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最終章 松田要と佐久間仁
第三話 佐久間仁とミスをする部下
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飲み会の後、ホテルで身体を重ねたきり、再び仁と要がベッドを共にすることはなかった。
同じ家に住んでいるのに、夜は離れて暮らしているような状況。晩御飯が終わり、要が食器を洗っているうちに、仁は自室に篭ってしまう。
様子見がてらコーヒーを持っていくと、背筋の伸びた背中が集中を物語っている。微動だにせず、微かに上下する肩。伸びた腕はその先の忙しなく動く指に繋がっている。
「おつかれ」
それだけ言うと、要はペンギンのイラストの載った青いマグカップを置いた。視線は相変わらずパソコンで「ありがとう」と口だけが機械的に礼を紡ぐ。
駄々を捏ねたい気持ちを抑え、要はキッチンへと戻る。湯気がのぼる赤いマグカップ。イラストのペンギンはハートを抱きしめている。
「お前はいいよなぁ」
恋人を抱きしめたい気持ちを抑えて、要はコーヒーを飲み干した。そして寝支度を整え、扉の向こうから「おやすみ」と言うと「うん」とだけ、返事が来た。
自室に戻った要はイヤホンをスマホに接続する。
慣れた様に指を液晶の上で動かす。
「どっちにすっかなぁ……こっちかなぁ……」
要の指の下では2つのお気に入り動画が並んでいた。
「これは昨日世話になったしな」
昨夜見た動画、それは黒髪のサラリーマン同士のAVだった。
タイトルが『ツンデレ黒髪リーマンのデレ』だ。もう何を意識しているかは丸わかり。愛知に出向になった際にお世話になり続けたそれは未だにお気に入りだ。
そして最近、もう1つお気に入りが増えた。
「……ふっ」
タイトルを心の中で読んで、欲が溢れかける。
──『堅物上司のエッチな御奉仕』
要の今1番のお気に入りだ。
4月の激務で仁が相手をしてくれない間の友達になっている。
タップすると動画が再生される。スマホを胸の上にひっくり返し、目を瞑る。
要は仁以外の男の身体を見ても勃起しない。だが、お預けを食らった若い身体は欲を吐き出そうと、動画の音声を仁の声に変え、脳内で堅物上司を仁の姿と重ねる技術を身につけた。
『山田くん、会議室に来てくれない?』
堅物上司の声がする。
せめて山田でなく松田であってほしかったと要はいつも思っている。
『はい、部長』
そして部長でなく主任であってほしかったとも。
しかし若くして部長になった男の声色は仕事中の仁とにている。
もちろん……
『ちょっと、聞いてる?』
口にする言葉もだ。
冒頭は部下の山田が仕事のミスをして、部長に呼び出されるシーン。部長の身体に興味がある山田は、密室で興奮を高める。様子のおかしい山田を叱責した部長が冷たい言葉を投げかけた瞬間、山田の想いが溢れて部長を会議室のテーブルに押し倒してしまう。
『部長、いい尻してますね』
戸惑う部長の声、布の擦れる音。
現実ならばここで仁の蹴りが飛ぶだろう。
動画の中の部長は『上司にこんなことして許されるとでも?』『やめろ!』などと言いつつ、山田に翻弄されていく。
普通ならば『もう我慢出来ないの!』となるのが定番だが、堅物上司はプライドが高く、
『手の早い部下には再教育が必要だね』
と言って、山田の性器にしゃぶりつくのだ。そして理性の切れた山田に結局犯され、トロトロにされていくという内容だ。
それを仁と必死に重ねる。
(フェラなんて絶対してくれねーし、何より今は触れさえしてくれねーからな)
せめて脳内だけでもと、要は自身の性器を扱きながら、瞼の裏で会議室の淫らな行為を妄想した。
『山田君、もうこんなに先走り垂らして……いけない子だね』
『部長こそ、物欲しそうな顔してますよ? ぶち込んであげましょうか?』
いよいよ、挿入シーン。要は性器を握りしめた。
『まって……まだ、っぁああ!』
『くあっ、部長のなか、あつ、い』
(あーくそ、仁、エロいな。激しく突き上げたい。もっと喘がせてー)
手の動きが早くなる。
脳内の仁はテーブルの上で要に揺さぶられている。
『いっ、ああ……山田君の……大きくて……んあっ!!』
『部長の中も締め付けが凄い』
「……なめ」
『だって……気持ちいいから』
『今度は自分で腰振ってください』
「かっ……」
堅物上司が山田に跨り、いよいよクライマックス。
その時──
「か! な! め!」
ハッと目を開けた要。
その視界には……
「か、堅物上司!!」
仁がいた。
堅物上司と呼ばれ眉間にシワを寄せている。
「はぁ?」
「ち、違う! ってか、お前入ってくんなよ!」
慌てて掛け布団で露わになったはち切れんばかりの股間を隠した。恥ずかしすぎて全身を覆い尽くしたい気分だったが、その前に仁が書類を突き出してきた。
「ミスあるんだけど」
要が昼に提出した書類だ。
それを鼻先に突きつけられる。
「明日の11時までに直して再提出して」
職場でなら「松田君、ここの訂正お願いできる?」なのに、恋人の前の方がツンが酷い仁は、今が1番怖い。
「は、はい」
要は濡れた手で書類を受け取ってしまう。それに眉間のシワを深くした仁が、布団に隠れた股間を一瞥して鼻を鳴らした。
「時間厳守ね」
そう言って扉をピシャリと閉めた。
言わずもがな、要は達することができなかった。
同じ家に住んでいるのに、夜は離れて暮らしているような状況。晩御飯が終わり、要が食器を洗っているうちに、仁は自室に篭ってしまう。
様子見がてらコーヒーを持っていくと、背筋の伸びた背中が集中を物語っている。微動だにせず、微かに上下する肩。伸びた腕はその先の忙しなく動く指に繋がっている。
「おつかれ」
それだけ言うと、要はペンギンのイラストの載った青いマグカップを置いた。視線は相変わらずパソコンで「ありがとう」と口だけが機械的に礼を紡ぐ。
駄々を捏ねたい気持ちを抑え、要はキッチンへと戻る。湯気がのぼる赤いマグカップ。イラストのペンギンはハートを抱きしめている。
「お前はいいよなぁ」
恋人を抱きしめたい気持ちを抑えて、要はコーヒーを飲み干した。そして寝支度を整え、扉の向こうから「おやすみ」と言うと「うん」とだけ、返事が来た。
自室に戻った要はイヤホンをスマホに接続する。
慣れた様に指を液晶の上で動かす。
「どっちにすっかなぁ……こっちかなぁ……」
要の指の下では2つのお気に入り動画が並んでいた。
「これは昨日世話になったしな」
昨夜見た動画、それは黒髪のサラリーマン同士のAVだった。
タイトルが『ツンデレ黒髪リーマンのデレ』だ。もう何を意識しているかは丸わかり。愛知に出向になった際にお世話になり続けたそれは未だにお気に入りだ。
そして最近、もう1つお気に入りが増えた。
「……ふっ」
タイトルを心の中で読んで、欲が溢れかける。
──『堅物上司のエッチな御奉仕』
要の今1番のお気に入りだ。
4月の激務で仁が相手をしてくれない間の友達になっている。
タップすると動画が再生される。スマホを胸の上にひっくり返し、目を瞑る。
要は仁以外の男の身体を見ても勃起しない。だが、お預けを食らった若い身体は欲を吐き出そうと、動画の音声を仁の声に変え、脳内で堅物上司を仁の姿と重ねる技術を身につけた。
『山田くん、会議室に来てくれない?』
堅物上司の声がする。
せめて山田でなく松田であってほしかったと要はいつも思っている。
『はい、部長』
そして部長でなく主任であってほしかったとも。
しかし若くして部長になった男の声色は仕事中の仁とにている。
もちろん……
『ちょっと、聞いてる?』
口にする言葉もだ。
冒頭は部下の山田が仕事のミスをして、部長に呼び出されるシーン。部長の身体に興味がある山田は、密室で興奮を高める。様子のおかしい山田を叱責した部長が冷たい言葉を投げかけた瞬間、山田の想いが溢れて部長を会議室のテーブルに押し倒してしまう。
『部長、いい尻してますね』
戸惑う部長の声、布の擦れる音。
現実ならばここで仁の蹴りが飛ぶだろう。
動画の中の部長は『上司にこんなことして許されるとでも?』『やめろ!』などと言いつつ、山田に翻弄されていく。
普通ならば『もう我慢出来ないの!』となるのが定番だが、堅物上司はプライドが高く、
『手の早い部下には再教育が必要だね』
と言って、山田の性器にしゃぶりつくのだ。そして理性の切れた山田に結局犯され、トロトロにされていくという内容だ。
それを仁と必死に重ねる。
(フェラなんて絶対してくれねーし、何より今は触れさえしてくれねーからな)
せめて脳内だけでもと、要は自身の性器を扱きながら、瞼の裏で会議室の淫らな行為を妄想した。
『山田君、もうこんなに先走り垂らして……いけない子だね』
『部長こそ、物欲しそうな顔してますよ? ぶち込んであげましょうか?』
いよいよ、挿入シーン。要は性器を握りしめた。
『まって……まだ、っぁああ!』
『くあっ、部長のなか、あつ、い』
(あーくそ、仁、エロいな。激しく突き上げたい。もっと喘がせてー)
手の動きが早くなる。
脳内の仁はテーブルの上で要に揺さぶられている。
『いっ、ああ……山田君の……大きくて……んあっ!!』
『部長の中も締め付けが凄い』
「……なめ」
『だって……気持ちいいから』
『今度は自分で腰振ってください』
「かっ……」
堅物上司が山田に跨り、いよいよクライマックス。
その時──
「か! な! め!」
ハッと目を開けた要。
その視界には……
「か、堅物上司!!」
仁がいた。
堅物上司と呼ばれ眉間にシワを寄せている。
「はぁ?」
「ち、違う! ってか、お前入ってくんなよ!」
慌てて掛け布団で露わになったはち切れんばかりの股間を隠した。恥ずかしすぎて全身を覆い尽くしたい気分だったが、その前に仁が書類を突き出してきた。
「ミスあるんだけど」
要が昼に提出した書類だ。
それを鼻先に突きつけられる。
「明日の11時までに直して再提出して」
職場でなら「松田君、ここの訂正お願いできる?」なのに、恋人の前の方がツンが酷い仁は、今が1番怖い。
「は、はい」
要は濡れた手で書類を受け取ってしまう。それに眉間のシワを深くした仁が、布団に隠れた股間を一瞥して鼻を鳴らした。
「時間厳守ね」
そう言って扉をピシャリと閉めた。
言わずもがな、要は達することができなかった。
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