勇者パーティーの保父になりました

阿井雪

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勇者パーティーとの出会い

――スキル『あやす』と『保育ルーム』――

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 行方不明になったユウチャを見つけることができた(虫は森に返した)けど……ほんとに俺のスキルって保父なんだあ……。
 今更ながら、チートのチの字もない自分が悲しくなる。
「ほら、手を洗うぞ」「はいの」
 二度とつかわないと心に決めたはずのテカラ・ジャーで小さな掌をこしこししてやる。あの虫が変な雑菌持ってたら嫌だしな! ………手、やらかいなぁ。こんなちっさいのに俺と同じだけ関節があるのも不思議だ。

「よし、おっけー。はい、このハンカチでちゃんとふけ」

 勇者がいる世界ってことは、魔物も、もちろん魔王もいるってことだよな?
 こんなチビ共が戦うなんて無理にもほどがある――というか、一人の大人として罪悪感がある。子供を守るのが大人の役目だしな。

 スキルが保父だろうが魔法使いなんだ。多分。だからスキルを使いまくってランクアップしよう。ランクアップすれば攻撃用のスキルが使えるようになるかもしれないしな。魔物が襲ってきても俺が追い払わないと。
「どれを使うかな……。あ。これでいいな。『あやす』!」
 スキルを発動させると、四人がふよふよと宙に浮いた。
「きゃー!」「きゃふふ、たのちいの!」「すごーいー!」「す……の!」

 楽しそうに笑っている。あ、あやすってこんなんだっけ? 
 俺の考えていたあやすと全く違うが喜んでいるからいいか。

 俺から3メートル以上は離れられないみたいだが、ある程度は自分で動けるらしい。楽しそうにスピードを上げたり宙返りしたりしてる。

 三、四歳程度とは言えども流石勇者パーティー。俺の頭より高く飛んでも怖がりもしないし、動きにキレがある。

 これならチビ達を疲れさせることもなさそうだ。日が沈むまでに村を見つけなきゃな……俺一人ならともかく、子供が四人もいるしさ。

☆☆――

「って、全然村なんてねーし! 陽ぃくれたし! どうすればいいんだよこれ!」
「今日は森でねんねなのー」
「ねんね」
「ご飯食べまつの」

 ユーチャの手のひらに干し肉が乗った。インベントリから取り出したのだろう。
「お兄ちゃもご飯、どうぞなの」
 無いよりははるかにましだが、手のひらに乗ったのは干からびた固い肉だ。

「お前たち、こんなものを食べていたのか?」
「? はいの」
「お肉おいちよ?」
 不思議そうに見上げてくるが、顔をしかめてしまう。
 まだまだ小さいのに栄養がかたよりまくるのはともかく、この世界の大人は何をやっているんだ。こんなガキ達を放り出して。

「いやいや、今は俺がこいつらの保護者だからな。どうにかできないか……、あ、そういえば」

 スキルに保育ルームってのがあったな。使ってみよう。

「保育ルーム」

 そのまんまの呪文を唱えると、ボン! と部屋が山の中腹に現れた。
「おうちができたのー!」
「お兄ちゃの魔法? つごいのー!」
 すごいすごいと俺の周りをまわって、好奇心旺盛なユーチャが部屋のドアを開いた。外から見た感じでは三畳程度の部屋だったんだけど、中に入ると体育館程度も広さがあった。
 しかもアイランド型のキッチン完備である。

「わぁあ! おもちゃがたくさんのー!」
 確かに中には保育園で見るような知育玩具やボールプール、小さな滑り台まである。

 きゃーきゃー言いながら子供たちが走りだした。
「転ぶなよー」
 といいつつキッチンに向かう。途中、グーと俺の腹が鳴った。
 キッチンはあるけど肝心の材料が――と思っていたら、今日の給食と書かれて、籠の中に人参、玉ねぎ、ジャガイモ、肉が入っていた。

 そして、『カレーが王子様』のルー!

「やった、飯まで出てくるのか! 米もちゃんとある! よかった、ちび達にちゃんとした食事を食べさせてやれるな」
 米を炊飯器にセットし早炊きボタンを押してから、包丁を手にしジャガイモの皮をむいていく。
 親を早くに亡くしてて親戚をたらいまわしにされていたので家事は一通り見についている。生きていくためには家事をしないといけなかったからな。

 手早く調理していると、滑り台やボールプールで騒いでいた子供たちがいつの間にか寄ってきていた。

「お兄ちゃ、なにちてるの?」
「ご飯を作ってるにきまってるだろ? よろこべー今日はカレーだぞ」

「カレーってなあに?」
 あれ、この世界にはカレーはないのか。でもカレーが嫌いな子供なんて少数派だろう。出来上がれば食べてくれるに違いない。

「ニンジンさん嫌いのー」
「玉ねぎさんも嫌いー」
 ぷくっと子供たちが頬を膨らませた。

「好き嫌いすんな。おいしく料理してやるからさ」
「ユーチャたちは干し肉でいいのでつ」
「あ、こら」
 ユーチャたちが集まりだしてまた干し肉を取り出した。
 でも、まだ材料が切り終わったばかりだ。これから煮込むとなると時間がかかる。
 ちびどもがそれまで待てるわけないかぁ……って、なんだこれ?

 IHコンロに、出来上がり時間という表示がしてある。
 よくわからないまま鍋に材料を入れ、炒める。試しに出来上がり時間を一分にすると――「わ!」あっという間に炒め終わってしまった。いい匂いがしてくる。

 ひくり、と鼻を鳴らして子供たちが近寄ってきた。
「こら、危ないからキッチンに近づいてくるな」
「いい香りなの」
「初めてのにおいがしまつ」
「んー? そうか? じゃあスープを先に飲んでみるか」
「すーぷの?」

 水を入れてまた出来上がり時間を一分にすると、あっという間にスープの出来上がりだ。
 一番小さな器を出して少しずつ入れてやる。それをスプーンと一緒に差し出した。

「熱いからフーフーするんだぞ」
「はいの」

 四人は一生懸命フーフーして、お互いに顔を見合わせあうと、スプーンでニンジンをすくう。
 どうして全員ニンジンなんだ。四つ子だけあって息があってるな。

「お、おいちいの! ニンジンさんが甘いの!」
「このニンジンさんならスキの! 玉ねぎさんも苦くないのー!」
「すーぷ、ぽかぽかする!」
「こんなの初めて…」

 ほっぺたを赤くして喜んでいる。よしよし、この間にルーを溶かしてっと。
 って、スープが初めてってどういうことだ。そういえばこいつらの親は何をしてんだ。自分に親がいなかったからつい突っ込み忘れてたけど、親、どこいったんだ? ひょっとして俺と同じように早くに亡くしちゃったのかな。
 ちび共に聞けばいいんだろうけど、聞くのも酷な気がして黙ってカレーを作ってしまう。
 亡くしてるんだとしたら、思い出させたくない。泣き顔は見たくないしな。

 考えているとアマリリスの曲が流れた。米が炊き上がったようだ。こっちも早いな。

「いい匂いー! いろんないい匂いがしまつ!」
「お兄ちゃ、早く! おなかグーグーなのでつ!」

「はいはい」

 カレーを準備してローテーブルに並べていく。
「これも熱いから注意しろよ」
「はいの!」

 別にそう言ったわけでもないのに、四人は自分の髪の色と同じ椅子に座って、スプーンを手にした。

 テーブルの高さ的に、俺は座布団の上に胡坐をかいて座った。

「いただきます」
「いただきまつのー!」
「の!」

 一斉に食べ始める。
「甘!」
 想像以上に甘いな! 
「おいちっちー!」
「おいちいの! こんなの初めて!」
「お兄ちゃ、おかわりはありまつか!」
「ほかほか」
 俺の口には甘かったが子供達にはちょうど良かったようで、感動しながらがつがつ食べてる。
「あんまり早く食べるなよ。口をやけどしちゃうからな。ほら、お水も飲め」
 冷蔵庫にあったミネラルウォーターを小さなマグカップに入れてちび達に出してやる。なぜかカップの色もこいつらの髪の色に合った色だ。
「おいち、おいち」
「はは、落ち着け。鼻にカレーがついちゃってるぞ」
 指先で拭ってやる。
 こんなに賑やかな食事は初めてかもしれないな。親戚の家では一人で食べさせられたこともあったし、高校を出てすぐ社会人になってからは流し込むような食事しかしてこなかったし、学校では友達の少ない陰キャだったしな。

「おかわり!」
 ほとんど四人同時に言われておかわりを準備するために立ち上がった。

☆☆――

「食べ過ぎたのー!」
「こらこら、食べてすぐ横になったら牛になっちゃうぞ」
 四人とも大きくなったおなかをスモッグから出してごろりと横になってしまう。
「うち!? うちになっちゃうの!?」
「そうそう。だから起きてなさい」
「はいのー! じゃあ遊ぶの! お兄ちゃも遊ぶのー!」
「え、俺も!?」
 でもまぁスマホもパソコンもないし、することも無いので四人の遊びに付き合った。
 ボールプールでボールを投げあったり(勇者の力なのでそこそこ痛かった)
 パズルをもくもく組み立てるケンチャに感心して一緒にやってみたり
 小さな滑り台を滑るマーチャの背中を言われるがまま押してやったり
 ブランコでゆらゆらする静かなキーチャを眺めてみたり。

「眠くなってきまちたの…」
「ねむねむ…」
「うーむー、お目目がとじまつ…」
「むー」

「そうか。じゃあおいで、歯を磨いてからなー」
「はいでつ…」
 四人は半分眠りながら歯磨きをする。
「ちゃんと丁寧に一本一本磨くんだぞー」
 言いながら棚から布団とブランケットを出して敷いていく。ありがたいことに俺用の布団もあった。
「これ、なあに?」
 不思議そうに布団を見た。
「おい、布団も知らないのか!?」
 この世界の寝具はどうなってるんだ!?
「ふかふかー!? すごいの、きもちいの!」
「こらこら、布団の上ではねちゃいけません。ほこりがたっちゃうだろ」
「気持ちいいけどおねんねしにくいの。ケンチャ、座ったまま寝るから壁にくっつくの」
「え!? 座ったまま寝てたのか!?」
「そうの」
「のじゃなくて、今日はここに横になって寝ような」
「よこー?」
「そう。こうだ、こう」
 俺は端に敷いた布団に寝転がってブランケットをかけた。
「こう…」
 ユーチャも同じように横になってブランケットを頭までかぶる。
「頭までかぶらないでいいんだぞ」
「これは…」
 ケンチャたちも横になってカッと目を見開いた。
「きもちいいのでつ!! ぐっすり眠れそうなの!」
「こんなの初めての!」

 布団も初めてなのか。
「いつもはどうやって寝てたんだよ」
 心底疑問になって聞いてしまう。
「壁とかー、木にもたれかかって寝るの。いつでも戦えるの」
「そんなに物騒な世界なの!? やばい、そんなに危険なら村を探すより山の中で自給自足で生きるほうが安全か!?」

「の?」

 不思議そうに首をかしげる。子供にこれ以上聞いても無駄か。
 とにかくここは安全なはずだ。モンスターにも会わなかったしな。

「俺がいるから、大丈夫だから、みんなぐっすり休んでいいぞ」
「お兄ちゃがいてくれるの?」
「ああ。俺はお前たちの保父だからな。ずっと一緒だ」
「うれちいの…」
 ほわ、と笑う。

 そして、
「お兄ちゃが真ん中なの! ユーチャが隣なの!」
「マーチャもお兄ちゃのとなり!」
「ケンチャも!」
「キーチャも……」
 と布団を引っ張って騒ぎ出した。
「えええ!? もう、じゃあこうするか」
 俺は布団を部屋の真ん中に移動させて、俺の頭から放射線状に四人の布団を敷いた。イメージ的に初日の出の太陽だ。

「なんか違うの…」
「みんなの意見を反映したらこうなりました。文句を言うな」
「むー」
 文句を言っていたものの、横になったとたんくぴぴ、と音を立てながら眠りに落ちてしまったのだった。
 俺もうとうとして、すぐに眠りに落ちてしまった。
 時間に追われず眠れるなんて何か月ぶりだろう……。眠るのはいつも深夜なのに、時計が9時を過ぎると同時に眠りに落ちてしまった。
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