『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

アオミ レイ

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第四章 南部拠点に轟く監獄軍の進軍

CHAPTER69『聖堂門、砂の奈落へと沈む』

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傾きかけた古の門は、すでに限界に達しつつあり、踏みとどまる兵らの命運さえ道連れにしようとしていた。
その混戦の中心にいたのは――ゼルバ・フォーン。
異形のその姿に、誰も決定的な打撃を与えることができず、破滅の時は、刻一刻と迫り来る。


聖堂門上――

その時、雷鳴と共に、一閃の雷撃が闇を裂いた。
「……砕け散れ、ゼルバ・フォーン!」

空間を揺らして飛び込んできたのは、沈黙の牙のナンバー2――カイゼル。

その巨躯が振り下ろす拳に、雷光が絡みつく。

バリバリバリバリッ!!

直撃の雷撃が、ゼルバ・フォーンの身体を貫いた。異形の肉体が一瞬だけ硬直する。

「クッ……!」

ゼルバ・フォーンの表情が歪む。これまでの攻撃には一切反応を見せなかった彼が、明確に“痛み”を感じ取っていた。


それを見ていた影虎が、鋭く目を細め、胸元の首飾りを握りしめる。
「……雷撃なら、あの芯に潜む“核”にも届くかもしれん……」


その刹那、霧の幻影隊の最後尾から、もうひとつの閃光が走る。

「――死者の雷でも、喰らってみるか?」
音もなく跳び出したのは、雷術の亡霊――魚人兵器と化したヴィクター。
かつてアビスロックでカイゼルと並び称された雷撃の使い手。


ゼルバの背後、反対方向から雷撃を叩き込む。

バチバチバチバチィ!!

ふたつの雷がゼルバを挟み込むように直撃し、異形の身体が裂ける。

肩、腹、脚部――数箇所が一気に吹き飛び、再生速度が鈍る。


ドゥームが口角を上げて叫ぶ。
「おお……久しぶりだな、ヴィクター。元気そうじゃねぇか!」

ヴィクターは表情を崩さず、ぽつりと返す。
「……ドゥームか。俺はもう“死んでる”。元気なわけねぇだろうが」


雷撃が散る中、二人の雷使いが睨みを利かせる。


(……こいつらの雷撃は厄介だな...こうなったらボンバルディアビートルで聖堂門ごと粉々にして、蟻地獄の餌に……)
ゼルバ・フォーンの虫の複眼が、一瞬、別の光景を捉えた。

地下空間から舞い上がろうとする――巨大な大鷲。

「……何っ!」
その目が細く鋭くなる。

(リバースワームを持ち去ろうとしている…だと……こいつらの差し金か?……いや、ランスロットだな)
口角がゆっくりと吊り上がった。

「……貴様らとの遊びはここまでだ」
背中に黒紫のスズメガの羽が音もなく形成される。

ドゥームが腕を組んだまま、笑う。
「ククク……逃げるのか?」

ゼルバ・フォーンは振り返らず、淡々と告げる。
「いや――ランスロットも我々に牙を仕向けてきたようなんでな……この地獄から生き延びたなら、また遊んでやろう」

その声を残し、羽ばたきと共に一気に飛翔する。


「逃がさねぇぞ、この野郎!」
バシリスクが棍棒を振り上げるが、すでにその影は空を裂き、視界から消えていた。


文字通り崩れかけた聖堂門の真下では、砂と瓦礫に覆われた大穴の中心の蟻地獄が、まるで飢えた獣のように口を開け、獲物が落ちてくる瞬間を、ただひたすら待ち構えていた。


その時――

ゴゴゴゴゴゴ……!!

老朽化した聖堂門が、ついに傾き始める。
かろうじて体を支えていた瓦礫が崩れ、巨大な石塊が音を立てて地上へ落ちていく。


門の突起にしがみついていたイェーガーが、咄嗟に声を張り上げる。
「……!? ダンプ!!」

聖堂門の一部が崩れた勢いで、ダンプが掴んでいた瓦礫が砕け、手が空を切る。

「!? くっ……やべぇ!!」
ダンプの巨体が、支えを失って落下しようとしていた――!

ヒューン……ドシャッ!!

空を切る音とともに、ダンプの巨体が聖堂門から墜ちる。

重い衝撃音が地を揺らし、ダンプは砂煙を巻き上げながら、地上の巨大な蟻地獄の中心部――奈落の穴へと落下した。

その足元、砂がざわめき、蠢く。
「……クソッ!身体が砂に吸い込まれる……ッ」

シュルルルルル……

ざらついた音と共に、蟻地獄の主が全身を現す。
砂の中心に潜んでいたその“獣”は、無数の牙を持つ円筒状の口を開き、ダンプの前に立ちはだかった。

待ち構える蟻地獄が、その不気味な吐息を放つ。

シュルゥ……グルルル……

音にならない音を響かせながら、ゆっくりと、だが確実に前進してくる。

「……!? に、逃げられねぇ……!」
ダンプは咄嗟に棍棒を振り上げようとするが、既に両足は砂に取られている。

ズズズ……!

脚が沈む。腰まで砂に飲まれ、動きが鈍る。

「くそっ……ッ!」
力任せに腕を振るうも、身体はみるみる砂の海に沈んでいく。

周囲は崩落した瓦礫と砂に囲まれ、逃げ場はない。
その目の前で、蟻地獄が口を限界まで開き、獲物を味わう準備を始めていた――。


砂が腰まで食い込み、足は見えない何かに絡み取られていた。
もがくたびに砂が逆流し、さらに深く引きずり込んでくる。

「くそっ……!」
息が詰まり、視界の先で巨大な蟻地獄の顎がギリギリと開く。
奥の突起がぬらぬらと蠢き、ダンプの影を舐め取るように迫った。

崩れかけた聖堂門の上で戦う仲間の姿は砂煙にかすみ、助けを呼ぶ声は誰にも届かない――。

(……俺は、ここで終わるのか……?)


崩れかけた聖堂門上――

イェーガーは歯を食いしばり、眼下の惨状を見下ろした。
「ちくしょう……! ハンスの野郎がいりゃ引き上げられたのに……!」

腰のあたりを探るが、手持ちのロープはもうない。
「くっ……あれもドロマを縛るのに使っちまったか!」

砂埃と潮風が混ざる中、イェーガーは焦燥を押し殺しながら周囲を見渡す。
(……待てよ。あのトビウオ魚人の跳躍力なら……もしかして――)

イェーガーが振り返り、声を張り上げた。
「おい! ジル! 今落ちたダンプは俺たちの仲間だ! おまえの跳躍力で、何とか助けてくれないか!」

「――何っ!?」
ジルの目が鋭くなる。

(……確かに、あいつのところまでは飛べる。だが、あの足場のない場所で引き上げるには……いや、考えてる時間はねぇ!)
「ああ――やってみる!」

次の瞬間、ジルは足元を蹴り、風を裂く勢いで跳躍。一直線に、砂に沈みゆくダンプのもとへと向かった。

ダンプは蟻地獄の口に飲まれる寸前――。
ジルが身を滑らせるように飛び込み、手を差し出す。
「掴まれ!」

砂に沈みかけたダンプが、必死にその手を掴む。

「うおおっ……!」
力を込めて引き上げようとするジルだったが、足元の砂が崩れ、自分まで飲み込まれそうになる。

「クソッ!」
近くに転がる瓦礫へ腕を伸ばし、アンカー代わりにして跳躍を試みる――が、巨体のダンプごとでは到底浮かび上がれない。


聖堂門上で見ていたイェーガーが、奥歯を噛みしめる。
「……クソッ、ダメか!」


その瞬間、崩れかけた門の上から低い笑い声が響いた。
「……ククク、少し手を貸しててやるか」

ドゥームが右腕を振り上げる。
直後、蟻地獄の奥底から大量の水が湧き出し、爆発するように噴き上がった――。

ゴワァァァ――ッ!!

噴き上がる水流に身を乗せ、ジルは一気に地上へ飛び出そうとする。

だが、その瞬間――砂の奥から、蟻地獄の巨大な牙が稲妻のような速さで迫った。

「……ッ!」
紙一重で身をひねり、牙を踏み台に変える。

掴んだダンプを抱えたまま、渾身の跳躍で穴の端へ――しかし、着地点まであと数メートル足りない。
「……クソッ!駄目かッ...!」

重力が二人の体を引きずり込み、足場のない宙で、砂の奔流が容赦なく迫る。
このままでは、もがく間もなく底へと呑み込まれる――。



その時、前方から声が飛んだ。
「ジルーッ!!」

聖堂門から少し離れた場所でタイタンを介抱していたレクスが、落下していくジルを見つけ、全力で駆け寄ってきた。
「これに掴まれ!」

投げ込まれた鎖鎌の長い鎖を、ジルは片手でしっかりと掴む。

すかさずモーリスも駆けつけ、二人がかりで一気に引き上げた。


砂と水飛沫を撒き散らしながら、ジルとダンプは穴の縁に転がり込む。

「はぁ……はぁ……危なかった。助かったよ」
ジルは息を整え、レクスと腕を交差させた。

「お前が穴に飛び込んでいくのが見えたんだ!」

ジルはニヤリと口元を吊り上げた。

ダンプは大の字に倒れ込み、荒い息を吐く。
「……はぁ、はぁ……助かった……もう駄目だと思った、ありがとうよ」

ジルが身を屈めて顔を覗き込む。
「ああ、助かってよかったよ。それより――ゼルバ・フォーンはどっちに向かった!?」

モーリスが軍司令所跡の方を指さす。
「おお、さっきゼルバ・フォーンらしき男が、あっちへ飛んで行ったぞ」

ジルは頷き、踵を返す。
「よし、俺はそっちに向かう!レクス、モーリス、ダンプを頼む」


その時、レクスの背後から影が差した。巨体の男が現れる。

「タイタン! 大丈夫なのか!?」
ジルは目を見開き、思わず声を張った。


タイタンは目をパチパチさせ周囲を見回す。
「ああ……わしは何で寝とったんじゃ? 何じゃこの大穴は?ほぁ?でっかいダニがおるのお!」

レクスが短い足で蹴りを入れる。
「おいタイタン!てめぇ、心配かけやがって! お前寝てたと思ったら敵に操られて俺たちに殴りかかってきたんだぞ!」

タイタンが目を見開き、こぶしを握る。
「……はぁ? …………思い出した……あのコブラみたいな野郎に痺れ薬みたいなんを喰らったんじゃ! くそう!わしとした事が!」

レクスが指を突きつける。
「その後、ゼルバ・フォーンの虫にも操られたんだよ!」

タイタンが唸るように首を振る。
「なにぃ! くそう……ジル!奴らはどこに行った?」

ジルが顎で方向を示す。
「あっちの方向だ。一緒に来るか?」

タイタンが拳を掲げ吠える。
「おう! バチバチにぶち喰らわしちゃるけんのう!」


ジルが振り返った瞬間、耳をつんざく轟音と共に聖堂門全体が大きく揺れる。

モーリスが必死に声を張り上げる。
「ジル! 待て! もう聖堂門が崩れるぞ!」

ジルは目を見開き、息を呑む。
「――何っ!?」

次の瞬間、背後から石壁が裂け落ち、瓦礫が雪崩のように蟻地獄へと崩れ込んでいった。

舞い上がる砂煙の中、仲間たちの叫び声が交錯する。





崩れかけた聖堂門上

瓦礫の隙間から下を見下ろし、息を整えながらイェーガーがつぶやく。
「……ふぅ、何とか助かったようだな」

その時――

ゴガガガガガッ……!!!

モルドが振り返り、迫る崩落音に目を見開く。
「!? もう崩れ落ちるぞ!」

足元の石が崩れ落ち、バレルが思わず声を荒げる。
「やべえ!」

アルデンは歯を食いしばり、拳を固く握った。
「ちくしょう!」

ガレオンは素早く膝をつき、聖堂門でまだ形を保っている石柱に杭を打ち込み、縄を結びつける。
「影虎様、準備ができました!」

影虎は頷き、足場を蹴って前に出る。
「よし、私が跳ぶ! 跳べぬ者はこの縄を使え!」

そのままジルに匹敵する跳躍力で、大穴を一息に飛び越え、大木の根元へ着地。素早く縄を大木に固定した。

梟は口元に笑みを浮かべ、肩の力を抜く。
「さて、私も跳びますか...」
ふわりと綿毛のように舞い上がり、軽やかに大穴を飛び越える。

霧の幻影隊は次々と縄を伝って渡り始めた。

ドゥームは足元に渦巻く水流を起こし、悠々とその流れに乗って地上へと降り立つ。

カイゼルは鋭い目で周囲を見渡し、雷鳴を纏った腕を掲げる。
「……数人なら、俺の雷鳴に乗せられる」

バレルが即座に駆け寄り、勢いよく頷く。
「おう、じゃあ俺らを連れてってくれ!」

カイゼルにしがみつくバレル、アルデン、ゴルザ、ヴォルグ。

バリバリバリバリッ!!

アルデンは身体を震わせながら顔をしかめる。
「あちちちちっ!」

バレルは肩をすくめつつ叫ぶ。
「!?痺れるぜ!」

ゴルザとヴォルグは歯を食いしばり、無言で耐えた。

ヴィクターも霧の幻影隊数名を抱え、雷鳴の閃光と共に縁へ滑り降りる。


一方――
バシリスク、イェーガー、モルドは霧の幻影隊の後に続こうと縄へ手を伸ばす。

だが、

ゴゴゴゴゴゴッ!!

イェーガーが振り向き、足場の崩れを見て叫ぶ。
「!? 落ちるぞ!」

ついに聖堂門は崩れ落ち、

グババババッ!!

轟音と共に瓦礫が砂煙を巻き上げながら大穴へと崩れ落ちた。

イェーガーは唇を歪め、怒鳴る。
「クソッ! こんな所で死んでたまるか!」

だが――

ガンッ!

瓦礫の破片がイェーガーの頭部を直撃し、彼は意識を失う。

モルドは目を見開き、駆け寄る。
「イェーガー!」

助けに飛び込んだモルドも、巨大な瓦礫に弾き飛ばされ倒れ込む。
二人まとめて瓦礫ごと蟻地獄の砂に飲み込まれかける。

バシリスクは歯を食いしばり、二人の身体を引き上げる。
「クソッ!」

だが、腰まで砂に沈み込んでしまった。

背後から蟻地獄の牙が迫る。

バシリスクは鋭く睨み返し、低く唸る。
「フン、虫ごときが俺様を喰おうってのか!」

蟻地獄はバシリスクの覇気に一瞬怯むも、再び牙を剥き直し、両腕を塞がれたままのバシリスクに突進してくる。

「……悪ぃな、イェーガー、モルド」
バシリスクは短くそう言い、二人を砂の上へ放り落とした。

「こいつと刺し違えてでもやってやるぜ!」
不敵に笑い、背中に収めていた棍棒を抜き放つ。

「来いよ! デカブツが!」
牙が迫る瞬間、渾身の力で振り下ろした棍棒が一本の牙を粉砕した。

バキィッ!!

「へへへ……次はてめぇの脳天を潰してやるぜ」
瓦礫を掴み、足場にして跳び上がると、狙いすました一撃を頭頂部へ叩き込む。

ゴンッ!!

しかし、蟻地獄はほとんど怯まず、触手をしならせてバシリスクを薙ぎ払った。
「チッ!」
身体ごと弾き飛ばされ、再び砂に沈みかける。
「クソッ!」

そして、蟻地獄のもう片方の触手がバシリスクの胴を絡め取り、締め上げた。


ギチギチと骨が軋む音が響き、身動きが取れない。


巨大な牙が、獲物を仕留めるために迫り来る。

「……今度こそ、やべえな……」
バシリスクの口元に、悔しさと諦めが入り混じった笑みが浮かんだ。





――一方、蟻地獄の縁付近


「!? 崩れるぞー!!」
モーリスの叫びが響く。

「うわわ! バレルたちはどうなるんだよ!」
レクスが慌てて辺りを見回す。

ジルは素早く跳躍の構えを取るが――

「ジル! 待て! 影虎がロープを引いているぞ!……みんな、つたい降りて来てる!」
モーリスが制止の声を上げる。

「!? おお?バレルたちはカイゼルに掴まって降りてきてるぜ! この前まで敵同士だったのによお!」
仲間の無事を確認し、レクスはニコニコと笑う。

「みんな無事に降りたんかのお?」
タイタンが安堵の声を漏らすが――

「……いや、イェーガーたちがまだだ……」
ダンプの表情は険しい。


その瞬間、聖堂門はついに耐え切れず、轟音と共に崩れ落ちた。

ゴシャゴシャグゴゴゴゴ………!!

舞い上がる砂煙の中、瓦礫と共にバシリスク、イェーガー、モルドの姿が見える。


「バシリスクたちが落ちたぞ!」
レクスの声が張り詰める。

「!? 向かうぞ!」
ジルの瞳が鋭く光り、すぐさま駆け出した。



中心では、蟻地獄と独り戦うバシリスク。その近くには、砂に半ば沈みかけたイェーガーとモルドの姿があった。


「クソッ! バシリスクが化け物にやられかけてる!」
ジルが奥歯を噛み締める。

「ジル! これを片手で持て!」
レクスが鎖鎌の鎖を片手に握らせ、ジルはそのまま中心へと飛び込んだ。

タイタンは脇目も振らず、真っ直ぐに突撃する。

「何じゃこの巨大ダニは! わしの拳を喰ろうてみんかい!!」
振りかぶった拳が、蟻地獄の眼を正面から打ち抜く。

ギャギャギャギャ――!!

甲高い悲鳴を上げ、蟻地獄が後退する。

「ぐおおおッ!」
タイタンはその勢いのまま、バシリスクを拘束していた触手を両手で引き裂いた。

ブチブチッ!!

「……ッ! タイタン、すまねぇな!」
解放されたバシリスクが息をつく。

「あ? わしは暴れ足りんのんじゃ! このデカブツは相手にとって不足ないわい!」
タイタンは獰猛な笑みを浮かべ、再び拳を握った。


その間にも、ジルは片手でイェーガーとモルドを順に引き上げる。
「タイタン! バシリスク! そいつは化け物だ! 一旦引くぞ! 俺に掴まれ!」

「おお? ……むぅ、仕方ないのう」
不満げに唸りながらも、タイタンはジルの手を掴み、もう片方の腕でバシリスクの腕を掴んで縁へと放り投げた。

ブォン!!

ジルとタイタンも、モーリス、レクス、ダンプに引き上げられる。

「ハハッ、無駄に長い鎖鎌を持ってて役に立ったぜ!」
レクスが得意げに笑う。


ジルは倒れ込むバシリスクに手を差し出し、引き起こす。

「クソ野郎、借り一つだ…まさか、お前に借りを作るとはな!」
肩で荒く息をしながらも、バシリスクは口角をわずかに吊り上げ、苦笑いを浮かべた。


「ああ、だが俺たちは逃げたゼルバ・フォーンを追うぞ!」
ジルの視線が鋭く前を射抜く。

「もちろんじゃ!」

「俺も行くぜ!」
タイタンとバシリスクも立ち上がり、勢いよく頷く。


ジルたちは旧軍司令所の方向を目指し、一斉に駆け出した。



砂煙がようやく薄れ、崩れ去った聖堂門の残骸は大穴の底に消えた。
救出の余韻と荒い息遣いが入り混じる中、戦場の空気はなお張り詰めたままだ。


そのはるか上空、何かが音もなく迫ってゆく。
冷たい気配だけを残し、影は獲物との距離を、着実に詰めていった。

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