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1-3 潜入3
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ラダーは金属パイプ製で、安っぽい白塗料が塗られている。ザラザラした手触りはグローブ越しでも感じられ、取ってつけたような工事で製作されたのがわかる。
「いつ作ったんだ、こんなもの。何に使うんだっての」
ぶつぶつ文句を言いながらも、命がかかっているのだから仕方がない。背後に吹っ飛ぶ景色の流れから、すでにマザーは音速を超えて航行しているようだ。このまま亜光速までもう数分か。
「ラダー、登ってるでしょうね」
またまた通話菅から少尉の怒鳴り声が響いてきた。ここまで我が生命のピンチだと、その甲高い声も有り難く感じるものだ。
「ええ、登ってますよ。しかしこれ、天辺まで登るなんて無理っすよ」
「そんなこと、わかってるわ。マザーの速度は現在、音速の15倍を超えたところ。ここから亜光速まであと三分二十三秒」
「それは、マズイですよね」
「不味いわ、かなりね。とにかく急いで。そのラダーの周囲は生体保護膜で覆われているけれど、そんなもの亜光速に達したら意味もなくなる」
「しかし、どこまで登ればいいんです」
「あと8メートル。そこに入り口があるはず」
「入り口? この柱の中に入れるんですか」
「そうよ。扉のロックは解除し開放状態。とにかく急いで!」
ようやく頭上に、黒い穴が見えてきた。どうやらアレが「入り口」らしい。全くこんなところに、そんな穴があるなんて、一体全体どうしたことなのやら。最後の数段をガシガシと駆け登り、俺は穴の中に飛び込んだ。足まで入ったところで、扉が閉まる。どうやら俺の行動を少尉は逐一モニターしてくれているらしい。
周囲を見回すが、薄暗くて何も見えない。それでもそこが、さほど大きな空間でないことはわかった。
「よーし、入ったわね。ひとまず無事で何より」
朗らかな少尉の声が、耳内通話菅ではなく頭上から響いてきた。どうやらこの部屋と少尉のいる管理棟は、音声伝達菅でつながっているらしい。つまり俺はマザーの躯体の中に入ったということだ。その事実に足の力が抜け、俺は思わず座り込んでしまった。達観していたつもりだが、やはり相当の焦りがあったらしい。
「軍曹、どうしたの。大丈夫?」
「はいはい、大丈夫っすよ。安心して思わず腰が抜けました」
「あなたでも、そうなるの? フフフ、まあひとまずよかったわ」
「ありがとうございます。助かりましたよ」
「礼は整備部に言って。その部屋へ通じるルートを教えてくれたのは、整備部のエド大尉よ」
デカいガタイにイガグリ頭のあの大尉か。ほんと助かったよ。
「わかりました、そっちへ戻ったら礼に行きます。それで俺は、ここからどうやって帰れば良いんです?」
何の気なしに聞いたセリフに対し、少尉が返答に窮している。おいおい、まだ何か問題があるってのか。
「ちょっと少尉、何を言い淀んでるんです。まさかここから帰るルートがないってんじゃないでしょうね」
「いや、ないわけないでしょ。ちゃんと戻れる。しかしそのルートがなかなか大変で……」
「大変?」
「移民局の方から指示があるから、そちらから詳しく聞いて。こっちで待ってるからね!」
「移民局? え、どういう」
ガチャッと大きな音が鳴り、少尉は音声伝達菅の回路を切った。つづいでボウンと伝達回路の管が切り替わる音が響き、別の知らない声が降ってきた。
「いつ作ったんだ、こんなもの。何に使うんだっての」
ぶつぶつ文句を言いながらも、命がかかっているのだから仕方がない。背後に吹っ飛ぶ景色の流れから、すでにマザーは音速を超えて航行しているようだ。このまま亜光速までもう数分か。
「ラダー、登ってるでしょうね」
またまた通話菅から少尉の怒鳴り声が響いてきた。ここまで我が生命のピンチだと、その甲高い声も有り難く感じるものだ。
「ええ、登ってますよ。しかしこれ、天辺まで登るなんて無理っすよ」
「そんなこと、わかってるわ。マザーの速度は現在、音速の15倍を超えたところ。ここから亜光速まであと三分二十三秒」
「それは、マズイですよね」
「不味いわ、かなりね。とにかく急いで。そのラダーの周囲は生体保護膜で覆われているけれど、そんなもの亜光速に達したら意味もなくなる」
「しかし、どこまで登ればいいんです」
「あと8メートル。そこに入り口があるはず」
「入り口? この柱の中に入れるんですか」
「そうよ。扉のロックは解除し開放状態。とにかく急いで!」
ようやく頭上に、黒い穴が見えてきた。どうやらアレが「入り口」らしい。全くこんなところに、そんな穴があるなんて、一体全体どうしたことなのやら。最後の数段をガシガシと駆け登り、俺は穴の中に飛び込んだ。足まで入ったところで、扉が閉まる。どうやら俺の行動を少尉は逐一モニターしてくれているらしい。
周囲を見回すが、薄暗くて何も見えない。それでもそこが、さほど大きな空間でないことはわかった。
「よーし、入ったわね。ひとまず無事で何より」
朗らかな少尉の声が、耳内通話菅ではなく頭上から響いてきた。どうやらこの部屋と少尉のいる管理棟は、音声伝達菅でつながっているらしい。つまり俺はマザーの躯体の中に入ったということだ。その事実に足の力が抜け、俺は思わず座り込んでしまった。達観していたつもりだが、やはり相当の焦りがあったらしい。
「軍曹、どうしたの。大丈夫?」
「はいはい、大丈夫っすよ。安心して思わず腰が抜けました」
「あなたでも、そうなるの? フフフ、まあひとまずよかったわ」
「ありがとうございます。助かりましたよ」
「礼は整備部に言って。その部屋へ通じるルートを教えてくれたのは、整備部のエド大尉よ」
デカいガタイにイガグリ頭のあの大尉か。ほんと助かったよ。
「わかりました、そっちへ戻ったら礼に行きます。それで俺は、ここからどうやって帰れば良いんです?」
何の気なしに聞いたセリフに対し、少尉が返答に窮している。おいおい、まだ何か問題があるってのか。
「ちょっと少尉、何を言い淀んでるんです。まさかここから帰るルートがないってんじゃないでしょうね」
「いや、ないわけないでしょ。ちゃんと戻れる。しかしそのルートがなかなか大変で……」
「大変?」
「移民局の方から指示があるから、そちらから詳しく聞いて。こっちで待ってるからね!」
「移民局? え、どういう」
ガチャッと大きな音が鳴り、少尉は音声伝達菅の回路を切った。つづいでボウンと伝達回路の管が切り替わる音が響き、別の知らない声が降ってきた。
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