狂った天秤 落ちぬ砂時計

ベンジャミン・スミス

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第1章 第100代ジョル=シュナ

第1話 退位した神

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 頭からローブを被った青年の額には、玉粒のような汗が浮いた。神の街コツァーニシティーを通り過ぎてすぐ、息が上がり始め、体力のない青年は息を整えようと木の下に腰を下ろす。
 視界の右には白い壁で統一された建物が並ぶ神の街コツァーニシティー。さらに丘を登ればエンタシスで囲まれた簡素ながらも威厳のある神殿ペタラルルディオンがある。
 名残惜しそうに右から左へと視線を移す。
 左にはクリーム色や茶色──土を思わせる色彩の石壁の家が並ぶ町。まだ標高の高いここから眺めると、赤茶色の煉瓦の屋根が並んでいて、異種の街リーザシティーの入り組んだ迷路の路地を教えてくれる。

「まだまだか……」

 青年の年齢は20歳。
この国では働き盛りの年齢だが、寿命がすぐに迫る男にとっては老人が山を下っているのに等しい。何より、この20年、神輿の上か、神殿の中だけの生活だった為、運動と呼べるものをしたことがなかった。

「だが、急がねば。人が待っている」

 初めて抱く使命感で身体を奮いたたせ、青年は腰を上げた。それから数刻の後、ようやく麓へと到着する。その時には既に、膝は震え、歩いただけの身体には酸素が足りていなかった。

「へ、びの男に……会わない……と……」

 ぎこちなく「へび」と言いながら、青年は地に膝をついた。「苦しい」と言いながら掌で地面の砂を握りしめる。

──ジャリ

 砂を踏み締める音がして視線を少し上げる。朦朧とした視界に白いゆったりとしたズボン、そして裾から覗く先端の尖った革靴が映り込む。その瞬間、脳内で

『ジョル=シュナ様!!』

と民衆の懇願する声と、見上げる顔が駆け巡る。今まで人の上にたち、人々の頭と恍惚な表情しか見てこなかった男が、初めて汚れた履物と視線があった瞬間だった。この状況に腹の底が煮えたぎる。

(なんだこれは?!)

 初めて抱く感情に青年は飛び起きた。だが、その瞬間全ての力を使い果たし、再び地に伏せる。

「大丈夫か?」
「私に気安く……話し、かける……な……」

 青年に伸ばされた手。その手には不思議な模様。弧を描き、それが重なっている。神殿の巫女たちが教えてくれた蛇の男の見た目に一致する。
 ようやく約束の人に会えた青年は、そのまま意識を手放してしまった。
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