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それが「幸せ」だからと、婚約破棄されました。
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「アンネ・エリクセン公爵令嬢、其方とは婚約を破棄をする。そして新しくエラ・シュミット伯爵令嬢を婚約者として皆に紹介する。」
なんていうことでしょうか。
王立学園主催の舞踏会で私の婚約者であるイェンス王太子殿下が、突然婚約破棄と仰いました。
お隣には、華やかなドレスを身に纏ったエラ・シュミット伯爵令嬢が堂々と並んでおいでです。
「…………!!…………!!!………!」
私は抗議の声を発しましたが、それは声という音にはなりません。
だって仕方が無いのです。
私はある時から声が出なくなってしまったのですから。
殿下にはハクハクと口が動いているだけに見えるだけなのです。
殿下はその様子を酷く痛ましげに見ておりましたが、考えを変えてはくれませんでした。
「其方は5歳の時から私の婚約者として王妃教育に励んでくれたが、その様に声を発せられないのでは王妃としてはやっていけまい。王妃としての重責を負うより、王国の一貴族として生きていった方が良かろう。」
「………!!」
駄目です。
婚約破棄だけは駄目です。
お願いです。
取り消して下さい。
殿下。
お願いです。
殿下。
殿下。
私は必死に声をあげようとしますが、ハクハクと口が動くだけ。
どんなに抗議の声をあげようとしても、音にもならず、ただ私は流される様に殿下とエラ嬢の様子を見つめることだけしかできません。
きっと私以外の生徒も先生方も皆この婚約破棄、そして新たな婚約に納得しているのでしょう。
「皆も知っている通り、エラ・シュミット伯爵令嬢はこの学園でもトップクラスの頭脳の持ち主だ。また、彼女の家は王国でも長い歴史を持つシュミット家である。どうか、私とエラ嬢の婚約に納得して欲しい」
確かに、声も出せない凡庸な家柄だけの公爵令嬢と学園でも才色兼備として名高い伯爵令嬢だったら、伯爵令嬢の方が良いのかもしれません。シュミット家は侯爵家であってもおかしくないと言われる程の名門でもありました。
喝采が上がります。
私の存在なんて皆忘れて、新しい婚約の祝いになっております。
それでも私は抗議の声を出すのをやめませんでした。
涙で殿下が見えなくても、涙で化粧がボロボロにくずれても。
殿下。
殿下。
殿下。
イェンス様!
お願いです!
取り消して!
婚約破棄を取り消して!
「すまない、アンネ。いやエリクセン公爵令嬢。どうか公爵家の一員として私に力を貸して欲しい。その方がきっと其方は幸せになれる。」
あっ。
イェンス、さ、ま……
「残念。契約は終了だよ」
その時でした。
「きゃあああああああああああああ」
突然の物音と共にエラ嬢が悲鳴をあげました。
エラ嬢の足元には殿下が倒れており、瞳孔を極限まで開きながらハクハクと口を動かしております。その様子はまるで水の中で窒息している様でした。そして、奇妙なことですが屋内だというのに、殿下の辺り一面が水で濡れていくのです。誰も何もできずその状態が続いたかと思うと、ぱったりと殿下はそのまま動かなくなってしまいました。
「仕方ないことさ。これは契約だからね。覚えているだろう?アンネ。」
昔話をしましょう。
幼いイェンス様は仰いました。
「アンネ、知ってる?海は広いんだよ。今度一緒に王宮の船に乗ろう。大好きなアンネと一緒に広い海を見たいんだ。」
そう言って本当にイェンス様は船に乗せてくれました。
ですが、突然の嵐の前では王宮の船でも太刀打ちできません。
そうして、殿下は海に流されてしまい、次に見つかった時には息をしていなかったのです。
私は泣きながら祈りました。
どうかどうかイェンス様を生きからせて下さい。
お願いします。
なんでもします。
なんでもしますから。
すると海の魔女がやってきて言いました。
「アンタの声と引き換えに、王子を生きからせてあげよう。ただし、二人が婚約を破棄したら王子は死んでしまうからね。アンタを婚約者として名前ではなく、他人としての家名で呼んだ時にね。それにこのことはアンタと私だけの秘密だよ。もしかしたら結婚できないかもしれない。そしたら、また王子は死んでしまうよ。それでも良いのかい?」
私は迷わず海の魔女と契約しました。
声を失いましたが、私は幸せでした。
だって、イェンス様は生きているのです。
私が声が出なくなったのは船での事故の心の後遺症の為と判断され、イェンス様のその瞳が痛ましげにこちらを見ても、私は確かに幸せだったのです。
イェンス様。
幸せとはなんですか?
私は確かに幸せだったのです。
イェンス様の隣にいれて幸せだったのです。
例え、王妃の重責が如何なるものだろうとイェンス様の為なら私は耐えられたのです。
イェンス様。
イェンス様。
「イェンス様ぁあああああああ………」
私は声をあげて泣きます。
イェンス様に縋りつきながら、何度も何度もイェンス様と呼びます。
でも、もう二度とイェンス様が目覚めることはありません。
だって、私は「イェンス様」と声が出ているのですから。
なんていうことでしょうか。
王立学園主催の舞踏会で私の婚約者であるイェンス王太子殿下が、突然婚約破棄と仰いました。
お隣には、華やかなドレスを身に纏ったエラ・シュミット伯爵令嬢が堂々と並んでおいでです。
「…………!!…………!!!………!」
私は抗議の声を発しましたが、それは声という音にはなりません。
だって仕方が無いのです。
私はある時から声が出なくなってしまったのですから。
殿下にはハクハクと口が動いているだけに見えるだけなのです。
殿下はその様子を酷く痛ましげに見ておりましたが、考えを変えてはくれませんでした。
「其方は5歳の時から私の婚約者として王妃教育に励んでくれたが、その様に声を発せられないのでは王妃としてはやっていけまい。王妃としての重責を負うより、王国の一貴族として生きていった方が良かろう。」
「………!!」
駄目です。
婚約破棄だけは駄目です。
お願いです。
取り消して下さい。
殿下。
お願いです。
殿下。
殿下。
私は必死に声をあげようとしますが、ハクハクと口が動くだけ。
どんなに抗議の声をあげようとしても、音にもならず、ただ私は流される様に殿下とエラ嬢の様子を見つめることだけしかできません。
きっと私以外の生徒も先生方も皆この婚約破棄、そして新たな婚約に納得しているのでしょう。
「皆も知っている通り、エラ・シュミット伯爵令嬢はこの学園でもトップクラスの頭脳の持ち主だ。また、彼女の家は王国でも長い歴史を持つシュミット家である。どうか、私とエラ嬢の婚約に納得して欲しい」
確かに、声も出せない凡庸な家柄だけの公爵令嬢と学園でも才色兼備として名高い伯爵令嬢だったら、伯爵令嬢の方が良いのかもしれません。シュミット家は侯爵家であってもおかしくないと言われる程の名門でもありました。
喝采が上がります。
私の存在なんて皆忘れて、新しい婚約の祝いになっております。
それでも私は抗議の声を出すのをやめませんでした。
涙で殿下が見えなくても、涙で化粧がボロボロにくずれても。
殿下。
殿下。
殿下。
イェンス様!
お願いです!
取り消して!
婚約破棄を取り消して!
「すまない、アンネ。いやエリクセン公爵令嬢。どうか公爵家の一員として私に力を貸して欲しい。その方がきっと其方は幸せになれる。」
あっ。
イェンス、さ、ま……
「残念。契約は終了だよ」
その時でした。
「きゃあああああああああああああ」
突然の物音と共にエラ嬢が悲鳴をあげました。
エラ嬢の足元には殿下が倒れており、瞳孔を極限まで開きながらハクハクと口を動かしております。その様子はまるで水の中で窒息している様でした。そして、奇妙なことですが屋内だというのに、殿下の辺り一面が水で濡れていくのです。誰も何もできずその状態が続いたかと思うと、ぱったりと殿下はそのまま動かなくなってしまいました。
「仕方ないことさ。これは契約だからね。覚えているだろう?アンネ。」
昔話をしましょう。
幼いイェンス様は仰いました。
「アンネ、知ってる?海は広いんだよ。今度一緒に王宮の船に乗ろう。大好きなアンネと一緒に広い海を見たいんだ。」
そう言って本当にイェンス様は船に乗せてくれました。
ですが、突然の嵐の前では王宮の船でも太刀打ちできません。
そうして、殿下は海に流されてしまい、次に見つかった時には息をしていなかったのです。
私は泣きながら祈りました。
どうかどうかイェンス様を生きからせて下さい。
お願いします。
なんでもします。
なんでもしますから。
すると海の魔女がやってきて言いました。
「アンタの声と引き換えに、王子を生きからせてあげよう。ただし、二人が婚約を破棄したら王子は死んでしまうからね。アンタを婚約者として名前ではなく、他人としての家名で呼んだ時にね。それにこのことはアンタと私だけの秘密だよ。もしかしたら結婚できないかもしれない。そしたら、また王子は死んでしまうよ。それでも良いのかい?」
私は迷わず海の魔女と契約しました。
声を失いましたが、私は幸せでした。
だって、イェンス様は生きているのです。
私が声が出なくなったのは船での事故の心の後遺症の為と判断され、イェンス様のその瞳が痛ましげにこちらを見ても、私は確かに幸せだったのです。
イェンス様。
幸せとはなんですか?
私は確かに幸せだったのです。
イェンス様の隣にいれて幸せだったのです。
例え、王妃の重責が如何なるものだろうとイェンス様の為なら私は耐えられたのです。
イェンス様。
イェンス様。
「イェンス様ぁあああああああ………」
私は声をあげて泣きます。
イェンス様に縋りつきながら、何度も何度もイェンス様と呼びます。
でも、もう二度とイェンス様が目覚めることはありません。
だって、私は「イェンス様」と声が出ているのですから。
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