黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ

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1章

32話 【癒し手】のなりたいもの

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「え?」

亀が口を開けているのを見て、呆然としてしまった。

何をしようとしているのかと思っていると、亀の口の中に火の球が出来上がってきているのが見えた。
それを見ているうちに、これまでは聞こえなかったミュディー様の声が、指示として聞こえてきた。

「『【水】属性の魔法を発動準備させた状態で待機!!
奴が魔法を発動しきった瞬間に、発動させて、奴の魔法を城壁に当てさせるな!!』」

その指示が聞こえてきたと同時に、亀の頭の上に、ここからでも簡単に確認出来るくらい大きな、亀の顔と比較するなら半分くらいの大きさの岩が出来た。

その岩は、すぐに亀の頭に落ちた。
それと同時に、【火】と【風】属性の魔法が岩が落ちた、亀の頭の位置の近くから立ち昇った。

それを見て、亀の頭の上から魔法を叩きつけているのだろうと思った。
そう思った理由は、岩と同じように、【火】と【風】属性の魔法でも亀の口が閉じてきていたからだ。

ただ、2回の魔法では威力が足りなかったのか、亀の口は完全に閉じたわけではなかった。

半開きだった口を、亀が再び開けようとした所で、頭に落ちた岩の上に、同じくらいの岩が落ちた。
更に、その岩の側面を、駆け上るように何かが凄い勢いで進んでいた。
そのなにかは、すぐに岩の頂点を通り越して、空中で体勢を変えたように見えた。

流石に誰かまでは見えていないけれど、なんとなくあの何かはエクス様なのだろうと思った。
そして、きっとあの岩を作り出したのは、ドリスさんなのだろうと思った。

そんな事を考えている間に、空中のエクス様はその場でさっきの【火】と【風】属性の魔法よりも大きな魔法を出した。

そして、エクス様はその大きな魔法を空中から、亀の頭に叩き込んで、亀の口を完全に閉じさせた。


それを見ていた私は喜びなのか、呆れなのか、それとも亀に勝つ勝機を見いだしたのか分からないものの、無意識に笑みを浮かべていた。

「す、すごい!!」

私がそうそう言った瞬間、黒い何かが私の前に立ち塞がった。

そして、その次の瞬間にもの凄い爆発音、爆風に熱風が発生した。
それらのものは、私の前に立ち塞がった黒い何か、その正体であるミュディー様に【水】属性の魔法によって防がれていた。
正確に言えば、ミュディー様は周りの人達にも被害が出ないように、広めに水の壁を作り出して、ほとんどを防いでいた。

そして、それらの物が終わった後にミュディー様が魔法を解除すると、城壁外の木々は多くが倒れたり、燃えたりていて、魔法を発動させようとしていた亀も口の中から煙を出しているのが見えた。

それを見て、始めの【風】属性の魔法の叫び声よりも、森の被害が凄いのが分かった。
そして、その事でミュディー様が守ってくれなければ、私も怪我人になっていただろう事も理解した。


それを理解した所で、再び亀の爆発が始まった。
今度は3箇所ほどの同時爆発で、エクス様とドリスさん、あともう一組がタイミングを合わせて攻撃しているのだろうと思った。

下手に刺激したら、今度は自分達に向けて、あの亀に魔法を使われるかもしれないのに、すごい勇気だと思った。
ただ一番亀に爪痕を残せた攻撃が、亀自身の攻撃だから、今度はもっと慎重に魔法を使うだろうとも思った。


でも、攻撃している人達は、きっと本来なら動けないような怪我をしている可能性もある。
だって、離れていても危険な魔法を、より間近で、より高威力で受けている。
それなのに、無傷なはずが無い。

もし、触れる事を条件に発動してきた【回復】属性の魔法を他の魔法のように飛ばせたら、黒いモヤモヤを消せるだろうか?
そこまで考えて、私はその考えを捨てた。

私の残りの魔力は6割ほど。
半分の魔力を残しておくように言われているから、もう少しなら使える。
でも、他の属性の魔法とは性質が違うから、きっと飛ばして使おうとしたら、予想外に魔力を使わされるかもしれない。
魔力の消費が普通の時と変わらないなら良いけど、最悪の場合だと残りの全魔力を持っていかれた上で、魔法が発動しないこと。

その事を考えるなら、今戦っている人が倒れて運ばれてきた時に、確実に黒いモヤモヤを綺麗にした方が良い。
だからこそ、無駄な事は出来ない。

そう思って、私自身に下手に動かないように心の中で言い聞かせた。


私が心の中で言い聞かせている間も戦闘は続き、爆発が止まることは無かった。
しかし、ある瞬間に爆発の音がピタリと止まった。
それを不思議に思っていると、亀の両目のそれぞれの真上辺りに大きな岩の塊があった。
ただ大きなと言っても、亀が魔法を使っている時に頭に落としたサイズ程ではなく、それよりも小さいものの、落下の先端がより鋭利に尖っていた。

それを見て、まさか亀の目を同時に潰すつもりなのではないかと思った。
そして、その考えはどうやら当たっていたらしく、私が驚いている間に岩は落下を始めていた。

その岩は、両方の目を正確に捉えた。
その瞬間に亀は口を開けて、叫び声を上げた。

「ぎゅぉおおおおおおおおおっ!!」

私は咄嗟に耳を塞いだものの、その声は最初に響いた声よりもかなり小さかった。

更に言えば、最初の叫び声は咆哮のようなものだったのに対して、今度の叫び声は人間で言う悲鳴に近い気がした。
そして、私はその悲鳴に近い叫び声を聞いて、ようやく有効な攻撃が通ったのだと理解できた。

両目を潰せれば、威力任せの無差別な魔法による攻撃が増える。
それは確かに魔法を被弾するリスクを上げるのだろうけれど、これまで使われた魔法は亀に攻撃を加えられる位置に居た場合、回避なんて許されないような超高火力の一撃。

それなら早急に亀を倒して、放たれる魔法の数を減らそうとしているのだろう。
そして、それは城壁の守りにも繋がる事。
きっと、早急に亀を倒すというのは最善の選択なのだろうと思った。


それと同時に、高揚した。
あれだけ大きな敵に、ただ向かっていくだけではない。
反撃されて、きっと怪我をして居るはずなのに、亀に反撃を続けた。
そして、亀からの反撃の魔法を暴発させて、そこから更に致命的な攻撃を叩き込むために動いていた。

これがエクス様やドリスさんのように戦闘向きな魔法使いなのだろうと、これが私が見たかった魔法使いなのだろうと、きっとこれがあの部屋で言われた『魅入られている』ということなのだろう思った。

今は、まだまだ遠い。
それに私は戦闘には向かない。
でも、今回のミュディー様を見ていて、後方の大切さも理解出来た。
ミュディー様や城壁に居た魔法使い達が、【水】属性の魔法を使わなければ亀の【火】が暴発した時に酷い被害が出ただろう。

だから、私はエクス様やドリスさんを後方で支えられるような人間になりたい。
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