11 / 66
6桁の数字と幻影ビルの金塊
010 ニキシー菅やね
しおりを挟む唸り声の犯人を見つけたのは、ぼくが一番最初。
とっさに声をかけたぼくの視線の先を見て、美玲ちゃんも気がついた。
「チャーシュー見て、エレベータの上!」
エレベータの上の小窓に、オレンジ色に光る数字が表示されている。
3……。
2……。
1……。
重たいトラックに追突されたような低い衝撃音がして、おんおんと響いていた唸り声が止まった。
唸り声に聞こえていたのは、エレベータの作動音だった。
静かな夜のビル内でとつぜん動き出したので、ぼくらはとても大きく不気味な音に聞こえたんだ。
息をするのも忘れたかの表情で、ふたりはエレベータを見つめている。
しばらくの静寂のあと、錆び付いた金属の擦れる音をたてながら扉がゆっくりと開いた。
エレベータ内を照らすチカチカと瞬く白い蛍光灯の明かりが、一階のフロア中央に立つぼくらの足元にまで届いた。
「……なんで動いたんやろか? さっきボタン押したのが、今ごろ反応したんか?」
チャーシューの問いかけにもこたえず、美玲ちゃんは真剣な眼差しでエレベータ内を見つめて左の耳たぶを触っている。
ぼくは美玲ちゃんの頭の上に飛び乗って、小さな声でたずねた。
「……どお? お化けの気配感じる?」
「それが、怪しいモノは何も見えないのよね」
小さな声でこたえた美玲ちゃんの言葉に、チャーシューが反応した。
「黒崎はんが見えんのやったら、怪現象じゃないんやろか……」
「どおする? せっかくエレベーターが来たんだし、乗ってみる? 一応カメラ、回ってるけど……」
美玲ちゃんがチャーシューに問いかけた。
「やだよぼく怖い、もう帰ろ~」
「……せやな。ここまで来たんだから、各階を見とこか。たかだか3階建てのビルなんやし……」
「絶対、何かいるって! お化けが待ち構えてるって!」
チャーシューが神妙な面持ちで自分の胸を押さえながら、美玲ちゃんにたずねた。
「なんや、わいの心の声が漏れ出て、わいの耳からも聞こえてるんやけど、黒崎はんには聞こえてへんやろか?」
「聞こえてないよ」
いや、それぼくの声だから!
結局、チャーシューも怖がってんじゃん!!
「それじゃあ、ちゃちゃっと各階を見て回りましょう」
美玲ちゃんが背負っていたリュックをフロアの端に置いて、本格的に探索の準備を始めた。
ダメだ。
美玲ちゃんは完全に十億円に心を支配されている。
こうなったら、なるべく早く切り上げることだけを目標にしよう。
ふたりがエレベーターに近づく。
暗いビル内に目が慣れていたせいか、エレベーターの中が異様なほど白く明るい光で満たされているように見えた。
美玲ちゃんがエレベータ内に足を踏み入れる。
ときおりチカチカと瞬く蛍光灯が、不気味さを醸し出している。
つづいてチャーシューが乗り込む。
エレベータがぐらりと揺れて、ぼくらは別の恐怖に襲われた。
「チャーシュー、ここにもあった」
美玲ちゃんが扉の上にビデオカメラを向けた。
楕円形の黒い窓の中で、『1』の数字がオレンジ色に光っている。
「ニキシー菅やね」
「ニキシーカン?」
「デジタル表示が世に出るまえのやつや。ガスが封入されたガラス管の中で、数字の形をした針金みたいな電極が光ってんねん。七十年くらい前に使われてた技術やで」
「ふ~ん、なんかレトロチックで素敵。まあとにかく、そのくらい昔のビルってことか」
オレンジ色のやさしい光を放つニキシー管の数字に見とれている美玲ちゃん。
一方チャーシューは、操作盤を見ながら首をかしげている。
「このビル、3階建てやったよなぁ……」
「うん、外から見たけど3階建てだったよ」
「なんでこんなに、ボタンがあるんやろか?」
操作盤には『開』『閉』ボタンの他に、白くて丸いボタンが五つ、縦に並んでいた。
1階のボタンの横にはプレートが貼られており、そこには『##階』と書かれている。
なぜか『階』以外の文字が、なにかで掻き消されて見えなくなっていた。
他のボタンにいたっては、プレートごと剥がれてしまっている。
「とりあえず、このボタンを押してみよう」
とまどうチャーシューをよそに、美玲ちゃんは躊躇なく一番上のボタンを押した。
金属が擦れる耳障りな音をさせながら、エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。
おんおんと唸り声をあげながら、エレベーターが動き出した。
「上がっとるな……」
「上がってるね」
楕円形の黒い小窓の中で、ニキシー管のオレンジ色に光る数字も『2』、『3』と変わっていく。
ぼくらは固唾を飲んで、その数字を凝視していた。
「……すぎおったで、3階!」
ニキシー管の数字を見つめるチャーシューの額から、脂汗が流れる。
4……。
5……。
エレベータの唸り声が徐々に小さくなる。
お腹に響く低い衝撃音とともに、ぐらりとエレベータが揺れた。
パンが焼けたときのトースターのような、いまの状況に不釣り合いなほど甲高い音のベルが響く。
金属が擦れる不快な音をたてながら、ゆっくりと扉が開いた。
28
あなたにおすすめの小説
未来スコープ ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―
米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」
平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。
好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。
旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。
見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。
未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。
誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。
藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。
この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。
感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。
読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
あだ名が247個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる