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第16話 銀河連合議会
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しおりを挟む「オラキル博士。我ら王家と銀河連合は、あの忌まわしき銀河大戦のあと、二度と悲しい歴史をくり返さぬよう、絶対平和主義を打ち立てました。キリ星人の侵略の歴史を後世に伝えながらも、我らはあの戦争を深く反省したのです。その想いを、酌んでくれまいか?」
女王がわたしの目を、まっすぐに見つめる。
吸い込まれそうな女王の瞳を、まっすぐに見つめ返して、わたしはうなずいた。
女王は大議事堂を見渡して、続けた。
「みなさん。地球人への攻撃は行ないません。よろしいな?」
「女王陛下……。しかし、地球人の半分は、キリ星人の野蛮な血が……」
ジランダ議長が、その大きな頭を床から少し浮かせて、おそるおそる言ったとたん、静まり返った大議事堂に、恐ろしくも美しい、研ぎすまされた刃のような女王の声が響いた。
「これは聖断である! これ以上議論を続けるのなら、我らの血塗られた歴史も、ひも解くことになるであろう!」
ジランダ議長は、思いっきり頭を床に叩きつけて、ひれふした。
女王が再びわたしを見すえて、静かに続ける。
「しかしオラキル博士。生きるためとはいえ、かつてキリ星人が純粋な地球人に壊滅的な被害を与えたのは、貴族院からの報告で確かであります。キリ星人の血を引く現在の地球人が、将来、我らの脅威となったとき、あなたは責任を取れましょうか?」
「……はい。どんな罰を受けようとも、この身をもって責任を取らさせていただきます」
「では地球時間で十年後、再びこの星へまいりましょう。彼らが野蛮な行為を改めず、銀河への脅威の片鱗を見せるようなら、そのときは貴族院の意見が正しかったとして地球人を駆除します。
その際はオラキル博士、あなたが先頭に立ちなさい。できますか?」
女王の提案は、わたしが考えていた、どんな罰よりもきびしかった。
とまどうわたしに、女王はさらに続けた。
「トモミという地球人も、あなたが手をかけるのです。その業苦に耐えられますか?」
女王の口からトモミの名が出たとたん、わたしの頭の中は、まっ白になった。
しかし言葉だけが、意識せずに口をついて出た。
「できます……。わたしは信じています……」
女王は沈黙し、じっとわたしを見つめていた。
透きとおるようなブルーの瞳が、かすかに潤んだように見えたあと、女王は大議事堂に目を向けて静かに言った。
「これにて議会は閉会します。みな、ご苦労でした」
女王が姿を消すと同時に、大議事堂に万雷の拍手が鳴り響いた。
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