4 / 12
1-4 潜入4
しおりを挟む
「ハイダ、ハイダ軍曹。聞こえるか?」
若い男らしいが、声に俺の嫌いな粘った響きが混じる。移民局の連中への偏見もあるかもしれないが、どうにも好きになれない声だった。
「軍曹?」
「あー、すみません。聞こえてます。こちら護衛軍探索部第三課所属のハイダ・トール軍曹です」
「ああ、ハイダ軍曹。よろしく。私は移民局管理部二課長のオーツカだ」
「よろしくお願いいたします。オーツカ課長」
おいおい移民局の課長って言ったら、うちの課長をすっ飛ばして、その上、探索部部長のショーダ中佐と同格じゃないか。俺なんかのために、何でそんな大物が出てくるんだ。
「ハイダ軍曹。君の英雄的行為は探索部から聞いている。君のおかげで小隊全員が帰還できたそうだな」
「何も俺は……。ああ、それで小隊の皆は無事だったのですか?」
今日未明の事故を思い出す。アレは危なかった。俺は咄嗟の判断で、相棒のシスイ軍曹をボートの運転席に押し込み、外部からのエンジン点火で船を緊急発進させた。
確かに俺の行動がなければ、ボートに搭乗していた小隊は全滅していたかもしれない。まあおかげで俺自身の帰還が遅れ、今ここでこうしているわけだが……。
「小隊は君以外、八名全員が帰還した。全隊員が五体満足とまではいかんが、贅沢を言える状況ではなかったそうだな。治療部で療養しているものも多いが、まあ心配は要らんそうだ」
「そうですか。よかった」
「それで、次は君だよ」
「ええ」
俺の英雄的行動に感銘を受けて、この課長殿は出てきてくれたのか。いやいやそれはないだろう。一体何が始まるのやら。
「ふふふ、心配してるだろ。なぜスムーズに戻れないのかと」
「いえ、それは……」
「はっきり言おう。君がいるその部屋から、われわれマザー管理中枢の支配圏の最も近い場所まで、25公里以上離れている」
「25公里?」
これは想定外だった。この柱は丸々全てが、管理中枢の支配下にあるものだと思っていたのだ。しかしそれじゃあ、俺はどこを通るんだ?
「その部屋は、本当の例外だ。一体何のための部屋なのかはわからん。しかし穴場のようにそこにあった」
「そ、それで。俺はこの部屋にずっと?」
「それは無理だ。部屋には食糧や水がおそらくない。次、マザーが新しい候補星に到着するのは、運行局セントラルの予測では十ヶ月先だ」
十ヶ月。それでも早い方か。マザーが選ぶ候補星によっては数年かかることもある。しかしこの薄暗い部屋で十ヶ月を過ごすのは、確かに無理だ。
「では、どうしたら?」
「当然、柱の中を通ってもらうことになる。25公里進めば、マザー後部左エンジン群の一つ、下第7エンジンに入れる。そこの整備部の作業所から先は我々のエリアだ」
巨大な躯体を持つマザーを推進させるため、その彼方此方に大出力のエンジン群が配備されている。そしてそれらエンジン全てに、整備部の人員が働く部屋が併設されていた。柱の中を通ってそこまで行けということか。しかし……、
「しかし柱の中は支配圏にないと、おっしゃいましたが」
俺たちが所属する管理中枢の支配の外側。それはつまり、
「そうだ。柱の中は移民連合へ解放されている」
やはり……。それで移民局の課長が出てきた訳がわかった。この部屋から正規の手続きで移民連合のエリアへ入界できるとは思えない。不法入界しろと言うことか?
若い男らしいが、声に俺の嫌いな粘った響きが混じる。移民局の連中への偏見もあるかもしれないが、どうにも好きになれない声だった。
「軍曹?」
「あー、すみません。聞こえてます。こちら護衛軍探索部第三課所属のハイダ・トール軍曹です」
「ああ、ハイダ軍曹。よろしく。私は移民局管理部二課長のオーツカだ」
「よろしくお願いいたします。オーツカ課長」
おいおい移民局の課長って言ったら、うちの課長をすっ飛ばして、その上、探索部部長のショーダ中佐と同格じゃないか。俺なんかのために、何でそんな大物が出てくるんだ。
「ハイダ軍曹。君の英雄的行為は探索部から聞いている。君のおかげで小隊全員が帰還できたそうだな」
「何も俺は……。ああ、それで小隊の皆は無事だったのですか?」
今日未明の事故を思い出す。アレは危なかった。俺は咄嗟の判断で、相棒のシスイ軍曹をボートの運転席に押し込み、外部からのエンジン点火で船を緊急発進させた。
確かに俺の行動がなければ、ボートに搭乗していた小隊は全滅していたかもしれない。まあおかげで俺自身の帰還が遅れ、今ここでこうしているわけだが……。
「小隊は君以外、八名全員が帰還した。全隊員が五体満足とまではいかんが、贅沢を言える状況ではなかったそうだな。治療部で療養しているものも多いが、まあ心配は要らんそうだ」
「そうですか。よかった」
「それで、次は君だよ」
「ええ」
俺の英雄的行動に感銘を受けて、この課長殿は出てきてくれたのか。いやいやそれはないだろう。一体何が始まるのやら。
「ふふふ、心配してるだろ。なぜスムーズに戻れないのかと」
「いえ、それは……」
「はっきり言おう。君がいるその部屋から、われわれマザー管理中枢の支配圏の最も近い場所まで、25公里以上離れている」
「25公里?」
これは想定外だった。この柱は丸々全てが、管理中枢の支配下にあるものだと思っていたのだ。しかしそれじゃあ、俺はどこを通るんだ?
「その部屋は、本当の例外だ。一体何のための部屋なのかはわからん。しかし穴場のようにそこにあった」
「そ、それで。俺はこの部屋にずっと?」
「それは無理だ。部屋には食糧や水がおそらくない。次、マザーが新しい候補星に到着するのは、運行局セントラルの予測では十ヶ月先だ」
十ヶ月。それでも早い方か。マザーが選ぶ候補星によっては数年かかることもある。しかしこの薄暗い部屋で十ヶ月を過ごすのは、確かに無理だ。
「では、どうしたら?」
「当然、柱の中を通ってもらうことになる。25公里進めば、マザー後部左エンジン群の一つ、下第7エンジンに入れる。そこの整備部の作業所から先は我々のエリアだ」
巨大な躯体を持つマザーを推進させるため、その彼方此方に大出力のエンジン群が配備されている。そしてそれらエンジン全てに、整備部の人員が働く部屋が併設されていた。柱の中を通ってそこまで行けということか。しかし……、
「しかし柱の中は支配圏にないと、おっしゃいましたが」
俺たちが所属する管理中枢の支配の外側。それはつまり、
「そうだ。柱の中は移民連合へ解放されている」
やはり……。それで移民局の課長が出てきた訳がわかった。この部屋から正規の手続きで移民連合のエリアへ入界できるとは思えない。不法入界しろと言うことか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる