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思惑
その8
しおりを挟む「こんにちは、ですのー」
少女がギルドの扉を開け、いつものように受付のお姉さんに挨拶をしながら入っていく。
そして、いつものようにクエストの貼り出してある掲示板の方へと向かう。
「はい、いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ…あっ!」
カウンターに出てきた受付のお姉さんは2人、というか青年の方を見ると、なぜか驚きの声をあげる。
「ちょ、ちょっといいですか?」
お姉さんが珍しく焦り気味に、何か紙をもって2人に寄ってきた。
少女が首をにゅーっと伸ばしてのぞき込んでお姉さんの差し出す紙を見ると、それは街の掲示板に貼っていた告知ポスターと同じデザインのチラシだった。
(…昨日の今日で、これだけ準備できるなんて、アドルさんはすごいですの)
少女はあまりお姉さんの話に関係ないところで勝手に納得をしているが、それはそれである。
「ここに書かれてる『前大会優勝者:漆黒の瞬殺王』って、あの、もしかしてシェイドさんの事ですか?。この前きた兵士さんが、闘技大会優勝のシェイドさんを探してるとか言ってたんですけど?」
お姉さんは半信半疑と言うか、ほぼ疑ってる感じで質問をした。
「あ、そうですの。半年くらい前の闘技大会になにか国の指定枠とかを背負わされて戦ったんですの。なかなか大変でしたの」
少女はまるで自分の手柄の様に、小さな胸を目いっぱいに張る。
それを見る青年はそうだなと、雑に返しているが、別段気にしてる様子はなかった。
「それで、そのお礼に何がいいかと聞かれたので、わたくし達のランク上げてくださいとお願いしましたの」
少女は青年の方を向き「ですのよね?」と同意を求める。
(…あ、あの手紙はそれだったんですね)
お姉さんは今まで謎だった、国からランク1冒険者への特例の真相を今更知った。
「…あっ!。その、他国の事なのでアレですけど、もしかして少し前に持って来たサンド=リヨンの封蝋のしてあった手紙は…?」
もしかしたら機密なんか絡んでたら困るので、一応聞けたらいい程度の口調でどさくさで尋ねてみた。
少女が青年の方に向くと、青年は大丈夫だろうと軽くうなずく。
「それは、モンスターの討伐軍とやらに参加して、またお礼をきかれたので、ランクを上げてもらえるようにお願いしたですの」
お姉さんはいまいち理解が追い付かない感じを漂わせながらも、一応の納得を態度で示す。
そして「ありがとうございました、これからも頑張ってください」と残すと、少しフラフラとした足取りでカウンターへと戻っていった。
そんなお姉さんの後姿を、少女は不思議そうに見ていた。
(…えーっと、一体どういうことですか!?)
カウンターへと戻った受付のお姉さんだったが、頭を抱えてしまって仕事どころではないのは明白だった。
まず、なんでランク1の状態で国の指定枠を貰えたのかがさっぱり理解できない。
その上、上がったとはいえランク2、その上他国の冒険者を、国が討伐軍に参加を許したというのだ。
しかもあれだけの個人報酬を国が出しているということは、よほどの活躍をしたのだろう。
(…えっと、ホントにあの子達は何者なのですか?)
ギルドからしたら、コンスタントに採集クエストを受けてくれる冒険者さんだ。
査定ポイントが怪しくなった時に一度だけ─────正しくは往復で2度だが、護衛クエストを受けているが、それ以外はすべて採集クエストしか受注していない。
それだけの実力があるなら、討伐クエストを受ければ査定なんか問題なかったでだろうに、なぜ採集ばかり受けていたのか?。
(…もしかして、なにかしらの指示を受けていた?。採集クエストを活性化させようとする大いなる何かの権力《ちから》が働いていたとかですかっ!?)
ちらちら少女達を見ては考え込むお姉さんは、明らかにちょっとした不審者だった。
「すいません、こちらのクエストをお願いしますの」
少女がいつものように受注書を持ってくる─────相変わらず採集クエスト、ランクは2だ。
(…ほんとに、なんでなのでしょう?)
受注書を受け取るもボーとしてるお姉さんに、少女は「大丈夫ですの?。疲れてませんの?」と心配して声をかけてくれた。
「はっ、すいません、少し考え事をしてました。このクエストですね─────はい、たしかにクエスト確認しました」
お姉さんはテキパキと処理をして、代わりに完了証を少女に渡す。
「では、無事完了しましたら、こちらに依頼者様からサインをいただいてきてください。よろしくお願いします」
お姉さんは少女達に一礼すると、いってらっしゃいと告げた。
「疲れが溜まってるようでしたら、ちゃんと寝なきゃダメですのよ?」
心配してくれる少女がそう言い残して、手を振ると2人並んで扉の外に消えていった。
(…うん、分からない事は多いですけど、あの2人がいい子なのは間違いありません!。うん、私も頑張りましょう!)
お姉さんは一人、カウンターの中で気合を入れ直すのだった。
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