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大きな都
――初仕事! 草むしり!――
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「この家がローズランド邸か……」
草むしりの依頼がある家は……なんというか凄かった。でかい。俺が通っていた小学校ぐらいありそうだ。しかも庭もグラウンド級。
これだけ立派な庭で花壇も広いのに、咲いている花は中央で花びらを開いている薔薇だけである。
ローズランドという名前なのにほぼ雑草だらけだ。
「早速頼むわ。薔薇の花には手を出さないで。その子供達……召喚獣かしら? 召喚獣にも触らせないように」
やせぎすの厳しそうな夫人が腕を組んで浮いている子供達を指さした。
「いえ、この子たちは人間で」
浮かせているからか、モンスター扱いされてしまった。しかも否定を最後まで聞かずに夫人は踵を返して屋敷の中に入ってしまった。
人型の召喚獣……まぁゲームにだってたくさんいるもんな。シヴァとかギルガメッシュとか。
さて、どこから手を付けるか……。
雑草は想像以上にでかくて多くて、芝刈り機でもなけりゃ今日中に仕上げるなんて無理だぞ。……やるしかないけどな。
「お草むしりはじめー!」「おー」「お…の」
ちょっと問題児ではあるがいつも明るいユーチャが号令をかける。
「えーっと、きれーな薔薇ちゃん以外のお草を取ればいいんだよね? 『グラスドレイン』の!」
ケンチャが両手を前に出して唱えた。
「うぁ……!?」
「え!?」
途端に雑草が浮き上がり、ケンチャの前に球状に集まっていく。
でかいぞ! 運動会で転がす大玉ぐらいの大きさだ!
「ケンチャすごーい」
「えへんなの」
「はーすげーなぁ。さすが世界をすべて知る賢者なだけあるわ……」
「お兄ちゃ、これ、どこに捨てればいいの?」
「そっか、その問題もあるな。けどこんだけ一杯だと捨てるのももったいないなぁ。使い道があればいいんだけど」
肥料にするにはどうしたらいいんだっけか?
「じゃあ、違うのにかえまつの。『ポーチョン錬成』」
ケンチャから光がほとばしり、巨大な塊だった草が小瓶へと変わった。中には緑色の液体が入っている。
「お草ちゃんをポーチョンにしてみまちたの。おにちゃんにあげゆ」
「あ、ああ……。どんな効果があるポーションなんだ?」
「んとねー、命の力がぱーってなるの。お草ちゃんたちの命をもらって元気ぱーなの」
説明がわからん……というか不穏だ。頭パーになったら取り返しがつかないぞ。
「草からポーションが作れるのか…! 命を錬成する魔法は太古の昔に消えた魔法なのに…!」
レオンハルトさんが驚いている。ケンチャはこの世のすべてを知る賢者だもんなぁ。
「え……あら……もう終わったの!? あんなに雑草があったのに」
家に戻っていた夫人がトレイを手に出てきた。ポットとグラスとクッキーが乗ってる。
召喚獣だと言った子供たちの分までも。差し入れをしてくれるつもりだったんだろうな。見た目はきついおばちゃんなのに優しい人だったんだな。
「ケンチャ、そのポーチョン、おばちゃにあげるの。そしたらおじちゃ元気になるの」
ふわふわ飛びながらユーチャが言う。
「うんなの。おばちゃ、これあげゆます。おじちゃに飲ませれば元気パーンパーンなの」
やっぱり説明が不穏すぎる!
ケンチャが謎のポーションをおばさんに差し出した。
「あの、子供が作ったものですので、飲ませないほうがいいとは思うのですが……」
おばさんは俺の言葉は聞いていなかった。お盆を弾かれたように放り出すとポーションを受け取った。トレイはレオンハルトさんが「おっと」と器用に受け取った。
「これは……まさか……エリクサーポーション……?」
「うん。そなの」
「おじちゃの病気、パーンってなくなるの」
「あなた! あなた……!」
おばさんは長いスカートを踏んで転んじゃうんじゃないかって勢いで屋敷に戻っていった。
「ねねね、おにちゃクッキーさんいただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、食べていいぞ。お茶もいただくか」
「やたー」
「んふー、おいちー」「あまいの、はじめての」「おいちいね」「……の」
なんというか、物凄く美味そうに食べるなぁ。よっぽどクッキーが好きなんだろうか。
「お兄ちゃは食べないの? クッキ、おいちいよ?」
「全部食べていいぞ」見てるほうが和むから。
「そんなの駄目の。おいちいものは皆で食べたほうがもっともっとおいちくなるの。だから食べるの!」
ユーチャが言った。確かにそのとおりかもしれないな。1つつまんで口に入れる。
子供たちが大絶賛するだけあって、美味いクッキーだった。
残りのクッキーも少なくなったころ、屋敷の中から小さな歓声が響いた。
そして、おばさんと……、杖をついてはいるが、元気そうなおじさんが出てきた。
「君だね、エリクサーポーションを作ってくれたのは」
俺に向かって言うが「作ったのはこの子です」ケンチャの頭を撫でる。
「クッキーおいちっちだったの! ありがとなの!」
「お礼を言うのは私たちの方よ。ずっと寝たきりで、長くないと言われていた主人が立って歩けるようになるなんて。どれだけお礼を言っても言い足りないわ。本当にありがとう」
おばさんが流れた涙をハンカチで拭う。
「泣かないで。女の人が泣いたらマーチャの胸がじくじくしちゃう。嬉ちいときには笑うのー」
マーチャがおばさんの前でにっこりと笑って見せる。
「えぇ、えぇ、そうよね。嬉しいわ、ありがとう」
泣きながら笑う。おじさんが嬉しそうにおばさんの肩を抱いた。
「これは、草むしりとエリクサーポーションの料金だ。これだけでは足りないのは分かっている。家財を売って金に換えるから少し待ってくれんか」
受け取った小切手には1000000ルドと掛かれている。ひ、百万ルド!!!!
「いえいえいえいえ6000ルドだけで充分です! こんなにいただけませんよ!」
「受け取って頂戴。私の感謝の気持ちは百万では足りないぐらいだわ」
「ワシもじゃよ。自分の足で歩ける日がまたくるなんてなぁ。今は没落してしまったが、貴族の一人なんだ。もし何かあったらワシのところに相談に来なさい。大抵のことは解決してあげられるからね」
「心強いです。何かあったらよろしくお願いします。ご迷惑をおかけしないように生きるつもりではいますが、この子たちの為にも……」
「その召喚獣たちが大事なのね」
「はい」
召喚獣じゃなくて子供だけどな。
「それじゃ、お世話になりました」
「ばいばーいーのー」「さようなら」
俺が頭を下げ、子供たちが手をふる。
「すげー大収穫だったな。百万ももらえるなんて。ケンチャのお陰だな」
生前の俺の貯金額よりはるかに多い。
ケンチャの頭をグリグリ撫でると「えへへ」と笑った。
「あー、ケンチャばっかずるいの、ユーチャも!!」
俺の頭上を飛んでいたユーチャが回り込んできて、俺の顎に頭でアッパーを噛まされる。
暗闇。
「あ、お兄ちゃ起きたー!」
「気を失っていたんだぞ」
階段に寝ころんだ俺に膝枕をしてくれていたレオンハルトさんが言う。
「気を失ってたの!? あの一撃で! 俺のHP低すぎィ!」
「ごめんなさいなの……。ユーチャもなでなでほちかったの……」
「ケンチャが回復させたのー!」
「今度から気を付けてくれよユーチャ。ケンチャはありがとうな」
「あれぐらい避けられるようにならないと戦いなんかできないぞ」
「す、すいません」
まだくらくらしながらもレオンハルトさんに答え、ユーチャの頭を撫でる。もちろんキーチャとマーチャも。
「お前らほんと撫でられるのが好きだなぁ」
「だいちゅき! お兄ちゃんの大きなおててでグリグリなるのたのちいの」
『なでなでのランクが上がった!』
お、また上がった。確認してみると『あやす』はランク25、『なでなで』が27。水の神様に教えてもらった『洗濯と風呂』とか、使わないと心に決めていたはずの『手からジャー』にいたっては29である。ことあるごとに使ってるもんなぁ。便利だから。
「ふぁ」
キーチャがずしゃ、と前のめりに転んだ。
「おい、大丈夫か?」
「いたいの……」
「ああ、擦りむいちまってるじゃねーか……、ほら、ベンチに座って」
ベンチに座らせ、靴と靴下を脱がせてから『手からジャー』で傷口を洗い流す。
そっとハンカチで拭いて、傷口で結んだ。
「泣かなかったな。さすが騎士。強い子だ」
「…………の」
「テ・カラジャーのランクが30になりました!」
「お、もう30か――――」
ランクを知らせる声がいつもの機械音声の抑揚のない声じゃなく、それこそ澄んだ水のような声色だった。
「って、アシュリーさん!?」
「――まさか、水の神……!?」
思わず立ち上がって叫んでしまう。レオンハルトさんも息を飲んだ。ここにいるはずのない神が、普通の男性のような恰好で立っていた。神様だけあって高そうな装飾品をさりげなく身に着けているけど。
「ランク30まで上げてくださってありがとうございます救世主様。あなたの水の力が2段階目になりました」
「2段階?」
「えぇ。瞳を閉じてください」
言われるがまま何の抵抗もなく目を閉じると。
額に指先がふれた。
降れた指先から水が流れ込んでくるような感覚がした。
「お兄ちゃん、左のお目目が青くなったの。マーチャの色とおんなじなの」
「え? そうなのか?」
自分じゃわからないな。視界が青くなったわけでもないし。
「私の力の一部と、救世主様の力を連結させました。瞳の色はすぐに元通りになりますが、魔法を発動するときはまた青くなります。救世主様の魔力は2程度ですが、私の力を使えば902まで上げることができます」
おおおすごい! そんなにレベルアップできるなんて! ていうか俺の魔力2!? 2なの!? いや、神様の力と比べたら2程度しかないってことだよな!? でも『私の力の一部』って言った!
新しく『黙示録の雨』という魔法が増えていた。
「攻撃魔法です。かなりの広範囲を攻撃できますよ」
「攻撃魔法!? やった、とうとう俺も魔法使いになったぞ!」
「攻撃力は2なので……えと、スライムぐらいなら気絶させられるかと」
喜びが一瞬で消えた。最弱モンスターと名高いスライムさえ倒せないのか……。魔法ランクってどうやったらあがるのかしら……。
「私の力が必要だと思った時にはいつでもお呼びください。救世主様のご命令なら、どんなことでもいたしますから」
「いえいえいえいえ、どんなことでもとか言っちゃダメですよ!」
俺が神様の力を悪用するような男だったらどうするんだ!
「?? わかりました」
「てっ、」
いきなり後ろからぶつかられて前に一歩踏み出してしまった。
「おいおい、いきなりぶつかってくるんじゃねえよ。怪我しちまっただろうがぁ」
「治療費払えよ。そっちの兄ちゃんのブレスでいいからよぉ」
男四人組のパーティーに絡まれた!
どいつもこいつも俺の二倍ぐらいあるんじゃね? ってぐらいの体重で、体の急所に鎧を付けている。
アシュリーさんが腕に着けている宝石の付いたブレスを指さした。
草むしりの依頼がある家は……なんというか凄かった。でかい。俺が通っていた小学校ぐらいありそうだ。しかも庭もグラウンド級。
これだけ立派な庭で花壇も広いのに、咲いている花は中央で花びらを開いている薔薇だけである。
ローズランドという名前なのにほぼ雑草だらけだ。
「早速頼むわ。薔薇の花には手を出さないで。その子供達……召喚獣かしら? 召喚獣にも触らせないように」
やせぎすの厳しそうな夫人が腕を組んで浮いている子供達を指さした。
「いえ、この子たちは人間で」
浮かせているからか、モンスター扱いされてしまった。しかも否定を最後まで聞かずに夫人は踵を返して屋敷の中に入ってしまった。
人型の召喚獣……まぁゲームにだってたくさんいるもんな。シヴァとかギルガメッシュとか。
さて、どこから手を付けるか……。
雑草は想像以上にでかくて多くて、芝刈り機でもなけりゃ今日中に仕上げるなんて無理だぞ。……やるしかないけどな。
「お草むしりはじめー!」「おー」「お…の」
ちょっと問題児ではあるがいつも明るいユーチャが号令をかける。
「えーっと、きれーな薔薇ちゃん以外のお草を取ればいいんだよね? 『グラスドレイン』の!」
ケンチャが両手を前に出して唱えた。
「うぁ……!?」
「え!?」
途端に雑草が浮き上がり、ケンチャの前に球状に集まっていく。
でかいぞ! 運動会で転がす大玉ぐらいの大きさだ!
「ケンチャすごーい」
「えへんなの」
「はーすげーなぁ。さすが世界をすべて知る賢者なだけあるわ……」
「お兄ちゃ、これ、どこに捨てればいいの?」
「そっか、その問題もあるな。けどこんだけ一杯だと捨てるのももったいないなぁ。使い道があればいいんだけど」
肥料にするにはどうしたらいいんだっけか?
「じゃあ、違うのにかえまつの。『ポーチョン錬成』」
ケンチャから光がほとばしり、巨大な塊だった草が小瓶へと変わった。中には緑色の液体が入っている。
「お草ちゃんをポーチョンにしてみまちたの。おにちゃんにあげゆ」
「あ、ああ……。どんな効果があるポーションなんだ?」
「んとねー、命の力がぱーってなるの。お草ちゃんたちの命をもらって元気ぱーなの」
説明がわからん……というか不穏だ。頭パーになったら取り返しがつかないぞ。
「草からポーションが作れるのか…! 命を錬成する魔法は太古の昔に消えた魔法なのに…!」
レオンハルトさんが驚いている。ケンチャはこの世のすべてを知る賢者だもんなぁ。
「え……あら……もう終わったの!? あんなに雑草があったのに」
家に戻っていた夫人がトレイを手に出てきた。ポットとグラスとクッキーが乗ってる。
召喚獣だと言った子供たちの分までも。差し入れをしてくれるつもりだったんだろうな。見た目はきついおばちゃんなのに優しい人だったんだな。
「ケンチャ、そのポーチョン、おばちゃにあげるの。そしたらおじちゃ元気になるの」
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「うんなの。おばちゃ、これあげゆます。おじちゃに飲ませれば元気パーンパーンなの」
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「あの、子供が作ったものですので、飲ませないほうがいいとは思うのですが……」
おばさんは俺の言葉は聞いていなかった。お盆を弾かれたように放り出すとポーションを受け取った。トレイはレオンハルトさんが「おっと」と器用に受け取った。
「これは……まさか……エリクサーポーション……?」
「うん。そなの」
「おじちゃの病気、パーンってなくなるの」
「あなた! あなた……!」
おばさんは長いスカートを踏んで転んじゃうんじゃないかって勢いで屋敷に戻っていった。
「ねねね、おにちゃクッキーさんいただいてもよろしいでしょうか」
「あぁ、食べていいぞ。お茶もいただくか」
「やたー」
「んふー、おいちー」「あまいの、はじめての」「おいちいね」「……の」
なんというか、物凄く美味そうに食べるなぁ。よっぽどクッキーが好きなんだろうか。
「お兄ちゃは食べないの? クッキ、おいちいよ?」
「全部食べていいぞ」見てるほうが和むから。
「そんなの駄目の。おいちいものは皆で食べたほうがもっともっとおいちくなるの。だから食べるの!」
ユーチャが言った。確かにそのとおりかもしれないな。1つつまんで口に入れる。
子供たちが大絶賛するだけあって、美味いクッキーだった。
残りのクッキーも少なくなったころ、屋敷の中から小さな歓声が響いた。
そして、おばさんと……、杖をついてはいるが、元気そうなおじさんが出てきた。
「君だね、エリクサーポーションを作ってくれたのは」
俺に向かって言うが「作ったのはこの子です」ケンチャの頭を撫でる。
「クッキーおいちっちだったの! ありがとなの!」
「お礼を言うのは私たちの方よ。ずっと寝たきりで、長くないと言われていた主人が立って歩けるようになるなんて。どれだけお礼を言っても言い足りないわ。本当にありがとう」
おばさんが流れた涙をハンカチで拭う。
「泣かないで。女の人が泣いたらマーチャの胸がじくじくしちゃう。嬉ちいときには笑うのー」
マーチャがおばさんの前でにっこりと笑って見せる。
「えぇ、えぇ、そうよね。嬉しいわ、ありがとう」
泣きながら笑う。おじさんが嬉しそうにおばさんの肩を抱いた。
「これは、草むしりとエリクサーポーションの料金だ。これだけでは足りないのは分かっている。家財を売って金に換えるから少し待ってくれんか」
受け取った小切手には1000000ルドと掛かれている。ひ、百万ルド!!!!
「いえいえいえいえ6000ルドだけで充分です! こんなにいただけませんよ!」
「受け取って頂戴。私の感謝の気持ちは百万では足りないぐらいだわ」
「ワシもじゃよ。自分の足で歩ける日がまたくるなんてなぁ。今は没落してしまったが、貴族の一人なんだ。もし何かあったらワシのところに相談に来なさい。大抵のことは解決してあげられるからね」
「心強いです。何かあったらよろしくお願いします。ご迷惑をおかけしないように生きるつもりではいますが、この子たちの為にも……」
「その召喚獣たちが大事なのね」
「はい」
召喚獣じゃなくて子供だけどな。
「それじゃ、お世話になりました」
「ばいばーいーのー」「さようなら」
俺が頭を下げ、子供たちが手をふる。
「すげー大収穫だったな。百万ももらえるなんて。ケンチャのお陰だな」
生前の俺の貯金額よりはるかに多い。
ケンチャの頭をグリグリ撫でると「えへへ」と笑った。
「あー、ケンチャばっかずるいの、ユーチャも!!」
俺の頭上を飛んでいたユーチャが回り込んできて、俺の顎に頭でアッパーを噛まされる。
暗闇。
「あ、お兄ちゃ起きたー!」
「気を失っていたんだぞ」
階段に寝ころんだ俺に膝枕をしてくれていたレオンハルトさんが言う。
「気を失ってたの!? あの一撃で! 俺のHP低すぎィ!」
「ごめんなさいなの……。ユーチャもなでなでほちかったの……」
「ケンチャが回復させたのー!」
「今度から気を付けてくれよユーチャ。ケンチャはありがとうな」
「あれぐらい避けられるようにならないと戦いなんかできないぞ」
「す、すいません」
まだくらくらしながらもレオンハルトさんに答え、ユーチャの頭を撫でる。もちろんキーチャとマーチャも。
「お前らほんと撫でられるのが好きだなぁ」
「だいちゅき! お兄ちゃんの大きなおててでグリグリなるのたのちいの」
『なでなでのランクが上がった!』
お、また上がった。確認してみると『あやす』はランク25、『なでなで』が27。水の神様に教えてもらった『洗濯と風呂』とか、使わないと心に決めていたはずの『手からジャー』にいたっては29である。ことあるごとに使ってるもんなぁ。便利だから。
「ふぁ」
キーチャがずしゃ、と前のめりに転んだ。
「おい、大丈夫か?」
「いたいの……」
「ああ、擦りむいちまってるじゃねーか……、ほら、ベンチに座って」
ベンチに座らせ、靴と靴下を脱がせてから『手からジャー』で傷口を洗い流す。
そっとハンカチで拭いて、傷口で結んだ。
「泣かなかったな。さすが騎士。強い子だ」
「…………の」
「テ・カラジャーのランクが30になりました!」
「お、もう30か――――」
ランクを知らせる声がいつもの機械音声の抑揚のない声じゃなく、それこそ澄んだ水のような声色だった。
「って、アシュリーさん!?」
「――まさか、水の神……!?」
思わず立ち上がって叫んでしまう。レオンハルトさんも息を飲んだ。ここにいるはずのない神が、普通の男性のような恰好で立っていた。神様だけあって高そうな装飾品をさりげなく身に着けているけど。
「ランク30まで上げてくださってありがとうございます救世主様。あなたの水の力が2段階目になりました」
「2段階?」
「えぇ。瞳を閉じてください」
言われるがまま何の抵抗もなく目を閉じると。
額に指先がふれた。
降れた指先から水が流れ込んでくるような感覚がした。
「お兄ちゃん、左のお目目が青くなったの。マーチャの色とおんなじなの」
「え? そうなのか?」
自分じゃわからないな。視界が青くなったわけでもないし。
「私の力の一部と、救世主様の力を連結させました。瞳の色はすぐに元通りになりますが、魔法を発動するときはまた青くなります。救世主様の魔力は2程度ですが、私の力を使えば902まで上げることができます」
おおおすごい! そんなにレベルアップできるなんて! ていうか俺の魔力2!? 2なの!? いや、神様の力と比べたら2程度しかないってことだよな!? でも『私の力の一部』って言った!
新しく『黙示録の雨』という魔法が増えていた。
「攻撃魔法です。かなりの広範囲を攻撃できますよ」
「攻撃魔法!? やった、とうとう俺も魔法使いになったぞ!」
「攻撃力は2なので……えと、スライムぐらいなら気絶させられるかと」
喜びが一瞬で消えた。最弱モンスターと名高いスライムさえ倒せないのか……。魔法ランクってどうやったらあがるのかしら……。
「私の力が必要だと思った時にはいつでもお呼びください。救世主様のご命令なら、どんなことでもいたしますから」
「いえいえいえいえ、どんなことでもとか言っちゃダメですよ!」
俺が神様の力を悪用するような男だったらどうするんだ!
「?? わかりました」
「てっ、」
いきなり後ろからぶつかられて前に一歩踏み出してしまった。
「おいおい、いきなりぶつかってくるんじゃねえよ。怪我しちまっただろうがぁ」
「治療費払えよ。そっちの兄ちゃんのブレスでいいからよぉ」
男四人組のパーティーに絡まれた!
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