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6桁の数字と幻影ビルの金塊
009 ビルの唸り声
しおりを挟むカメラを構えながら、美玲ちゃんも辺りを見回す。
カメラのライトが照らし出したのは、入り口のモスグリーンのドアと両側にあるすりガラスの窓。
左側の壁にはアンティークな電話台に置かれた黒電話。
そして天井には、装飾の少ない地味なシャンデリア。
それだけだった。
確かに、どこにも階段が見当たらない。
「どうやって上の階に上がるの?」
美玲ちゃんが、ふたたびカメラをチャーシューに向ける。
眼鏡のレンズにライトを反射させながら、チャーシューがその巨体をどけた。
「これやな……」
ライトの照らされたチャーシューの巨大な影で見えなかったが、奥の壁の中央にエレベータの扉があった。
「あるじゃん、もうっ!」
「いや、ふつうは階段もあるはずやろ? エレベータが壊れた時どないすんねん」
「そっか。地震とか火事とかあるし、エレベータだけってのはおかしいね……」
あらためて美玲ちゃんがエレベータをよく見る。
ライトグレーのスチール製扉の横にある真鍮の操作盤には、1センチほど出っ張った丸く古めかしい白いボタンが一つ。
黒い筆文字の書体で『上』と書かれている。
扉の上にある楕円形の小窓には、階数が出るのだろうか。
いまは黒いままで何も表示されていない。
「それにこれ、もう動かへんやろ?」
チャーシューが『上』ボタンを何度も押した。
エレベータは沈黙したまま、何も反応がない。
「残念やけど今日はここまでやな。せやけど、幻と言われていた『六道ビル』をカメラに収めたんや。まあまあ上出来やで」
「え~っ、十億円あきらめちゃうの?」
「諦めへんよ。このエレベータの扉をこじ開けて、上の階に登っていくには道具が必要や。次の新月の夜までに準備万端整えて、再チャレンジや!」
「そうでなくっちゃ! なんたって十億円だもんね」
踵を返してふたりが出口へ向かう。
そのあとを追いかけながら、ぼくは密かに安心していた。
美玲ちゃんは十億円で頭がいっぱいみたいだし、家出のことなんかすっかり忘れて呑気に家へ帰るだろう。
いまは夜の九時くらいだろうか。
当然ママさんには怒られるだろうけど、夜中や朝に帰るより全然マシ……。
その時だった。
絶命していたビルがとつぜん息を吹き返し、再び脈動を始めたかの如く、唸るような声がビル内に響き渡った。
ふたりが引きつった顔を見合わせて、とっさに背中合わせで辺りに目を走らせる。
「な、なんや! この唸り声、外から聞こえてるんちゃうんか?」
「違う! このビルの中で響いているのよ!」
「……美玲ちゃんっ!!」
ぼくはチャーシューがいるにも関わらず、叫んでいた。
だってぼく、唸り声の犯人がわかったんだ。
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