テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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急転

その8

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通りすがる街人に教えてもらいつつ、神官の少女達はなんとかサンド=リヨンの冒険者ギルドへと到着した。

中央広場を挟んだはるか先には、サンド=リヨンの城がに鎮座している。


サンド=リヨンの冒険者ギルドは、ウィズ=ダムのそれより明らかに立派な作りで、建物自体も一回りは大きい。

中に入ると酒場と一緒になっているようで、食事をとる冒険者達で溢れていた。

少女と黒衣の青年の2人は奥のギルド受付カウンター前まで進むと、目の前の受付のお姉さんに声をかける。



「すいません、クエストの完了証を持ってきましたの」

少女が声をかけると、座っていた受付のお姉さんが爽やかな笑顔で応対してくれた。

銀髪で肩に辛うじて届く程度のボブ、そしてピンと伸びた独特の耳がある。

そのお姉さんは人間ではなかった───俗にいうエルフと呼ばれる種族だ。


そもそもこのサンド=リヨンの人口の半分はエルフという、エルフの国なのだ。

商売に疎いエルフは、そこに人間を混ぜて一大強国を作り上げていき、それがサンド=リヨンになったのだ。


エルフは基本的に運動能力に優れ、俊敏な動きや正確さなどは人間よりもはるかに高い。

ただ、種族的にあまり魔法は得意ではないようで、騎士団や弓団、騎馬団などを主に配置している。

魔法団も一応あるものの、神官等の回復職ヒーラーばかりで、俗にいう魔法使いはほとんどいない。



「…はい、確かに確認しました。何も問題もありません」

エルフのお姉さんはてきぱきと書類を処理すると、報酬を目の前に差し出してくる。

「こちらが今回の報酬となります。ポイントは加算しておきます。ありがとうございました」

一通り職務をこなすと、深くお辞儀をするエルフのお姉さん。

ウィズ=ダムの受付のお姉さんと違って、クールで受付けっぽいという気がする。

逆にウィズ=ダムの受付のお姉さんが多少(?)ズレてるだけかもしれないが、それはそれである。



冒険者ギルドの扉を出てすぐ、少女達は周囲が妙な赤い霧に薄く包まれていることに気付く。

そして何があったのか、周囲の人々が広場や通路のいたる所でに倒れていた。


青年の隣にいる少女も「なんだか急に眠くなってきましたの…」と目をこすり、必死に起きていようとしているが、そう長く持ちそうにはない。


「この霧…」

青年が周囲を見渡すと、何やら荷物を抱えて城から出てくる3人の人影を見つけた。

(…この霧の中で動けるヤツが城から出てくる、か)

既に眠ってしまったのか、膝から崩れ落ちた少女を俗にいうお姫様だっこで抱えると、青年はその人影を追って駆けだした。



「…本当に街中眠らせたのかよ」

先頭を行く人影がぼそりと声をあげた。

背中のリュックにはこぼれないばかりの貴金属らしきものが詰められていた。

腰ではガチャガチャと音を立てている、これまた意匠を凝らされた立派な宝剣を何本もぶら下げている。


その後ろから何も言わずついてくる二人の人影、こちらも同じように鞄を背負い、中には貴金属を詰め込み、高そうな短剣を何本も腰に差している。


「しかし、以外は好きにしていいとは、いったいこいつはどんだけのお宝なのかね?」

先頭を行く人影は人間の男性であった。

手に持ったひと際立派な小さな宝箱を見ながら、疑問を口に出す。


「アドル様、それだけは依頼者様に渡すようなっております。くれぐれも悪い事を考えませんように」

後ろの人影の内の一人が、先頭の男性へ言う。

極めて事務的で無機質な感じのしゃべり方であった。

「分かってるさリース。こんだけの事やれる相手だ、要らない事したらこっちの身が危ないしな」

アドルと呼ばれた男性は振り返ることもなく言葉を返す。


「でもでも、これだけあれば結構潤うヨー」

先ほど話していたリースと呼ばれた女性の横の人影から声がした。

その女性は健康的な短髪、服装は俗にいう盗賊シーフである。

ただ一つ、彼女の耳は長く尖っていた…つまりエルフだ。

「そうですねリオン…たしかにこれだけあれば、今期は大きな黒字となると思われます」

リースと呼ばれた女性…こちらも同じく、盗賊《シーフ》の服装のエルフである。

リオンと呼ばれた女性と違い、背中まで伸びた長髪が美しかった。

「おいおい、これは俺の小遣いだから、会社にはやらんぜ?」

ハッハッハと軽く笑いながらアドルは声をあげた。


驚くべきことに、会話中も3人は走ったままである。

それも、あれだけの荷物を抱えていながら、常人ならほぼ全力疾走くらいのペースを保っている。

3人ともそれなりに実力のある盗賊シーフであることが、これだけで見て取れた。



ぴたりとアドルが止まり、後ろの二人を手で止まれと制する。

その目の前では、地面から数体の人影が

その人影は手に剣や槍を持ち、古ぼけた鎧を着込んだ白骨───つまり骸骨兵スケルトンだった。


「チッ…旨い話だと思ってたんだけど、やっぱこれかよ」

アドルは腰の短剣を抜き構える。

そして振り返らずに、後ろの二人に指示を飛ばす。

「いつものところで合流だ。いけっ」


指示を出したのに、いつもならすぐ聞こえるはずの返事が聞こえない。

あの二人はそういうところはきっちりしてるので、自分を置いて勝手に行動するとは思えない。


嫌な予感がしてアドルが後ろを見ると、後ろにいた二人は既に倒され、床にうつ伏せでている状態だった。

次の瞬間、目の前にとんでもなく嫌な、体中がザワつくような、そんな感覚を感じて咄嗟に前を向き直ると、目の前には黒衣を纏った人影が居た。



───アドルの記憶はその瞬間プツリと消えた

 
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