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軽い刺激
ファスタム
しおりを挟む4月1日
オリヴィアを出てから今日で早2日。
私達はファスタムへ無事到着し、町へ入る為の列に並んでいます。
道中はほとんど雪は溶けていましたが、まだまだ目に入るくらいには残ってる様子です。
この雪は何時になったら全て溶けてくれるのでしょうか?
オリウィアの町に居た三ヶ月は本当にいろいろありましたが無事に出れて本当に良かったですよ。
夜に襲撃してきた人はあの後に私が一人の時に襲い掛かってきたのですが、突然胸を押さえて苦しみだして逃げてしまいました。
セリスに聞いてみたのですが、人種を襲えないように呪いをかけたと言っていました。
だからあんな簡単に逃がしたんだと思いましたが、そう言うことはちゃんと説明してくださいと叱る羽目になってしまいました。
最近相談はできるようになってきましたが、報告や連絡を疎かにする事がまだまだ多いので困ったものです。
ですがちゃんと直そうと努力してくれているのは見てとれるのでいずれ無くなるでしょう。
「メリル~、いつになったら入れるんだい?」
「そうですね~、いつになるのでしょう」
先程まで串肉を食べていたセリスが退屈になったのか私の肩に顎を乗せて寄りかかってきます。
私達がファスタムに来たのは祭が行われるのでそれに参加するつもりで来ました。
ここまで順調に来て無事に列に並ぶことができたが、ファスタムに入るための列が動かずに入れません。
本当に何があったのでしょう?
もしかして……
「なんか……セリスと出会ってから変な事ばかり起こりますね」
「なっ!?メリルそんな風に思ってたのかい!?
確かにティナを逃がすなんて失態をしたけど1度も自分から大規模な事態を起こしてないよ!?」
でしょうね、セリスはそんな事を望みませんもの。
ですがセリスの行動が望んだ結果になったことの方が少ないですし、なったとしても理不尽極まりない力業で無理矢理望んだ結果を出していた気がします。
それにセリスじゃなくても……
「これがティナさんが起こした結果と言う可能性は?」
「…………否定できないけど、ティナに何の得があるんだい?
アイツは私と違って意味の無い嘘を付くような奴じゃないよ?」
「意味の無い嘘ばかり付いてると認めるんですね」
「だってそっちの方が面白いでしょ?」
猫のような笑みで答えられた。
何故そんなに自慢気なのでしょう?
って、セリスの語る悪の心得にそんなのありましたね。
悪の心得その10?20?……まあどちらでも良いですが確か『「真実がつまらないならいっそ嘘で面白可笑しく塗り固めてしまえ」辛い今よりも幸福な今の方がより遠くへ進める。ただし己の罪から目を反らす事だけはするな』……でしたっけ?
良い考え方だと思ったので覚えてましたけど極端ですよね。
セリスの語る悪の心得は参考程度に覚えておくのが丁度良いと思います。
「……あ、嘘と言えば今日は嘘を付いても良い日だって知ってます?
エイプリルフールと言うそうです」
「そうなのかい?」
「嘘です」
私が笑顔でそう言うとセリスは笑顔がひきつります。
その表情が見たかった。ふふ、今回は私の勝ちですよ。
「…………メリルってけっこう意地悪だよね」
「う~ん……それもセリスと関わって初めて理解した事なんですよねぇ」
セリスの言うとおり、私は意外と意地悪というか、イタズラ好き?まあ、からかうのが好きですね、傷つかない程度に。
「あと、私は意外に素直じゃない事もセリスと関わってから……まあ嘘なんですけど」
嘘なのは嘘だという言葉だけ。
するとセリスが後ろから私の両肩掴んで軽く揺すってくる。
「ねえ~、意地悪しないで教えておくれ~、私が悪かったから~」
「教えてあげませ~ん」
だって、恥ずかしいじゃないですか。
「二人ともなにイチャイチャしてるんだよ……」
情報収集から戻ってきたターニャが疲れた感じに声を掛けてきた。
私はセリスから貰ったリボン付きの帽子を被っていますが羽は隠していませんし女性の格好をしています。
私が行くと、ドリーミーのくせに!しかも生意気に女が商人をしているだと!?とか思われてトラブルになる可能性が高いので頼みました。
どうしても必要になれば隠しますが、そうでない時は隠さないと決めましたから。
まあドリーミー云々は置いておくとして、ターニャが行く事になったのはセリスとトランプで勝負をして負けた結果なんですけどね。
セリスのフルハウスとストレートフラッシュはかなり露骨でした。
シャッフルしたのも配ったのもターニャなのにいったい何をしたのでしょう?
「ターニャお帰りなさい、どうだった?」
「ダメダメ、昨日から並びっぱなしって奴が大半。
そこで屋台開いてるのは2日前から並んでるみたいだ」
ターニャが指差す方では肉を焼いている売っている店がある。
さっきセリスが串肉を買った店ですね。
「2日って……またセリスと関係持った事で犠牲者が……」
「ちょっとメリル?私は本当に悪くないからね?
終いには流石の私も泣くよ?」
冗談みたいなノリでセリスが叩いてくる。
しかし私の羽はセリスの必死さを正確に感じ取りちょっと罪悪感が沸いてきました。
「ん……ごめんなさい、少しからかい過ぎました」
「そうか、わかってくれたなら良かった」
セリスがホッとした事を感じ取り私も安堵する。
軽くからかうのは良いですがセリスが傷つくのは絶対に嫌ですから。
「けっきょく何故入れないのでしょうか?」
「何でも呪いの魔法具を祭りの活気に便乗して持ち込まれたらしくてな。
街中に沢山ある状態で、祭りは開催する予定だがこれ以上混乱を招かないように一時的に封鎖してるんだってさ」
「へぇ、こんな平和な世界でもそんな事が起こるのものなのかい?」
「これほどのテロは初めてだが、どれだけ警備を強化しようとも何年かに1回はどこかしらで起こるよな。
テロじゃないが一度商業ギルドの金の管理が問題で、酒が入ってたのもあるが町中暴力行為や器物破損が発生したなんて事もあったらしいし」
「それはかなり有名な大事件じゃないですか。
しかし呪いですか、先月くらいに呪いで苦しみだした人を見たばかりなので穏やかじゃありませんね」
あれはすごく驚きました。
私が襲われた事も驚きましたが攻撃してくる前にいきなり胸を押さえて地面にのたうち回るのですもの。
「いや、私が言ってるのはそんなテロだなんて嘘を付いてまで町を封鎖している事について疑問を持っているんだよ」
「はぁ?嘘ってどういう事だ?」
セリスの言葉にターニャが怪訝な顔をするのも当然だと思います。
私もセリスが何でそう思ったのか一瞬わかりませんでしたから。
すぐに答えが出た私は教えることにする。
「ターニャ、セリスが最も得意とする魔法の系統が何だったか思い出してください」
「あ、呪いか」
「そう言うこと、呪いっていうのは相手を傷つける目的で使われた呪いだよ。
一流の魔法使いでしかも呪い系統に特化している私がこれだけ近い距離に居て気付かない訳が無いからねぇ~」
「なるほど……」
それなら確かにセリスが断言したのも納得できます。
セリス程の魔法使いが得意とする魔法を見分けられないとした場合、それを行った人物はセリスを越える存在である訳です。
もしそんな存在ならまったくの無名な訳がありません。
それだけセリスの力は並外れていますからね。
強くなったからこそ、その強さを痛感している私が言うのですから間違いありません。
「いやいや、今回は呪いだよ?
まあ、私が原因なんだけどね」
しかし、そんな満場一致だったのをバッサリと切り捨てる第三者の声。
その声はとても高く、まるで声変わりも起きていないかと思うほどで、若々し過ぎるを通り越して幼いと感じるような声でした。
私達の話に割り込んで来た人、その人は知らないうちに私の荷馬車に乗っていて、魔力感知能力が高い私が気づけなかったのです。
「久しぶりだねセリス。1本食べる?お姉さんの奢りだよ」
荷馬車に置かれた樽に寄りかかり串肉を食べている犬科の耳を持つ赤い髪の少女がいました。
その少女は抱えていた串肉の盛られた皿を差し出してくる。
うん、なるほど。この人がミィさんか。
セリスと親しそうだし、実際すごく親しいのでしょうね。
私もそういう節がありますが、入り込む時は強めに入り込むような感じの人の方がセリスの好きなタイプなのだと思います。
証拠になんやかんや言いつつもターニャとも良い関係ですからね。
「久しぶりだね。それさっき食べたばかりだからいらないかな」
「そっか、ならそこのドリーミーの子とヒューマンの子は食べるかな?」
「良いんですか?なら1つ頂きます」
本当はあまり気分ではないのですが、初対面での厚意ですので頂きましょう。
「……やっぱり私も食べる」
「ん~……流石に露骨すぎじゃないの?」
「うるさい、私は気まぐれなんだよ」
「ふふ、安心した。その子が大のお気に入りみたいだね」
優しげに言いつつも楽しそうに笑いを堪える少女から私とセリスは串を1本貰う。
「ちょっと待て!ソイツいつからそこに居た!?
怪しすぎだろ!」
怪しいって……セリスの友達なんて他に居ないでしょうに。
「大丈夫ですよ、だって彼女がミィさんですよね?」
「うん、どう言われてるか知らないけどミィさんだよ~」
「やっぱり。なら信じます。
セリス程人を見る目がある人はいませんから、セリスが信頼している相手なら信じられます」
セリスは価値観で食い違いが発生する事は多々ありますが、人の心理を見通していると思わされる行動が本当に多いんですよね。
私だけに限らず、出会って数分、偶々相席になった人の心理を先読みして言い当てたり本当に凄いですよ。
だからこそ警戒心が強くて、セリスから信頼を得るにあたって下心が少しでもあればもう不可能ですよ?
そんなセリスが信頼している相手を信頼できない道理がありません。
「……なんかすごく良い奴だね」
ほら、やっぱり優しくて良い人です。
こんなにも暖かく穏やかな感情を感じさせる魔力の持ち主なのですから。
「少し意地悪だけどね」
「それはセリスが悪いからです」
「セリスは涼しい顔して地雷踏み抜くからなぁ……」
地雷……?まあそれは置いておいて、私とセリスのやり取りにミィさんは苦笑しながらそう言いました。
言質は取りました、これで2対1です。
「まあ、いいか……しかしコイツがミィ?
思ってたよりずっと幼いな」
「ミ・イ・さ・ん、だからねガキンチョ。
これでも私は80越えてるんだぞ?」
「はあ!?」
「前に不老だって言ったよね?……言ってなかったかな?
ちなみに種族魔法使いも不老でいられるけど私は見た目通りの年齢だよ」
私は覚えてたので驚きませんでした。
ただ、ミィさんが80と言うのは疑問が出ますね。
もしかして認識しているのが80年という話で、封印されていた間は意識が無かったのでしょうか?
数十年、数百年もずっと一人ぼっちなんて耐えきれませんしね。
「………と、申し遅れました。
私はメリル・ダンヴィル、あちらはターニャ・ルキンセスと申します。
私達の事は呼び捨てでも構いませんので好きなように呼んでください」
「うんうん、わかったよ。それで本当にセリスの友達なの?
いや、良い関係だとは思うよ?
セリスの反応も素直で仲の良さが伺える。
セリスは大抵の演技は完璧にこなせるのだけど友達相手に本性をさらけ出すなんてした事無いだろうから違和感がしてくるんだよ。
けれどそれが無くなっている。
つまりそれだけ長い期間セリスは素の姿を出してたんだろ?
正直セリスの仲間はどこか頭のネジが飛んだ破滅願望の持ち主ばかりだったから、そこだけが心配でね。もしかしてメリルちゃんもその同類なのかな?」
「ミィ、メリルにちゃんなんて付けるな。メリルに失礼だ」
セリスが少し不機嫌な雰囲気になり強い口調でそう言った。
ミィさんは驚いた顔をしていましたが、これまでのからかうような雰囲気から優しさを感じるものへと変わったのが分かります。
「わかったよ、そんな強い口調で言わなくても良いじゃん……
メリルは破滅願望の持ち主という様子でもないし、本当に良い友に恵まれたようで良かったよ。
ところで、セリスの事は好き?正直化け物だと思うんだけど?」
「失礼すぎじゃない?」
あらら、セリスが拗ねてしまいましたね。
日常的に表情を隠しているけど、こういう時の耐性は無いようで、私がこう思うのも変かもしれませんけどかわいいですよね。
「まあまあ、私はちゃんとセリスの事が大好きですから拗ねないでください」
「拗ねてないよ」
「いやいや絶対拗ねてるじゃん」
「こういう所がセリスのかわいいところですよね」
「わかる」
「うるさい黙ろうか?」
「あはは、怒った怒った。
さて、珍しくセリスをからかえそうだったから調子のったけど程々にして本題に入ろうか。
この通行止めの原因は私で、実行に使ったのは呪いだよ。
ただし、セリスの魔力を使った呪いだけどね」
「…………」
一瞬でセリスのチリチリとした不快感が鎮火しました。
「……セリス?」
「え、あ、いや、違う!私は悪くないよメリル!
ね、私は悪くないよねメリル!!」
今まで見てきた中で間違いなく一番の慌て具合で自分の無実を主張してくるセリスは顔には出てませんが魔力は半泣きです。
たぶん、これ以上失敗を重ねたら見捨てられるとでも思っているのでしょうか?
もしかしたら他の理由で混乱しているのかもしれませんが、もしそんな事でここまでなるとすれば私への信頼はその程度なのでしょうか。
「落ち着いて、セリスを責めも嫌いもしませんから」
混乱して不安そうなセリスを見て、とても嫌な考えをしてしまいましたがそれを振り払う。
「あ……そうか……ごめん、見苦しい姿を見せた」
「大丈夫です。
私はそう言うところも含めてセリスだとわかっていますから」
だからもう少しだけ私を信じて。
セリスが本気で私に向き合ってくれているから、私も全力で答えようとしている。
けれどそれはセリスに伝わっていないのかも と不安になってしまうから。
「……本当に良い友に恵まれたみたいだね。
しかし一流であるほど自分の臭いを判別するのは難しいからね~。
この失敗は仕方ないんじゃない?」
「原因に慰められても惨めだと思うんだけどね?」
ニヤニヤと笑い楽しげに慰めている姿にセリスは軽く怒ってますね。
う~ん……今なら言っても良いかもしれませんね。
さっき不安になった時に本音を口にしなかったのは余計にセリスを追い込み、混乱させないため。
けれど本当は伝えたかった。
セリスと同じように私も本気でセリスに向き合おうと努力しているのですから。
ですがその前に確認は必要ですね。
「ふぅ、その様子なら平気そうですね。
ならセリス。一応確認として聞きたいのですが、セリスが悪くないというのも正直私はどうでも良いと思っています。
ですが、その後何をそんなに慌てていたのですか?」
「え……あの………」
ズイッと顔を近付けて問い質す。
こればかりは譲れませんハッキリ言います。
「まさか、今更そんな事で私がセリスを嫌うとでも思ったのですか?」
「うぅ…………」
無理矢理絞り出したような声、目を背けたりはしないもののどうしたら良いかわからないという魔力。
この魔力の感じ、間違っていなかったようですね。
「ならば私はセリスに怒る必要があります。
セリスはミィさんに少しだけ怒っているみたいですけど、その程度で嫌われると思われた事に私も怒っていますよ?」
「え……えっと、私はどうしたら良い?」
「友達なんですからそれくらい自分で考えてください」
私に言われて無言でうつ向いてしまう。
もっと簡単に考えてくれて良いのに。
「……ではヒントです。
セリスにとって私は弱くて仕方ないでしょうから、関わり方を考えるのは当然かもしれませんけど、そんなに難しく考えなくて良いんですよ?」
「簡単に………………ごめんね?」
「ングフッ!ケッホケホケホ!」
親しい人が普段見せない姿を見て変な笑いが出たのでしょうね、ミィさんが水を飲んでいて噎せました。
「…………」
横でミィさんがそんな様子なのですが、セリスは気にした様子もなく私を見ている。
おそらく、不安半分、期待半分といったところでしょう。
「はい、今回はそれで許します…「ふ~……良かったよぉ」…って、え、ちょっとセリス?」
セリスにぎゅ~っと抱き付かれて、私の足が浮くくらい必死で、え?こんなに必死なの?
もしかして加減間違えてセリスを追い込みすぎてしまいました?
「セリス、ねえセリス!ねえって!恥ずかしいです!」
「あ………すまない」
私が必死に背中をタップしてそう言うとようやく離してくれました。
「く、くく……いや、良いもの見させて貰ったよ。
セリスちゃんは可愛いなぁ~フフフ」
「ん……なるべくメリル以外の前では出さないようにする」
……ん?なんか、セリスの雰囲気が変わった?
いや……気のせい………かな?
「それじゃさっきも言った気がするけど話の本題に入ろうか。
でもその前に」
そう言ってからお皿に乗ってた残りのお肉を串から外してスープでも飲むかのように豪快に流し口に入れていきます。
「ごちそうさまでした」
軽く平らげてパンッと手を合わせる。
ワービーストは人種の中でも身体能力が高いと言われてますがミィさんの顎の力は私の知ってるワービーストの力を軽く越えていると思わされる光景ですね。
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