58 / 113
第3章 竜の涙
困惑(for three days)
しおりを挟む
セケメント地域の現地統治組織であるアルタイ岩頭院を解散させる命を、ウイプル国王マイクリーハより出された。
そして、ウイプル本国から選抜された者達がセケメント地域に渡り、新たに現地統治組織を結成する。
長らく他国の支配下に置かれて、ウイプルへの忠誠が乏しいと見たのか、ウイプルが戦に出る際には、傭兵という形で雇うらしい。
そして、ダルレアス自治領へゴブリンの大部隊を送り込んだ敵国を、特定できそうだ。
僕らには、まだその国が何処かは伝わらないけど、主犯と見ていた邪教国の聖バハールの、さらに背後に動く国がいる。その国が、やった事だという話だ。
その国がドメイル教信仰国であれば、同盟国のアスデン、コーリオが共に動いてくれるだろう。
ダルレアス自治領は、しばらくウイプル本国との人々の行き来を制限するらしい。
威厳山の中にいる竜を見られたくないのか?
北の中立国が崩され、突破を許したんだ。虎口山と威厳山との抜け道は、確実に塞ぐだろうな。
ディオガルーダの姿は、このウイプルでは見ていない。
まだダルレアス自治領内にいるのか。
まさか、死んではいないだろうから。
彼のダルレアス自治領における、立ち位置は、何処にあるのか。
気になる。
ペテロの18日
自分の家にて
_________
いつもの木の下で。
幼い頃、待ち合わせ場所として使った、緑葉に青紫色の実のなる高木。
今もまだ、存在する。
青く光る水晶の欠片。
これは、何でしょう、と。
このパンは、とてもふっくらして食べやすい、何処で買ったでしょう、と。
暗闇で光る水がある、今から一緒に見に行こう、と。
面白そうな話を僕に、訊かせて、連れ出してくれたよね。
僕の幼馴染、ミスルタ。
君に姿を見られない様に、時間を選んで自分の家に帰っていた。
僕は、ブルーシーズと共に行動していた時、ウイプルで君に姿を見られていないから。
戦で死んだのだろうと、思われたままでいいのだと。
でも、僕自身を知るために、このお母様と暮らした家に度々戻る必要があった。
いつの間に、気づかれていた。
ミスルタ、君を避けて通っていた事。
君は僕に声をかけた。
悲しそうで、そして怒っていた。
今まで、部屋の窓から、僕に声をかけずに、ミスルタを避ける僕を不快に思って、眺めていたんだね。
僕はウイプルが戦場になった時に、ミスルタは死んだのだと思っていたけど、君を見つけ、生きていた事を知った時。
あの時に、君が死んだままでいたらよかったのにと思った理由が、ようやくわかった。
もう、大切に思う人が、
死んでいく事に、耐えられない。
もう、君は死んでしまったと、一度思ったんだ。
また、君が死んでしまえば、僕は。
今、このウイプルは邪教国に狙われている。奴らの聖戦の対象になっているだろう。
僕は、このウイプルを守る。
そのために、きっと僕は人とは思えないほどの残忍な戦い方をするだろう。
もう、人じゃない、と思われるかも知れない。
君と仲が良かった頃の、アスカ・グリーンディは、
母殺しになった時から、死んだんだ。
ミスルタ、どうか。
君も、僕は死んだと、思ってほしい。
ペテロの19日
ヘールベータ地区の家にて
_________
ウイプルの街中で人気のない場所に入った時、背後から気配を感じたんだ。
黒い鎧を身につけた、ディオガルーダ。
視線はまっすぐ僕に向けていた。
僕に用があるんだと、わかった。
ダルレアス自治領の状況が、僕に十分に伝わっていない事を知ると、ディオガルーダは軽蔑する様な目を向けて笑った。
無様だな、と。
そう言われた。
この男は、ダルレアス自治領のザシンと何か関係があるのは疑いがないだろう。
君は、何者だ?
そう、率直に訊いてみた。
それがわからない事も、お前の未熟さ故だな、と言ってきた。
偉さそうな男だ。
意味がわからない。
お前が腑抜けなままであれば、また会う事になるだろうと、言った。
どういう意味だ?
僕がそう言葉を吐く前に、ディオガルーダの続けた次の言葉に絶句したんだ。
ウイプルを敵と見なして。
ダルレアス自治領を救った男が、ウイプルには敵となるという事なのか?
腑抜けなままであれば?
ディオガルーダ、こいつはやはり要注意な男だ。
それをただ伝えに、僕の元へ来たのか。
僕に背を向け、去っていった。
でも、
お前が威厳山の中、紫雷刀身竜の側で戦っていた時に、お前から僕に伝わったものは、一体。
1つは違うものに対しての感情。
そして、もう1つは。
僕に対しての感情。
ディオガルーダは、何故、僕に対して、悲しむ感情を持っていたんだ?
ペテロの20日
ヘールベータ地区の家にて
_________
そして、ウイプル本国から選抜された者達がセケメント地域に渡り、新たに現地統治組織を結成する。
長らく他国の支配下に置かれて、ウイプルへの忠誠が乏しいと見たのか、ウイプルが戦に出る際には、傭兵という形で雇うらしい。
そして、ダルレアス自治領へゴブリンの大部隊を送り込んだ敵国を、特定できそうだ。
僕らには、まだその国が何処かは伝わらないけど、主犯と見ていた邪教国の聖バハールの、さらに背後に動く国がいる。その国が、やった事だという話だ。
その国がドメイル教信仰国であれば、同盟国のアスデン、コーリオが共に動いてくれるだろう。
ダルレアス自治領は、しばらくウイプル本国との人々の行き来を制限するらしい。
威厳山の中にいる竜を見られたくないのか?
北の中立国が崩され、突破を許したんだ。虎口山と威厳山との抜け道は、確実に塞ぐだろうな。
ディオガルーダの姿は、このウイプルでは見ていない。
まだダルレアス自治領内にいるのか。
まさか、死んではいないだろうから。
彼のダルレアス自治領における、立ち位置は、何処にあるのか。
気になる。
ペテロの18日
自分の家にて
_________
いつもの木の下で。
幼い頃、待ち合わせ場所として使った、緑葉に青紫色の実のなる高木。
今もまだ、存在する。
青く光る水晶の欠片。
これは、何でしょう、と。
このパンは、とてもふっくらして食べやすい、何処で買ったでしょう、と。
暗闇で光る水がある、今から一緒に見に行こう、と。
面白そうな話を僕に、訊かせて、連れ出してくれたよね。
僕の幼馴染、ミスルタ。
君に姿を見られない様に、時間を選んで自分の家に帰っていた。
僕は、ブルーシーズと共に行動していた時、ウイプルで君に姿を見られていないから。
戦で死んだのだろうと、思われたままでいいのだと。
でも、僕自身を知るために、このお母様と暮らした家に度々戻る必要があった。
いつの間に、気づかれていた。
ミスルタ、君を避けて通っていた事。
君は僕に声をかけた。
悲しそうで、そして怒っていた。
今まで、部屋の窓から、僕に声をかけずに、ミスルタを避ける僕を不快に思って、眺めていたんだね。
僕はウイプルが戦場になった時に、ミスルタは死んだのだと思っていたけど、君を見つけ、生きていた事を知った時。
あの時に、君が死んだままでいたらよかったのにと思った理由が、ようやくわかった。
もう、大切に思う人が、
死んでいく事に、耐えられない。
もう、君は死んでしまったと、一度思ったんだ。
また、君が死んでしまえば、僕は。
今、このウイプルは邪教国に狙われている。奴らの聖戦の対象になっているだろう。
僕は、このウイプルを守る。
そのために、きっと僕は人とは思えないほどの残忍な戦い方をするだろう。
もう、人じゃない、と思われるかも知れない。
君と仲が良かった頃の、アスカ・グリーンディは、
母殺しになった時から、死んだんだ。
ミスルタ、どうか。
君も、僕は死んだと、思ってほしい。
ペテロの19日
ヘールベータ地区の家にて
_________
ウイプルの街中で人気のない場所に入った時、背後から気配を感じたんだ。
黒い鎧を身につけた、ディオガルーダ。
視線はまっすぐ僕に向けていた。
僕に用があるんだと、わかった。
ダルレアス自治領の状況が、僕に十分に伝わっていない事を知ると、ディオガルーダは軽蔑する様な目を向けて笑った。
無様だな、と。
そう言われた。
この男は、ダルレアス自治領のザシンと何か関係があるのは疑いがないだろう。
君は、何者だ?
そう、率直に訊いてみた。
それがわからない事も、お前の未熟さ故だな、と言ってきた。
偉さそうな男だ。
意味がわからない。
お前が腑抜けなままであれば、また会う事になるだろうと、言った。
どういう意味だ?
僕がそう言葉を吐く前に、ディオガルーダの続けた次の言葉に絶句したんだ。
ウイプルを敵と見なして。
ダルレアス自治領を救った男が、ウイプルには敵となるという事なのか?
腑抜けなままであれば?
ディオガルーダ、こいつはやはり要注意な男だ。
それをただ伝えに、僕の元へ来たのか。
僕に背を向け、去っていった。
でも、
お前が威厳山の中、紫雷刀身竜の側で戦っていた時に、お前から僕に伝わったものは、一体。
1つは違うものに対しての感情。
そして、もう1つは。
僕に対しての感情。
ディオガルーダは、何故、僕に対して、悲しむ感情を持っていたんだ?
ペテロの20日
ヘールベータ地区の家にて
_________
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる