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第十二章 Major Strategy
第四話 アテレコ大作戦
しおりを挟む「どうなってるんだ、アルバート。月嶋、今日の予定とか言ってた?」
「今日は予定があるとだけ言っていたが、この事だったのか」
「二人でカフェに入っていくぞ」
「行くか」
掴んだパーカーの皺を伸ばすように、アルバートが村崎の背中を押した。
押された村崎は驚いた顔で振り向く。
「えっ? 行くのか?」
「もちろんだ」
「さっきは乗り気じゃなかったじゃないか」
「状況は変わったのだ」
「英国紳士は捨てないんじゃなかったのか?」
「イギリスのことわざにこんなことがある。誠実・慈愛・自由・勇気の4つの徳目のうち、3つ欠くものは紳士と呼ぶに値しない。ストーカーという行為に誠実さは感じないが、他の徳目は欠けてはいない。だから問題ない」
「意味が分からない。まあでも行こう。俺も気になる。」
2人が入っていった店を覗く。楽しげに注文をしたあと、頼んだものを持って席へ向かうところだった。
「春人が紅茶を飲んでいれば少しは救われるかもしれない。しかしさすがに店の中までは無理か」
「いや、テラスからなら見れるんじゃないか? アルバート、先に行ってろ。さすがに店内に入ると目立つだろ」
「頼む」
息がぴったりだ。
村崎は何食わぬ顔で店内へ、アルバートは外から回り込みテラスへ向かう。ショッピングモールの駐車場に面しているテラスは、排気ガスや情景を崩さないため、鉢植えがいくつも並んでいて、そこには大きな広葉樹が植えられていた。隙間から差し込む日差しのおかげで外でも寒くはないが、ティータイムを楽しんでいる人はいない。
中をチラリと見る。ここからでは春人は背中しか見えない。席が傾いているお陰で桜の手元は春人に隠れることなく見えている。
桜から見ればテラスの二人は横向きなのでばっちり見えてしまうが、村崎の正体さえ知られなければ問題ないだろうと、アルバートはベストな席に座った。
その村崎はトレーに注文したものを乗せてちょうど2人の横の通路を通り抜けようとしていた。2人は村崎に見向きもしない。当の本人は異様なくらい背筋を伸ばして歩いている。
あのような変装でもバレないのが不思議だ。ある意味ここには不釣合な格好で逆に目立つというのに。
「俺の奢り。紅茶でいいよな?」
「ありがとう」
村崎がアルバートに紅茶を、そして手前にコーヒーを起きながら、目じりを下げる。
「ここで一つ訃報だ」
「どうした」
「月嶋はコーヒーだったぞ」
アルバートはその場に項垂れた。幸先の悪いスタートがコーヒーの湯気と共に上がる。
ソワソワと席につく村崎本人は気が気でないようでこちらを見向きもしない。
「あまり見ると視線でバレてしまうのでは?」
「何話してるんだろう」
「私の忠告を聞いていないな。ふむ、流石にここでは聞こえないだろう」
「落ち着いてるな」
「それなりに驚いてはいる」
アルバートは春人の浮気を疑ってはいない。
何故なら、待ち合わせで春人が桜に向けていた顔はそんなものではなかったからだ。
(彼の片想い中の顔は何度も見てきた)
自分には向けられることのなかった笑顔は、いつも横顔ばかりで、目の前にいる村崎に向けられていた。だから分かるのだ。
(あれは恋をしている目ではない)
しかし興味はある。
何故、村崎の娘と春人がいるのか。そもそも二人に面識があるのか分からず、目の前で中を凝視する父親に「二人は面識があるのだろうか?」と尋ねると、ようやくマスク姿の顔がアルバートに向けられる。
マスクを少しずらして、コーヒーを一口すすり、首を縦に振る。
「知ってるはず。桜が何回か会社に来た事があるから。オフィスまで弁当を届けて貰ったこともあるし」
「では初対面ではないのだな」
「ああ。でもここまで仲良くなる時間もないのも事実だ」
そしてマスクを定位置に戻した村崎は、また中を観察している。
「お弁当箱このサイズでもいい?」
「はっ?」
突然謎の単語を発した村崎にアルバートは紅茶に伸ばした手を止めた。
「いや、2人がどんな会話してるのか当てようと思って」
止めていた手をカップに伸ばし、紅茶を含みながら水色の視線だけ店内に向ける。
桜が手で丸を描いている。そして斜めでよく見えないが、村崎の位置からは春人が桜より大きなサイズの円を描いているのが見えた。
「えー、僕はこれくらい食べるなぁ。あいつ食いしん坊なのか?」
「二人前は平らげる」
「若いな。あああ、桜が笑ってる……なんだ、なんなんだ! 「も~月嶋さん食いしん坊!」かな? あいつの胃袋大丈夫か?」
「君の方こそ大丈夫か?」
談笑していた店内の二人。すると春人が手帳を取り出した。
また村崎がそこに声を乗せる。
「じゃ、今度の休みの日、お弁当もって出かける? なにぃ?! おい、良いのかアルバート! お前の恋人が……」
1人で当てっこをして、1人でツッコミを入れる村崎にアルバートはもう何も言わない。
中では二人が春人の手帳を覗き込んでいる。そして春人が何かを書き込み始めた。
「じゃ、この日にしようか。楽しみだなぁ」
村崎によると、どうやら彼らのピクニックの日は決まったようだ。
そして、急にガッツポーズをしだす桜に、少し落ち込んだ声で村崎は「楽しみだねピクニック。私、腕によりをかけてお弁当作るから」と声を乗せて、盛大な溜息をついた。
「もう止めたらどうだ?」
「えーでも……あっ、今度は桜が何かを出したぞ。あれはさっきの本屋の紙袋か?」
春人が手帳を直すと、今度は桜が本屋の紙袋から本を取り出した。それを春人に渡す。
「これ。月嶋さんにプレゼント」
しかし、春人は財布を取り出し、代金を支払う。
「ありがとう。でもお金は払うよ」
「どうやら違ったようだな」
だが予想がはずれたかどうか、村崎にはどうでも良かった。
——ダンッ‼
木製のテーブルに震えた拳が振り下ろされ、コーヒーが零れかけた。
「な、な、何しているんだ!」
「写真を撮っているようだな」
桜が春人を撮影しているのだ。そしてそれを見せている。
「村崎さん、是非あの写真を入手してほしい」
「これが浮気じゃなかったらな。あーもう我慢ならん。あれは確実に浮気だ。いくぞアルバート!」
村崎は、目を血走らせガタンッと椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がった。
「待ちたまえ」
アルバートはパーカーの袖を引っ張り必死に引き止める。
「私も驚いている。だが理性を失うな。御息女の前で格好悪い姿を晒すことになるぞ」
「そ、そうだな……」
それでも、村崎は立ったまま俯き、不安に瞳を揺らしていた。
*
「ね? こっち見てるでしょ?」
「うん。確かに……」
桜は春人の後ろのテラスからこちらをずっと眺める2人組に気付いていた。春人を撮影する振りをして撮られた写真には……
(アル、何してるんだろ……ていうか、もう一人は誰?)
「ずっと金髪さんがパーカーさんの袖を引っ張ってます。パーカーさん落ち込んでいますね! あっ、もしかして!」
桜の瞳が乙女のきらめきを見せる。
「ニット帽とマスクで分からなかったけど、パーカーさんは金髪さんの恋人では? もしかして今、別れ話の真際中なんでしょうか?」
(それが本当なら、この後アルバートはもう一回別れ話をしなきゃだね)
「あっ、パーカーさん席につきました。金髪さんがコーヒーを勧めています! ほら飲んで落ち着きたまえ。俺のおごりだぞ……ですかね?」
「え? どうだろ。僕が振り向くと見てるのばれちゃうしな……」
(アルが俺のおごりだぞって言ったら、僕なら噴いちゃうかも)
「仲直りできたらいいんですけど……月嶋さんみたいにラブラブカップルだったらいいですね!」
急に話が自分に戻り、春人はコーヒーを吹きかけた。
「げほっ、ごほっ!」
黒い水面を見つめる。
最近は紅茶をよく飲む様になったが、それはアルバートの淹れたてばかり。彼以外の紅茶を受け付けなくなり、こういう時は専らコーヒーになってしまった。
そして春人はその恋人の為に桜と今いるのだ。
「さっきの本、ありがとう。頑張るよ」
「はい! 恋人さんに素敵なお菓子を作ってあげてくださいね! でも、月嶋さん食いしん坊なんですね、あんな大きなホールケーキをペロリと食べれるなんて!」
と桜は大きな円を手で描いた。
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「何かあったらまた連絡してくださいね。さっき手帳に書きこんだ日なら、私あいてますから!」
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「え? あ、そうなんですけど……えーと……」
急に砂糖の空の紙容器をいじりだす桜。春人は何かを感じ取り、「砂糖取ってくる」と席を立って一人にした。
ついでに……
(もう一人は誰なんだ)
フリーコーナーで砂糖を取りながら、テラスをこっそり見る。アルバートとパーカーの人物はお互い見つめ合っている。その眼差しは険しい。そして、パーカーの男が一瞬店内を見た。
その顔の輪郭、髪の色、瞳の形、春人は見覚えがあった。
(僕だって伊達に片想いをしていたわけじゃない)
目に焼き付くほど、彼の目を見つめ尽くしていたあの新人の日々。
目を閉じても見えてくる彼の表情。
(あれは村崎部長だ。何してるんだろこんなところで)
謎が解けたところで、席に戻ると、桜は覚悟を決めた顔をしていた。
「月嶋さんに相談があって、今日は呼び出しました」
「どうしたの?」
「実は……父の事なんですけど……」
その父親なら後ろにいる。だが、直接話せない内容、かつその父親自身も娘に分からぬ姿でここにいるという事は、今2人を合わせるわけにいかない。
「村崎部長がどうかした?」
「あの……父の様子が最近変なんです」
「それは思う」
「え? やっぱり会社でも変なんですか?!」
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「いやそうじゃなくて……ん? 家で様子がおかしいの?」
「はい。最近、様子がおかしくて家でソワソワしてるし。休日もどこかに行ってるみたいなんです」
「行ってるみたい?」
「はい。私は部活や、その……たまにデートとかで家にほとんどいないんですけど、父もいないみたいで。帰ったら外着を着ていたり、出かけた形跡があったり」
桜はデートの部分が恥ずかしいのか少し口篭る。
しかし、村崎の行動の何がおかしいのか春人には全く分からない。
「村崎部長だって休日は出かけたりするでしょ? それとも今まではずっといたの?」
「いない日もありました! でも、どこに行ったか話してくれるし、お母さんも行先知ってるんです。でも最近は話してくれないし、お母さんも知らないって!」
(つまり村崎部長は子供や妻に言えない外出をしているということか。確実に今もしているけどね)
後ろを振り向きたい衝動を抑える。
「休日出勤してたりしますか?」
「えっ? どうだろう」
手帳を取り出し、ここ数ヶ月を見てみる。
春人は手帳に休日出勤した日などは書き込むようにしている。資料の提出締切の日に村崎がいないと困るので村崎の出張日なども記入している。
ここ数ヶ月、村崎は有給もとっておらず、普通に出勤している。
「僕が休日出勤した時にはいなかったと思うよ」
「そうですか。あの、本当にこんなことを聞いて申し訳ないですけど」
「?」
「職場で……父が……不倫とかないでしょうか?」
「村崎部長が? 絶対にない」
「正直、疑っていて。休日もいないし、様子はおかしいし、それにお母さんにも何も言ってないし。でもお母さんには言えないし、ましてや父に直接聞くわけにもいないから」
「なるほどそれで僕に聞いたのか。でも桜ちゃん、それだけは絶対にない」
「でも、もしそんなことしてたら……」
桜は握りこぶしを作り、怒りで震わせる。
「絶対に許さない。お母さんを悲しませたりなんかしたら、私!!」
「桜ちゃん、落ち着いて! 本当にそれだけはないから! 僕は村崎部長がとても家族を大切にしているのを知ってるよ!」
片想いしていたからそれは痛いほどわかる。彼ほど素敵な人間はいない。
「村崎部長は絶対に不倫なんてしない」
「でも、あの不審な行動や、言えない外出は何なのかな」
(不倫はしないけど、ストーカーはするみたいとは言えないしな……)
春人が悩んでいると、桜は「すみません取り乱して。少し席を外します」とお手洗いに立ったので、春人は後ろの2人に接触を試みた。
*
「追いかけないのか月嶋」
「追いかけてほしいのか?」
「嫌だ」
席を立った桜、そして残った春人の背中を見つめ、村崎は「あいつ桜を泣かせたな」と震えていた。
「君の見解では、春人は手帳を見て仕事を思い出しピクニックに行けなくなった。そして御息女は怒りで席を立ったで間違いないだろうか?」
「間違いないぞ」
「村崎さん、こっちを向きたまえ」
村崎とアルバートは向き合う。
「一度、落ち着こう。君が父親として心配なのは分かる。だが、それならもうここでコソコソせずに中に入ってはどうだ。このままでは不必要な誤解を生みそうだ」
とアルバートがもっともな事を言う。それに流石の村崎も「そうだな」と頷こうとしたが……
「その通りですよ」
と部下の、そして恋人の低い声が降ってきて、二人の肩は同時に跳ねた。
「春人……」
「月嶋……お前、こんなハンサムがいながら何しているんだ!」
と村崎は春人の肩を揺さぶった。
「え? ちょ? え? っていうか、村崎部長!」
「何だ! 言い訳は聞かないぞ!」
「不倫疑惑が出ていますよ!」
「え?」
と村崎は春人の肩を揺さぶるのを止めた。
頭がクラクラして目を回す春人。そしてその後ろには……
「お父さん!」
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「えっ? いや、あの、それは」
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「桜ちゃん、落ち着いて!」
「村崎さん、落ち着くんだ」
春人とアルバートで2人を落ち着かせる。
そこでようやく桜がアルバートの存在に気がつく。
「あ、あの、父のお知り合いですか? 不倫相手ではないですよね?」
「初めまして。お父上にはいつもお世話になっています。同僚のアルバート・ミラーです」
丁寧な自己紹介をするアルバート。その姿に見惚れていた桜だったが、すぐに意識は村崎に戻る。
「で? お父さんは職場の人とこんなところで、そんな格好で何してたの?」
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変装していた父親に混乱し、桜の何かが外れたのか一気にまくし立てる。
「この際だから言うけど、お父さん最近変だよ! 一体何してるの?! お母さんにも私達にも何も話さないし!」
ここが店内なら客の視線を一気に集めただろう。しかし、テラスかつ駐車場に面していたこともあり誰もこの小さな修羅場には気が付かなかった。
「まて。おかしいのはお前だろ桜」
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「ひとまず落ち着きましょう。それに、店内に2人の荷物がそのままになっている。取りに行くついでにこちらに移動してきてはどうだろうか?」
「そうだね、桜ちゃん行こうか」
「……はい」
二人が荷物を準備している間にアルバートは村崎に「親子で話したいなら席を外そうか?」と聞く。だが、村崎は重々しく椅子に座り「いてくれ」と力なくお願いした。
「情けない話だが、今の俺はすぐに理性を欠いてしまう」
呆れているだろうかとアルバートを見たが彼は笑っていた。
「君もやはり、親なのだな」
目を細めて笑うアルバート。歳を重ねて刻まれたであろう薄い皺が深くなる。なのに、同じ歳だとは感じられないくらいの綺麗で眩しい笑顔。けど村崎は、その言葉その笑顔の裏に子どもを成せない苦悩が見えたような気がした。
だが、その表情も、若い2人が戻ってきたことで引き締まる。
そしてアルバートの横に村崎、春人の横に桜という形で座り、長い沈黙が続いた。
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「月嶋とは付き合っているのか?」
というとんでもない質問に三人は「えっ?」「何だと?」「はい?」と言葉は違えど同じ反応を見せた。
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これには春人がすかさず否定をした。恋人の前で浮気を疑われ、この場の4人の関係図を修羅場化してしまう。
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「桜ごめん。お父さん、お前の様子が最近変だから心配で、そのス、ス……」
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それを察して隣のイギリス人が助け舟を出した。
「あなたの様子を伺っていたんですよ」
「そう、それだ!」
アルバートのお陰で村崎は犯罪者にならずに済んだ。
「じゃ、お父さんが最近家にいないのは」
「そういうことだ」
「お母さんにも秘密にして?」
「いや、さすがに母さんは知ってるよ。最初は止められてたんだけど、あまりに俺が家でソワソワするものだから、「じゃぁもう気が済むまでしてきたら?」って。お前が年頃の女性だって言うのは分かっている。でもやっぱり心配で。か、彼氏もできたわけだし」
「そうだったんだ……」
「本当に悪かった」
いくら子どもとはいえ、あとをつけていたというのは許される事ではない。隠すことも誤魔化すこともできたかもしれない。しかし村崎は全てを白状し、謝罪した。そしてそれは娘にもきちんと伝わった。
「私こそ疑ってごめんね」
と万事解決したかに思えたが、腑に落ちない事が一つだけある。
「今日、月嶋と会っていたのは何だったんだ?」
「それはね!」
パァっと桜の顔が明るくなる。しかし、春人は窮地に落とされ慌てふためいた。
「月嶋さん、仕事で忙しい恋人さんの疲れを癒すために……」
「待って、桜ちゃん!!」
止めようとする春人だったが、村崎に助け舟をだしたイギリス人が、春人に嬉しくない助け舟を桜に出した。
「ために? なんだろうか? 詳しく聞きたい」
春人がうらめしそうな顔でアルバートを睨みつける。
そんなのお構いなしに桜は続ける。
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「そ、そうか月嶋……頑張れよ」
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「ぜーったい、喜ぶよね! 彼氏にそんなことされたら嬉しくなっちゃうよ」
「うんうん、喜ぶぞ月嶋」
「間違いなくな」
と最後の声はいつもより高い。
全てがばれてしまった春人は暗い顔を村崎に向ける。
「これで一件落着ってことでいいんですかね?」
と、もうここから離れたそうにしている。
それに中年二人は苦笑いを受かべ、そして桜は全てが解決し嬉しそうな顔で席を立った。
春人だけは、去っていく村崎親子を見つめながら何度も溜息をつき、その後アルバートに「誰にお菓子を作るんだい?」と質問攻めにあい、何度も「知らなーい」と突っぱねた。
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