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闘技大会
その13
しおりを挟む「…でも、そんなことになってたんですのね」
神官の少女がどこか困った感じとも取れる雰囲気で、そうつぶやいた。
少女と黒衣の青年は闘技場に繋がる通路を離れ、誰もいないトーナメント表の貼ってあった場所へと戻ってきていた。
「ま…何も問題なさそうだし、俺としては別に構わないんだが…」
「いいえ、そんなわけにはいきませんの!」
青年はあまり興味なさげに答えるが、少女の納得は得られなかった。
「それに、あの人の戦い方はあまり褒めれたものじゃありませんの」
まださっきの大男への怒りは冷めきっていなかったのか、ぶつぶつ何か言っている。
青年は軽く息を吐き、少女の頭を右手で触る。
「じゃああいつと当たったらぶっ飛ばす、って事でいいか?。正直、俺も少しは思う事があるしな」
「む、また子ども扱いして…でも、分かりましたの。そこまで言うのなら、そちらはシェイドさんに任せますの」
ただ、と言いながら少女は顔を上げ、青年の顔を指さした。
「やりすぎは絶対ダメですのよ?」
青年は投げやり気味に「はいはい」と答える。
闘技場内に音響魔法によるアナウンスが響き渡る。
『お待たせしました。これより闘技大会2回戦を開始します』
アナウンスが終わるのを待たずに、観客席から興奮気味に「わー」っと歓声が上がる。
2回戦第一試合はルークと槍使いの戦いだった。
遠目からの槍の攻撃を左右に素早く身をかわし、隙を見つけて一気に近付くと目にも止まらないような速さで上下左右から剣撃を打ち込んでいく。
しばらくなんとか耐えていた槍使いだったが、とうとう攻撃を捌ききれなくなっていい攻撃をもらい転倒させられてしまう。
「…まいった」
槍使いは槍を手放すと、両手を上げる。
「…勝負あり!。勝者、ルーク選手!」
審判の声が闘場に響き、勝負の決着を告げると、また観客席から大歓声が上がった。
「お疲れさまでしたの。ルークさんはなんかすごく素早いんですのね?」
通路へと戻ってきたルークに、少女は声をかける。
「おう、ありがとな。次はあんた達の番だな。また派手なの期待してるぜ」
少女の横に居た黒衣の青年に声をかけると、通路の壁に背を預け、余程疲れたのかそのまま座りこむ。
「あーでも、やっぱ槍相手はきついな。もっとこう、上手く間合いも詰める方法がないもんかね…」
自分的には納得いってない戦いだったのかルークは顔の汗をぬぐいながら頭をかき、何やら考えている様に見える。
『続きまして2回戦第二試合を開始します。シェイド選手、ゲイダ選手。闘場へお願いします。』
「あ、シェイドさん、呼ばれましたの。今度こそちゃんとしてくださいですのよ?」
1回戦で散々文句を言われたらしく、どこかうんざりした雰囲気を漂わせながら、青年は闘場へと繋がる通路を進んでいった。
少し遅れて、あまり見ない形の槍を手に持った闘士が、少女とルークの前を通って闘場へと出ていく。
「あの方の持たれていたのは、なんか変な形の槍でしたのね。斧みたいな槍みたいな、不思議な形でしたの」
後ろに座るルークの方に顔を向け、「ね?」と少女は同意を求める様に話しかける。
(…あれ?。もしかしてオレ、解説役にさせられてないか?)
少し納得がいかないものの、神官だと武器への知識もそんなないだろう。
ここはやっぱり剣士のオレが教えてやるべきだろうと、尻の埃を手ではたきながら立ち上がる。
「あれは戦戟って呼ばれる複合武器、だな」
「…複合武器、ですの?」
ルークの予測通り、全く分からないといった感じで少女はこちらを見てくる。
「槍の部分で突く、斧の部分で薙ぐ、刃の部分で斬ると、一個の武器で色々やれるのが特徴だな」
ふんふんとうなずく少女がどの程度理解してるのかは分からないが、とりあえず話は続ける事にする。
「逆にあいつは大丈夫なのか?。槍と格闘なんてかなり厳しいと思うが?」
ルークが思っていた疑問を少女にぶつけると、んーと軽く考えたあと、あっけらかんと少女は答えた。
「大丈夫じゃないですの?。さっき、この後当たったらあの無礼者をぶっ飛ばしてくれるって言ってましたのよ?」
ここで言われてる無礼者とは、間違いなく1回戦でちょっといざこざのあったドルガの事だろう。
(…ん?って事は、トーナメント的にオレも負ける前提か?)
ルークはそんな疑問を持ちつつ少女を見るが、悪気はないのか少女は、不思議そうにこちらを見返してくるだけだった。
「…まぁいいさ」
諦め半分のルークは闘場の方に目を向けると、少し離れた闘場の中央では二人が既に向かい合っていた。
アナウンスが二人の事を紹介して、場を盛り上げている。
(さっきの試合を見るだけじゃ何も分かりませんが、うかつに攻め込まず確実にやるほうが良さそうですね。普通にやれば、相手が格闘だというのなら負ける要素はありません!)
ゲイダは目の前の黒衣の青年を見ながらそう考える。
1回戦開始即1撃で決めるというとんでもないことをした相手、いくら相性のいい格闘家相手だといって油断はならない。
(とりあえず距離を取り確実に削る、そして勝つ…よし!)
ゲイダは知らぬ間に、槍を持つ手に力がこもっていた。
審判が二人に「両者構えてっ」と合図をする。
相手は拳を握ると自然体で、ゲイダも両手で持った槍の切っ先で相手を牽制する様に構える。
『それでは、試合開始してください!』
アナウンスが響き、試合開始の打鐘が闘場に『ジャーン』と鳴り響いた。
だが闘場の二人の闘士に共に動きはなかった。
じわじわと様子を見あいながら距離を保ったまま、円運動をしている感じに見える。
(…すぐに殴りかかって来るかと思いましたが、とりあえず牽制は成功した様ですね)
ゲイダは相手の動きを見ながらそう納得する。
ここからは戦戟の攻撃範囲を活かして、どうしても接近しないといけない格闘家を確実に削ってゆく戦略だった。
もちろん大振りな攻撃はカウンターを取られて、1回戦の二の舞になるので絶対に厳禁だ。
ゲイダは慎重な性格なので戦い方に派手さはないが、性格とこの長物の武器というのが合うのか、その勝率は決して悪くない。
むしろ無謀な討伐クエストは決して受けずに、確実にこなしてくれるのでギルド内での評価も高い。
(…とにかく確実にやるべき事をやるだけです!)
ゲイダは油断なく槍を構えたまま、正面で拳を構える黒衣の青年を見るのだった。
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