ROOM〜二十年目の帰還者〜

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ジンガイ被害撲滅部(非公認)

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隠し部屋の中はモニターで埋め尽くされていた。
周辺の映像だろうか。街角、商店街、住宅地の他、個人宅か映し出されているものもあった。
しかもデスク上のモニター数台には来栖真子が長官を務める『環境庁ROOM対策機構』で管理しているデータが映し出されている。
(あれは非公開だった筈だが。)
中央に置かれたテーブルには地図が広げられ、数値や記号等書き込みがされていた。
「どう、我が『ジンガイ』被害撲滅部(非公認)は」
誇らしげにそう言った紫乃は言葉を続けた。
「私は生徒会長の絢辻紫乃。ここのメンバーは生徒会役員の一部と有志で構成されている。ROOMの発生やGATEの開門を予測開示している。生徒の安全、地域の安全を目的に。」
(確かに活動目的は現状必要不可欠だし、地域を限定すれば精度も上がるだろうが・・・ハッキングなのでは。だから、非公認なのか?)
「何か浮かない顔だが言いたいことが?」
紫乃の問いかけに、とりあえず今は目をつぶっておこうと
「何も。」
と答える詠。
それに呼応するかのごとく、別の所から声がする。
「大丈夫。誰が作ったのか判らんけど、侵入にはバックドア使って痕跡残してないから。このキミちゃんに抜かりはないさね。」
「彼女は会計の佐野希美。呼ぶ時はキミちゃんでね。で、私は絢辻朱乃。紫乃ちゃんとは双子で私がお姉ちゃん。呼ぶ時は朱乃ちゃんでね。おにいちゃん。」
キミの言葉に言葉を被せてきたのは、聞き覚えのある声だった。
「あっ、私生徒会役員じゃないけど、紫乃ちゃんの補佐だから。」
「お邪魔虫の間違いではないのか。」
「まあまあ、会長も朱乃ちゃんも。吉塚さんが戸惑っておられますよ。」
さらに新たな声が聞こえる。耳に心地良く涼やかな声の持ち主は副会長の早見姫織と自己紹介した。
戸惑っていたのは朱乃が腕に絡み付いてきた時感じた柔らかな感触である。この世界に居なかった二十年間いやそれ以前を通じて初の出来事に対し、上手く処理するスキルなぞ持ち合わせていない詠は「ハハッ。」と笑って誤魔化すしかなかった。
「エッチ。」と誰にも聴こえないように呟やいていた紫乃の視線が気にはなったが。
紫乃は部屋の机に陣取り、
「ところで姫織。我が留守の間の訪問者についての報告がまだだが。」
と話を促すと、姫織は即座に呼応する。
「失礼しました。来訪者は1年C組の早坂恵子さん。彼女にハザードマップをお渡ししました。姉が最近行方不明になり、弟妹を心配してのようです。」
「カメラ映像で本人確認は取れてるよ。家族構成や姉の件も供述通りで怪しい点はないね。」
副会長の早見姫織と会計の佐野希美が続けて報告する。
「そうか・・・。」「何か引っ掛かるのだが。」
ブツブツと呟く紫乃。
「それ、1Cの早坂さんで間違いないですか。だとすると、少し危ないかも。」
「彼女が友人と話していたのを耳にしたのですが、彼女は自分でお姉さんを捜すと。」
詠の言葉に反応する紫乃。テキパキと指示を出し始める。
「希美。危険地域のより詳細なデータを。」
「姫織は危険予測住民に協力要請。」
「朱乃は早坂さんのここからの足取りを。まだ校内に居るようだったら、確保して。」
「そして。」
一旦言葉を切り、詠を1、2秒凝視してから徐ろに口を開く。
「君の初仕事だ。喜べ。我が何を言わんとするか解るよな。」
いきなり初仕事だと言われてしまったが、無視するわけにもいかなかった。何よりこれからの展開に多少ワクワクしている自分がいることに気がついてしまった。
「何処まで。」
「君が納得するまで。」
グッド。
「ではハザードマップを。」
「スマホの方が良い。新着情報をリアルタイムで確認出来る。登録時間が惜しい。我のを持って行け。パスコードは。」
「決してプライベートは見るな。あと絶対我の元に返しに来い。以上だ。」
詠は差し出されたスマホを受け取ると走り出していた。
もう早坂は10分程前にバスに乗り込んだようである。しかも、自宅とは別方向の。
だが、バスの行先さえ判ればハザードマップ上のエリアが特定出来る。
ショートカットすれば先回りも何とか可能だと考えた時、あの言葉を思い出した。
(くれぐれも目立つ行動はしないように。)
「しかたない。道路を走るか。」
しかし、それが正解だった。
バスのルートは人、車の往来が多くショートカットなどすれば目立たない方がおかしいくらいだった。
但し、詠の走りは普通とは言うと。
学園から20分以上短距離走のスピードで走り続けていた。それにも関わらず呼吸の乱れが微塵も見られなかった。
と、スマホが振動した。
やっと慣れてきた程度の操作で新たな情報を確認する。
「早坂さんがバスを降りた。」
場所を確認するとここから2、3分程の距離だった。
すぐ様走り出した詠は先程より更にスピードアップしていた。
もし、監視されていたならば、正常範囲逸脱必至の行動であった。が、詠はそんな危惧などお構い無しにただひたすら走り続けた。
見えた。
何も無い空間から腕が伸び、早坂を引っ張っている。両腕を掴まれ、握った木刀も振れないまま引き摺り込まれようとしている。
木刀がカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
必死の抵抗も虚しく早坂の体の殆どが見えなくなっていた。
現場に到着した詠が見たのはROOMの奥に人型の『ジンガイ』により運ばれるグッタリとした早坂だった。
空間に開いた穴が次第に塞がっていく。
詠は躊躇なくその穴に跳び込んだ。
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