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最終章 四日目、そして全て崩壊へ
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「そうや、よう気づいたでアオイ。俺は死んだ水戸さんを犯罪者にしたくない。そして俺の勘違いで死なせてしまった飯畑さんの濡れ衣も晴らしたい。恐らく今のままでは、飯畑さんに対する竜二さんたちの心証は最悪や」
そう言いながら、先輩は僕の身体をグイグイと押し、時計回りに展望台を移動し始めた。
「あ!」
そこで僕が気づく、高遠さんの右手に刃渡りの長いナイフが握られていることを。
「高遠さん……」
彼女は、あの優しく美しかった高遠さんは、今、邪心のこもった瞳で僕たちを睨みつけ、腰を少しずつ落としていた。
「あんた俺たちを殺して、俺と飯畑さんに責任をなすりつける、そんなつもりなんやろ」
三輪さんの言葉にニンマリと笑った彼女は、もう何も話さない。ただ、鋭く尖ったナイフの切っ先は、強い意志を持ってこちらに向けられ、腰の高さでしっかりと握られていた。
「アオイ」
「は、はい」
いつもと変わらぬような飄々とした口調で三輪さんは僕の名を呼ぶ。そして、
「ええか、絶対に生きて帰るんや。クルミが二年前に通った道。あそこを通るんや。お前なら大丈夫。絶対行ける」
僕を励ますように言った。二年前、この展望台で美鈴浜の惨劇を目撃したクルミさん。彼女は溺れそうな人を助けようと、危険を顧みずに崩落した遊歩道を突破した。そこを通って、先輩は僕に逃げろと言うのか。
「お前を巻き込んだことはホンマに申し訳なく思ってる。これは俺の最後の頼みや。なんとしても生きて帰ってくれ。そして水戸さんと飯畑さんの無実を証言して欲しい」
最後は叫ぶように言うと、三輪さんは僕の体を力一杯突き飛ばした。美鈴浜側へと降りる階段は目の前だ。ここを駆け下り崩落箇所まで行けば、登山経験のない高遠さんは、僕と三輪さんに追いつけない。
そう考えた瞬間、腰だめにナイフを構えた高遠さんが、僕の腹を目掛け体当たりするように駆け寄ってきた。
「うわ!」
僕は手を上げ目を閉じる。と、僕と高遠さんの間に猛然と三輪さんが割り込んだ。
「グウっ」
先輩の、くぐもった声が頭上で響く。
「先輩!」
三輪さんは僕を庇って、腹の真ん中を深々とナイフで刺されていた。着ているシャツが瞬く間に真っ赤に染まる。僕は後先をかまわずに先輩を助けるために前へ出るが、再び、その長い手で階段の方へ突き飛ばされた。
「早く、早く行け」
そう言うと三輪さんは、両の手を自分を刺した高遠さんの背にまわし、ナイフがめり込むのもかまわずに、彼女の体を抱き寄せた。
「離せ、離せ」と狂ったように叫びながら高遠さんが暴れているが、上背があり怪力の三輪さんの腕から逃れることはできない。
「先輩、いやです。先輩も一緒に」
もう三輪さんは助かるつもりはない。そう分かっていた。しかし分かっていたからと言って、そんな簡単に一人だけ逃げることはできない。僕は力なく涙を流す。
「アオイ、お前が一緒で良かった。心強かったで。利用したこと、悪いて思ってる。許してくれなくてええ。ただな、生きて帰ってくれ。そしてさっき頼んだこと、よろしくな」
「そんな、ダメですよ……」
「ええな、二年前の事件は伊藤と藤田、村上、高遠が犯人や。そして今回の犯人は俺と高遠さん。水戸さんと飯畑さんは関係ないって」
「わかりました。だから先輩も一緒に」
「俺はもうあかん。水戸さんのことは少し嘘になるけどな。俺は、お前を信じてるから」
三輪さんは、そこでニヤリと笑った。山で、キャンパスで、居酒屋で、いつもと変わらぬ、楽しい笑顔で笑ってくれた。そして、
「三輪さん!」
激しく抵抗する高遠さんを、しっかりと抱きしめたまま、三輪さんはジワジワと展望台の端まで進む。そして、ロープでできた簡易な柵を彼女を抱き抱えるように乗り越え、崖の、その先にある空へ二人の体を躍らせた。
ひとりだけ取り残された、岬の展望台を、ゴーっと風が吹き抜ける。
僕は、三輪さんと高遠さんが落ちていった先を、確かめはしなかった。あの先輩が山でルートを間違えるはずがない。
高遠さんと二人、真っ直ぐに、向かったはずだ。クルミさんの眠るあの海へ。
そう言いながら、先輩は僕の身体をグイグイと押し、時計回りに展望台を移動し始めた。
「あ!」
そこで僕が気づく、高遠さんの右手に刃渡りの長いナイフが握られていることを。
「高遠さん……」
彼女は、あの優しく美しかった高遠さんは、今、邪心のこもった瞳で僕たちを睨みつけ、腰を少しずつ落としていた。
「あんた俺たちを殺して、俺と飯畑さんに責任をなすりつける、そんなつもりなんやろ」
三輪さんの言葉にニンマリと笑った彼女は、もう何も話さない。ただ、鋭く尖ったナイフの切っ先は、強い意志を持ってこちらに向けられ、腰の高さでしっかりと握られていた。
「アオイ」
「は、はい」
いつもと変わらぬような飄々とした口調で三輪さんは僕の名を呼ぶ。そして、
「ええか、絶対に生きて帰るんや。クルミが二年前に通った道。あそこを通るんや。お前なら大丈夫。絶対行ける」
僕を励ますように言った。二年前、この展望台で美鈴浜の惨劇を目撃したクルミさん。彼女は溺れそうな人を助けようと、危険を顧みずに崩落した遊歩道を突破した。そこを通って、先輩は僕に逃げろと言うのか。
「お前を巻き込んだことはホンマに申し訳なく思ってる。これは俺の最後の頼みや。なんとしても生きて帰ってくれ。そして水戸さんと飯畑さんの無実を証言して欲しい」
最後は叫ぶように言うと、三輪さんは僕の体を力一杯突き飛ばした。美鈴浜側へと降りる階段は目の前だ。ここを駆け下り崩落箇所まで行けば、登山経験のない高遠さんは、僕と三輪さんに追いつけない。
そう考えた瞬間、腰だめにナイフを構えた高遠さんが、僕の腹を目掛け体当たりするように駆け寄ってきた。
「うわ!」
僕は手を上げ目を閉じる。と、僕と高遠さんの間に猛然と三輪さんが割り込んだ。
「グウっ」
先輩の、くぐもった声が頭上で響く。
「先輩!」
三輪さんは僕を庇って、腹の真ん中を深々とナイフで刺されていた。着ているシャツが瞬く間に真っ赤に染まる。僕は後先をかまわずに先輩を助けるために前へ出るが、再び、その長い手で階段の方へ突き飛ばされた。
「早く、早く行け」
そう言うと三輪さんは、両の手を自分を刺した高遠さんの背にまわし、ナイフがめり込むのもかまわずに、彼女の体を抱き寄せた。
「離せ、離せ」と狂ったように叫びながら高遠さんが暴れているが、上背があり怪力の三輪さんの腕から逃れることはできない。
「先輩、いやです。先輩も一緒に」
もう三輪さんは助かるつもりはない。そう分かっていた。しかし分かっていたからと言って、そんな簡単に一人だけ逃げることはできない。僕は力なく涙を流す。
「アオイ、お前が一緒で良かった。心強かったで。利用したこと、悪いて思ってる。許してくれなくてええ。ただな、生きて帰ってくれ。そしてさっき頼んだこと、よろしくな」
「そんな、ダメですよ……」
「ええな、二年前の事件は伊藤と藤田、村上、高遠が犯人や。そして今回の犯人は俺と高遠さん。水戸さんと飯畑さんは関係ないって」
「わかりました。だから先輩も一緒に」
「俺はもうあかん。水戸さんのことは少し嘘になるけどな。俺は、お前を信じてるから」
三輪さんは、そこでニヤリと笑った。山で、キャンパスで、居酒屋で、いつもと変わらぬ、楽しい笑顔で笑ってくれた。そして、
「三輪さん!」
激しく抵抗する高遠さんを、しっかりと抱きしめたまま、三輪さんはジワジワと展望台の端まで進む。そして、ロープでできた簡易な柵を彼女を抱き抱えるように乗り越え、崖の、その先にある空へ二人の体を躍らせた。
ひとりだけ取り残された、岬の展望台を、ゴーっと風が吹き抜ける。
僕は、三輪さんと高遠さんが落ちていった先を、確かめはしなかった。あの先輩が山でルートを間違えるはずがない。
高遠さんと二人、真っ直ぐに、向かったはずだ。クルミさんの眠るあの海へ。
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