テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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討伐

その18

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夢魔王の少女は、ふと懐かしい名前を思い出していた。


自分と同じ魔王軍軍王の一人、第4軍の不死族アンデッド達を束ねる第4軍王『デッドマスター』骸骨王スケルトンキング

武闘派のオークキングと一度意見が衝突するも、逆に返り討ちにしたという噂すらある強者だ。


だがその骸骨王スケルトンキングは、数年前に冒険者の手によって討たれたと聞いている。

最初はそんな馬鹿な話がと疑っていたが、それ以降不死軍団が現れたという話も全く聞かないので、それが真実だったのだといつの間にか納得をしていた。



だが、目の前の冒険者が骸骨王スケルトンキングだというのなら、色々合点のいくところもある。


自分の使う弱体魔法は相手の脳に直接影響を与えるものだ。

だからそもそも脳がない(または機能していない)不死族アンデッドには効果がなくて当然だった。

そしてさっきのエナジースティール───そもそも生命力を持たない不死族アンデッドから吸えるわけもなく、倒せなくても当然だったと言える。


「じゃが、仮にお前が骸骨王スケルトンキングだとして、先ほどのエナジースティールで不死族アンデッドのお前から、少しとはいえ吸えた生命力は何だというのじゃ!」

「それはちょっと色々あってな…」

目の前の冒険者がずらしていたフードを戻しながら、なにか感じるものがあったのか窓の方をちらりと見る。

釣られて少女もそちらに目を向けると、そのタイミングで窓から二人の人影が飛び込んできた。



「姫様、大丈夫ですかっ!?」

そこに現れたのは少し前に少女が命令し、夢魔族の未来を託した筈の夢魔の2人、ガーベラとラベンダーであった。

まだ無事だった少女を見て安堵するも、2人はその目の前にいる不審な冒険者に警戒をする。


「…懐かしい顔が増えたな。丁度いい、お前達も話を聞け」

目の前の不審な冒険者が、飛び込んできた2人にも声をかける。

何が起こってるか分からない2人は、返事はせずに警戒だけは解かないように状況を見守る。



「ところで夢魔王よ。お前は生きていきたくないか?」

不死族アンデッドの口から出てきたとは思えない、とても前向きな話だった。

少女は口を結び、険しい目つきで目の前の冒険者を睨む。


「姫さま、一体こいつは何なんですか!?」

ラベンダーが奥にいる少女に向けて声をあげた。

不死王デッドマスター…らしい。本当かどうかは知らんのじゃ」

少女が納得はいってない感じを存分に盛り込んだ口調で答える。

不死王は倒されたと話を聞いていたガーベラ・ラベンダーの二人も、少女の言葉に驚きが隠せない。



「…で、話がみえんのじゃが、お前はなんでこんなとこにいるのじゃ?。なんであの騎士団と一緒に行動しているのじゃ?。生きたくないかとはどういう事なのじゃ?」

少女はまくし立てるように質問を投げる。

目の前の冒険者は頭を掻きながら、何と言ったものか迷っている。


「とりあえず、時間がない。生きたいか死んで楽になりたいか、それだけ決めろ」

冒険者は親指で窓の外を指す───そこには大男を中心に遺跡へと進んでくる騎士達の姿があった。

倒れてた騎士達は既にボロボロなのか、ふらふらとした足取りだが、それでもそんなに時間を置かずに遺跡に入ってくるであろうことは理解する。



「姫様…」
「姫さま…」

さっき逃げるのに疲れたと言った夢魔王だ───ここで「生きたい」と言ってくれるのかどうか分からない。

夢魔の2人は心配をめいっぱい漏らしながら、少女の決定を待つ。

「儂は…儂たちは…」

そして少女は、絞り出すように冒険者に言葉を伝える。



遺跡に辿り着いた騎士団長ギルと、何とか立ち上がれた者だけで編成されたとりあえず騎士団は、目の前から出てきた黒衣の青年に目を疑う。

「おまえ、無事だったであるか!?」

どこに体力が残っていたのか、ドスドスと足音を響かせながらギルが駆け寄ってくる。

何とか立ってやっと歩けてる程度の騎士達は、自分の団長の体力に驚きの声をあげていた。


「なんか元々死にかけてたみたいでな、その上無理な魔法の連続使用がき祟ったのだろう。さっき死んでそのまま消えたぞ」

目の前のギルは信じられないという顔をして、ただ言葉を失っている。

「ほら、あっちを見て見てみろ。術者が消えてあの霧も消えているだろう?」

青年の指さす方を見ると、確かに南北、そして自分達の背後に発生してたあの赤い霧はいつの間にか消失していた。

そしてその霧があった場所では、立ち上がった人影がちらほらと見える。


「し、しかし、魔物がいくら弱っていたとはいえ、一介の冒険者がそんなことを出来るとは考えにくいのである…」

ギルは納得いかないのかまだぶつぶつ言ってる。

青年はとどめとばかりに、ギルに赤い塊を手渡す。


「それでが、消えていったヤツの亡骸の代わりに残ったモノだ」

 
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