黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ

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1章

33話 トドメ

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私が声を上げずに、密かに高揚していると、亀の目に刺さっていた岩が消えた。
それにより亀の両目から血が流れ始めた。

その血が流れている両目の縁に、誰かが立っているのが見えた。
よく目を凝らしてみると、エクス様とドリスさんが、それぞれの目の縁に立っていた。

何をしているのかと思っていると、それぞれが【土】属性の魔法を全身に纏わせてから同時に、亀の目を殴りつけた。

そのようすに私が驚いていると、ミュディー様は顔を顰めていた。

「最終手段を早々に切るとは。
それだけ、」

それだけ言うと、ミュディー様は言葉を切った。
その事に首を傾げている間にも、エクス様とドリスさんは目を殴り続けていた。

そして、亀はその事による痛みから叫び声を上げ続けていたが、それでも2人は殴るのを止めなかった。
それがしばらく続いてから、2人は殴るのを止めて目の中に入り込んだ。

それを見て驚き、声を出してしまった。

「へっ?
一体、なにを」

「あれは超巨大な敵に対して、普通の攻撃では倒せないと判断した場合に行う、最終手段よ。

とはいえ、相応には危険な手段だから、あまりしないけれど今回の相手は出来る時に取らなければ、取り返しのつかない事になる可能性が高い相手。
だからこそ、相手の目から入り込んで、内側から脳に向かって魔法を叩き込むのよ」

「う、内側から直接!?」

私の疑問に反応したミュディー様の返答に、私は驚いてしまった。

その間も亀の叫び声が続いていたが、その叫び声は段々と弱くなっていった。
その状態がしばらく続き、その後に亀は叫び声を上げることが無くなり、更に亀の全身から力が抜けて地面に崩れ落ちた。

その事にまさかと思いながらも、私も周りの人も、何も言えないでいると、亀の目の中から2人の人が出てきた。
2人は亀の血なのか、黒いローブを着ていたのに、そのローブを含む全身が真っ赤に染まっていた。

そのローブの2人が同時に魔法を使った。
2人共、【火】と【風】属性の魔法を使用して、大きな魔法を亀の目に叩き込んだ。

亀には魔法があまり効いていなかったものの、目への攻撃は効いていた。
だからこそ私も、周りの人も、まさかという思いから確信に代わりつつあった。

そして、確信に代わりつつある中で、今さっき亀の目に魔法を叩き込んだ2人の内の1人が、空中に【火】属性の魔法を一度、その後に同じく空中に【水】の魔法を打ち上げた。

「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

私がその行動に首を傾げていると、城壁のそこら中から決起会の雄叫びよりも大きい歓喜の声が聞こえてきた。

私は反応の理由が分からず周りを見回していると、深く息を吐いているミュディー様が目に入った。
その様子を見て、さっきまでピリピリとしていたミュディー様の雰囲気が訓練をしている際の物になった。

その雰囲気と、周りの人の歓喜からして、さっきの魔法は亀を倒した事の報告なのだろうと思い至った。

そう思い至ってからは亀の頭の上にいる2人に目がいった。
きっと、すぐに戻って来るだろうと思っていた2人は動いていなかった。
それについて首を傾げていると、1人が亀の頭の上から落ちていき、もう1人追うようにして亀の頭から落ちていった。

それを見ていたのは私だけでなかったらしく、ミュディー様は【風】属性の魔法を使って叫んだ。

「『総員、後始末に取り掛かれ!!

我々は『タートル』を討伐した後に、他の魔物に城壁を崩される間抜けではない!!
特に『タートル』付近に居る前衛の回収と魔法の余波による被害の確認を急げ!!』」

ミュディー様の言葉で、それまで歓喜して動きを止めていた人達が、慌てて動き出した。
そして、ミュディー様は私に近づいてきて、私にだけ聞こえるように耳元で囁いた。

「『タートル』を仕留めた2人は相応の傷を負っているだろうから、貴女はここに残って魔法をお願い」

「は、はい」

私がミュディー様に返事をした所で、亀が最初に叫び声を上げてからは、この場に居なかったエステールさんが戻ってきた。
エステールさんがミュディー様に耳打ちした内容が聞こえてきた。

「『タートル』は生命活動を停止、一時的に後退していた前衛はアリア様が治療を施した為、既に怪我もありません。
残りの前衛は10名程ですが、7名は自力で動く事が出来るそうで、動けない者を護衛しているそうです。

ただ領主様はギリギリ動けるものの重症。
『タートル』内部に侵入したエクス様と主任は火傷が酷く、更に意識も無い事から迂闊に動かすと危険な状態であると判断した為、動けないとの事です」

「旦那様に護衛を2人付けて、後退させなさい。
回収班と残りの前衛は、」

ミュディー様はそこで言葉を止めた。
そのミュディー様の表情は、これまてで一番曇っていた。
それは何かを決断しなければならないような表情だった。

それから少しだけ何かに耐えるように小さく震えてから、言った。

「回収班と残りの前衛4人は出来るだけ最速でドリスを、ここまで運びなさい。

前衛の残り1人は、その場でエクスの護衛を。
もしも、エクスが魔物に狙われ、守りきれないようなら、1人で帰還するように指示を出しなさい」

ミュディー様の言葉にエステールさんは目を見開いた。
そして、私も同じような表情をしているだろう。

だって、ミュディー様の指示はエクス様を見捨てているように聞こえてしまった。
だから、私は呆然としながらも、口を動かした。

「ま、待ってください」

「どうしたの?」

「え、エクス様は?
エクス様はどうなるんですか?」

「火傷は『タートル』の【火】属性の魔法の暴発を間近で受ける事になったからでしょうね。
ただ2人共、その暴発を防御もなしに受ける迂闊じゃないから、大丈夫よ」

私はミュディー様のその言葉に反論しようと口を開いたものの、ミュディー様の表情を見て、口を閉じた。
ミュディー様は渋い顔をしており、その選択が本意では無いことは簡単に察する事が出来た。

それを見て、私は何をするか決めた。

「ここにエクス様とドリスさんの2人を連れてこれないなら、私を2人の所に連れて行ってください」
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