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3話
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執事の将門文太は、鴛鴦島の武骨な石畳の道を進み、招待者達を先導する。
彼に従い、招待者達も後をついて行く。
鴛鴦島の島の形状は、鍵の様で、細長いブレードと、膨らんだ頭部の場所がある。
西園寺宗孝の屋敷まで行くには、クルーザーが到着した桟橋を降りて、細長い陸地の一本道をそのまま真っ直ぐ進み、鍵の頭部の様に膨らんだ陸地まで来ると、屋敷まで、それを中心に、山道の通り、円を描く様に大きく回りながら上っていく。
「海に絵の具を混ぜたみたいに、綺麗な色で透き通ってる。汚染されてるものなんて入ってないから、これが純粋な海なんだろう」
杉村順也はそう言って、青いジーンズの後ろポケットからスマホを取り出した。そして、スマホで海の写真を何枚か撮る。
その彼の隣りにいた桜目遥も白いショルダーバッグからスマホを取り出し、海とその底に見える白い砂の写真を何枚か撮る。
「スマホのアンテナ、立っていないね」
桜目がそう言うと、杉村もスマホの電波表示を見る。
「ここから電話を掛けられないし、SNSもできない…か。まぁ、仕方がないな。この島に住んでる人も大していないから、携帯の会社もこの島に力入れてないんだろう」
杉村は自分がスマホで撮影した写真を、得意げに桜目に見せる。
「ほら、綺麗に撮れてるだろ?」
桜目は、眼鏡の端を2本指で押さえながら、杉村のスマホに顔を近づける。
「うん、綺麗に撮れてるね」
杉村は得意げに笑って見せた。そして、君のも見せて、と言うと、
「私のはうまく写らなかったから、消したの。また後で撮るからいいよ」
桜目は少し眉を顰め、前髪を触りながら苦笑いした。
パーマ頭の中年男時野達己は、軽く握った手を口に持ってきて、呟く。
「地図にない島、鴛鴦島か。あの噂が本当なら、国民は政府に疑いの目を向けるだろうな。信用する者など、日本からはいなくなるのさ。でも、実際はどうかな?」
時野はふうっと息を吐き、白シャツの胸ポケットに入れていた黒いハンカチを取り、額の汗を拭った。
「しかし、暑い。地面の切石からも熱が上がってくるから、逃げ場がないな。鴛鴦島の気温は年間通して高いって聞いてたけど、確かにその通りか」
時野は黒いハンカチを広げて、扇風機の様に回して自分に風を送った。
自販機を探そうと周りを見回しても、それらしき物はない。うんざりした様な顔を見せる。
時野の前には、赤いキャリーバッグを苦手そうに引いている浦冬美がいる。そして、その前に杉村と桜目がいる。
「ハハッ、あの2人は学生か?」
時野は呆れて笑った。
「今回の招待は、抽選で選ばれたか。だとしたら、笑えるね」
黒いスーツ姿の、細身の釣り目中年男車田一彦は、首筋にミネラルウォーターのペットボトルを押し当てたまま歩いている。
「6月なのに、ここまで気温が上がるとはな」
体内に溜まった熱を放出するかの様にふうっと息を吐いた。
歩いているゴツゴツした石畳を見て、苦そうな表情を浮かべる。
「…高い革靴履いてきたのは間違いだったな。金持ちが1人で屋敷構えてるって話だったから、高級車で出迎えてくれるかと思ったが…」
車田は横目で、隣りにいるふっくらした顔の中年男谷溝竜二を見る。
谷溝は、顔から汗を滝の様に流していた。
「おいおい、そこまでいっちゃうか?確かに暑いが、30度はギリギリ越えてないと思うぞ」
車田が少し吹き出して笑う様にして言った。
「いや、俺の体感だと40度だ…。畜生、車で迎えに来やがれってんだっ。暑いぞ!」
「体格の差かな。お前、昔からある程度ぽっちゃり体型だったからな。お互いに40歳超えたんだ、少しは痩せたらどうだ?」
「痩せたら、何かあんのか?何もないだろ?金なら十分稼いでるんだ、文句は言わせねぇ」
谷溝はそう言うと、ハッとした顔をして、険しい表情に変え、少し辺りを見回す。
「どうした…。落ち着けよ。ほら、さっきから道の端にある小さな鬼の石像でも見て気持ちを落ち着かせるんだ」
車田は冷ややかな目で谷溝を見て、小さな鬼の石像を指差した。
執事の将門は一本道の陸地の途中で立ち止まって、陸地から20メートル程離れた海側の場所、大きな岩の上に高さ2メートル程の黒塗りの慰霊碑がある方へ指を揃えて差し、案内し始めた。
「今日はまだ穏やかなのですが、この海域は波が荒れやすく、かつてこの周辺でも漁業が盛んに行われておりましたが、その方々の多くがその荒れた波に襲われ亡くなっており、その方々の慰霊として、あの石碑が立てられました。鴛鴦島周辺では、キハダやカツオが漁獲されていたと聞きます。今では、この島周辺での漁獲、またその業者の侵入を禁じられています」
彼に従い、招待者達も後をついて行く。
鴛鴦島の島の形状は、鍵の様で、細長いブレードと、膨らんだ頭部の場所がある。
西園寺宗孝の屋敷まで行くには、クルーザーが到着した桟橋を降りて、細長い陸地の一本道をそのまま真っ直ぐ進み、鍵の頭部の様に膨らんだ陸地まで来ると、屋敷まで、それを中心に、山道の通り、円を描く様に大きく回りながら上っていく。
「海に絵の具を混ぜたみたいに、綺麗な色で透き通ってる。汚染されてるものなんて入ってないから、これが純粋な海なんだろう」
杉村順也はそう言って、青いジーンズの後ろポケットからスマホを取り出した。そして、スマホで海の写真を何枚か撮る。
その彼の隣りにいた桜目遥も白いショルダーバッグからスマホを取り出し、海とその底に見える白い砂の写真を何枚か撮る。
「スマホのアンテナ、立っていないね」
桜目がそう言うと、杉村もスマホの電波表示を見る。
「ここから電話を掛けられないし、SNSもできない…か。まぁ、仕方がないな。この島に住んでる人も大していないから、携帯の会社もこの島に力入れてないんだろう」
杉村は自分がスマホで撮影した写真を、得意げに桜目に見せる。
「ほら、綺麗に撮れてるだろ?」
桜目は、眼鏡の端を2本指で押さえながら、杉村のスマホに顔を近づける。
「うん、綺麗に撮れてるね」
杉村は得意げに笑って見せた。そして、君のも見せて、と言うと、
「私のはうまく写らなかったから、消したの。また後で撮るからいいよ」
桜目は少し眉を顰め、前髪を触りながら苦笑いした。
パーマ頭の中年男時野達己は、軽く握った手を口に持ってきて、呟く。
「地図にない島、鴛鴦島か。あの噂が本当なら、国民は政府に疑いの目を向けるだろうな。信用する者など、日本からはいなくなるのさ。でも、実際はどうかな?」
時野はふうっと息を吐き、白シャツの胸ポケットに入れていた黒いハンカチを取り、額の汗を拭った。
「しかし、暑い。地面の切石からも熱が上がってくるから、逃げ場がないな。鴛鴦島の気温は年間通して高いって聞いてたけど、確かにその通りか」
時野は黒いハンカチを広げて、扇風機の様に回して自分に風を送った。
自販機を探そうと周りを見回しても、それらしき物はない。うんざりした様な顔を見せる。
時野の前には、赤いキャリーバッグを苦手そうに引いている浦冬美がいる。そして、その前に杉村と桜目がいる。
「ハハッ、あの2人は学生か?」
時野は呆れて笑った。
「今回の招待は、抽選で選ばれたか。だとしたら、笑えるね」
黒いスーツ姿の、細身の釣り目中年男車田一彦は、首筋にミネラルウォーターのペットボトルを押し当てたまま歩いている。
「6月なのに、ここまで気温が上がるとはな」
体内に溜まった熱を放出するかの様にふうっと息を吐いた。
歩いているゴツゴツした石畳を見て、苦そうな表情を浮かべる。
「…高い革靴履いてきたのは間違いだったな。金持ちが1人で屋敷構えてるって話だったから、高級車で出迎えてくれるかと思ったが…」
車田は横目で、隣りにいるふっくらした顔の中年男谷溝竜二を見る。
谷溝は、顔から汗を滝の様に流していた。
「おいおい、そこまでいっちゃうか?確かに暑いが、30度はギリギリ越えてないと思うぞ」
車田が少し吹き出して笑う様にして言った。
「いや、俺の体感だと40度だ…。畜生、車で迎えに来やがれってんだっ。暑いぞ!」
「体格の差かな。お前、昔からある程度ぽっちゃり体型だったからな。お互いに40歳超えたんだ、少しは痩せたらどうだ?」
「痩せたら、何かあんのか?何もないだろ?金なら十分稼いでるんだ、文句は言わせねぇ」
谷溝はそう言うと、ハッとした顔をして、険しい表情に変え、少し辺りを見回す。
「どうした…。落ち着けよ。ほら、さっきから道の端にある小さな鬼の石像でも見て気持ちを落ち着かせるんだ」
車田は冷ややかな目で谷溝を見て、小さな鬼の石像を指差した。
執事の将門は一本道の陸地の途中で立ち止まって、陸地から20メートル程離れた海側の場所、大きな岩の上に高さ2メートル程の黒塗りの慰霊碑がある方へ指を揃えて差し、案内し始めた。
「今日はまだ穏やかなのですが、この海域は波が荒れやすく、かつてこの周辺でも漁業が盛んに行われておりましたが、その方々の多くがその荒れた波に襲われ亡くなっており、その方々の慰霊として、あの石碑が立てられました。鴛鴦島周辺では、キハダやカツオが漁獲されていたと聞きます。今では、この島周辺での漁獲、またその業者の侵入を禁じられています」
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