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第十五話 暗躍②
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職員室の窓から朝日が差し込んでくる。外では積もった雪が光を反射して輝いていた。こんな状況でなければ見とれていたかもしれない。
「見張り、ご苦労さん」
仮眠室から裕矢が出てきた。
「もう少し休まなくて平気?」
「神経が張り詰めちまって眠れねえよ。それに、そろそろ他の奴等も動き出すだろ。ところで、なにやってたんだ?」
「腕輪をどうにかできないかなって」
裕矢と見張りを交代してから、和はずっと考えていた。この腕輪を外すか、壊す方法を。機械仕掛けならと手首ごと水に漬けてみたが、腕輪は不気味に緑色のライトを点滅させたままだった。それくらいは対策済みと言うことだ。
「これさえ外れれば、スノーモービルで逃げることだってできるようになるでしょ?」
「運転には不安が残るけどな。まあそうでなくとも、これがあったら色々とやりづらくて仕方ねえ」
「理科室とかに行ったら、どうにかできる方法が見つかったりしないかな」
具体的な案があるわけではなかったが、ここで考えているだけではなにも進まない。
「とにかく、やってみねえことにはなにもわからねえな」
裕矢もそう思ったのか、立てかけていたバットを手に取った。
特別教室棟は第一校舎の四階と五階で、理科室は四階にある。職員室からは階段を昇るだけで、移動自体は難しくない。だが、どこに誰が潜んでいるかわからない以上、慎重に進まなくてはならない。二人は足音を殺して四階に昇った。
警戒しながら理科準備室に入る。あまり入る機会のない場所だ。中は雑然としていた。
裕矢は薬品棚を調べている。和は他の棚を調べることにした。電気に関わる道具があれば、腕輪を故障させることができないだろうか。棚を覆っている布を捲る。
瞬間、ぎらぎらと輝く目と目が合った。
思わず悲鳴を上げると同時に、棚の中に隠れていた人物が素早く這い出してきた。髪を染めた派手な女子生徒、綾部が言っていた二木という生徒のことを反射的に思い出す。
「和、離れろ!」
裕矢がバットを振り上げると同時に、二木が何かを投げた。耳が痛くなる程の破裂音。衝撃と動揺に、和は思わず尻餅をついた。その隙に二木は部屋から飛び出してしまった。
裕矢は無事だろうか、そう思って立ち上がろうとしたとき、右脚に激痛が走った。ふくらはぎに、金属片が深く刺さっている。床には血溜まりができており、辺りには刺さっているものと同じような金属片が散乱していた。金属片は薄く、自動販売機で売られているアルミ缶と同じ質感だった。恐らくアルミ缶の中に薬品かなにかを入れておいたのだろう。
「大丈夫か!」
「脚が……」
裕矢は和を抱き上げ、部屋を飛び出す。
「ごめんね、気をつけなきゃいけなかったのに……」
「俺も不注意だった、まさかあんな所に潜んでる奴がいるなんて……」
裕矢は階段を下りていく。一階に戻ると、保健室の前で立ち止まった。ドアに取りつけられた飾り窓に、人影が映った。
「誰かいるよ」
「大丈夫だ、多分、話が通じる方の人間だ」
裕矢はドアを静かにノックし、呼び掛ける。
「森山さん、俺です、永友です」
呼び掛けに応じて、扉の向こうから声がした。
「お前か、どうした」
「連れが深手を負ってるんです。手当させてもらえませんか」
「条件がある。ここには川崎が寝てる。川崎に絶対に手を出さないことだ」
川崎、という名前を聞いて、和は息を呑んだ。裕矢の顔も若干強張る。何せ、綾部を殺した張本人だ。
「……わかりました。約束します」
裕矢が言うと、引き戸が静かに開いた。やや色黒で、筋肉質な生徒だ。彼は裕矢に抱えられた和の脚を見る。
「結構な傷だな」
彼は二人を招き入れると、積極的に消毒液やガーゼを出してくれた。更に、和の脚にタオルを巻き、止血もしてくれた。
裕矢の手を借りて、刺さった金属片を抜く。かなりの激痛だったが、止血されていたおかげで手当はそれほど苦労せずにできた。
「あの、ありがとうございます。なんで、敵なのに良くしてくれるんですか?」
「森山さんは、俺の部活の先輩なんだ」
和が問い掛けると、裕矢がそう言った。男子生徒──森山は頷く。
「それに、俺も積極的に殺し合いがしたいわけじゃない」
「だから、川崎さんを?」
ベッドの上には、川崎が身を横たえて眠っていた。額に濡れたタオルが置かれているということは、熱があるのだろうか。
「いや、これは俺の個人的な事情だ。正直、どうしたらいいか、まだ悩んでる」
「悩んでる……?」
「死にたくはない。でも、川崎には生きて帰って欲しい。だからって、この状況を打開する方法なんて、なにも思いつかないんだ」
「森山さんと川崎は、同じ学年ですよね。付き合いが、長いんですか」
裕矢が森山に問う。
「そうだな。お互いに、小学生の頃から知ってる。それで、俺はガキのころからずっと、川崎の事が好きなんだ」
「見張り、ご苦労さん」
仮眠室から裕矢が出てきた。
「もう少し休まなくて平気?」
「神経が張り詰めちまって眠れねえよ。それに、そろそろ他の奴等も動き出すだろ。ところで、なにやってたんだ?」
「腕輪をどうにかできないかなって」
裕矢と見張りを交代してから、和はずっと考えていた。この腕輪を外すか、壊す方法を。機械仕掛けならと手首ごと水に漬けてみたが、腕輪は不気味に緑色のライトを点滅させたままだった。それくらいは対策済みと言うことだ。
「これさえ外れれば、スノーモービルで逃げることだってできるようになるでしょ?」
「運転には不安が残るけどな。まあそうでなくとも、これがあったら色々とやりづらくて仕方ねえ」
「理科室とかに行ったら、どうにかできる方法が見つかったりしないかな」
具体的な案があるわけではなかったが、ここで考えているだけではなにも進まない。
「とにかく、やってみねえことにはなにもわからねえな」
裕矢もそう思ったのか、立てかけていたバットを手に取った。
特別教室棟は第一校舎の四階と五階で、理科室は四階にある。職員室からは階段を昇るだけで、移動自体は難しくない。だが、どこに誰が潜んでいるかわからない以上、慎重に進まなくてはならない。二人は足音を殺して四階に昇った。
警戒しながら理科準備室に入る。あまり入る機会のない場所だ。中は雑然としていた。
裕矢は薬品棚を調べている。和は他の棚を調べることにした。電気に関わる道具があれば、腕輪を故障させることができないだろうか。棚を覆っている布を捲る。
瞬間、ぎらぎらと輝く目と目が合った。
思わず悲鳴を上げると同時に、棚の中に隠れていた人物が素早く這い出してきた。髪を染めた派手な女子生徒、綾部が言っていた二木という生徒のことを反射的に思い出す。
「和、離れろ!」
裕矢がバットを振り上げると同時に、二木が何かを投げた。耳が痛くなる程の破裂音。衝撃と動揺に、和は思わず尻餅をついた。その隙に二木は部屋から飛び出してしまった。
裕矢は無事だろうか、そう思って立ち上がろうとしたとき、右脚に激痛が走った。ふくらはぎに、金属片が深く刺さっている。床には血溜まりができており、辺りには刺さっているものと同じような金属片が散乱していた。金属片は薄く、自動販売機で売られているアルミ缶と同じ質感だった。恐らくアルミ缶の中に薬品かなにかを入れておいたのだろう。
「大丈夫か!」
「脚が……」
裕矢は和を抱き上げ、部屋を飛び出す。
「ごめんね、気をつけなきゃいけなかったのに……」
「俺も不注意だった、まさかあんな所に潜んでる奴がいるなんて……」
裕矢は階段を下りていく。一階に戻ると、保健室の前で立ち止まった。ドアに取りつけられた飾り窓に、人影が映った。
「誰かいるよ」
「大丈夫だ、多分、話が通じる方の人間だ」
裕矢はドアを静かにノックし、呼び掛ける。
「森山さん、俺です、永友です」
呼び掛けに応じて、扉の向こうから声がした。
「お前か、どうした」
「連れが深手を負ってるんです。手当させてもらえませんか」
「条件がある。ここには川崎が寝てる。川崎に絶対に手を出さないことだ」
川崎、という名前を聞いて、和は息を呑んだ。裕矢の顔も若干強張る。何せ、綾部を殺した張本人だ。
「……わかりました。約束します」
裕矢が言うと、引き戸が静かに開いた。やや色黒で、筋肉質な生徒だ。彼は裕矢に抱えられた和の脚を見る。
「結構な傷だな」
彼は二人を招き入れると、積極的に消毒液やガーゼを出してくれた。更に、和の脚にタオルを巻き、止血もしてくれた。
裕矢の手を借りて、刺さった金属片を抜く。かなりの激痛だったが、止血されていたおかげで手当はそれほど苦労せずにできた。
「あの、ありがとうございます。なんで、敵なのに良くしてくれるんですか?」
「森山さんは、俺の部活の先輩なんだ」
和が問い掛けると、裕矢がそう言った。男子生徒──森山は頷く。
「それに、俺も積極的に殺し合いがしたいわけじゃない」
「だから、川崎さんを?」
ベッドの上には、川崎が身を横たえて眠っていた。額に濡れたタオルが置かれているということは、熱があるのだろうか。
「いや、これは俺の個人的な事情だ。正直、どうしたらいいか、まだ悩んでる」
「悩んでる……?」
「死にたくはない。でも、川崎には生きて帰って欲しい。だからって、この状況を打開する方法なんて、なにも思いつかないんだ」
「森山さんと川崎は、同じ学年ですよね。付き合いが、長いんですか」
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