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第十一章 Past
第五話 あの日の花火
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春人はアルバートの家で夕食をご馳走になり、食後のティータイムを楽しんでいた。ソファーでアルバートの膝枕に頭を預け読書をする。時折、紅茶を含んでは微笑み、またアルバートの膝に戻る。当の本人は春人が誕生日にあげた万華鏡を覗いている。
下から見上げるとまだ嬉しそうにクルクル覗いていた。
「楽しい?」
「ああ。とても美しいよ。何度見ても飽きない。あの日見た花火を思い出すよ」
「そういえば今年もあるね花火大会!」
万華鏡を覗くのをやめ、春人の前髪を撫でつけて「行こうか」とアルバートは誘うが春人は本を閉じて天井をジッと見た。
「見たいけど、やっぱり一緒にいるところ職場の人に見られるとやばいよね?」
研修生の頃ならともかく、いち平社員と管理職が花火大会に二人でいるところを見られれば確実に怪しまれる。
「それにこの前の白石さんの告白で、アルバートに恋人がいるって広まってるんだよね」
「良い事ではないか。ついでに君に恋人がいる事も広まって欲しいものだ。しかし、それなら私と二人でいるところを見られるのはあまりよろしくないな。言い訳の仕様がない。そうだ、うちで見るかい?」
「見えるの?」
「見えるらしい」
春人はぴょんと飛び跳ね、ベランダの窓へ駆け寄った。外は暗いが門司と海の向こうの山口県の光で海がキラキラとしている。
「この家を契約する時に言われた。だから少し家賃が高いのだ」
「そんなに花火見たかったの?」
「君と二人きりで鑑賞できるし、なによりあの時は急いでいたからね。早く君のそばに帰りたくて。即決だったよ」
「ふ、ふーん」
窓にはにやけるのを抑える春人の顔が映っている。アルバートはそれに気がついていないのか、また万華鏡の中を覗きだした。
「また君と花火が見れるのだな」
嬉しそうに笑いながらアルバートはずっと万華鏡の中を覗いていた。そして窓ガラスには微笑む春人が映っていた。
◇ ◇ ◇
花火大会の日。
春人は仕事終わりにアルバートの家に向かった。開始時刻が迫り部屋の電気を暗くして二人でベランダに出る。
夜空には花火より先に黄色の欠片が瞬き、春人の心情を表す様に光り輝いていた。
「晴れてよかったね!」
「ああ。出店もいっぱいだな」
ベランダからはいつものキラキラした海と出店の明かりも見える。出店の周りは人が沢山いてここから見ると蟻の行列のようだ。
「すごい人だ」
「ねー、迷子になりそう!」
「……たしかに」
「どうして僕をみるのさ! いっとくけど僕は迷子になんてなりません」
「さあ、どうかな」
とクスクス笑うアルバートはいつもより笑顔が多い。そのまま春人を引き寄せ額にキスを落とした。
「いつもと違うね」
「ん? そうかい?」
「うん。なんか楽しそう。」
「君と花火が見られるからじゃないかな。仕事が忙しくてデートが出来ていなくて本当に申し訳ない」
「でも家であってるじゃん!」
「それだけではつまらないだろ?」
その言葉に、先日のイギリス人の顔が重なる。
「一緒にいられたら僕はそれでいいの!」
「ありがとう」
そしてまた一つキスが落ちたのと逆向きに、花火が打ち上げられて大輪の花を咲かせた。
それを背景に二人は少し長いキスをして、他の人達より少し遅れて花火に視線を移した。
「うわぁ……綺麗だね」
「君と見ると格別だ」
「べ、別に変らないよ」
ふと春人が横を見上げると、いつかのように花火を見上げるアルバートの横顔があった。花火より美しく端正なそれは、水色を中心に咲く黄色い花で、そこからあふれ出る色気は春人を興奮させる。
(やばい……)
慌てて視線を落とすと、そこには手すりの上で組まれている太い腕があった。春人とは違う皮膚の色で、日焼けなどしない。その逞しい腕に抱きつくことは外ではほとんどなく、ここが人目につかないのを良い事に指をそっと伸ばした。
(硬い……それにひんやりしてて気持ちがいい)
筋肉をなぞり、指の腹で感触を楽しむ。
(血管の上は少し温かいや……)
血管を辿って甲を撫で、浮き出た骨を撫でる。アルバートの手の骨格が好きな春人には堪らない。
(触りすぎたかも)
と、そっと離した手を、遊ばれていたアルバートの手が握り返す。
「わっ!」
「もう終わり?」
「気づいてたの?!」
「気づかない方がおかしいだろ。おいで」
アルバートが春人を後ろから抱きしめる。大きな身体とベランダの手すりに挟まれてしまった春人はにすっぽりと収まっている。
「春人」
と耳元でいつもの大好きな低い声に囁かれ、身震いする。
「な、何?」
「君の情熱的な視線でおかしくなりそうだ。ここで抱いてもいいかい?」
アルバートにしては理性が切れるのが早い。
「珍しいね」
「可愛らしくはしゃぐ君のせいだよ」
本当は最初から我慢していたのだ。春人がアルバートに見惚れる前から、もうすでにアルバートの中で花火は撃ちあがっていた。
骨格の良い指が春人のベルトを外し、中をまさぐる。
「ンッ」
勃起し始めた春人の性器を包み込み、どんどん熱くしていく。
「んんっ」
「横の人もベランダで見てるかもしれないから静かにね」
後ろから春人の口の中に指を入れる。
「んふっ」
口に入れた人差し指と中指で歯をなぞり、舌に絡める。最初はアルバートから指を舌に絡めていたのにだんだん春人の方から絡めてくる。絡めるのをやめても止まらない春人は舌を更に指に絡めてくる。
クチュ、ピチャ
「春人……吸い付いて」
チュウッと音が鳴る。
「可愛いね。おっと」
アルバートのポケットの中でスマートフォンが振動する。
——ブー、ブー、ブー
止まらない振動。電話だ。
仕方なく指を抜いてスマートフォンをポケットから救出し液晶画面を見た。
(赤澤さん……)
「もしもし、お疲れ様です」
『おっ、お疲れアルバート! 今いいか?』
「問題ない」
終わったと安心しきっている春人。しかし、もう片方の手は春人の性器を握ったままだ。それを上に擦りあげる。
——グチュッ
「あっ!」
身震いする春人を他所に、管理職二人は話を続ける。
『来週から出張に行ってくれないか? 急に悪い。伝え忘れていて』
「出張内容は?」
春人のそれを扱く動きを早くする。
「んふっ!」
気持ち電話と春人との距離を開ける。
『本社に新しいプロジェクトの報告だ。ついでに会議にも何回か出てもらうハメになりそうだから、期間は3週間ってところだな。明日、詳しいこと書いた資料渡す!』
(3週間か。少し長いな。また寂しくさせてしまうのか)
感じている恋人の背中を目を細めながら見つめる。
しかしNOと言えるわけもなく。
「OK」
『よろしく頼むわ!』
返事をして電話を切る。
「……」
しばらく春人に会えない寂しさから、アルバートは不埒な事を考え付いた。一瞬迷いはしたものの、ポケットに直そうとしたスマートフォンの液晶画面をタップする。
そして録音アプリの赤いボタンを押した。
そして胸ポケットにしまう。
「春人、感じてた?」
「電話……だれ? あっ! やんっ」
「赤澤さん。大丈夫、聞こえていないよ」
服の裾から手を滑り込ませ、胸の突起を探す。少しでも触れるとビクっと分かりやすく春人の身体が跳ね、握られている下半身が膨らむ。
「あっ、きもちぃ……」
「もっと欲しいかい?」
「欲しい。ちょうだい……アルの」
「花火は?」
「アルの、ほしい。ここでいいからいれて」
流石にここで挿れると横に声が聞こえてしまう可能性がある。
「おいで」
春人を部屋の中へ促す。カーテンを全開にして窓に手をつかせる。ひんやりしている窓に溜息を零した春人の臀部を優しく撫でる。
「これなら花火も見られるだろ?」
小さな花火が上がるのと同時に春人の臀部が揺れる。その中ではアルバートの指が動き回っており、黒い瞳に中で花火が濡れていく。
しかし消える事のないそれは燃え上がり、春人の呼吸を荒くし、アルバートの興奮も高めていく。
「はあ……ああ、あん」
窓ガラスが白くなり始め、クーラーが効いている部屋も溶かす。
「いやらしいね春人……」
「ちが……う……」
意味のない否定をした恋人を後ろから抱きしめる。
「実は来週から出張なんだ」
「ん、ふあ……へ?」
普通の会話をしながらも中で暴れる指に悶えながら春人が寂し気な瞳で振り向く。
「さっきの電話?」
「ああ。すまない、3週間ほどあける」
「えっ? そんなに?」
「寂しい?」
遠距離の時の春人なら、このあと返ってくる言葉は「大丈夫!」だ。
しかしもう違う。
「寂しいよ……アル」
泣きそうな声で訴えてくる春人。しかし声にはどこか快楽による艶も含まれている。
「私も寂しい。だから今、いっぱい抱かせて。君の声も沢山聞かせてくれ」
「僕も、沢山したい」
お互い気持ちをぶつけ合う。アルバートは指の動きを激しくして春人を喘がせる。
「んっ! あんっ、あっ!」
「いい声だね。可愛いよ」
「そんなこと……言わないでぇ」
物ほしそうに腰を振る春人に「ほしい?」と問うと、恥ずかしそうに「……うん」と期待の籠った声が返ってきた。
しかし今日のアルバートは少し意地が悪い。それは胸ポケットで起動しているあれせい。
「言って……」
言葉の意味が理解できず、春人は戸惑う。
「欲しいって言って」
一瞬間があく。
「……う……だい」
「聞こえない」
「アルの……うだい」
「……」
アルバートがわざとらしく指を抜き、身体を離す。
「……ちょうだい」
「何を?」
アルバートのちょうだい! ……あぁっ!」
太いものが春人の中に侵入してくる。いつのまにかしっかりと解されていたそこは、アルバートの性器を簡単に受け入れ、締め付ける。
「んあッ……あ、もっと……もっと欲しいッ」
「いい子だ」
春人の額に大きな手をあてがい、窓にを押し付けるように突き上げる。あてがう手を引き寄せると、グチュッと卑猥な音を鳴らして更に奥へと潜り込む。
「愛しているよ」
「ん、僕も……アルバートが好き」
「愛している?」
「……恥ずかしい」
「好きは言えるのに?」
「なんか違うんだ……」
「ならば、余計に言ってほしい」
「でも……」
「言わないと……」
腰をひき、性器を引き抜く。
「抜かないで!」
「だったら言ってくれ」
観念したのか下を俯きながら春人が呟く。
「……してる」
「ん?」
「愛してる! 愛してるアルバート! だから、もっとちょうだい‼」
「いいよ。ほらッ」
グリッと捻じ込まれた性器は、すぐに激しいピストンを始め、春人の中を掻き回す。
「ひぅ! あっ、やん、んんッ……もう、ぁぁぁああ、ダメえ!」
啖呵を切ったように春人が愛の言葉を連ね出す。
「好き! 好き! アルバート! 愛してる! あっ! んっ! ……あっ!」
限界が近いのか春人が口を開けたまま震えだす。それと同時にアルバートが春人の臀部を掴み、突き上げた。
「イッ、あああッ!」
ぐったりと窓にもたれた春人を後ろから出来締め、アルバートも中に己の欲を全て吐き出した。二人で荒い呼吸をしながら余韻に浸っていると、春人が恨めしげな眼で見てくる。
「アル、いつゴムつけてるの?」
「君が感じている間に」
「……」
ズルリと抜かれた性器の先には避妊具に溜まる白い欲が風船のようになっていた。
それを一瞥し、口を尖らせながら春人は座り込んだ。
「また中に出してくれなかった」
「私からはしないよ」
「分かってるけどさ……っていうか、今日のアルはよく喋るね」
「ん?」
「最中に。いつもより喋ってた! そしていつも以上に意地悪だった」
「たまにはこういうのもいいだろ?」
そうしてスマートフォンをいじっているアルバートに春人は肩を落とす。
「また仕事の電話?」
「いや、違う」
春人に黙って録音停止のボタンをタップするアルバート。何が行われていたか知らない春人は、本棚を見つめていた。
その先には去年の誕生日に贈った万華鏡がある。
もう花火は終わり、万華鏡しか夏の花を見る事はできない。
「3週間ってことは……誕生日にこっちにいないの? どこに出張に行くの?」
「本社だ。九月には帰ってくるよ」
「寂しいな……」
細くなった目元にキスをする。
「沢山電話しよう。出張が終わればすぐに会いに行くよ。浮気せずに待っていてくれ」
「浮気なんてしませんよーだ!」
べーっと出た舌に吸い付き、アルバートは真っ暗な夜空が広がるベランダに向かった。
そして白煙が上がる。
横に行こうとすると「身体に悪いから」と制されるが、「3週間分くっついとく」といって春人は強引に横に並んだ。
その白煙の苦い香りに欲情し、今度はベッドで艶のある花火が上げられてしまう事も知らずに。
下から見上げるとまだ嬉しそうにクルクル覗いていた。
「楽しい?」
「ああ。とても美しいよ。何度見ても飽きない。あの日見た花火を思い出すよ」
「そういえば今年もあるね花火大会!」
万華鏡を覗くのをやめ、春人の前髪を撫でつけて「行こうか」とアルバートは誘うが春人は本を閉じて天井をジッと見た。
「見たいけど、やっぱり一緒にいるところ職場の人に見られるとやばいよね?」
研修生の頃ならともかく、いち平社員と管理職が花火大会に二人でいるところを見られれば確実に怪しまれる。
「それにこの前の白石さんの告白で、アルバートに恋人がいるって広まってるんだよね」
「良い事ではないか。ついでに君に恋人がいる事も広まって欲しいものだ。しかし、それなら私と二人でいるところを見られるのはあまりよろしくないな。言い訳の仕様がない。そうだ、うちで見るかい?」
「見えるの?」
「見えるらしい」
春人はぴょんと飛び跳ね、ベランダの窓へ駆け寄った。外は暗いが門司と海の向こうの山口県の光で海がキラキラとしている。
「この家を契約する時に言われた。だから少し家賃が高いのだ」
「そんなに花火見たかったの?」
「君と二人きりで鑑賞できるし、なによりあの時は急いでいたからね。早く君のそばに帰りたくて。即決だったよ」
「ふ、ふーん」
窓にはにやけるのを抑える春人の顔が映っている。アルバートはそれに気がついていないのか、また万華鏡の中を覗きだした。
「また君と花火が見れるのだな」
嬉しそうに笑いながらアルバートはずっと万華鏡の中を覗いていた。そして窓ガラスには微笑む春人が映っていた。
◇ ◇ ◇
花火大会の日。
春人は仕事終わりにアルバートの家に向かった。開始時刻が迫り部屋の電気を暗くして二人でベランダに出る。
夜空には花火より先に黄色の欠片が瞬き、春人の心情を表す様に光り輝いていた。
「晴れてよかったね!」
「ああ。出店もいっぱいだな」
ベランダからはいつものキラキラした海と出店の明かりも見える。出店の周りは人が沢山いてここから見ると蟻の行列のようだ。
「すごい人だ」
「ねー、迷子になりそう!」
「……たしかに」
「どうして僕をみるのさ! いっとくけど僕は迷子になんてなりません」
「さあ、どうかな」
とクスクス笑うアルバートはいつもより笑顔が多い。そのまま春人を引き寄せ額にキスを落とした。
「いつもと違うね」
「ん? そうかい?」
「うん。なんか楽しそう。」
「君と花火が見られるからじゃないかな。仕事が忙しくてデートが出来ていなくて本当に申し訳ない」
「でも家であってるじゃん!」
「それだけではつまらないだろ?」
その言葉に、先日のイギリス人の顔が重なる。
「一緒にいられたら僕はそれでいいの!」
「ありがとう」
そしてまた一つキスが落ちたのと逆向きに、花火が打ち上げられて大輪の花を咲かせた。
それを背景に二人は少し長いキスをして、他の人達より少し遅れて花火に視線を移した。
「うわぁ……綺麗だね」
「君と見ると格別だ」
「べ、別に変らないよ」
ふと春人が横を見上げると、いつかのように花火を見上げるアルバートの横顔があった。花火より美しく端正なそれは、水色を中心に咲く黄色い花で、そこからあふれ出る色気は春人を興奮させる。
(やばい……)
慌てて視線を落とすと、そこには手すりの上で組まれている太い腕があった。春人とは違う皮膚の色で、日焼けなどしない。その逞しい腕に抱きつくことは外ではほとんどなく、ここが人目につかないのを良い事に指をそっと伸ばした。
(硬い……それにひんやりしてて気持ちがいい)
筋肉をなぞり、指の腹で感触を楽しむ。
(血管の上は少し温かいや……)
血管を辿って甲を撫で、浮き出た骨を撫でる。アルバートの手の骨格が好きな春人には堪らない。
(触りすぎたかも)
と、そっと離した手を、遊ばれていたアルバートの手が握り返す。
「わっ!」
「もう終わり?」
「気づいてたの?!」
「気づかない方がおかしいだろ。おいで」
アルバートが春人を後ろから抱きしめる。大きな身体とベランダの手すりに挟まれてしまった春人はにすっぽりと収まっている。
「春人」
と耳元でいつもの大好きな低い声に囁かれ、身震いする。
「な、何?」
「君の情熱的な視線でおかしくなりそうだ。ここで抱いてもいいかい?」
アルバートにしては理性が切れるのが早い。
「珍しいね」
「可愛らしくはしゃぐ君のせいだよ」
本当は最初から我慢していたのだ。春人がアルバートに見惚れる前から、もうすでにアルバートの中で花火は撃ちあがっていた。
骨格の良い指が春人のベルトを外し、中をまさぐる。
「ンッ」
勃起し始めた春人の性器を包み込み、どんどん熱くしていく。
「んんっ」
「横の人もベランダで見てるかもしれないから静かにね」
後ろから春人の口の中に指を入れる。
「んふっ」
口に入れた人差し指と中指で歯をなぞり、舌に絡める。最初はアルバートから指を舌に絡めていたのにだんだん春人の方から絡めてくる。絡めるのをやめても止まらない春人は舌を更に指に絡めてくる。
クチュ、ピチャ
「春人……吸い付いて」
チュウッと音が鳴る。
「可愛いね。おっと」
アルバートのポケットの中でスマートフォンが振動する。
——ブー、ブー、ブー
止まらない振動。電話だ。
仕方なく指を抜いてスマートフォンをポケットから救出し液晶画面を見た。
(赤澤さん……)
「もしもし、お疲れ様です」
『おっ、お疲れアルバート! 今いいか?』
「問題ない」
終わったと安心しきっている春人。しかし、もう片方の手は春人の性器を握ったままだ。それを上に擦りあげる。
——グチュッ
「あっ!」
身震いする春人を他所に、管理職二人は話を続ける。
『来週から出張に行ってくれないか? 急に悪い。伝え忘れていて』
「出張内容は?」
春人のそれを扱く動きを早くする。
「んふっ!」
気持ち電話と春人との距離を開ける。
『本社に新しいプロジェクトの報告だ。ついでに会議にも何回か出てもらうハメになりそうだから、期間は3週間ってところだな。明日、詳しいこと書いた資料渡す!』
(3週間か。少し長いな。また寂しくさせてしまうのか)
感じている恋人の背中を目を細めながら見つめる。
しかしNOと言えるわけもなく。
「OK」
『よろしく頼むわ!』
返事をして電話を切る。
「……」
しばらく春人に会えない寂しさから、アルバートは不埒な事を考え付いた。一瞬迷いはしたものの、ポケットに直そうとしたスマートフォンの液晶画面をタップする。
そして録音アプリの赤いボタンを押した。
そして胸ポケットにしまう。
「春人、感じてた?」
「電話……だれ? あっ! やんっ」
「赤澤さん。大丈夫、聞こえていないよ」
服の裾から手を滑り込ませ、胸の突起を探す。少しでも触れるとビクっと分かりやすく春人の身体が跳ね、握られている下半身が膨らむ。
「あっ、きもちぃ……」
「もっと欲しいかい?」
「欲しい。ちょうだい……アルの」
「花火は?」
「アルの、ほしい。ここでいいからいれて」
流石にここで挿れると横に声が聞こえてしまう可能性がある。
「おいで」
春人を部屋の中へ促す。カーテンを全開にして窓に手をつかせる。ひんやりしている窓に溜息を零した春人の臀部を優しく撫でる。
「これなら花火も見られるだろ?」
小さな花火が上がるのと同時に春人の臀部が揺れる。その中ではアルバートの指が動き回っており、黒い瞳に中で花火が濡れていく。
しかし消える事のないそれは燃え上がり、春人の呼吸を荒くし、アルバートの興奮も高めていく。
「はあ……ああ、あん」
窓ガラスが白くなり始め、クーラーが効いている部屋も溶かす。
「いやらしいね春人……」
「ちが……う……」
意味のない否定をした恋人を後ろから抱きしめる。
「実は来週から出張なんだ」
「ん、ふあ……へ?」
普通の会話をしながらも中で暴れる指に悶えながら春人が寂し気な瞳で振り向く。
「さっきの電話?」
「ああ。すまない、3週間ほどあける」
「えっ? そんなに?」
「寂しい?」
遠距離の時の春人なら、このあと返ってくる言葉は「大丈夫!」だ。
しかしもう違う。
「寂しいよ……アル」
泣きそうな声で訴えてくる春人。しかし声にはどこか快楽による艶も含まれている。
「私も寂しい。だから今、いっぱい抱かせて。君の声も沢山聞かせてくれ」
「僕も、沢山したい」
お互い気持ちをぶつけ合う。アルバートは指の動きを激しくして春人を喘がせる。
「んっ! あんっ、あっ!」
「いい声だね。可愛いよ」
「そんなこと……言わないでぇ」
物ほしそうに腰を振る春人に「ほしい?」と問うと、恥ずかしそうに「……うん」と期待の籠った声が返ってきた。
しかし今日のアルバートは少し意地が悪い。それは胸ポケットで起動しているあれせい。
「言って……」
言葉の意味が理解できず、春人は戸惑う。
「欲しいって言って」
一瞬間があく。
「……う……だい」
「聞こえない」
「アルの……うだい」
「……」
アルバートがわざとらしく指を抜き、身体を離す。
「……ちょうだい」
「何を?」
アルバートのちょうだい! ……あぁっ!」
太いものが春人の中に侵入してくる。いつのまにかしっかりと解されていたそこは、アルバートの性器を簡単に受け入れ、締め付ける。
「んあッ……あ、もっと……もっと欲しいッ」
「いい子だ」
春人の額に大きな手をあてがい、窓にを押し付けるように突き上げる。あてがう手を引き寄せると、グチュッと卑猥な音を鳴らして更に奥へと潜り込む。
「愛しているよ」
「ん、僕も……アルバートが好き」
「愛している?」
「……恥ずかしい」
「好きは言えるのに?」
「なんか違うんだ……」
「ならば、余計に言ってほしい」
「でも……」
「言わないと……」
腰をひき、性器を引き抜く。
「抜かないで!」
「だったら言ってくれ」
観念したのか下を俯きながら春人が呟く。
「……してる」
「ん?」
「愛してる! 愛してるアルバート! だから、もっとちょうだい‼」
「いいよ。ほらッ」
グリッと捻じ込まれた性器は、すぐに激しいピストンを始め、春人の中を掻き回す。
「ひぅ! あっ、やん、んんッ……もう、ぁぁぁああ、ダメえ!」
啖呵を切ったように春人が愛の言葉を連ね出す。
「好き! 好き! アルバート! 愛してる! あっ! んっ! ……あっ!」
限界が近いのか春人が口を開けたまま震えだす。それと同時にアルバートが春人の臀部を掴み、突き上げた。
「イッ、あああッ!」
ぐったりと窓にもたれた春人を後ろから出来締め、アルバートも中に己の欲を全て吐き出した。二人で荒い呼吸をしながら余韻に浸っていると、春人が恨めしげな眼で見てくる。
「アル、いつゴムつけてるの?」
「君が感じている間に」
「……」
ズルリと抜かれた性器の先には避妊具に溜まる白い欲が風船のようになっていた。
それを一瞥し、口を尖らせながら春人は座り込んだ。
「また中に出してくれなかった」
「私からはしないよ」
「分かってるけどさ……っていうか、今日のアルはよく喋るね」
「ん?」
「最中に。いつもより喋ってた! そしていつも以上に意地悪だった」
「たまにはこういうのもいいだろ?」
そうしてスマートフォンをいじっているアルバートに春人は肩を落とす。
「また仕事の電話?」
「いや、違う」
春人に黙って録音停止のボタンをタップするアルバート。何が行われていたか知らない春人は、本棚を見つめていた。
その先には去年の誕生日に贈った万華鏡がある。
もう花火は終わり、万華鏡しか夏の花を見る事はできない。
「3週間ってことは……誕生日にこっちにいないの? どこに出張に行くの?」
「本社だ。九月には帰ってくるよ」
「寂しいな……」
細くなった目元にキスをする。
「沢山電話しよう。出張が終わればすぐに会いに行くよ。浮気せずに待っていてくれ」
「浮気なんてしませんよーだ!」
べーっと出た舌に吸い付き、アルバートは真っ暗な夜空が広がるベランダに向かった。
そして白煙が上がる。
横に行こうとすると「身体に悪いから」と制されるが、「3週間分くっついとく」といって春人は強引に横に並んだ。
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――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
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