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第2章 竜の血を持つ者
悲哀なる翼竜の誕生
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ウルヘイド王国王城の背後にある山道から、そのまま神の丘オーディールへと繋がっている。
僕は、服鎧に竜剣ジオグリシェルを備えていた。ブルーシーズは、ドメイル教徒用外套と、細身剣。
ヴィルアズ王の弱い心を支配していただろうドメイル教のダマズル司教に対して、ヴィルアズ王が反感を買う様な、大人数の護衛兵を連れては来ないだろうが、少人数くらいは連れてくるはずだと見ていた。
実際にも、護衛兵を2人連れてきただけだった。
ヴィルアズ王は、細身で、まだ若く、ただ勇ましそうな眉毛が、印象として残る。
ドメイル教徒の外套を着たブルーシーズを見て、目に恐怖の色を浮かべて、会釈をした。
さらに近づいたヴィルアズ王は、その顔がブルーシーズだと気づき、目を大きく張り、予想外だというかの様に、口を開けた。
ブルーシーズは、外套を脱ぎ捨て、恨めしそうな視線を、ヴィルアズ王に向けたんだ。
ヴィルアズ王は、後退りして、顔を紅潮させていった。
何故、戻ってきたんだ、と。
ヴィルアズ王は、そう言ったんだ。
ブルーシーズはそのヴィルアズ王の言葉を訊いて、戸惑いを表すかの様に、僅かに目を泳がせた。
大丈夫だよ、ブルーシーズ。僕がやるから。そう思い、腰から竜剣ジオグリシェルを引き抜き、ヴィルアズ王との間合いを一瞬で、無くした。
王国に寄り添い、守護してきた竜に、残酷な仕打ちをしたんだ。
君達を守ってくれた、白灰千王竜を、どうして、使い捨てのゴミの様に、扱ったんだ。
ウイプルは、そんな事はしなかった。
ウイプルは、竜を信仰していた。
物としては、扱ってはいなかったんだ。
その時、思ったんだよ。
僕は、人間に対して、そこまで絶望してはいなかった。
そう、元々だ。
僕に致命傷を与えたウイプル兵達。
でも、彼らは、王国を守っていた貴覇竜ラリュナピュートを殺めた、僕が本心では許せなくて、だから、戦場で追い込まれた彼らは、僕を斬り殺そうとしたんだ。
僕も、わかっていたんだよ。その気持ちが。だから、僅かな余力はあったけれど、そのウイプル兵達には、剣を向けなかったんだ。
ヴィルアズ王、お前に制裁を加える。
やり過ぎたお前には、死以外有り得ない。
だから、僕は、渾身の力で、剣を振り抜いた。
___________________
ヴィルアズ王を斬り、白灰千王竜の無念は晴らされた、はずだった。
もっと、君と確認をしておけば良かった。
ねぇ、ブルーシーズ。
君の本心は、って。
ヴィルアズ王と手を取り合って、解決の道を探した方が、良かったのかな。
その方が、君の本心は、救われたのかな。
どうした方が、良かった?
ブルーシーズ、許してくれ。
君が、ヴィルアズ王を守る様にして、僕と彼の間に入って。
僕は、動きを止められなかった。
君を、
君を。
斬ってしまった。
人になって、心身共、深く傷ついた僕に優しくしてくれた。そして、竜になれば、僕でさえ気後れするほど、圧倒的な強さを感じた。
僕は、心の中で、君をずっと探していたんだと、気づいたんだ。
人にもなれて、
そして竜の血を持つ、僕と同じ様な者を。
僕は、お母様がいなくなり、ずっと、淋しかったんだ。
ようやく、見つけられた。
かけがえの無い、大切な仲間。
また、
独りには、なりたくない。
ブルーシーズ、死なないでくれ。
僕達で、竜の世界を、また復活させるんだろう。
でも、
僕の願いは、
叶わなかった。
ブルーシーズは、最後に、僕に、
すまない、と言った。
ブルーシーズは、逝ってしまった。
僕は深い絶望を感じ、どうしても許せなくて、ヴィルアズ王を、噴き上がる殺意のまま、睨みつけたんだ。そうしたら、彼は、震えて、涙を流していた。
何だ、その涙は。
ブルーシーズに、何故、戻ってきたんだ、と言っていたな。
お前、他の白灰千王竜は殺せても、ブルーシーズは、殺せなかったな。
ブルーシーズは、運良く、逃げられたんじゃなかったんだ。
ヴィルアズ王は、ブルーシーズだけ、死なない様に、竜の砦から逃した。
子供の頃から、一緒にいて、絆が強過ぎたんだ。
だから。
それを、ブルーシーズは、最後に、気づいてしまった。
僕は、突然、心の奥から吹き出す黒く、紅い衝動を感じた。それはどんどん大きくなり、止められなくて、とっさに自分の首を絞めた。
お母様の様に自制が効かなくなり、犠牲者など出したくはない。
僕は、その衝動を拒絶する様に、必死で鎮めようとした。
でも、止まりはしなかった。
体は次第に大きくなり、変形していく。
僕はこの時、初めて、翼竜になったんだ。
___________________
巨大な翼竜になり、全てのものに対して、一撃で破壊できる様な力が漲っていた。足元にいるヴィルアズ王は、いとも簡単に殺せる。
だけど、ブルーシーズが命を懸けて守った人。
お前を殺したい。
でも、
お前だけは、殺せない。絶対に。
僕は、世界一情けない翼竜に違いないんだ。
だって、この場から逃げ出す様に、飛んで、ウルヘイド王国から離れていった。
悲しい声を響かせて、鳴き叫んで。
海の上を、高速で飛び、次第に見えてくる陸の、大きな岩山に向かっていった。
僕に関わる者は、皆、死んでしまう。
激しく岩山に頭を打ちつけて、死んでいこう。
不吉なこの存在は、もういらない。
この世から、消滅するべきだ。
無駄に生きようとしたから、死ななくていい者達が、死んでいく。
人間にも、竜にも、生きてはいけない存在だったんだよ、僕は。
もっと早く、もっと早く死んでいれば。
僕は、ブルーシーズを殺してしまった。
君だけは、死んでほしくなかったのに。
___________________
僕は、服鎧に竜剣ジオグリシェルを備えていた。ブルーシーズは、ドメイル教徒用外套と、細身剣。
ヴィルアズ王の弱い心を支配していただろうドメイル教のダマズル司教に対して、ヴィルアズ王が反感を買う様な、大人数の護衛兵を連れては来ないだろうが、少人数くらいは連れてくるはずだと見ていた。
実際にも、護衛兵を2人連れてきただけだった。
ヴィルアズ王は、細身で、まだ若く、ただ勇ましそうな眉毛が、印象として残る。
ドメイル教徒の外套を着たブルーシーズを見て、目に恐怖の色を浮かべて、会釈をした。
さらに近づいたヴィルアズ王は、その顔がブルーシーズだと気づき、目を大きく張り、予想外だというかの様に、口を開けた。
ブルーシーズは、外套を脱ぎ捨て、恨めしそうな視線を、ヴィルアズ王に向けたんだ。
ヴィルアズ王は、後退りして、顔を紅潮させていった。
何故、戻ってきたんだ、と。
ヴィルアズ王は、そう言ったんだ。
ブルーシーズはそのヴィルアズ王の言葉を訊いて、戸惑いを表すかの様に、僅かに目を泳がせた。
大丈夫だよ、ブルーシーズ。僕がやるから。そう思い、腰から竜剣ジオグリシェルを引き抜き、ヴィルアズ王との間合いを一瞬で、無くした。
王国に寄り添い、守護してきた竜に、残酷な仕打ちをしたんだ。
君達を守ってくれた、白灰千王竜を、どうして、使い捨てのゴミの様に、扱ったんだ。
ウイプルは、そんな事はしなかった。
ウイプルは、竜を信仰していた。
物としては、扱ってはいなかったんだ。
その時、思ったんだよ。
僕は、人間に対して、そこまで絶望してはいなかった。
そう、元々だ。
僕に致命傷を与えたウイプル兵達。
でも、彼らは、王国を守っていた貴覇竜ラリュナピュートを殺めた、僕が本心では許せなくて、だから、戦場で追い込まれた彼らは、僕を斬り殺そうとしたんだ。
僕も、わかっていたんだよ。その気持ちが。だから、僅かな余力はあったけれど、そのウイプル兵達には、剣を向けなかったんだ。
ヴィルアズ王、お前に制裁を加える。
やり過ぎたお前には、死以外有り得ない。
だから、僕は、渾身の力で、剣を振り抜いた。
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ヴィルアズ王を斬り、白灰千王竜の無念は晴らされた、はずだった。
もっと、君と確認をしておけば良かった。
ねぇ、ブルーシーズ。
君の本心は、って。
ヴィルアズ王と手を取り合って、解決の道を探した方が、良かったのかな。
その方が、君の本心は、救われたのかな。
どうした方が、良かった?
ブルーシーズ、許してくれ。
君が、ヴィルアズ王を守る様にして、僕と彼の間に入って。
僕は、動きを止められなかった。
君を、
君を。
斬ってしまった。
人になって、心身共、深く傷ついた僕に優しくしてくれた。そして、竜になれば、僕でさえ気後れするほど、圧倒的な強さを感じた。
僕は、心の中で、君をずっと探していたんだと、気づいたんだ。
人にもなれて、
そして竜の血を持つ、僕と同じ様な者を。
僕は、お母様がいなくなり、ずっと、淋しかったんだ。
ようやく、見つけられた。
かけがえの無い、大切な仲間。
また、
独りには、なりたくない。
ブルーシーズ、死なないでくれ。
僕達で、竜の世界を、また復活させるんだろう。
でも、
僕の願いは、
叶わなかった。
ブルーシーズは、最後に、僕に、
すまない、と言った。
ブルーシーズは、逝ってしまった。
僕は深い絶望を感じ、どうしても許せなくて、ヴィルアズ王を、噴き上がる殺意のまま、睨みつけたんだ。そうしたら、彼は、震えて、涙を流していた。
何だ、その涙は。
ブルーシーズに、何故、戻ってきたんだ、と言っていたな。
お前、他の白灰千王竜は殺せても、ブルーシーズは、殺せなかったな。
ブルーシーズは、運良く、逃げられたんじゃなかったんだ。
ヴィルアズ王は、ブルーシーズだけ、死なない様に、竜の砦から逃した。
子供の頃から、一緒にいて、絆が強過ぎたんだ。
だから。
それを、ブルーシーズは、最後に、気づいてしまった。
僕は、突然、心の奥から吹き出す黒く、紅い衝動を感じた。それはどんどん大きくなり、止められなくて、とっさに自分の首を絞めた。
お母様の様に自制が効かなくなり、犠牲者など出したくはない。
僕は、その衝動を拒絶する様に、必死で鎮めようとした。
でも、止まりはしなかった。
体は次第に大きくなり、変形していく。
僕はこの時、初めて、翼竜になったんだ。
___________________
巨大な翼竜になり、全てのものに対して、一撃で破壊できる様な力が漲っていた。足元にいるヴィルアズ王は、いとも簡単に殺せる。
だけど、ブルーシーズが命を懸けて守った人。
お前を殺したい。
でも、
お前だけは、殺せない。絶対に。
僕は、世界一情けない翼竜に違いないんだ。
だって、この場から逃げ出す様に、飛んで、ウルヘイド王国から離れていった。
悲しい声を響かせて、鳴き叫んで。
海の上を、高速で飛び、次第に見えてくる陸の、大きな岩山に向かっていった。
僕に関わる者は、皆、死んでしまう。
激しく岩山に頭を打ちつけて、死んでいこう。
不吉なこの存在は、もういらない。
この世から、消滅するべきだ。
無駄に生きようとしたから、死ななくていい者達が、死んでいく。
人間にも、竜にも、生きてはいけない存在だったんだよ、僕は。
もっと早く、もっと早く死んでいれば。
僕は、ブルーシーズを殺してしまった。
君だけは、死んでほしくなかったのに。
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