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始まりの過去
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異世界メルタの天界の瑠璃の池に浮かぶ正妃宮の大広間に5族の重臣達が集められていた。
そこで繰り広げられているのは宮廷の弾劾裁判。
弾劾されているのは桜家の当主でゼウスの正妃オウカ。
ゼウスであるオークが冷徹な声を落とす。
「まさかそなたに裏切られるとは思ってもみなかった」
正妃オウカの声はか細い。
「いいえ、そのようなこと・・・」
「正妃となった時、子は諦めると言った。あれは嘘だったのだな。桜家の当主である以上、そなたの血を残すことが必要だと誰かにそそのかされたか?」
「いいえ・・・」
正妃オウカが否を訴えて何度も首を激しく横に振る。
異世界メルタの天界に君臨するゼウスの言葉を否定するたびに美しい正妃の耳で豪華で可憐なピアスが揺れた。
10センチ以上の長さを持つそれは、桜家の領地でのみ取れる貴重な桜花型の淡水パールで何十輪と重なり、その一つ一つが繊細に揺れる様は圧巻で絶対的な存在感を放つ。
緻密で精巧に作られた桜家の家宝。
その家宝は当主のみが身に着けることを許される。
「オーク様、私はあなた様を裏切ったことなどありません」
唇をかんでうつむいた正妃の、いつもは桜色と言われる肌の色が今は紙のように白い。
その白い顔に、細めた瞳で蔑むような、探るような眼差しを送るゼウス。
「男はゼウスの誓いを立てると女性を妊娠させる能力を失う。腹の子が私の子でないことは天界人なら誰でも知っている」
それでもと、正妃オウカは必死に訴える。
「この腹の子は間違いなくオーク様の子にございます。はるか昔にはゼウス様のお子としてダイヤモンドオウカが生まれたと記載された古記もございます」
彼女の訴えにこの場にいた天界人達からは「またか」と言った冷笑が漏れた。
追い打ちをかけるようにゼウスが鼻で笑う。
「フン、そのようなおとぎ話を信じるのは2歳になったばかりの祇家のヨンハぐらいだ。それでもこれまでの妃と同じように瑠璃の池に入水して証を立てみるか?前例通り遺体を5家の下に晒すか?」
「いいえ、記述にあるようにこの子が私をここに戻してくれます!ですからオーク様、私に入水の許可を下さいー」
瞬間、正妃の近くの花瓶が割れ花が飛び水が流れる。
ゼウスが意図的に負のエネルギーを作り、オウカの言葉を切るために花瓶を壊した、つまり、黙れということだ。
ゼウスの子は産まれる前から特殊能力を持ち、彼(彼女)を身ごもった妃はその能力を使って翌朝に正妃宮の大広間に立ったと古記には書かれている。
私の意図することはわかったか?
刺すような視線の先でうなずいた正妃を更なる言葉でゼウスが絶望の淵に突き落とした。
「もっとも、そなたが古記に書かれているように翌日ここに立ったところで、天界を揺るがし、ゼウスを堕とすと言われる者など誰も望まぬ。そなたの子はこのメルタでは負の存在でしかない」
それまでは気丈に身の潔白を訴えていた正妃の体が崩れ落ち床に沈む。
そして零れた哀傷。
「この世界にはこの子の居場所はないのですね」
頷くゼウス。
「それでも、身の潔白を証明してみるか?」
入水はするな!自殺何て許さない!たとえ裏切られても愛している!落花となっても私がいつでも行けるところで生きていろ!とゼウスが心の声を贈る。
静かに答える正妃。
「はい」
私も愛しています。ですからこの命を守りたいのです!ですから異世界に・・・と心の声を返した。
この日桜家の当主であるオウカは許可のないままその場で瑠璃の池に身を投げ姿を消した。
これまでも多くの妃を抱えるゼウスの後宮では、不倫はよくあること。
時々妊娠騒動もおこる。
たいがいの妃はそれを認め、不倫相手と共に特殊能力を剥奪され、落花・落実として地上に堕とされて地上人として生きる。
だが、家名や相手を守るため入水をする妃もいる。
自らの命を引き換えにすることで家名を守り、実家や親せき、相手の不倫男に制裁が加えられないようにするためだ。
オークの正妃であるオウカは後者を選んだ。
これまでと同様琉家の当主を中心とした透視の能力を持つ一団が瑠璃の池を監視し探索したがその遺体はおろか行方さえも見つけられなかった。
正妃オウカは入水した瞬間に、その姿が消えてしまったというのだ。
もちろん、翌日に正妃宮の大広間に立つこともなく、その後一ヶ月間天候があれ、地上に災害が多発したこともあって、正妃オウカは腹に宿った子の力で異世界に飛んだという者や、琉家が見落とした、不倫相手が嶺家の能力者で入水と同時にオウカを空間移動させ匿っているなど、根拠のない噂話がまことしやかに流れた。
そこで繰り広げられているのは宮廷の弾劾裁判。
弾劾されているのは桜家の当主でゼウスの正妃オウカ。
ゼウスであるオークが冷徹な声を落とす。
「まさかそなたに裏切られるとは思ってもみなかった」
正妃オウカの声はか細い。
「いいえ、そのようなこと・・・」
「正妃となった時、子は諦めると言った。あれは嘘だったのだな。桜家の当主である以上、そなたの血を残すことが必要だと誰かにそそのかされたか?」
「いいえ・・・」
正妃オウカが否を訴えて何度も首を激しく横に振る。
異世界メルタの天界に君臨するゼウスの言葉を否定するたびに美しい正妃の耳で豪華で可憐なピアスが揺れた。
10センチ以上の長さを持つそれは、桜家の領地でのみ取れる貴重な桜花型の淡水パールで何十輪と重なり、その一つ一つが繊細に揺れる様は圧巻で絶対的な存在感を放つ。
緻密で精巧に作られた桜家の家宝。
その家宝は当主のみが身に着けることを許される。
「オーク様、私はあなた様を裏切ったことなどありません」
唇をかんでうつむいた正妃の、いつもは桜色と言われる肌の色が今は紙のように白い。
その白い顔に、細めた瞳で蔑むような、探るような眼差しを送るゼウス。
「男はゼウスの誓いを立てると女性を妊娠させる能力を失う。腹の子が私の子でないことは天界人なら誰でも知っている」
それでもと、正妃オウカは必死に訴える。
「この腹の子は間違いなくオーク様の子にございます。はるか昔にはゼウス様のお子としてダイヤモンドオウカが生まれたと記載された古記もございます」
彼女の訴えにこの場にいた天界人達からは「またか」と言った冷笑が漏れた。
追い打ちをかけるようにゼウスが鼻で笑う。
「フン、そのようなおとぎ話を信じるのは2歳になったばかりの祇家のヨンハぐらいだ。それでもこれまでの妃と同じように瑠璃の池に入水して証を立てみるか?前例通り遺体を5家の下に晒すか?」
「いいえ、記述にあるようにこの子が私をここに戻してくれます!ですからオーク様、私に入水の許可を下さいー」
瞬間、正妃の近くの花瓶が割れ花が飛び水が流れる。
ゼウスが意図的に負のエネルギーを作り、オウカの言葉を切るために花瓶を壊した、つまり、黙れということだ。
ゼウスの子は産まれる前から特殊能力を持ち、彼(彼女)を身ごもった妃はその能力を使って翌朝に正妃宮の大広間に立ったと古記には書かれている。
私の意図することはわかったか?
刺すような視線の先でうなずいた正妃を更なる言葉でゼウスが絶望の淵に突き落とした。
「もっとも、そなたが古記に書かれているように翌日ここに立ったところで、天界を揺るがし、ゼウスを堕とすと言われる者など誰も望まぬ。そなたの子はこのメルタでは負の存在でしかない」
それまでは気丈に身の潔白を訴えていた正妃の体が崩れ落ち床に沈む。
そして零れた哀傷。
「この世界にはこの子の居場所はないのですね」
頷くゼウス。
「それでも、身の潔白を証明してみるか?」
入水はするな!自殺何て許さない!たとえ裏切られても愛している!落花となっても私がいつでも行けるところで生きていろ!とゼウスが心の声を贈る。
静かに答える正妃。
「はい」
私も愛しています。ですからこの命を守りたいのです!ですから異世界に・・・と心の声を返した。
この日桜家の当主であるオウカは許可のないままその場で瑠璃の池に身を投げ姿を消した。
これまでも多くの妃を抱えるゼウスの後宮では、不倫はよくあること。
時々妊娠騒動もおこる。
たいがいの妃はそれを認め、不倫相手と共に特殊能力を剥奪され、落花・落実として地上に堕とされて地上人として生きる。
だが、家名や相手を守るため入水をする妃もいる。
自らの命を引き換えにすることで家名を守り、実家や親せき、相手の不倫男に制裁が加えられないようにするためだ。
オークの正妃であるオウカは後者を選んだ。
これまでと同様琉家の当主を中心とした透視の能力を持つ一団が瑠璃の池を監視し探索したがその遺体はおろか行方さえも見つけられなかった。
正妃オウカは入水した瞬間に、その姿が消えてしまったというのだ。
もちろん、翌日に正妃宮の大広間に立つこともなく、その後一ヶ月間天候があれ、地上に災害が多発したこともあって、正妃オウカは腹に宿った子の力で異世界に飛んだという者や、琉家が見落とした、不倫相手が嶺家の能力者で入水と同時にオウカを空間移動させ匿っているなど、根拠のない噂話がまことしやかに流れた。
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