62 / 63
最終話 旅立ちの朝
02
しおりを挟む「ママだよ! ママ! トモミのママ!!」
わたしはトモミの手を引っぱり、小型宇宙船をかけ上がった。
朝もやを吹き飛ばすような陽射しが草原を走る。
やさしく彩られられていく地平線に、ひとりの女性が立っていた。
「ママ!」トモミが叫んだ。
「ママ、ママ……。ママの心に、わたしの居場所がまだあった……」
トモミの目から、大粒の涙があふれだす。
トモミを見つけた母親は大きく手をふると、草につまずき、よろめきながら走ってくる。
「あたりまえじゃないか」
そう言いながらも、わたしの目からも、ぽろぽろと涙があふれ出ていた。
「きみと出会えたすべての人の心にきみはいる。これからもみんなの心に、あの弾けるようなトモミの笑顔を焼き付けるんだ。いっぱい、いっぱい、楽しい思い出とともに……。さあ、行って!」
トモミは涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、力強くうなずいた。
そして、わたしに抱きつき、震える声でささやく。
「ありがとう」
トモミは手のこうでごしごしと涙をふくと、ワンピースをひらめかせて小型宇宙船から勢いよく飛び降りた。
力いっぱい走って、思いっきりママに抱きつく。
「トモミのママはねぇ、とってもトモミのことを大切に想っているんだ。もちろん、このまえ出て行ったトモミのパパも、クラスのみんなもね」
トモミの背中に男のひとが声をかけた。驚いてふり返るトモミのまわりを、地平線から次々と現れた子どもたちが、とりかこんでいく。
「どうやらトモミのママは、パパを探すためにずっと家を空けてたらしいんだ。きのうの夜、出て行ったパパをようやく見つけ出して家にもどったら、今度はトモミが家にいないだろ? あわててうちのママに電話して……、それを知ったクラスのみんなも、夜中なのに声をかけあって……」
大人や子ども、次から次へと現れる人たちで、緑が丘の地平線が色とりどりに染められていく。
トモミを心配して、こんなにもたくさんの人たちが集まったのだ。
「これが……地球人……」
「そ、これが地球人。笑ったり、泣いたり、怒ったり……。ハカセたちには厄介な生き物に見えるだろうけど、ちょっとしたきっかけで、こんなにも温かくなれるんだぁ」
はにかみながら涙ぐむトモミの笑顔が、たくさんの子どもたちの笑顔にかこまれている。
その光景を、やさしいまなざしで見つめていたアユムの笑顔が、ふと寂しげに変わった。
「トモミの両親、いっぱい話し合って、結局故郷の国へ帰るそうだよ……。トモミも一緒に行くだろうね……。トモミ、両親の故郷とはいえ、ほとんど記憶がない街にひとりで大丈夫かな? ぼくたち、みんなお別れだね……」
見知らぬ土地に降り立つトモミの姿を想像し、わたしは少し不安になった。
だがすぐに、その不安は吹き飛んだ。この宇宙船の上での出会いを思い出したのだ。
銀河の果ての惑星で友だちができた。
環境も習慣も文化も違う、どんな人とだって友情は生まれる。
その瞬間が、わたしは大好きだ。
「トモミは大丈夫。それに絶対、もどってくるさ。こんなにも温かい人たちがいる、もうひとつの故郷の街があるんだから」
アユムは力強くうなずくと、わたしに握手をもとめてきた。
「ハカセもね。この丘の上で、きっとまた三人で会おう。約束だよ!」
しかしその手には、紙袋がにぎられていた。
「あっ、これ。トモミに渡し忘れちゃった。トモミのママねぇ、こんなの持って、トモミのことを探してたんだって。笑えるよねぇ。……せんべつ代わりにハカセにあげるよ」
紙袋をわたしに押しつけて、アユムはずるずると小型宇宙船をすべり降りた。
「ぼくもママにいっぱい心配かけちゃったから、もう行くね。ぼくのママ、電話がつながらないからって、警察に捜索願い出したんだ。そりゃあ、つながらないよね。宇宙にいたんだから……。あ、ママ? いまそっちに行くよう……」
ポケットから取り出したスマホを耳にあてながらウインクすると、アユムはみんなのいる地平線に手をふりながら走っていった。
「ハカセー」
たくさんの笑顔にかこまれたトモミが、地平線で大きく手をふる。
「待ってるから、きっと、きっと、もどってきてね! 約束だからね! 緑の丘の……」
「……銀の星! トモミもアユムも元気で! 絶対にまた、この場所で会おう!」
トモミやアユム、そしてたくさんの人々が、地平線の彼方へ消えていく。
それを追うように、波をたてて草原に風が走った。
0
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ワンダーランドのおひざもと
花千世子
児童書・童話
緒代萌乃香は小学六年生。
「ワンダーランド」という、不思議の国のアリスをモチーフにした遊園地のすぐそばに住んでいる。
萌乃香の住む有栖町はかつて寂れた温泉街だったが、遊園地の世界観に合わせてメルヘンな雰囲気にしたところ客足が戻ってきた。
クラスメイトがみなお店を経営する家の子どもなのに対し、萌乃香の家は普通の民家。
そのことをコンプレックス感じていた。
ある日、萌乃香は十二歳の誕生日に不思議な能力に目覚める。
それは「物に触れると、その物と持ち主との思い出が映像として見える」というものだ。
そんな中、幼なじみの西園寺航貴が、「兄を探してほしい」と頼んでくるが――。
異能×町おこし×怖くないほのぼのホラー!
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる