10 / 12
悪酔い
しおりを挟む「じゃあ、私って面白いんだ。」
明日香ちゃんが、クスクスと笑う。
「そりゃ面白いでしょ。だって知らない女の子がたった一人でこんなとこまで来ちゃったんだから。しかも謎のメモ付きで。」
まあ言われてみればその通りだ。
「てかさ、そのメモって誰のなんだろうね?」
「蘇遺会の誰かでしょ。後で聞いてみようぜ」
そんなことを話していると、しんさんが声を張り上げた。
「皆さーん、今からシェアタイムです!」
1つの長机に対し3つずつ置かれた椅子に座る。
「じゃあ、小林さんから。」
司会はしんさんのようだ。
小林と呼ばれたおばあちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。
「私ねえ、実は前回集まってから2日後に、夫の再蘇生をお願いしてきたんです。書類とかいっぱい書かされて、もう老眼だから大変で大変で。」
小林さんは、屈託のない笑顔で話す。
「いやぁ、分かりますよ。僕も最近はなかなか。」
しんさんはそういって頬をずらしながら相槌をうった。
「それで、一昨日に再蘇生して貰ったんですよ。そうしたら、なんと手足のしびれが完全に取れて!私、とても嬉しくなっちゃって、こんな歳なのに久しぶりに夫と抱き合っちゃいました。」
「小林さん、本当に良かったですねぇ。蘇生してから旦那さんの介護で悩んでらっしゃったし。」
皆、両手を小刻みに打ちつけている。
私も、便乗せざるを得なかった。
辞め時を見失う前に戻したけど。
「もう本当に。しんさんのお陰ですよ。しんさんが別の病院紹介してくださったから。」
チャリティー番組を見ている気分だった。
なんだ、これは。
「じゃあ次、明日香ちゃん。」
「はい。」
「私は小林さんみたいな大きなことが起きた訳じゃないんですけど、お母さんが、最近元気になってきた気がして。」
「喋れないのは変わらずなんですけど、朝散歩に行くようになったりとか。そんなちょっとした事でも嬉しいなって。そう思いました。」
再び拍手が部屋を包む。
理解が追いつかない。
だけど、拍手をするごとに、こびりついた胸の汚れを溶かし剥がされるような、そんな感覚があった。
その後、新入りの私を除いた全員が当たり障りの無い感動ポルノを垂れ流し自由時間となった。
パン屑に群がる鳩のように、皆が私のもとへ来る。どうやら、新しい人が来ると毎回こうらしい。
視線をあの二人に向けることすら叶わなかった。
「若いのに陽菜ちゃんも大変やねぇ。」
「まあ、これから仲良くしようや。」
「なんでも相談してくれていいからね。」
...被害者遺族の会とは何だったのだろう。
私は、酔わされた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる