騎士は碧眼と月夜に焦がされて

ベンジャミン・スミス

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第四章 熟さぬ果実

第四話 醒める夢

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——ジュルッ。

「うあっ……ブライアンッ」

 秘部には触れず、ブライアンはルーカスの雄を咥え込んだ。そして卑猥な水音を鳴らし始める。

「私を抱いてください」
「くっ、無理だと言って……あっ……いるだろ!」
「頷くまで止めませんよ」

先端を舌で刺激し、ルーカスの身体が快楽で反る。一度口を離し、そんなルーカスを見下ろしたブライアンが低い声で

「もちろんイくことも許しません」

と、強制的に主導権を握ろうとする。
こんな時だけ簡単に主従の関係を取っ払う話し方のブライアンにルーカスの心臓は跳ね上がる。

「卑怯だぞ」

 しかしルーカスも負けるわけには行かなかった。まだ果実の液が付着した指をズプリと秘部に差し込んだ。

「君がしてくれないなら、自分でする」
「いけません」

鋭い碧眼が覆い被さってくる。
それと同時に、ルーカスの両手を捕らえ、頭上で組ませる。そのまま両手首を左手で押さえつけ、右手でルーカスの雄を扱いた。

「ッあ、はぁ……んあっ」

太腿を滑り込ませ、ルーカスの足を広げ扱きやすくする。
どこからどうみてもブライアンが襲い、そして挿入するかのような格好。しかし、彼はルーカスに「抱く」と言わせる為に、緩急をつけながら快楽を与える。

「どうなさいますか?」

覆い被さられ、近くなった顔が真面目に問いかける。
ルーカスは歯を食いしばり首を横に振る。

「そうですか」

親指で裏筋をスッとなぞる。優しく、そして二回目は強く。

「んんっ……あっ…くっ」

体勢が悪く咥えることは出来ない。しかし、手で丹念に扱き、そして寂しそうな唇にはあえてキスを落とさない。

「ブライアン……」

キスを求めて、ルーカスが目を細める。

「またしてくれないのか?」

逢瀬では、それを咥えた後の口でキスをすることはなかった。ブライアンが汚れているからと断り続けたのだ。愛撫も今の様に一方的な物だけで、ルーカスはブライアンのそれに触れた事すらない。
今思えば、完璧なまでの主従関係の延長線上で行われている行為だった。
だが、今は違う。

「断る必要はもうないだろ」
「そうですね。でも、貴方が抱いてくれるまで口付けもお預けです」

意地悪そうに微笑むブライアン。

「さあ、どうなさいますか?」

唇にキスはしないのに、耳輪にキスを落としながら囁く。
ルーカスが喉を鳴らす音が聞こえる。

「ブライアン」
「はい」

堕ちたと思った。
だがルーカスの瞳には相変わらず強い意志が籠ったまま。

「君に抱いてほしい」

ブライアンの口から我慢していた溜息が全て漏れてしまった。

「はああ。本当に困ったお人だ」
「な?!そんなに呆れなくてもいいだろ!」

もうこうなるとルーカスは梃でも動かない。ブライアンが折れるしかなかった。

「分かりました。でも、本当にいいのですね?」
「問題ない。君に辛い思いをさせるくらいならば」

何処までも強く、そして優しい男に、ブライアンは薄く口を開いた。

「貴方って人は……」

そしてようやくキスを落とした。
触れるキスから、徐々にお互いの唇を押し付ける様に。苦しくなったルーカスが解放された腕をブライアンの背中に回す。
手から滑り落ちた果実から果汁を取り出し、ブライアンはそれをルーカスの秘部に塗り付けた。
 ビクンと肩を震わせ、回された腕に力が籠る。秘部は人差し指を押し返し、硬くなっている。

「力を抜いてください」

しかし未だ緊張しているルーカス。
それをどうにか解そうと、耳輪に舌を這わせた。

「いっ……んぁあ!」

弱いところを刺激され、顔を逸らしたルーカス。しかし耳輪が舐めやすくなっただけで、さらなる刺激に悶える事になった。
 あまりの気持ちよさに腰から力が抜けていく。

「っつ……ん……ふっあっ……っああ!!」

——ズプッ

ブライアンはルーカスの力が抜け柔らかくなったそこに人差し指の先端を差し込んだ。
 そして入り口を撫でる様にして広げていく。奥に入れず、先をクイクイと動かし小刻みに刺激した。

「っ?!」

 初めての感触に腰を捻り逃げようとするが、ブライアンがそれを許さない。

「まだ、これからですよ」

と、今以上の快楽を予言する言葉を囁く。
その瞬間、秘部がひくつき、キュウっと指を締め付けた。そしてそれに抵抗するようにブライアンは二本目を挿入し中で不規則に動かし始める。

「痛くないですか?」
「大丈夫……だ、だから……もっと、してく、れ」

潤んだ瞳がブライアンを見上げる。
焚火のせいで本当に泣いているようだ。
逞しい騎士の弱弱しい姿は下腹部を疼かせる。

「艶めかしい。どれだけ私を煽れば気が済むのですか」

深く挿入された二本の指が中で暴れ狂い、再びルーカスの雄を咥える。先走りとまだ奥に秘めた欲を吸い取るように舐め上げる。

「ああっ!」

口内でさらに膨張する雄は限界を迎えようとしていた。そしてブライアンのそれも痛いほど張っていた。だが、やはり躊躇ってしまう。
 ブライアンの心の葛藤に気が付いたのか、ルーカスが吐息の隙間から必死に声を絞り出す。

「はあ……あっ……ブライアン」
「……」
「君が……欲しい……」

 手を伸ばし、馬をあやす様にブライアンの柔らかい髪を撫でた。
残った理性は攫われ、指を抜き、そこに自身のそれをあてがう。

「ルーカス」

眼下でその時を待つ愛しい男に声をかける。
静かに頷いたルーカス。
それを合図に強張ったルーカスの太ももを支えながら、深く沈める。
 やはりまだきつい。
一旦腰を引こうとするが、すでに逃がさぬようルーカスの足の中に閉じ込められていた。

「本当に困ったお人だ」

本日何度目か分からない言葉を吐いて、グッと力を込めた。

「ああ! ……んあ、あっ……、ッ!」

 締め付けで顔をしかめてしまう。しかしそれ以上の幸せにブライアンは激しいキスをルーカスに振らせた。
 ルーカスも痛みに耐えながら、ようやく繋がれた充実感に自然と体の力が抜けていく。それでも腕だけはしっかりブライアンを包み込み、どれだけ欲していたかを伝える。

 横で燃え上がる炎が消えるまで、二人はお互いの熱をぶつけ合った。
 終わった頃にはお互いの身体はドロドロで、真っ暗にも関わらず、小川で水浴びをした。
 そして次は月明りの下でもう一度お互いを求めあい、野宿先に戻った時には月が眠りにつく刻だった。

まだ浮遊感が抜けない脳内で、慣れた手つきのブライアンの姿を思い出す。
仮面の蜜月を過ごしてきた時もだが、男を落とすには十分すぎるテクニック。
何処で身につけたのか、それを聞きたくて口を開こうとしたが無理だった。
気持ちの良い疲労感が限界を迎え、柔らかい草の上で二人は同時に目を閉じた。

——ガサガサッ。

 奥の方で音がした。茂みをかき分けるような音にルーカスは目を覚ます。
空を見上げると木々の隙間から紺と水色の色彩が覗いていた。眠りについてからかなりの時間が経ったようだ。

「もうすぐ夜明けか」

——ガササ、ガサ。

再び音がする。
きっと野ウサギが罠にかかったのだと思った。まだ寝息を立てているブライアンの横を静かに通り過ぎ、仕掛けておいた罠の方へ向かった。

「?」

罠は無事だった。

「逃げたか?」

まだ音の主が近くにいるかもしれないと、野宿している場所からさらに離れる。

——ガサササッ。

右から音がした。ルーカスが右を向くより先に、音の正体が茂みから現れる。

「動くな」
「?!」

真っ黒なローブを全身に纏った人間。声で男だと分かる。腰の短刀に手を伸ばそうとしたが、指を動かした瞬間、首元にヒヤリとした硬い物が触れた。

「動くなと言っているだろう」

ローブの男は二人いた。後ろから現れた男によって、首を人質に取られてしまった。

「……」

視線だけを動かす。
前と後ろに一人ずつ。声を出せばブライアンを巻き込みかねない。

「分かった。従う」

短刀に伸ばそうとした手を上げる素振りを見せたら、観念したと勘違いした後ろの男が首元から少し切っ先を離した。
 ルーカスはそれを見逃さなかった。

——カンッ!

と、手首に仕込んでいる金属のあて具で剣を弾いた。弾かれた方は、その反動で後ろに仰け反った。もう一人はルーカスに突進してきたが。それを紙一重で交わしブライアンが寝ている方角とは逆の方へ走った。
 後方から追いかけてくる気配がする。どうやらブライアンの存在には気が付いてないみたいだ。このまま自分に引き寄せて巻いてしまえば問題ない、そう勝利を確信し警戒を怠ったのがいけなかった。

「ぐああ!」

 わき腹に激痛が走り、倒れ込んだ。
ドサッと転がる大きな石。そして倒れるルーカスの視界にブーツが映る。
 三人目がいたのだ。

「二人だと思っただろう」

後ろから追いついた二人がルーカスの上にのしかかる。

「くそっ。離せ!」

勿論男たちは聞いていない。
再び首に切っ先を突き付けられて、ルーカスは口を閉じた。
 背中で腕を縛り上げられる。そして男たちがここまで乗って来たであろう馬の一頭に乗せられる。

「暴れるな!」
「無茶をいうな! 縛られているのに上手く乗馬できるわけがないだろう!」

勿論縛られたままの乗馬など騎士のルーカスには朝飯前。本当は暴れるふりをして短刀を地面に落としたのだ。

(ブライアン、形見だ。受け取ってくれ)

 幼いころから愛用している幾何学模様の柄が特徴的な短刀。

「行くぞ、ルーカス・ブレジストン」

名前を呼ばれ、「やはりか」と、ため息が漏れた。
一領主が逃亡を図って追手が来ないわけがない。

 馬のいななきが響き、森の外へ駆けだす。森林地帯を抜けるとすっかり太陽が顔を出しており、その朝陽が痛いほど刺さる。
 これが現実だと言わんばかりの、憂鬱な朝だ。
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