蘇るなかれ

かきたね

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悪酔い

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「じゃあ、私って面白いんだ。」

明日香ちゃんが、クスクスと笑う。
「そりゃ面白いでしょ。だって知らない女の子がたった一人でこんなとこまで来ちゃったんだから。しかも謎のメモ付きで。」

まあ言われてみればその通りだ。

「てかさ、そのメモって誰のなんだろうね?」

「蘇遺会の誰かでしょ。後で聞いてみようぜ」

そんなことを話していると、しんさんが声を張り上げた。

「皆さーん、今からシェアタイムです!」




1つの長机に対し3つずつ置かれた椅子に座る。
「じゃあ、小林さんから。」
司会はしんさんのようだ。
小林と呼ばれたおばあちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。

「私ねえ、実は前回集まってから2日後に、夫の再蘇生をお願いしてきたんです。書類とかいっぱい書かされて、もう老眼だから大変で大変で。」
小林さんは、屈託のない笑顔で話す。
「いやぁ、分かりますよ。僕も最近はなかなか。」
しんさんはそういって頬をずらしながら相槌をうった。
「それで、一昨日に再蘇生して貰ったんですよ。そうしたら、なんと手足のしびれが完全に取れて!私、とても嬉しくなっちゃって、こんな歳なのに久しぶりに夫と抱き合っちゃいました。」

「小林さん、本当に良かったですねぇ。蘇生してから旦那さんの介護で悩んでらっしゃったし。」

皆、両手を小刻みに打ちつけている。
私も、便乗せざるを得なかった。
辞め時を見失う前に戻したけど。

「もう本当に。しんさんのお陰ですよ。しんさんが別の病院紹介してくださったから。」

チャリティー番組を見ている気分だった。
なんだ、これは。

「じゃあ次、明日香ちゃん。」

「はい。」

「私は小林さんみたいな大きなことが起きた訳じゃないんですけど、お母さんが、最近元気になってきた気がして。」

「喋れないのは変わらずなんですけど、朝散歩に行くようになったりとか。そんなちょっとした事でも嬉しいなって。そう思いました。」

再び拍手が部屋を包む。
理解が追いつかない。
だけど、拍手をするごとに、こびりついた胸の汚れを溶かし剥がされるような、そんな感覚があった。

その後、新入りの私を除いた全員が当たり障りの無い感動ポルノを垂れ流し自由時間となった。

パン屑に群がる鳩のように、皆が私のもとへ来る。どうやら、新しい人が来ると毎回こうらしい。
視線をあの二人に向けることすら叶わなかった。
「若いのに陽菜ちゃんも大変やねぇ。」
「まあ、これから仲良くしようや。」
「なんでも相談してくれていいからね。」



...被害者遺族の会とは何だったのだろう。

私は、酔わされた。

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