黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ

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1章

34話 【癒し手】は駆け付けたい

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私の言葉にミュディー様よりも先に、エステールさんが反応を示した。

「それは出来ません。
 貴女様は貴重な【癒し手】です。
 万が一にでも、貴女様の命を失うような事態になってはならないのです」

「私は【癒し手】なのでしょう?
 それなら私がエクス様とドリスさんの所に、怪我人の所に向かうのは間違っていない、違いますか?」

「そ、それは」

 私の反論を聞いて、エステールさんは黙ってしまった。
 逆にミュディー様が私に対して、質問をしてきた。

「確かに【癒し手】が怪我人の元に向かうのは間違ってないわね。
 でも、怪我人の元に向かう為に、危険地帯に踏み込むのは間違っているわ」

 その言葉を聞いて、確かにその通りだと理解していた。
 例え、【回復】属性の魔法が使えても、戦闘において私は足手まといにしかなれない。
 だから、その足手まといを連れて、危険地帯にはいけない。

 でも、それは今の状況とは違うというというのも理解していた。
 だからこそ、理解している事をゆっくりと言語化していった。

「確かに、ミュディー様の言う通りです。
 でも、今は『タートル』という特大の危険は排除され、その危険に押し出されるように、他の魔物も何処かへと逃げているのではないですか?
 だからこそ、エクス様の護衛が1人でも、なんとかなる可能性があるのではありませんか?」

「エクスも、エクスに付く護衛も優秀な魔法使いであるからこそ、危険が少ないのよ」

「ですが、そのエクス様は動ける状態にはないのでしょう?
 それならば動ける状態の私が動いた方が良いはずです」

「仮に貴女がエクスの所に行くならば、移動には【風】属性の魔法を使う事になるわ。

 それによって魔力を消費してしまい、【回復】属性の魔法で癒せる怪我の度合いが変わってしまうでしょう?
 だから、貴女の移動は認められないわ」

「意識のないドリスさんを、この場所まで動かせるのなら、本人が魔力を使わなくても運べる手段があるのではありませんか?
 それなら、その手段で私をエクス様とドリスさんの所に運んで貰えば、魔力は減りません」

「現在の森には魔物は少ないものの、居ないわけじゃないわ。
 そんな危険な場所に【癒し手】を送るわけにはいかないわ」

「危険な場所なら、なおさら意識の無いエクス様とドリスさんに魔法を使った方が良いと思います。
 それに意識の無い人を運ぶよりも、意識のある私を運んだ方が早いと思います」

 私の言葉で、ミュディー様はそれ以上の反論をせずに黙って、私を見つめていた。
 私も、ここで目を逸らしたら駄目だと思い、ミュディー様を見つめていた。

 周りの人は私達の様子を見て、慌てて居たものの何をするでもなく、ただ見ているだけだった。

 そんな状況が少しだけ続いたあと、ミュディー様は諦めたようにため息をついて言った。

「はぁ~、貴女がエクス達の元に行く事を許可するわ。
 ただし、護衛が危険だと判断したら、即座に城壁まで撤退する事が条件よ」

「分かりました。
 危険と判断される前に、エクス様とドリスさんに魔法を掛ければ良いんですね?」

「ええ、そうね。
 でも、優先してほしいのは旦那様とドリスよ。
 もしもエクスを助けたいなら、旦那様とドリスに魔法を掛けた上で、掛けてもらうわ。

 おそらく貴女の残りの魔力では、ただ全力で魔法を使っていたら、魔力が切れるでしょうね。
 全身に魔法を掛ける際の、魔力の使用量の加減はまだ出来てないけれど、エクスを優先するのは許さない。

 分かるわね?」

「やります。
 領主様も、ドリスさんも、エクス様も、私が黒いモヤモヤを消し切ってみせます」

 私はそう言い切った。
 それを見ていたミュディー様は再びため息をついたものの、今度は少しだけ嬉しそうなため息だった。

「はぁ~、どうして私の周りの人達は頑固な人が多いのかしら?
 でも【癒し手】なら、それくらいの方が良いのかもしれないわね。

 エステール、今いる回収班で旦那様の元までアリアの護衛を。
 それとユーノを、今からアリアの専属として付けるわ。
 良いわね?」

「はい、問題はないと思いますが、ユーノは戦闘技術を教えていませんので、まだ戦えないと思いますが」

「戦えなくとも、良いのよ。
 必要なのはアリアを抱えた上で、ここから旦那様の所まで行ける持久力と、魔法のセンスなのだから。

 それとエステール。
 貴方もアリアの護衛として同行しなさい。
 こちらの指揮は、私が取っておくから」

「了解しました」

 エステールはそう言ってから、私の手を取って歩き出した。


 エステールに手を取られて、そのまま歩いている内に城壁の外、正確に言えば街側に出ようとしているのだと気がついた。
 それに気がついた所で、エステールさんが少しだけ暗い声で私に謝罪してきた。

「すみません、アリア様」

「へ?
 いえ、えっと謝罪される事もありませんし、普通に呼んで欲しいのですけど」

「いえ、やはり貴女様は貴重な存在ですが、それ以上に立派ですから、難しいですね」

「立派、ですか?」

「ええ、貴女様は訓練時に血や怪我を怖がっていました。
 しかし、それも慣れと実践の集中で気にしていないようですし、エクス様とドリスさんの為に自ら動いています。

 私では出来ない事ですから」

「それは役割の違い、とかではないんですか?」

「いいえ、違います。
 私も、いえ私は血が怖いんです。

 それでも少量の血なら大丈夫ですけど、大量の血を見たら頭が真っ白になって、一瞬ですが魔法も使えなくなります。
 そのせいで主任にも迷惑を掛けた事があります。

 今回は城壁外に護衛として同行するように言われましたが、普段は城壁外に出ませんしね」

「それは、えっとすみません?」

「あはは、謝罪される事はありませんよ。
 普段の、危険度の低い魔物相手なら城壁外に出て相手をする事もありますから。

 アリア様、【付与師】は魔道具を作るのが得意だとお話しましたよね?」

「え?
 ええ、確か他の魔法使いに比べて、無駄な魔力を使わなくても良くなると」

「その通りです。
 ただ【付与師】にはただ魔道具を作るだけの純粋な【付与師】と、作り出した魔道具を活用して戦闘も行う万能な【付与師】が居ます。
 そして、私も主任も本来なら万能な【付与師】です。

 ですが、私は純粋な【付与師】の仕事しか出来ません。
 私自身も情けないとは思うのですが、どうしても動けないのです。
 ですから、誰に何を言われるまでもなく魔法使いの役割をしようとするアリア様には敬意をしてしたいのです」

 エステールさんは肩を落としながらそう言った。
 私はエステールさんの言葉を聞いて、そして様子を見て、なんと言って良いのか分からなかった。




※お知らせ
ストック切れと体調不良が長引いている為、しばらくお休みさせて頂きます。
再開の際には、1章完結までの分を一気に投稿しますので、お待ち下さい。
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