乙女ゲーの隠れキャラだけどできれば隠れたままでいたい

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攻略対象全員集合

第49話

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「そもそも、交際や結婚をまつりごとの一環と考えているルヴィ様と、恋を知らないミュゲ様の間で恋愛が成り立つのでしょうか」
「全くもってその通りなのですが、そういう根本的なところから考え始めると話が立ち行かなくなるので、ひとまず今は横に置いておきましょう」

 ミュゲがこのとしになるまで恋愛経験がなかったのは、彼女を取り巻く環境が多分に影響しています。しかし、ルヴィも負けず劣らず特殊な状況下に身を置いていたようです。いっそのこと、二人まとめてヴィランシア国あたりに送り込んで、愛の何たるかを学んできたほうが手っ取り早いのではないでしょうか。あるいは、ダンに頼めば喜んで講師を引き受けてくれるでしょう。

「ラヴィさんなら、ルヴィさんがミュゲちゃんをどう思ってるかわかるんじゃないの? 好きな子のタイプとか、ねえ」
「どうぞ、ラヴィとお呼びください。先程まではそう呼んでいらしたでしょう」

 やはり彼は偶然ではなく、私とミツの動向を把握したうえでこの場を通りかかったようです。我々が油断しすぎているのか、はたまた彼の諜報能力が人知を超えているのかはわかりません。いずれにせよ、今さら彼に隠し事などないわけですから、考えるだけ無駄というものでしょう。
 
「そうですね……。ルヴィ様は対人関係においても好き嫌いがはっきりと分かれる方なので、好意の有無も比較的態度に出やすいかと存じます。少なくとも、ミュゲ様については憎からず思っていらっしゃるのではないかと」

 確かに、ルヴィは幼い頃から甲斐甲斐しくミュゲの世話を焼いていました。なまじ君主として十全な資質を備えているため、社交界での人付き合いこそそつなくこなすものの、利害関係の発生しない場において、わざわざ嫌悪している相手へ干渉することはないでしょう。また、ミュゲも彼の言であればおおむね素直に従います。どうしても聞き入れなかったのは弓矢の撃ち方くらいです。
 そういった意味では、お互いにある程度の親愛の情は抱いているともいえます。しかし、このような関係性が築けたのは、ルヴィの生来の気質によるところが大きいです。また、ミュゲが極端に世事に疎いという点も功を奏していると思われます。お互いを気にかけているうちに恋愛感情が芽生える、というような展開が期待できればよいのですが、少なくとも現状では腐れ縁以上に発展する気配はありません。

「好みについては、ルヴィ様に直接伺ったわけではないのですが……」

 思案顔で腕組みをしていたラヴィが、私にちらと視線を送ります。よもや私にルヴィの好みを推測しろとでもいうつもりでしょうか。私が首を傾げると、ラヴィはふっと小さく息を吹き出して笑いました。

「まず、自分の意見を持っている方のほうが好ましいと思われます」

 私とミツは感心したように頷きます。優柔不断な態度はルヴィの最も苦手とするところです。

「それから、ルヴィ様と対等に議論を交わせる程度の知性も欠かせません。加えて武術の心得がある方なら申し分ないでしょう」

 条件そのものは想定していたより少なかったものの、全てを同時に満たすとなると、この上なく狭き門といえるでしょう。何しろ相手は入学直後から記念祭実行委員に選出され、一足飛びに上級生の講義へ参加するほど頭の切れる逸材です。何より、彼の知性がいかに優れているかは、私自身が身に染みて理解しています。
 
「はいはーい。もしもミュゲちゃんがルヴィさんと結婚したら、ヴィエルジュ国は誰が治めるの?」

 閑話休題とばかりにミツが元気よく手を挙げます。そろそろ考えが煮詰まって頭が破裂する寸前だったので、流れが変わったことに私は密かに安堵していました。

「たとえ結婚しても、ミュゲがヴィエルジュ国の領主であることは変わりません。強いていうなら共同統治になるのでしょうか。事実上の併合という線も考えられます」
「そうなんだ。でもさ、シモンが自分で領主になろうとは思わないの?」
「私が? ……考えたこともありませんでしたね」
「あるいは、シモン様がルヴィ様と婚姻を結べば、シュタインボルク国の支配権を握ることも不可能ではありません」

 ミツが投げかけた質問だけでも、私を狼狽させるには十分すぎる威力がありました。にもかかわらず、ラヴィまで彼女に便乗するような発言をします。

「確かに、我が家は代々領主の補佐を務めて参りました故、治政に関するノウハウがまるで身についていないというわけではありません。しかし……」

 そこまで言いかけて、私は以前シャリマーへ浴びせかけた口上を思い出し、思わず口の端が緩んでしまいました。そんな私の反応を見て、ミツとラヴィは不思議そうに顔を見合わせます。
 
「心根の腐った人間に、民を導くことはできません。だからこそ、私は領主にはなれないのです」

 私の返答を聞いても、ミツはまだ腑に落ちていない様子でした。一方、ラヴィはなぜか嬉しそうに微笑んでいます。

「……シモン様、やはり私と結婚」
「しませんよ。何度も言わせないでください」

 結局、話し合いの内容は当初の議題から大きく逸れ、有効な案も出ませんでした。今のところは記念祭を待つほか、我々にできることはなさそうです。

「記念祭の見学にはシモン様もいらっしゃいますよね。楽しみにしております」

 ラヴィの言う通り、ルヴィとの約束を取りつけた時点では、私も従者として同伴するつもりでした。しかし、そうなると当然、ラヴィとも顔を合わせることになるでしょう。先頃の一件以来、可能であれば彼との接触は避けたいと考えていましたが、向こうもそれは織り込み済みのようです。
 空に瞬いていたはずの明けの明星はいつの間にか姿を消し、冴々とした空気に乗って食欲をそそる匂いが漂ってきます。間もなくミュゲがお腹を空かせて寝床を抜け出してくる頃でしょう。そろそろ自室へ戻らなければなりません。
 
「ラヴィ、襟巻を返していただけませんか」

 各々の寮へ引き返すべく踵を返しかけたとき、私はラヴィに取り上げられた襟巻の存在を思い出したました。呼び止めると、彼は手の中の襟巻と私の顔を交互に見比べた後、深々と頭を下げます。

「申し訳ございません、シモン様。私の汗がついてしまったようなので、こちらは一旦お預かりいたします」
「そんな、洗えば済むことですから……。どちらかといえば、ないほうが困ります」

 仮に汗が付着していたとしてもたかが知れているのに、ラヴィはなぜかかたくなに襟巻を返そうとしません。こちらから取りに行こうとしても、逃げるように遠ざかってしまいます。

「いいえ、それでは私の気が済みません。入念に手入れをしたうえでお返しいたしますので、どうかご安心を」
「えぇ……。寒いから早めに返してくださいね」

 こうして襟巻を奪われた私は、首元から侵入する冷気に震えつつ、足早にドーム・ロビンへ戻りました。
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