とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その266

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「…!?」



何だ…?



ここは。



俺は今、何をやっていたんだ?



何もない真っ白の世界が視界に映る。



後ろから、波の音が聞こえる。



赤い海だ。



赤い海がこっち側に流れ込もうとしている。

それは、見えない透明な壁に遮られる様にして、流れてこない。

波は何度も打ちつけてくるけど、その壁は崩せないでいる。



「俺は、誰かと戦っていたよな…?」



手に残る感触。それは右拳で何かを殴りつけた感触。

思い出せない。

俺は、何をやっていたんだ?

誰かを相手にしていた?



頭から記憶が吸い出される様に、何もかも忘れていく様な気がする。

白い砂浜の上を、ただ立ち尽くしている。

俺はここで何をやってるんだ?

俺は…。

それも、どうでもいいか。

ああ、気持ちがいいな。

雲一つない青空が広がっている。

何だか久し振りに見た様な気がする。



ザッ…。



ザッ…。



温かい砂浜をひたすら歩いてみる。

何処までも地平線は何もない一本線を引いたまま。

このまま歩き続けても、何もない、それを知っている。

だから、歩き続けるんだ。

何も心配はない。

そうさ、その方が気持ちが楽なんだ。

危険がないとわかるから、俺は歩き続ける。

遠い後ろの方で赤い波が今もまだ、見えない壁を何度も打ちつけている。こっちの方に流れてきたいんだな。

その波の形が、時には獣の様にも思えた。

まさか、俺に用がある訳じゃないよな?

そう言えば、俺は誰だ?

俺は…。

俺の名前は、何だったかな。

そうだ、…ロ?

いや、そんな名前じゃない。

もっと長い名前だよ。

よろずやしんごとか、そんな名前。

やずやしんご、わからずやしんぼ?

段々と違和感のある名前になっていくな。

ああ…。

そうだ、矢倉やぐらビンゴだよ。

いやー、スッキリしたな!

俺は矢倉ビンゴ。

何か今にもいじめられそうな危険な臭いの放つ響きが堪らないんだろうな。

名前のセンスがいい。

さすが、俺の親だな。



『よし、駆けっこ勝負だ!』



何だ??

今、俺の側に誰かいた?

しかし、周りを見渡しても、誰もいない。

気のせいだな。

あーあ。

このまま1人だと、つまらないよな。

もう、あと3人くらいはいた方がいいのかな?

でも、贅沢は言えない…。

俺は決めたんだから。



「うーん」



…決めた?

何を?

全く意味のわからない事を言っているな、俺は。

さあ、何も気にしなくてもいい、ただ進むだけだ。

何もないこの世界を。

穏やかなこの世界は、きっと今までにない安息を与えてくれる。

そうだろう?

ねえ…。



『俺達だけの基地を作ろうぜ!』



何だ?

何だか懐かしい声が聞こえてくる。

俺達だけの基地…?

おもしろいな。

そんなものができたら、すごいよな。

矢倉ビンゴ天才、って言われるだろうな。



矢倉ビンゴ…か。



いや、何か違う。

俺の名前は違うんだよ。

少し響きが違うんだ。

惜しいけどな。



…!



そうだよ。

俺の名前は、矢倉。



矢倉…ギルロ。



ハハッ!

そんなバカな。

そんなメチャクチャな名前はないよな。

一体、何人なんだよ。

そんな名前をつける親はいない。

そうだろう?

でも、何だろうな。

不思議としっくりくる。

それなら。

きっと、そうなんだよ。





俺の名前は…。

ギルロ。
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