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1章 王国編

16話

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私は、警戒しないで欲しいと言った女医を素早く観察した。

女医は見た的に20代前半、服装は一見それほど高価そうには見えないものの、ある程度所か高位貴族が着ていてもおかしくはない物であり、目は閉じているのか開けているのか分からないくらいにしか開いておらず糸目と言える。

しかし一番の特徴は、その左目にある魔眼。
魔眼は人間であろうと、魔獣であろうとどちらの目に発現するかは分からないので、別に左目に魔眼があるのは問題ではない。
なにせ私が最初に発現させた魔眼は右目に発現したものの、フィーナは左目に発現しているので珍しい事でもない。

しかし、珍しいのはその魔眼自体ではなく、その紋章が珍しい。
糸目であり、紋章の全てが見えているわけではないので、正確にどの能力とは言えないが見えた部分だけで判断した場合、私の記憶違いでなければ、この女医の魔眼の能力は精神系統の能力であるはずである。

それらを考慮して、あまり警戒心を発露させずに女医に言った。

「初対面の人間を警戒するのは、普通じゃないかしら」

「そうね、でもフロービス嬢は会ったばかりであるフィーナには心を開いているように見えるわ。なぜかしら?」

私はその言葉に一瞬だけ動揺したものの、すぐに女医を睨みつけるように質問した。

「それが貴方の魔眼の能力?」

私がそう言うと、女医は柔らかい笑顔を浮かべた。

「失礼しました、フロービス嬢。私は魔眼所持者のみを対象とした医者、コローナ・ヨーティスと申します」

「コローナ・ヨーティス」

私はその名前に聞き覚えがあった。
コローナ・ヨーティス、現在は34歳であり元々は侯爵家の次女として生まれが、14歳の時に自分は好きに生きると宣言して医師の道に入る。
その後、自身が23歳の時に公爵家と婚約していた長女が冤罪により投獄され獄中死。

それを侯爵家は猛抗議したものの、公爵家の権力には勝てず、逆にお家が断絶しそうになった。
しかし、彼女自身は既に王宮の専属医師になっており、しかも魔眼所持者の事も見ることができる優秀な者として王家からも覚えがよく、特別に領地を持たず彼女が最後の侯爵家当主であることを条件に、侯爵家の名を名乗ることを許された切れ者。

それからも王宮の専属医師を続けたものの、魔眼所持者は通常の人間とは違うことを病状として訴えることが多く、それに対応出来ない医師が多い現状をなんとかしようと、26歳のときに魔眼所持者専門の医師になった。
どこの国も、それ相応の魔眼所持者を抱えているので、彼女の意志は少し反対があったものの簡単に受け入れられた。

そして、そこから3年の歳月を経て、魔眼の系統毎に同じ病気でも訴える病状が違うことを突き止め、更に病状の違いにより起こる誤診を無くすために、能力の系統と病気による『クロス表』というものを作り出した。
そうした経緯があり、現在の彼女は魔眼所持者専門医師の第一人者にして、この世には無い未知の物(『クロス表』もそのひとつ)を生み出す鬼才と言われている。
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