乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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フラグ建築とハーブの香りと鐘楼の妖精

第25話

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 記念祭の準備は順調に進んでいるものの、私にはまだ一つ気がかりなことがありました。
 それは、ラヴィにまだお礼ができていないことです。
 実行委員がどれだけ多忙か知らなかったとはいえ、彼は私が何度相談を持ち掛けても拒否したり適当にあしらったりしたことなど一度もなく、それどころか親切に情報を提供してくれました。
 出店まで漕ぎつけられたのも彼の力添えがあってのことなのに、準備が始まった途端に顔を合わせる機会をことごとく逃し、ついにお礼の一つも言えないまま今日まで来てしまったのです。

 これは互いの都合がつく日を待っていても埒があかないと悟った私は、彼がいつ本部に顔を出すのかをミツに確認して、確実に会える状況を作ることにしました。
 部外者が本部に近付くのは少し勇気が必要だったものの、その甲斐あって首尾よく彼を捕まえることができました。

「こんにちは、シモン様。お久し振りですね。もしかして、また何か困ったことがありましたか?」
「いいえ、今日は違うんです。いろいろ助言をいただいたのに、ちゃんとお礼を言えていなかったので。忙しいのにお呼び立てして申し訳ありません」

 頭を下げると、ラヴィは眉根を下げて少し困ったように微笑みます。

「そんな、お礼なんて……。こちらこそ、わざわざ挨拶に来てくださってありがとうございます。せっかくこうしてお顔を見られたのですから、少しお話しでもして行かれませんか」
「私は構いませんが……ラヴィは大丈夫ですか。委員会のお仕事があるのでは……」
「ええ、今日は比較的落ち着いていますから。少しくらい席を外しても問題ありません」

 我々は実行委員会本部が設けられている事務局棟を出て、教室棟へつながる渡り廊下をぶらぶら歩き、中庭へ向かいました。

「そういえば、ルヴィ様に記念祭の案内を依頼されたそうですね」
「ええ。どうせなら出店する側としてだけではなく、見物客としても楽しみたいと思って」
「私にも声をかけてくださればよかったのに。仲間外れはさみしいです」
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったのですが」

 言い訳にしか聞こえないと思いつつも慌てて謝罪すると、ラヴィは堪え切れないという風に口元へ手をあてがいながら含み笑いを零しました。どうやら揶揄われただけのようです。

「ただ、本当は私ではなく、ミュゲの案内をお願いするつもりだったんです。紛らわしい言い方をした私も悪いのですが」
「では、ミュゲ様の案内はルヴィ様にお任せして、シモン様は私と回るのはいかがでしょう」

 意外な申し出でしたが、考えてみると断る理由もありません。
 私としてはルヴィとラヴィのうち、どちらがミュゲと懇意になっても問題はないわけで、むしろ一緒にエスコートしてくれてもいいくらいです。
 その場合、フラグとやらは二人同時に立つのでしょうか。流石に恋仲になる相手はどちらか一方しか選べないと思われるので、一人に絞ったほうが確実かもしれません。

「そうしていただけるととても有難いのですが、ラヴィも当日は忙しいのでしょう。無理をさせてしまうのは気が引けます」
「実行委員とはいえ、我々もいち生徒です。記念祭を楽しむ権利くらいはありますよ。私のわがままにお付き合いいただく形になってしまい恐縮ですが、シモン様と一緒に回れたなら、とても楽しい一日になるはずです」

 わがままを言っているのは明らかにこちらなのですが、負い目を感じさせないよう配慮した言葉の選び方は流石の一言です。

「……いや、待ってください。今日はあなたにお礼を言いに来たはずなのに、これではまた新たな負担を強いているような……」
「お気遣い痛み入ります。しかし、シモン様に頼っていただけると、私も嬉しいのです」
「だとしても、お世話になりっぱなしでは、私の気がおさまりません」
「そう仰られましても……。では、ひとつお願いを聞いていただいけますか」

 ラヴィの提案により、我々は後日改めて運動場で落ち合う約束を取り付けました。

 久々に足を運んだ運動場は、道場の周辺こそ生徒で賑わっていたものの、馬場に近付くにつれて人影がまばらになっていきます。
 しかし、今回の目的は馬に乗ることではありません。
 馬場を通り過ぎ、さらに奥まった場所にある射撃場へ向かいます。一足早く到着していたラヴィが、私に気付いて大きく手を振りました。

 ラヴィもルヴィと同様、定期的に運動場へ通っていたらしいのですが、実行委員としての仕事が増えるにつれ、足が遠のいてしまったそうです。

「せっかくなら一人で来るよりも、シモン様と一緒に訓練がしたかったので。付き合わせてしまい申し訳ございません」
「いえ、私としても有難いです。いい加減使い方を忘れるところでした」

 私はあらかじめ借りておいた訓練用の小銃をケースから取り出します。
 ラヴィは既に銃の整備を終えているらしく、その場に佇んだまま準備を整える私を見守っていました。照準器を取り付け、弾丸を込め、安全装置を外し、早速試し撃ちに移ります。
 ラヴィも私の隣に並び、既に調整を終えた銃を構えました。

 撃つ前から薄々わかっていたことですが、彼の腕前は微塵も衰えた様子などなく、見事に的の中心を捉えています。
 要塞の国とも称されるシュタインボルク国を背負って立つ者の義務として、彼もルヴィも幼い頃から兵法を叩きこまれてきました。
 いわんや兵器の扱いにも長けており、単純な戦闘能力という意味あれば、ルヴィもあの年頃としてはかなりの実力を持ち合わせています。それでも、ラヴィには一歩劣るでしょう。
 しかし、彼の出自を思えば、それも当然なのかもしれません。
 今でこそシュタインボルク国次期領主の第一側近などというあやふやな立場に甘んじているものの、彼はやがてシュタインボルク国立騎士団総長として、彼の国における武力の一切を取り仕切る存在となります。
 穏やかな物腰も、他者へ惜しみなく与える慈愛と憐憫の心も、全ては揺るぎない強さに裏打ちされていると知っていればこそ、私は彼に対して尊敬の念を禁じ得ないのでした。

 遥か遠くの的を照準器越しに真っ直ぐ見つめる彼は、何を考えているのでしょう。今、それを訊いても、おそらくは分厚いイヤーマフに遮られてわかりません。
 射撃場にはしばらくの間、間延びした銃声が交互に響いていました。
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