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皇領にお出かけは…イロイロとめんどくさいデス
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東門の前は御用聞きの人や璃波宮にお勤めの皆さんが本日から始まる休暇を利用して里帰りやバカンスに出かけるために列をなしていて一言二言会話しながら順番を待っている。
トイレットペーパーに書かれていたミッションを思い浮かべた瞬間青ざめて思わず無理だと呟く。
この列の中に混じって待つ間無言を通す自信が全くありません・・・
『璃波宮にあるすべての御用門にはサクラ様の声紋に反応する結界が張られていますのでその近くでは声を出さないで下さい』
トイレットペーパーに書かれてあった指示が頭の中でぐるぐる回ると、飛び出そうな愚痴と憤りを手を当てて抑え込む。
璃波宮の外は一歩たりとも出禁ですか!どれだけ行動制限を掛けるつもりですか!これじゃ地上に降りる方法も探せないじゃないですか!
心の中で叫びまくった後はとにかく話しかけないでと祈りながら、あさっての方向に向き口をへの字に曲げて超不機嫌オーラを出しまくって列の最後尾に着く。
にもかかわらず空気の読めないお方は何処にでもいるようで、気のいいおじさんが話しかけてきた。
「ひしぶりだな、元気にしてたか」
「(まったく、もう)・・・」
「オレだよ。アルタイ酒造のレドムだ。忘れちまったか?」
「(初対面です)・・・」
顔を覗き込まれ、自分の鞄に付いた大きな樽のロゴを指さされましても、声出し禁止ですからハイともイイエともお返事出来ません。
うんともすんとも言わないサクラを訝しく思ったおじさんは確認のためかロゴの入った手持ち籠と帽子を指した。
「そのロゴ付きの籠を持ってるってことは、ルト酪乳のリセちゃんだろ?」
璃波宮では遠くからでもどこの者かがわかるように店のロゴが入った物を身に付けるのが決まりになっていて、これを持っていると一々呼び止められ何者か確認されないだろうとこの籠を渡されたのだった。
これ以上顔を見られないように帽子のつばを引き下げて無言で頷くとさらに話しかけてくる。
「いつもは芋を切ったような愛想のない即答が間髪入れずに返って来るのに今日のリセちゃんは煮え切らないねぇなあ。ああ、わかった!さすがのリセちゃんもこの後にある婚活パーティーに緊張してるって訳だ!」
話は少し違うようにも思うが、緊張しているという言葉に同意の意味でブンと頷くと頭上で軽い笑い声がハハハと響く。
「今日はどの娘に話しかけても気はそぞろで同じような反応が返って来るなあ。若い娘にとって今日は将来を決める大事な出会いがあるかもしれない一大イベントの日だもんな」
やや疑問点はあるがここはもう首振り運動で乗り切るしかないと更に頷く。
「5族の実力者とはいかないまでもとっておきの優良物件と出会えるように祈っててやるよ」
気のいいおじさんの言葉に彼の手を掴んでありがとうの気持ちを込めると、人懐っこい顔がわずかに顰む。
「今年の皇領はいつもと趣が違う。ゼウス様の奥方が見つかったっていうのに皇宮はブリザードかってぐらいお城の空気が冷たくて高級官僚から下っ端役人までピリピリしてるんだ。おかげでオレまで緊張しちまって手と足が一緒に出たら変な歩き方するなってに怒鳴られちまったよ。あそこではちょっとしたことでお叱りを受けちまうからリセちゃんも気をつけなよ」
話しかけられても声出し禁止なので返事が出来ず居心地が悪い。
モジモジで無言なサクラを見て、おじさんが情けない声でハハハと笑う。
「いつも強気なリセちゃんもテンションダダ下がりかい? 何でもゼウス様の機嫌がスゴブル悪いらしくて、皇領の中心街まで北風ぴーぷーって話さ。そんでもってエリート官吏全員が鉄皮面でピリピリしているらしい。おかげで今年の婚活パーティー参加メンバーは望み薄の不作じゃないかって、5族の宮に勤める侍女さん達も戦意喪って言ってたなあ」
変な方向に空気を読んで話を自己完結したおじさんに口元だけのゆるい笑みを返したところで検閲の順番となった。
ササっと門番に身分証明書を提示し、通ってよしと声を掛けられると同時に駆け足で東門を通り抜け一本道の坂を1㎞ほど下る。
ハアァと詰めた息を思いっきり吐きだしてスーハ、スハーと深呼吸を3回したところで、正面にある駅ミナルの様な建物の外壁に凭れている例の庭師さんを見つけて可愛く手を振ってみるがむちゃくちゃ嫌な顔をされた。
開口一番初対面のふりをして下さいと冷たく言われ、この後の細かい説明事項と注意点を例の米粒文字同様の細かさでレクチャーされた。
「誕生祭の今日に限り8時から翌朝8時までは身分証の提示だけで転移門が利用できます」
「転移門て?何?」
聞きなれない言葉に疑問の声を出すとハアァと大きなため息を返される。
「そこからの説明が必要ですか」
いいですか、と前置きしてから庭師さんが天界のアウトラインをざっと説明してくれた。
「先ず、天界は皇家の持つ中央の大都市を囲むように祇家、嶺家、琉家、炎家、桜家がそれぞれ所有する異空間に各領都市が浮かんでおりますがそれらの都市を繋ぐ道はありません」
「道がない?」
「ですから天界で他の領都へ移動は転移門を使用します。もちろんゼウス様や5族の当主様など一部の高能力者は自力での空間移動もなさいますが私のような一般的な天界人はこの転移門を使わないと移動できません」
璃波宮に勤める侍女さん達が朝勤務が終わって急いで支度をすれば、お昼からの女子会に間に合うって言ってたからもっと身軽に行けるのかと思っていたのに。
それから、私の身なりをじろりと見ぼそりと一言。
「やはり、着替えも必要ですね」
「着替えって、やっぱりこの格好で女子会に参加したら浮きまくる?かな?」
「それ以前に、本日の皇領の中央区は木枯らしの吹く真冬気温です。その恰好で外に出たら即凍結ですよ」
えぇ~ここはこんなに秋晴れで過ごしやすいのに、そんなに気候が違うんですか?」
「ゼウス様のご希望です」
「真冬を希望するってどういう意味?」
「言葉どおりです」
!なんて迷惑な!どっかで冬服を調達しなくちゃいけないって事?
お金ないし、要領もわかんないし、どうしたらいい???
天界のお出かけはホント、メンドクサイ!
心の声が小音量で響いたらしく頭上から突き刺さるような舌打ちと噛みつくような説明指示。
チッ!
「皇領の転移門を出たらすぐにレンタル衣装屋がありますので身分証明書を提示して適当な衣装を見繕って下さい。後日リセのところに請求が来ますのでヨンハ様から頂いた宝石の一つでも売り飛ばして支払って下さい」
「ハァ、何でよりによって行き先が冬なのかな~ ついてないなぁ」
「い・い・で・す・か。基本中の基本ですが天界に四季はありません。一年中を通して過ごしやすい気候なのですが、今日はゼウス様が皇領の一部を冬季バージョンになさってるんです」
「ゼウス様って天候まで操作できるんですか?」
「それぞれの領地のニーズや必要性に応じて天候や気温を操作するのは主に炎家の能力者ですが、生まれ持つ高い特殊能力を磨きぬいたゼウスや次期ゼウスにも操作は簡単に出来ますよ」
そういえば、交渉の時、前日までに雨が降らなかったら、ヨンハさんに雨ごいをしろなんておかしなミッションがあった!
昨日の雨はヨンハさんの力?!
首でも締め上げんばかりの勢いでかの庭師に確認すると涼しい顔でウイっと頷かれた。
一昨晩、『雨、降らないねぇ』とため息交じりにヨンハの前で何気に呟いたら昨日の明け方に雨が降ったのはそんな裏事情があったらしい。
そこまで来て、あれ?っとサクラは首を傾げた。
ずっとずっと大昔、同じようなことが無かったか?
綺麗な黒髪の少年がくれた幼い頃の心が温かくなるような優しい時間。
「きれいに咲いてるのに可哀そう」
小さかった自分が風雨にあおられて散っていく桜を見て一言呟いた途端風雨が止み少しだけ青空が顔を見せた。
「よかったね」
目を丸くする自分に、隣にいた黒髪の少年がどこかはにかんだように優しい声で答えた。
あれは、彼が起こした天候操だったの?
そう思ったとたん、自負を浮かべた黒髪の少年がなぜかぐんぐんと成長し現ゼウスになった。
綺麗なその顔が時々夢に現れ漆黒の短髪をかき上げるそのドヤ顔の夫(もどき)?と重なる。
え?え?え?
頭の中に無限の?を飛び散らかせてウンウン唸るサクラに庭師の苛立った声が飛ぶ。
「聞いてますか!サクラ様」
あまりの剣幕に直立不動で、はいぃ~と答えると胡散臭げにじろりと睨まれて、いいですか!と念を押された。
「この先の転移門から皇領の十日市場の転移門までは数分で移動できます。地上のエレベーターに乗っている感覚と同じで、乗り込んで視界が無になり次に景色が見えたらそこは皇家の都市風景です。転移門を出たらセンタークラブハウスまでは本通りを真っ直ぐに進むと目と鼻の先にあるので迷うことなく目的地に行き着くことが出来ますよ。
今年は入り口に大きなもみの木が設置されて女子が好みそうなオーナメントがいっぱい付いているのですぐにわかります。
女子会を思いっきり楽しんでくれてかまいませんがヨンハ様を足止めできるのは朝までです。
影武者計画が露見することが無いように夜明け前には必ず戻ってくださいね」
頷きながら、旅は道ずれというし、不安材料満載だし、と考えていたから口を吐いて出た言葉。
「一緒について来てはもらえませんよね」
結果、目を三角にして怒鳴られた。
「バカ言うんじゃありません!あなたの秘密外出を手引きしたなんてばれたら命はありません。私もリセも命は惜しい。女子会を楽しんだら必ず夜明け前に璃波宮の自室に帰ってください!」
ああ~庭師さんの最後のフレーズに赤のアンダーラインが見える!
***
昨年は前ゼウスの崩御のため喪に服す意味もあり簡素だった誕生祭も今年は一際華やかで豪華に行われると聞いたのは晩夏だった。
ハナの所在がわからないのに誕生祭など必要ないと言えば、誕生祭にはお帰りになっているかもしれないと侍従に進言され華美で壮大な計画に頷くしかなかった。
生誕祭の祝賀会が始まった皇宮のセレモニーホールの3段ほど高い奥中央に立つ彼は地上の姿とは異なり、黒く短い髪が滝を思わせる銀糸に変化し、思慮深い黒檀の瞳は冷徹な淡いグレーに変わってこれぞ天界人の最高峰という言葉がドンピシャといった色合いだ。
それに加えて皇家の色であるプラチナの衣装と、象眼が施された王冠を戴く威風堂々とした容姿は、たとえ5族の当主でも近寄りがたいオーラを放っている。
が、内心は...
祝辞を述べようとする天界人が整然と列をなす現状にため息しか出ないといったところだろう。
中央の舞台にはそれぞれの正装で臨む5族の当主と彼等の腹心たちが家を表わす色を纏ってズラリと居並び、一段低いその周りを地方の豪族達や従者が囲んでいる。
また、彼らを囲むように地上人の特別招待客もチラホラと見受けられ、その中には、キヌアの前当主や次期当主の顔もある。
式典が始まって押し寄せる人々から永遠とも思われる祝辞受けるが聞いちゃいられない。
おめでとうと微笑んでほしいのはたった一人だけなのにそれが叶わない。
次から次へと押し寄せる天界の有力者共の媚びを含んだ美辞麗句を右から左へと聞き流すなか、頭の中ではハナと過ごした夏前の会話が何度もリピートする。
もう、ゼウスでいる事にも嫌気がさし、我慢も限界だ。
天界行事など知った事か!何か問題が起こればこれ幸いと即退位して超優秀な次期に丸投げしてやる!
ミセイエルはかってない能力の高さ故、前例はないが問題はありありの異端行動を起こす事を決断した。
(ミセイエルさん、それはせっかくお祝いに来てくれた方に失礼なのでは?)
(知るか!!!!!!!)
トイレットペーパーに書かれていたミッションを思い浮かべた瞬間青ざめて思わず無理だと呟く。
この列の中に混じって待つ間無言を通す自信が全くありません・・・
『璃波宮にあるすべての御用門にはサクラ様の声紋に反応する結界が張られていますのでその近くでは声を出さないで下さい』
トイレットペーパーに書かれてあった指示が頭の中でぐるぐる回ると、飛び出そうな愚痴と憤りを手を当てて抑え込む。
璃波宮の外は一歩たりとも出禁ですか!どれだけ行動制限を掛けるつもりですか!これじゃ地上に降りる方法も探せないじゃないですか!
心の中で叫びまくった後はとにかく話しかけないでと祈りながら、あさっての方向に向き口をへの字に曲げて超不機嫌オーラを出しまくって列の最後尾に着く。
にもかかわらず空気の読めないお方は何処にでもいるようで、気のいいおじさんが話しかけてきた。
「ひしぶりだな、元気にしてたか」
「(まったく、もう)・・・」
「オレだよ。アルタイ酒造のレドムだ。忘れちまったか?」
「(初対面です)・・・」
顔を覗き込まれ、自分の鞄に付いた大きな樽のロゴを指さされましても、声出し禁止ですからハイともイイエともお返事出来ません。
うんともすんとも言わないサクラを訝しく思ったおじさんは確認のためかロゴの入った手持ち籠と帽子を指した。
「そのロゴ付きの籠を持ってるってことは、ルト酪乳のリセちゃんだろ?」
璃波宮では遠くからでもどこの者かがわかるように店のロゴが入った物を身に付けるのが決まりになっていて、これを持っていると一々呼び止められ何者か確認されないだろうとこの籠を渡されたのだった。
これ以上顔を見られないように帽子のつばを引き下げて無言で頷くとさらに話しかけてくる。
「いつもは芋を切ったような愛想のない即答が間髪入れずに返って来るのに今日のリセちゃんは煮え切らないねぇなあ。ああ、わかった!さすがのリセちゃんもこの後にある婚活パーティーに緊張してるって訳だ!」
話は少し違うようにも思うが、緊張しているという言葉に同意の意味でブンと頷くと頭上で軽い笑い声がハハハと響く。
「今日はどの娘に話しかけても気はそぞろで同じような反応が返って来るなあ。若い娘にとって今日は将来を決める大事な出会いがあるかもしれない一大イベントの日だもんな」
やや疑問点はあるがここはもう首振り運動で乗り切るしかないと更に頷く。
「5族の実力者とはいかないまでもとっておきの優良物件と出会えるように祈っててやるよ」
気のいいおじさんの言葉に彼の手を掴んでありがとうの気持ちを込めると、人懐っこい顔がわずかに顰む。
「今年の皇領はいつもと趣が違う。ゼウス様の奥方が見つかったっていうのに皇宮はブリザードかってぐらいお城の空気が冷たくて高級官僚から下っ端役人までピリピリしてるんだ。おかげでオレまで緊張しちまって手と足が一緒に出たら変な歩き方するなってに怒鳴られちまったよ。あそこではちょっとしたことでお叱りを受けちまうからリセちゃんも気をつけなよ」
話しかけられても声出し禁止なので返事が出来ず居心地が悪い。
モジモジで無言なサクラを見て、おじさんが情けない声でハハハと笑う。
「いつも強気なリセちゃんもテンションダダ下がりかい? 何でもゼウス様の機嫌がスゴブル悪いらしくて、皇領の中心街まで北風ぴーぷーって話さ。そんでもってエリート官吏全員が鉄皮面でピリピリしているらしい。おかげで今年の婚活パーティー参加メンバーは望み薄の不作じゃないかって、5族の宮に勤める侍女さん達も戦意喪って言ってたなあ」
変な方向に空気を読んで話を自己完結したおじさんに口元だけのゆるい笑みを返したところで検閲の順番となった。
ササっと門番に身分証明書を提示し、通ってよしと声を掛けられると同時に駆け足で東門を通り抜け一本道の坂を1㎞ほど下る。
ハアァと詰めた息を思いっきり吐きだしてスーハ、スハーと深呼吸を3回したところで、正面にある駅ミナルの様な建物の外壁に凭れている例の庭師さんを見つけて可愛く手を振ってみるがむちゃくちゃ嫌な顔をされた。
開口一番初対面のふりをして下さいと冷たく言われ、この後の細かい説明事項と注意点を例の米粒文字同様の細かさでレクチャーされた。
「誕生祭の今日に限り8時から翌朝8時までは身分証の提示だけで転移門が利用できます」
「転移門て?何?」
聞きなれない言葉に疑問の声を出すとハアァと大きなため息を返される。
「そこからの説明が必要ですか」
いいですか、と前置きしてから庭師さんが天界のアウトラインをざっと説明してくれた。
「先ず、天界は皇家の持つ中央の大都市を囲むように祇家、嶺家、琉家、炎家、桜家がそれぞれ所有する異空間に各領都市が浮かんでおりますがそれらの都市を繋ぐ道はありません」
「道がない?」
「ですから天界で他の領都へ移動は転移門を使用します。もちろんゼウス様や5族の当主様など一部の高能力者は自力での空間移動もなさいますが私のような一般的な天界人はこの転移門を使わないと移動できません」
璃波宮に勤める侍女さん達が朝勤務が終わって急いで支度をすれば、お昼からの女子会に間に合うって言ってたからもっと身軽に行けるのかと思っていたのに。
それから、私の身なりをじろりと見ぼそりと一言。
「やはり、着替えも必要ですね」
「着替えって、やっぱりこの格好で女子会に参加したら浮きまくる?かな?」
「それ以前に、本日の皇領の中央区は木枯らしの吹く真冬気温です。その恰好で外に出たら即凍結ですよ」
えぇ~ここはこんなに秋晴れで過ごしやすいのに、そんなに気候が違うんですか?」
「ゼウス様のご希望です」
「真冬を希望するってどういう意味?」
「言葉どおりです」
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お金ないし、要領もわかんないし、どうしたらいい???
天界のお出かけはホント、メンドクサイ!
心の声が小音量で響いたらしく頭上から突き刺さるような舌打ちと噛みつくような説明指示。
チッ!
「皇領の転移門を出たらすぐにレンタル衣装屋がありますので身分証明書を提示して適当な衣装を見繕って下さい。後日リセのところに請求が来ますのでヨンハ様から頂いた宝石の一つでも売り飛ばして支払って下さい」
「ハァ、何でよりによって行き先が冬なのかな~ ついてないなぁ」
「い・い・で・す・か。基本中の基本ですが天界に四季はありません。一年中を通して過ごしやすい気候なのですが、今日はゼウス様が皇領の一部を冬季バージョンになさってるんです」
「ゼウス様って天候まで操作できるんですか?」
「それぞれの領地のニーズや必要性に応じて天候や気温を操作するのは主に炎家の能力者ですが、生まれ持つ高い特殊能力を磨きぬいたゼウスや次期ゼウスにも操作は簡単に出来ますよ」
そういえば、交渉の時、前日までに雨が降らなかったら、ヨンハさんに雨ごいをしろなんておかしなミッションがあった!
昨日の雨はヨンハさんの力?!
首でも締め上げんばかりの勢いでかの庭師に確認すると涼しい顔でウイっと頷かれた。
一昨晩、『雨、降らないねぇ』とため息交じりにヨンハの前で何気に呟いたら昨日の明け方に雨が降ったのはそんな裏事情があったらしい。
そこまで来て、あれ?っとサクラは首を傾げた。
ずっとずっと大昔、同じようなことが無かったか?
綺麗な黒髪の少年がくれた幼い頃の心が温かくなるような優しい時間。
「きれいに咲いてるのに可哀そう」
小さかった自分が風雨にあおられて散っていく桜を見て一言呟いた途端風雨が止み少しだけ青空が顔を見せた。
「よかったね」
目を丸くする自分に、隣にいた黒髪の少年がどこかはにかんだように優しい声で答えた。
あれは、彼が起こした天候操だったの?
そう思ったとたん、自負を浮かべた黒髪の少年がなぜかぐんぐんと成長し現ゼウスになった。
綺麗なその顔が時々夢に現れ漆黒の短髪をかき上げるそのドヤ顔の夫(もどき)?と重なる。
え?え?え?
頭の中に無限の?を飛び散らかせてウンウン唸るサクラに庭師の苛立った声が飛ぶ。
「聞いてますか!サクラ様」
あまりの剣幕に直立不動で、はいぃ~と答えると胡散臭げにじろりと睨まれて、いいですか!と念を押された。
「この先の転移門から皇領の十日市場の転移門までは数分で移動できます。地上のエレベーターに乗っている感覚と同じで、乗り込んで視界が無になり次に景色が見えたらそこは皇家の都市風景です。転移門を出たらセンタークラブハウスまでは本通りを真っ直ぐに進むと目と鼻の先にあるので迷うことなく目的地に行き着くことが出来ますよ。
今年は入り口に大きなもみの木が設置されて女子が好みそうなオーナメントがいっぱい付いているのですぐにわかります。
女子会を思いっきり楽しんでくれてかまいませんがヨンハ様を足止めできるのは朝までです。
影武者計画が露見することが無いように夜明け前には必ず戻ってくださいね」
頷きながら、旅は道ずれというし、不安材料満載だし、と考えていたから口を吐いて出た言葉。
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ハナの所在がわからないのに誕生祭など必要ないと言えば、誕生祭にはお帰りになっているかもしれないと侍従に進言され華美で壮大な計画に頷くしかなかった。
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それに加えて皇家の色であるプラチナの衣装と、象眼が施された王冠を戴く威風堂々とした容姿は、たとえ5族の当主でも近寄りがたいオーラを放っている。
が、内心は...
祝辞を述べようとする天界人が整然と列をなす現状にため息しか出ないといったところだろう。
中央の舞台にはそれぞれの正装で臨む5族の当主と彼等の腹心たちが家を表わす色を纏ってズラリと居並び、一段低いその周りを地方の豪族達や従者が囲んでいる。
また、彼らを囲むように地上人の特別招待客もチラホラと見受けられ、その中には、キヌアの前当主や次期当主の顔もある。
式典が始まって押し寄せる人々から永遠とも思われる祝辞受けるが聞いちゃいられない。
おめでとうと微笑んでほしいのはたった一人だけなのにそれが叶わない。
次から次へと押し寄せる天界の有力者共の媚びを含んだ美辞麗句を右から左へと聞き流すなか、頭の中ではハナと過ごした夏前の会話が何度もリピートする。
もう、ゼウスでいる事にも嫌気がさし、我慢も限界だ。
天界行事など知った事か!何か問題が起こればこれ幸いと即退位して超優秀な次期に丸投げしてやる!
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