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第2章 ライオン☆ハート
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しおりを挟むお昼休み、みんなから逃げるようにして、美玲ちゃんは誰もいない屋上のプールサイドに向かった。そのあとを、ぼくもついて行く。
「プールへ行くドアは鍵がかかっているけど、ここの小窓からプールサイドに出られるのよね」
美玲ちゃんはそう言いながら、となりのプール用具置き場の小さな窓に体をすべりこませて、プールサイドへ降りた。
海風にのって、かすかに感じる潮の香り。
プールの水面に、澄み切った青い空と、くっきりとした輪郭の雲がうつる。
もう夏は、すぐそこまで来ているのだ。
「大変だったね。いつもあんな感じなの?」
プールサイドのベンチにふたりで座りながら、ぼくはとなりで伸びをする美玲ちゃんに話しかけた。
もちろん、つまらない冗談で教室を真冬のように寒くした件ではない。
「きょうは、いつもより激しかったかな。それもみんな、あの雑誌のせいよ……」
ため息をつきつつも、美玲ちゃんは気を取り直すように続けた。
「それよりミッケ、優斗くんの様子はどうだった?」
ふだん向けることのない、キラキラした瞳で聞いてくる美玲ちゃんに、ぼくはちょっと意地悪をしてやりたくなった。
「フツーだよ。とくに美玲ちゃんを気にしている様子はなかったね」
元気よく咲いていたひまわりが、とつぜん萎れていくみたいに、美玲ちゃんの笑顔がしぼんでいく。
ぼくは、あわてて本当のことを言った。
「うそうそ。美玲ちゃんがみんなに囲まれているとき、何度もチラチラと気にするように見ていたよ」
美玲ちゃんが、すがるような目つきで確認する。
「ほんと? ほんとに、ほんと?」
「うん」と、うなづいたぼくの目の前で、萎れていたひまわりが夏の日差しを浴びたがごとく、いきおいよく花びらを開いていく。
これが恋する乙女というものか。
ふだんのぶっきらぼうで態度のでかい、ドSの美玲ちゃんの面影はみじんもない。
「でもね、気を付けたほうがいいよ。美玲ちゃん、人だかりでまわりが見えてないでしょ?」
ニヤけながらも不思議そうな表情で見返す美玲ちゃんに、ぼくは小声で忠告した。
「その人だかりに優斗くんがいないのは知ってるだろうけど、萌ちゃんの姿はあった?」
とたんに美玲ちゃんは、目も口も大きく開けて、放心してしまった。
やがてその埴輪のような顔の眉間にしわを寄せ、ギリギリと歯ぎしりを響かせながら立ち上がる。
「萌のやつめ~。わたしが必死で助けてやったのに、またも抜け駆けしやがって~」
ひまわりのように咲いていた恋する乙女の笑顔が、みるみるうちに鬼の形相に変わっていく。ぼくは人間の多面性というのものを、まざまざと見せつけられた。
「落ち着いて美玲ちゃん。きっと萌ちゃんは、自分の感情に素直なだけだよ。たぶん優斗くんだって、美玲ちゃんのまわりから人だかりが消えれば、話しかけてくるよ。美玲ちゃんのこと、ずいぶん気になっていたみたいだし……」
「きっととか、たぶんとか、みたいとか! 全然、はっきりしないわねっ!」
「……まあ、いいか」と、つぶやきながら下ろそうとした腰をふたたび上げて、美玲ちゃんは大声で叫んだ。
「まったく! これもみんなあのオカルト雑誌のせいだわ! せっかくわたしの噂も落ち着きかけてきたっていうのに、なんでこんなタイミングで近所の心霊スポットを特集するかな! ほんと許せない、あの雑誌!」
「せやねん、許されへんやろ? この裏山の廃病院は、ワイが昔っから目を付けていた場所やねんで」
とつぜん話しかけられて、美玲ちゃんとぼくは飛び上がるほど驚いた。
「怒鳴りたなる気持ちもわかるわ。でも黒崎はん、ひとり言は小声でするもんやで」
そこには、相撲取りのような巨体を揺らして近づいてくる、チャーシューの姿があった。
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