83 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を
不変の殺意は…(for two days)
しおりを挟む
このカインハッタ牢獄には、外部から何者かが訪れ、看守2人に見張られてはいるけど、鉄の戸の中で、話ができる様だ。
看守と囚人との間に、金銭のやり取りが見える。
声が高くなった時に、言葉が訊こえてきたけど、大した会話はしていない。
囚人が以前住んでいた街は、今どの様に変わって、どういう物ができたか、とか。
家族がどうだとか。
伝えてはいけない様な言葉が入った時は、看守が止めている様だった。
罪を犯しても、心が生きている限り、その心の交流は必要か。
そうだな。
手に入れた金銭は、看守が懐に入れるんだろう。
彼らも、貧しそうに見える。
看守の集う一室で、彼らは豆のスープに固いパンを浸して食べていた。
囚人の家族などが持ち込む金銭がここの全てなのかも知れない。
何処の牢獄も、変わらない。
囚人は、刑が長期に渡る場合、それはほぼ死刑も同然だ。
食事をまともに口にせず、死んでいく。
このカインハッタ牢獄は、そうはならない者達が多くいるのかも知れないけど。
ウイプルに限らず、重い処罰を受けた囚人には容赦がない。
自ら命を絶つ者もいる。
最後に、
最後に何を言いたい?
返す言葉はないかも知れない。
けど。
僕が、その最後の言葉を訊いてあげようか。
ジスマリアの7日
カインハッタ牢獄にて
__________
厳重なカインハッタ牢獄内を見回っている。
呻き声と何処か遠くから響く物音、異臭、薄暗く、息苦しい空間が続く。
僕までも、カインハッタ牢獄の囚人になったかの様だ。
今、ウイプルは。
僕は、この世とあの世を繋ぐ空間をただ歩き続けている。
早く。
ウイプルに戻りたい。
鉄の戸にあるとても小さな格子のある窓から、外を覗き込み、僕に声をかけた男がいた。
その鎧を見た事がある、と。
そうか。
ウイプルの、リガード竜騎士団の鎧だと。
言葉を返すべきなのか迷った僕は、この者の行く末を憐れんで、言葉を返した。
そうだよ。
この男は、力なく笑って、言った。
私も、かつてはウイプルの騎士だった、と。
ヘイル・サイン騎士隊。
ウイプルの貴族達で街を警護するため、外部敵勢力に迅速に対抗するために結成、それを国王に認めさせた。
私達は仲間だよ、そう言った男に対して、僕の中に嫌悪感があった。
僕はお前の罪状など知らない。それなのに、気安く仲間だと言わないで欲しい。
悪魔にも劣る様な、卑劣な罪を犯していた者だと知れば、許す自身がない。
でも、この者は、このカインハッタ牢獄に収監され、最後の時を待つばかりの者。
少しの優しさを、僕は持つべきなんだ。
お母様の様に。
幼馴染のミスルタの様に。
ブルーシーズの様に。
ベルベッタの様に。
そう思ったんだ。
かつての同志の貴方に告げる。
自分の犯した罪に真摯に向き合い、最後の時が訪れるその日まで、生きて欲しい。
そう伝えたんだ。
でも。
僕の言葉に対して、男は首を振った。
殺害行為に、後悔はしていない。成し遂げなければならない事だったが、それを成し遂げられず、それについては後悔している、と。
ウイプルを救うため、
愛する人達を救うため。
それは罪だと、そう伝えられたんでしょう?
この時、この男の言った行為は、騎士としての行為ではないだろうとは、思った。
何を犯したのか。
でも、この男の告げた名前でわかった。
私は、後悔などしていない、と。
よく言ったな。
僕が、この男と話をしたのは間違いだった。
悪い心は、不治の病。
いいさ、そのままその鉄の戸の向こう側で朽ち果てればいい。
貴方は、死んで当然なんだ。
男の目元の部分が見えた。
ここまで、思いはしなかったのに。
僕の心が、汚い色の思いを生み出して、抑えられない。
僕が、存在しなければ、2人は今も幸せだったんじゃないかって。それで良かったんだって。
そう思っていた時もあるくらいだ。
今まで、この男への憎しみに蓋をして、何も考えない様にしていたのか。
僕に名前まで明かしたのは、間違いだったな。
その名がある貴族は他にいない。
貴方の名は、もちろん知っているさ。
忘れようとしても、忘れる事はできない。
今でも、僕を殺したいと思うか?
殺してみろ。
僕は、ここにいる。
その鉄の戸からは、二度と出られはしないのさ。
一生をその暗い部屋の中で過ごし、終える。
それこそ、貴方に相応しい。
幼い頃の記憶など、覚えていない。
今まで、何度も、何度も、僕は想像で貴方の顔を描いたんだ。
ようやく、初めて顔を見た。
僕を見ても、誰だかわからないだろう。
このカインハッタ牢獄で会う事になるとは。
お母様の愛した、
貴方が、
ベリオストロフ・グリーンディ。
幼い頃の僕を、殺そうとした男。
ジスマリアの8日
カインハッタ牢獄にて
__________
看守と囚人との間に、金銭のやり取りが見える。
声が高くなった時に、言葉が訊こえてきたけど、大した会話はしていない。
囚人が以前住んでいた街は、今どの様に変わって、どういう物ができたか、とか。
家族がどうだとか。
伝えてはいけない様な言葉が入った時は、看守が止めている様だった。
罪を犯しても、心が生きている限り、その心の交流は必要か。
そうだな。
手に入れた金銭は、看守が懐に入れるんだろう。
彼らも、貧しそうに見える。
看守の集う一室で、彼らは豆のスープに固いパンを浸して食べていた。
囚人の家族などが持ち込む金銭がここの全てなのかも知れない。
何処の牢獄も、変わらない。
囚人は、刑が長期に渡る場合、それはほぼ死刑も同然だ。
食事をまともに口にせず、死んでいく。
このカインハッタ牢獄は、そうはならない者達が多くいるのかも知れないけど。
ウイプルに限らず、重い処罰を受けた囚人には容赦がない。
自ら命を絶つ者もいる。
最後に、
最後に何を言いたい?
返す言葉はないかも知れない。
けど。
僕が、その最後の言葉を訊いてあげようか。
ジスマリアの7日
カインハッタ牢獄にて
__________
厳重なカインハッタ牢獄内を見回っている。
呻き声と何処か遠くから響く物音、異臭、薄暗く、息苦しい空間が続く。
僕までも、カインハッタ牢獄の囚人になったかの様だ。
今、ウイプルは。
僕は、この世とあの世を繋ぐ空間をただ歩き続けている。
早く。
ウイプルに戻りたい。
鉄の戸にあるとても小さな格子のある窓から、外を覗き込み、僕に声をかけた男がいた。
その鎧を見た事がある、と。
そうか。
ウイプルの、リガード竜騎士団の鎧だと。
言葉を返すべきなのか迷った僕は、この者の行く末を憐れんで、言葉を返した。
そうだよ。
この男は、力なく笑って、言った。
私も、かつてはウイプルの騎士だった、と。
ヘイル・サイン騎士隊。
ウイプルの貴族達で街を警護するため、外部敵勢力に迅速に対抗するために結成、それを国王に認めさせた。
私達は仲間だよ、そう言った男に対して、僕の中に嫌悪感があった。
僕はお前の罪状など知らない。それなのに、気安く仲間だと言わないで欲しい。
悪魔にも劣る様な、卑劣な罪を犯していた者だと知れば、許す自身がない。
でも、この者は、このカインハッタ牢獄に収監され、最後の時を待つばかりの者。
少しの優しさを、僕は持つべきなんだ。
お母様の様に。
幼馴染のミスルタの様に。
ブルーシーズの様に。
ベルベッタの様に。
そう思ったんだ。
かつての同志の貴方に告げる。
自分の犯した罪に真摯に向き合い、最後の時が訪れるその日まで、生きて欲しい。
そう伝えたんだ。
でも。
僕の言葉に対して、男は首を振った。
殺害行為に、後悔はしていない。成し遂げなければならない事だったが、それを成し遂げられず、それについては後悔している、と。
ウイプルを救うため、
愛する人達を救うため。
それは罪だと、そう伝えられたんでしょう?
この時、この男の言った行為は、騎士としての行為ではないだろうとは、思った。
何を犯したのか。
でも、この男の告げた名前でわかった。
私は、後悔などしていない、と。
よく言ったな。
僕が、この男と話をしたのは間違いだった。
悪い心は、不治の病。
いいさ、そのままその鉄の戸の向こう側で朽ち果てればいい。
貴方は、死んで当然なんだ。
男の目元の部分が見えた。
ここまで、思いはしなかったのに。
僕の心が、汚い色の思いを生み出して、抑えられない。
僕が、存在しなければ、2人は今も幸せだったんじゃないかって。それで良かったんだって。
そう思っていた時もあるくらいだ。
今まで、この男への憎しみに蓋をして、何も考えない様にしていたのか。
僕に名前まで明かしたのは、間違いだったな。
その名がある貴族は他にいない。
貴方の名は、もちろん知っているさ。
忘れようとしても、忘れる事はできない。
今でも、僕を殺したいと思うか?
殺してみろ。
僕は、ここにいる。
その鉄の戸からは、二度と出られはしないのさ。
一生をその暗い部屋の中で過ごし、終える。
それこそ、貴方に相応しい。
幼い頃の記憶など、覚えていない。
今まで、何度も、何度も、僕は想像で貴方の顔を描いたんだ。
ようやく、初めて顔を見た。
僕を見ても、誰だかわからないだろう。
このカインハッタ牢獄で会う事になるとは。
お母様の愛した、
貴方が、
ベリオストロフ・グリーンディ。
幼い頃の僕を、殺そうとした男。
ジスマリアの8日
カインハッタ牢獄にて
__________
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる