【完結】ぼくたちの適切な距離【短編】

綴子

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 鞄を取りに行っていた湯澤先生が戻ってくると、ぼくはそのまま先生の車で家まで送ってもらうことになった。

 1人でも帰れそうだったので、断ろうとしたが「発情期の前兆が出てるオメガが公共交通機関を使おうとするのは危険だから」と一蹴されてしまった。
 一般的なオメガに比べて普段から出してるフェロモンの量より、ぼくが出しているフェロモンの方が少ないと言えど、いつ発情するかも分からない爆弾を抱えてるようなものだ、と言われてしまえば、ぼくは素直に先生の言うことを聞くしか無かった。


 家に着いて先生の車から降りようとしていると、パートから帰ってきた母と丁度鉢合わせた。
 湯澤先生は車から降りて、母に挨拶をしたあと、ぼくがそろそろ発情期を迎えそうだということと、発情期の過ごし方についての幾つかの注意点を説明してさっさと学校に帰って行った。
 先生から話を聞いた母はぼくを部屋に押し込んで、ぼくか発情期を過ごすために必要なものの買い出しに出かけて行った。

 制服から部屋着に着替えたぼくは、スマホを確認する。
 拓斗からのメッセージが何件か届いていて、内容は『熱は?』『1人で帰れる?』『病院には行ったの?』『家に着いたら連絡して』とかなり心配してくれていたようだ。

『湯澤先生に家まで送ってもらって、今自室のベッド。熱はそこまで高く無いから大丈夫。病院はひどくなったら行くよ』

 拓人には風邪のひきはじめを装ったメッセージを返した。
 今の時間は授業中なのですぐには返事か来ることはないだろうと、充電器に繋いで横になるとスマホは震えてメッセージ受信の音を鳴らした。

『学校終わったら顔出していい?』

 フェロモンの事がなければ、ぼくは二つ返事で彼が来ることを了承しただろう。
 でも、今日に限ってはいつもよりフェロモンの数値が高いらしいし、湯澤先生曰く今のぼくはいつ発情期を迎えるかわからない爆弾みたいな存在だ。
 そんな状況で拓人をこの部屋に呼べるわけがない。
 拓人に怪しまれないようないい感じの断りの文句を考えていると、さらに拓人からのメッセージを受信した。

『何か欲しいものある? 帰りに買っていくよ』

 彼の中で来ることはほぼ確定してしまったようだ。急いで、断りのメッセージを送る。

『変な咳出るから来ないほうがいいかも。風邪うつしたら悪いし……』

『そんなの気にしないから』

『いや、拓人に風邪うつしたらぼくが彼女に怒られちゃうよ』

 そう自分で打っておいてぼくは落ち込んだ。
 もっとぼくが拓人の隣に立つのにふさわしいオメガだったら、こういう時に素直に甘えられたんだろうか……。

『もう知ってるんだね。丁度その話もしたいと思ってたんだ』

 聞きたくない。──でも、聞きたい。
 本当はなんで、いきなり赤松先輩と付き合うことになったのかと問いただしたかった。

『ごめん、本当に今日はちょっと無理だから。良くなったら話聞かせてよ』

 冷静でいられなくなって、一方的にやりとりを終わらせてスマホの通知音をオフにした。
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