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第六章 マーベリックの飼い方
第四話 愛を試す
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(あいつ……本当に俺が好きなのか?)
あまりにもクールな幼馴染にジョシュアは眉間のシワを深くした。トイレの鏡に移る自分を睨みつける。
(今まで俺を好きな女は頬を染め、目を潤ませ分かりやすかった。なのに──)
「あいつはいつも通りだ。どうせ俺の事を好きだなんて嘘なんだろ。幼馴染の延長線上か……やはり、労働上の……それに、あいつにはリリアンだっている。もし本当に好きなのだとしても……」
──愛はいつか無くなる
「愛なんて信じない。不確かで曖昧でそんなもの存在しない。恋をしている人間は己によってユートピアにでもいるんだろ」
苦しくなる胸の鼓動に合わせ、ジョシュアは鏡に触れる指に力を込めた。
仕事の愚痴を零していた時はいつものジョシュアで、賛同するオリバーに安心感を抱いていた。しかし、こうもすぐに不安定になる。
「あいつから離れないと……いや、それはもう失敗した。だったらどうしたらいいんだ」
弱いジョシュアと強いジョシュアが入れ代わり立ち代わり思考を支配する。
そして今は、弱いジョシュアだった。
「ダメだ。今は……甘えたい……俺はいつから二重人格のようになったんだ」
ジョシュアはオリバーへの愛にまだ気づくことなく、弱い己を引きずってレストランへと戻った。
ちょうど給仕がオリバーと何かを話していて、オリバーは困ったように目尻を釣り上げていた。
「どうかしたのか?」
給仕が一礼をする。着席しているオリバーが「クローズの時間だそうだ」と言った。しかしテーブルの上の皿はまだメインディッシュのままだ。
「それで……部屋に食事の続きを運んでくれるそうだが。どうする?」
「部屋?」
「サイモン社長が宿泊用の部屋まで確保してくれているらしい」
給仕がすかさず「この寒空の中、ご帰宅は大変でしょう。アルコールで良い気分のところに水を刺さぬようにとのサイモン様からの気遣いです」と告げた。
サイモンの気遣いにジョシュアは直ぐに頭を回転させた。
「部屋まで頼む」
ジョシュアの言葉は、これから二人きりの夜を意味していた。
(これでオリバーが本当に俺が好きなのか試してやる)
ちらりとオリバーを見るが、彼は顔色変えずに移動の支度を始めていた。
「……」
ジョシュアは予期せぬほど心が落胆し、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
*
サイモンがとっていた部屋は、前にオリバーが泊まっていた部屋より広かった。セミダブルのベッドが二つ、四人がけのソファーに、ソファーより少し小さなテーブルは大理石でできている。
給仕がコース料理の残りを部屋に運び込むのをジョシュアはソファーに座って見つめていた。オリバーは手伝っている。給仕は断っていたが、それでもオリバーは手伝っていた。その様子がやはりジョシュアとの関係が労働上のものではないかとの疑いを強めてしまう。
「では、ごゆっくり」
給仕が出ていくと、ジョシュアは勢いよく立ち上がった。
それなのにオリバーは相変わらず涼しい顔をしている。
「デザートから食べようか? 冷たいうちのほうが……おいっ!」
ジョシュアはスプーンをもつオリバーの腕を掴んだ。金属が軽い音を立てて絨毯の上に落下し、それと同時にオリバーはベッドに押し倒された。
「ジョシュ……ア」
ジョシュアに跨られ、オリバーは言葉が出なかった。ようやく見せた動揺に満足したジョシュアは弱気だった自分を捨て、急に強気になる。
「キスしようか」
オリバーの唇に親指を這わせ、「俺が好きならできるだろ?」と偉そうに言う。女を誘う時と同じ文句にオリバーは──
「遠慮しておく」
──断った、はっきりと
そしてジョシュアの胸をグイッと押す。
「この前のは理性を失っていただけだ。もう二度とあんな不手際は起こさない。キスはきちんと付き合ってからだ」
冷たく言い放つオリバーにジョシュアの中の疑念が大きくなっていく。
「はっ。やっぱり嘘なんだろ? 俺が好きだなんて」
「嘘ではない。私はお前を愛している」
「だったら何故、キスをしない!」
ジョシュアは声を張り上げた。押し寄せる不安を吹き飛ばそうとオリバーを責める。
「好きならキスしたいだろ?! なのに、この状況でも顔色一つ変えないほうが変だ!」
「お前が今までどんな女と付き合ってきたかは知らん。だが、私は付き合ってもいないのに簡単にキスをするような男ではない。この前のは気が動転して起っただけだ」
「くそっ」
ジョシュアはオリバーの胸ぐらを掴み、一緒にベッドに倒れ込んだ。先程とは逆の体勢。全体重をかけられて引っ張られたオリバーがジョシュアの両サイドに手をつく形で唇の接触を免れた。
「好きなんだろ?」
「ああ」
「だったら──」
「好きだからできない。分かってくれ」
「……分からない」
「ジョシュア……」
必死に愛やその先にある行為の意味を見出そうとするジョシュアは悔しそうな顔をする。
「分かるわけがない。俺は好きでもないやつとキスもできる。セックスだって。だったら好きならもっとやりたいと思うのが普通じゃないのか?」
「ジョシュアは私を愛しているのか?」
ジョシュアが身体を強ばらせる。その上に覆い被さるオリバーは頭を振った。
「私の一方的な想いなのだろ? そんな相手を無下にするような安直なキス、私にはできない」
再び身体を離そうとするオリバーの首にジョシュアはしがみついた。
「やっぱり嘘なんだな」
「嘘ではない。何度も言う。私はジョシュアを愛している。キスもセックスもいつかはしたい。でも、それは今ではない」
「嘘だ。好きならキスなんて簡単に──」
自論を突き通そうとするジョシュア。オリバーの愛を確かめる彼なりの唯一の方法だったが、オリバーは心から愛しているが故にキスをできないでいた。
(今してしまえば、私も他の女達と同じだ。このままジョシュアが愛に気づかず、一時の快楽任せの関係になってしまう)
オリバーは必死に耐えていた。
だが、不安の絶頂を迎えた男がそれを簡単に崩した。
「ッ?!」
冷静を装うオリバーの唇にジョシュアが荒々しくキスを押し付けた。そのまま激しく舌を侵入させ、ワインの芳醇な香りを排除するかのように自身の舌を暴れさせる。
「オリ……バー……」
名前に「キスを返せ、俺が好きなら」という想いをのせジョシュアは幼馴染を呼ぶ。
「んっ……ッは、離せ、ジョシュア!」
理性を保とうとオリバーはジョシュアを拒もうとする。それがさらにジョシュアを煽り、キスを激しくしていく。
とうとう──
「なあ?」
ジョシュアが糸を引きながら唇を離し、オリバーを見上げる。
「勃起してるだろ?」
せめぎ合う本能を言い当てられ、オリバーは逃げ場をなくしていく。
あまりにもクールな幼馴染にジョシュアは眉間のシワを深くした。トイレの鏡に移る自分を睨みつける。
(今まで俺を好きな女は頬を染め、目を潤ませ分かりやすかった。なのに──)
「あいつはいつも通りだ。どうせ俺の事を好きだなんて嘘なんだろ。幼馴染の延長線上か……やはり、労働上の……それに、あいつにはリリアンだっている。もし本当に好きなのだとしても……」
──愛はいつか無くなる
「愛なんて信じない。不確かで曖昧でそんなもの存在しない。恋をしている人間は己によってユートピアにでもいるんだろ」
苦しくなる胸の鼓動に合わせ、ジョシュアは鏡に触れる指に力を込めた。
仕事の愚痴を零していた時はいつものジョシュアで、賛同するオリバーに安心感を抱いていた。しかし、こうもすぐに不安定になる。
「あいつから離れないと……いや、それはもう失敗した。だったらどうしたらいいんだ」
弱いジョシュアと強いジョシュアが入れ代わり立ち代わり思考を支配する。
そして今は、弱いジョシュアだった。
「ダメだ。今は……甘えたい……俺はいつから二重人格のようになったんだ」
ジョシュアはオリバーへの愛にまだ気づくことなく、弱い己を引きずってレストランへと戻った。
ちょうど給仕がオリバーと何かを話していて、オリバーは困ったように目尻を釣り上げていた。
「どうかしたのか?」
給仕が一礼をする。着席しているオリバーが「クローズの時間だそうだ」と言った。しかしテーブルの上の皿はまだメインディッシュのままだ。
「それで……部屋に食事の続きを運んでくれるそうだが。どうする?」
「部屋?」
「サイモン社長が宿泊用の部屋まで確保してくれているらしい」
給仕がすかさず「この寒空の中、ご帰宅は大変でしょう。アルコールで良い気分のところに水を刺さぬようにとのサイモン様からの気遣いです」と告げた。
サイモンの気遣いにジョシュアは直ぐに頭を回転させた。
「部屋まで頼む」
ジョシュアの言葉は、これから二人きりの夜を意味していた。
(これでオリバーが本当に俺が好きなのか試してやる)
ちらりとオリバーを見るが、彼は顔色変えずに移動の支度を始めていた。
「……」
ジョシュアは予期せぬほど心が落胆し、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
*
サイモンがとっていた部屋は、前にオリバーが泊まっていた部屋より広かった。セミダブルのベッドが二つ、四人がけのソファーに、ソファーより少し小さなテーブルは大理石でできている。
給仕がコース料理の残りを部屋に運び込むのをジョシュアはソファーに座って見つめていた。オリバーは手伝っている。給仕は断っていたが、それでもオリバーは手伝っていた。その様子がやはりジョシュアとの関係が労働上のものではないかとの疑いを強めてしまう。
「では、ごゆっくり」
給仕が出ていくと、ジョシュアは勢いよく立ち上がった。
それなのにオリバーは相変わらず涼しい顔をしている。
「デザートから食べようか? 冷たいうちのほうが……おいっ!」
ジョシュアはスプーンをもつオリバーの腕を掴んだ。金属が軽い音を立てて絨毯の上に落下し、それと同時にオリバーはベッドに押し倒された。
「ジョシュ……ア」
ジョシュアに跨られ、オリバーは言葉が出なかった。ようやく見せた動揺に満足したジョシュアは弱気だった自分を捨て、急に強気になる。
「キスしようか」
オリバーの唇に親指を這わせ、「俺が好きならできるだろ?」と偉そうに言う。女を誘う時と同じ文句にオリバーは──
「遠慮しておく」
──断った、はっきりと
そしてジョシュアの胸をグイッと押す。
「この前のは理性を失っていただけだ。もう二度とあんな不手際は起こさない。キスはきちんと付き合ってからだ」
冷たく言い放つオリバーにジョシュアの中の疑念が大きくなっていく。
「はっ。やっぱり嘘なんだろ? 俺が好きだなんて」
「嘘ではない。私はお前を愛している」
「だったら何故、キスをしない!」
ジョシュアは声を張り上げた。押し寄せる不安を吹き飛ばそうとオリバーを責める。
「好きならキスしたいだろ?! なのに、この状況でも顔色一つ変えないほうが変だ!」
「お前が今までどんな女と付き合ってきたかは知らん。だが、私は付き合ってもいないのに簡単にキスをするような男ではない。この前のは気が動転して起っただけだ」
「くそっ」
ジョシュアはオリバーの胸ぐらを掴み、一緒にベッドに倒れ込んだ。先程とは逆の体勢。全体重をかけられて引っ張られたオリバーがジョシュアの両サイドに手をつく形で唇の接触を免れた。
「好きなんだろ?」
「ああ」
「だったら──」
「好きだからできない。分かってくれ」
「……分からない」
「ジョシュア……」
必死に愛やその先にある行為の意味を見出そうとするジョシュアは悔しそうな顔をする。
「分かるわけがない。俺は好きでもないやつとキスもできる。セックスだって。だったら好きならもっとやりたいと思うのが普通じゃないのか?」
「ジョシュアは私を愛しているのか?」
ジョシュアが身体を強ばらせる。その上に覆い被さるオリバーは頭を振った。
「私の一方的な想いなのだろ? そんな相手を無下にするような安直なキス、私にはできない」
再び身体を離そうとするオリバーの首にジョシュアはしがみついた。
「やっぱり嘘なんだな」
「嘘ではない。何度も言う。私はジョシュアを愛している。キスもセックスもいつかはしたい。でも、それは今ではない」
「嘘だ。好きならキスなんて簡単に──」
自論を突き通そうとするジョシュア。オリバーの愛を確かめる彼なりの唯一の方法だったが、オリバーは心から愛しているが故にキスをできないでいた。
(今してしまえば、私も他の女達と同じだ。このままジョシュアが愛に気づかず、一時の快楽任せの関係になってしまう)
オリバーは必死に耐えていた。
だが、不安の絶頂を迎えた男がそれを簡単に崩した。
「ッ?!」
冷静を装うオリバーの唇にジョシュアが荒々しくキスを押し付けた。そのまま激しく舌を侵入させ、ワインの芳醇な香りを排除するかのように自身の舌を暴れさせる。
「オリ……バー……」
名前に「キスを返せ、俺が好きなら」という想いをのせジョシュアは幼馴染を呼ぶ。
「んっ……ッは、離せ、ジョシュア!」
理性を保とうとオリバーはジョシュアを拒もうとする。それがさらにジョシュアを煽り、キスを激しくしていく。
とうとう──
「なあ?」
ジョシュアが糸を引きながら唇を離し、オリバーを見上げる。
「勃起してるだろ?」
せめぎ合う本能を言い当てられ、オリバーは逃げ場をなくしていく。
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