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二話目

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作戦はうまくいった。山菜摘みに出かけていた村娘どもをまとめて捕まえ、そのうちのひとりを村長への伝言係にした。内容は、米一俵の四分の一と鍋を差し出させ、さもなくば娘たちは奴隷市に売りさばく。というもの。米一俵が金一両、金一両が四千文。若い女の奴隷が三十文ぐらいだったはずだから、ここにいる10人の女は三百文の価値しかない。通常の取引では相手にされないが、自分たちの村の娘たちだ。これぐらいなら見捨てることなく米を出してくるはず。ちなみに鍋は米を炊く用。ホントになんも持ってないからな。我ながら完璧な計画だ。なお、村長が要求を拒んだ場合素手で獣を捕まえる生活になります。・・・村長、村娘のこと見捨てないよな?

「で?なんだって領主の兵が来るんだよ?」
「おれにゃあなんとも・・・」
はい。ただいま危機的な状況です。なんと領主の兵、つまりは武士が来るそうです。浅はかだったか。うん。領地で盗賊出たら討伐するよな。焦りすぎた。村娘達が持っていた食料(山菜と昼食の握り飯)はいただいたから逃げるか。

「どうしやすか、二、三十人も来られたら俺たちゃひとたまりもありやせんぜ。」
「逃げた方がいいんじゃないすか。」
「しっかし俺たちみたいな小物相手に兵を出してくるとは。」
俺が天を仰いでいるとの子分が続々と意見を述べる。そのうちの一つに違和感を抱いた。安崎の居た現代日本では人数の多寡や罪の大小に関わらず悪人は処罰されるが、この時代はそうではない?そうか、そうだな。盗賊なぞこの時代いくらでもわいてくる、いちいち兵を出し不測の事態対処できなくなるようなまねは普通はやらない。ということか。・・・ではなぜ俺たちには兵を出す?そもそもなぜ村娘ごときにここまで迅速な動きをみせた?それは・・・それは!

「おい、おまえら。娘どもつれてこい。」
「へ?っへい。わかりやした。」
子分に命じて引っ張ってこさせた娘たち。俺の予想が正しければ。ああ、いた。
「よお、きれいな髪の毛だな。」
娘の一人がびくりと震える。
「そうか、そうか。いやあ、まいったよ。ハハハ。おい、この娘だけおさえとけ。」
「へい!」
「え、あのお頭、これってどうゆう・・・」
「なあ、おめえら。いくら民を慮るお優しい領主様でもすべての盗賊を狩り尽くすことはない。そんなことは不可能だからな。」
「はあ。そっすね。」
「しかし、だ。娘がとらわれてたら別だよな。実の娘が盗賊にもてあそばれちゃ周りの領主にもなじられる。親としても耐えがたい。」
「なあるほど。それで、娘達の中に領主の娘が混じってるはずだと。」
「ああ。」
「あの?」
「ん?」
「こいつら、みんなぼろっちいですけどどうしてその女だと?」
「あ?あー。領主どもは毎年神事をやんのさ。豊穣やら安寧やらを祈願してな。」
「はあ。たしかに昨日なんかやってましたね。」
「カミサマの前に立つのに体が汚れちゃまずいだろ?だから全身洗うのさ。」
「ほー!さっすがおかしら。ものしりっすね!」
「でもあの、この娘、よごれてますけど。」
「まあ山菜摘みすりゃあそうなるだろうよ。頭皮見ろ頭皮、きれいだろ。村娘はそんなとこまで洗わねえ。洗ったって川やらの水じゃきれいにならねえ。領主どもは神事のときには特別な石を使う。そいつをこするとぬめりができる。それで体をきれいにする。この特別な石ってのは金じゃ買えなくてな、領主にだけ配られる。」
子分どもが感心するなか、娘が目を見開いてた。なぜ、それを知っているのか、とでも言いたげな目。妙な勘違いされたか?まあいいか。

「しかし、お頭!俺たちついてますね!」
「あ?」
「領主の娘を使えばいくらでも搾り取れますよ!」
「そうして娘を渡した途端グサリと。」
「じゃっじゃあ、貢ぎ物をいただいて娘も返さずに逃げる!」
「他の領主たちが娘を狙ってきてついでにグサリ。」
「いっそ、娘を嫁にして領主になっちまうとか!」
「祝宴のせきで毒盛られてパタリ。」
「・・・どうしましょう!?」
「どうすっかなあ。」

 なにかするにはリスクがありすぎる。しかしこのまま手放すのももったいない。安崎はしばし思案する。物資を領主に要求することが危険である以上この場で獲得するかない。そして、この場で獲得できるものといえば領主の娘という身分の高い人間の持っている特別な情報である。
「なあ娘、ここらで孤立した領地を知らないか。」
「知っていたとしても、盗賊に教えるはずがないでしょう。」
「さすがは領主一族、ならばこうしよう。情報を提供すればあんたらには指一本ふれずに解放してやる。」
 
 安崎にとっては領主の姫に危害を加えるつもりなど端からないのだが、盗賊同士の会話も聞いていない娘にとってはかなり良い話に聞こえた。なにせ孤立した集落というのは関わりの無い集落と同義である。自分のせいで盗賊が襲おうが全く後腐れが無い。自分たちにはなんら被害はないのだ。
「わかった。」
数瞬の思案の末、娘は盗賊に山の中にある集落を伝えた。
「ただ、規模もなにもわからないの、存在だってその土地の領民が偶然知ったぐらいだもの。」















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