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最終話 旅立ちの朝
01
しおりを挟むクモが操縦する小型宇宙船で、わたしとトモミ、アユムの三人は、緑が丘の草原に降り立った。
『全宇宙生物図鑑』を起動させ、背表紙をぽんっと叩く。
黒ネコが飛び出して、草かげにすべり込んだ。
「博士、お別れがすんだころ、迎えに来ます」
クモはそう言うと、小型宇宙船を再び発進させ、母船へともどっていった。
朝もやのしめった風が頬をかすめる。東の空は、もう、うっすらと白み始めていた。
「なんか、夢でも見ていたみたいだねぇ」
誰にでもなくつぶやいたアユムの言葉に、わたしは、この丘の上でふたりと過ごした日々を思い返して、小さくうなずいた。
トモミは顔をふせたまま、黙っている。
さわさわとゆれる草の音だけが、静かな朝の草原に流れている。
「ああ、そうだ。ママが心配してるから、ぼく、帰らなくっちゃあ」
アユムはわたしのキモノのそでをぐいっと引っぱると、耳もとで小さくささやいた。
「ハカセがもどってくるまで、トモミはぼくが守っているよ。だからハカセ、トモミをあんまり待たせないでよ」
草をかきわけながら走っていくアユムは、ときおりふり返っては大きく手をふり、地平線の向こうに姿を消した。
「……アユムらしくないわ、気を使うなんて」
ずっとうつむいていたトモミが、口を開いた。
「行っちゃうんだね」
「うん……」
「……連れて行ってくれないんでしょ」
「ごめん」
「いいよ。わたしの居場所は、わたしが自分で見つけてみせる。あの本の中の世界を見てから、わたし、まだがんばれる気がするの……。ハカセのおかげだよ」
「ぼくは何もしてないよ。きみの心に、みんなの笑顔が残っていたから」
トモミが自分の胸に、そっと手を当てた。
「もどれるかな? この街に……、みんなのもとに……」
「もどれるさ。きみの居場所は、星や国のように線引きできない、みんなの心の中にある。……もちろんお父さんや、お母さんの心の中にもね」
トモミは寂しげにまた顔をふせると、ぽつりとつぶやいた。
「なぐさめはいいよ。二人とも、わたしをおいて逃げたの。少しは悪いと思ってるかもしれないけど、そのうちわたしのことなんて忘れちゃ……」
「忘れるわけないじゃないかっ!!」
思わず怒鳴ってしまったわたしを、トモミが驚いた顔で見つめた。
「忘れられないんだ。一度出会ったら、もうずっと心の中にいる。どんなにきみが、ひとりぼっちだと思っていても、ぼくの心にきみはいつづけるんだ。心の中で笑って、泣いて……。どうしたって、消えやしないんだ!」
いつのまにかわたしは、自分の気持ちを叫んでいた。
わたしは生き物の生態を研究して発表することは得意だった。しかし、いままで自分の感情について深く考えたことも、表現したこともなかった。
何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからず、とまどっているわたしのことを、トモミは目に涙をいっぱい浮かべて見つめていた。
「わたしの心の中にだって、ハカセはずっといるんだから……。絶対もどってきてよね。わたし、ずっとずっと、待ってるんだから……」
「トモミぃ!」
そのとき、地平線からアユムが叫びながら走ってきた。
わたしたちの前まで走って来ると、ひざに両手をついて、息を整えながら言った。
「ママが言ってたんだ。ずっと心配してたって。夜中じゅう、探しまわってたって……」
アユムが地平線を指さして叫んだ。
「ママだよ! ママ! トモミのママ!!」
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