見て、私は春樹に惚れた。
 春樹は今、きっと大きな壁にあたっているだけ。

 きっと自分に合う仕事が見つかれば、またあの時の春樹が見れる。
 その時、私は春樹の隣にいたい。
 いつか、春樹が自分に合う仕事が見つかれば、私はそれだけで嬉しい。
 それだけで今、なんとか動いている。

「でも、私も今の現状を少し変えられたらいいなぁ……」
 
 そんなある日、私は仕事から帰っていると突然、黒服を来た男性から声をかけられた。

「あのー、すみません」
「きゃっ! なんですか?」

 いきなり声をかけられたので、私は思わずびっくりした。

「わたくし、黒川と申します」
「何ですか? あなた。……私、忙しいので失礼します」
「まぁまぁ、少し待ちなされ。お嬢さん」

 正直、私はこの男が気持ち悪いと思った。

「あんまりしつこいなら警察呼びますよ?」「まぁまぁ、私はあなたが思っているような者ではないですよ。……どうやら、先にお話を進めた方が早いようですね。」

 私は、怖くなって大声で叫んだ。

「誰か、来てください! 春樹、助けて!」     
 でも、周りを歩いている人はそんな私に目もくれていない。

「……嘘? 皆……私が見えてない?」

 私は背筋がゾッとした。

「あなた、私に何をしたんですか?」

 すると、黒川という男はニヤリと笑って答えた。

「私は、あなたの今の生活を、少しでも変えてあげようと思っただけですよ」
 
 そう言うと、黒川という男は懐からある棒を出した。
 それを一振りすると、そこには水色の大きな扉が現れた。
 あまりな非現実的な事に、私は膝から崩れ落ちた。

「……なによ? これ……」

「あなたの人生を変える扉ですよ。ぜひ、お話だけでも……」
 
 私は今、五分扉の中に居た。
 でも、私はいくら異世界とはいっても人や動物を殺せなかった。
 護身用でナイフは持っていたが、基本私は逃げていた。
 私は学生時代、陸上部だった。
 だから、そう簡単には捕まらない。
「五分で一万円貰えるなら、それでいい」と私は思った。

 でも、現実はそう甘くはなかった。
 私が走って逃げていると、グサッと音が聞こえ、急に私の胸の付近が冷たく感じた。
 どうやら私は、横から誰かに刺されたようだ。
 私は、その場に倒れた。
 そして、見上げるとそこには、春樹が居た。 
 春樹は、私の血で染まったナイフを持って、無表情で私を見下ろしていた。

「春樹? やっぱり、私なんかが、こんなことするんじゃなかった。……少しでも今の自分を変えたくて、目の前の物に目がくらんでしまったなぁ。でも、最期は愛する人に殺されるなら、まだマシなほうだよね。……春樹、いい仕事見つかったかな。見つかってたらいいな。最期を見るのが春樹……あなたでよかった」

 私は、春樹の幸せを願いながら、永遠にその瞳を閉じた。

 一方その頃。

 俺は、現実世界に戻っていた。
 家に帰ると、札束がいっぱいあった。

「そっか……あまりの大金の時は、自動的に自分の家に送られるのか。本当に便利なシステムだな」
 大量のお金が俺の部屋にあるが、俺は不思議とあまり嬉しくない。
「俺……誰かに自分の合う仕事が見つかったって言おうと思ってたんだけど誰だっけ?……全然、思い出せないな。なんか、大事な人、忘れているような……」

 そして、黒木は人目のない道を歩いていた。

「ほっほっほっほっ。やってしまいましたか。風谷春樹さん。最後までお話を聞かないからこうなるんですよ? 五分扉の中で人を殺しても、現実世界では死なない。……ただし、この異世界は繋がっているのですよ。もし、現実世界の人間が、同時に五分の扉に入り、片方が殺すような事があれば、その人間は現実世界から消滅する。……ああ、私が彼にこの『五分の扉の説明書』を渡せば済む話しでしたか。……それに、彼女がナイフを持っていた時点で普通、気づくでしょう。あなたは、本当にお馬鹿さんですねぇ。……さぁ、今度はどんな面白いお人を探しましょうかね。ほっほっほっほっ」
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