テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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決戦

その11

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闘技場の控室に向って歩く二人の人影がいた。

2人ともピシっとした正装に身を包み、それなりの人であることが見て取れた。


1人はエルフの女性、短髪で活発そうにも見える。

1人は男性、嫌味にならない程度の貴金属を身に着けている。

そう、アドル商会社長のアドルとその秘書のリオンである。


「旦那、もしや委縮してやしないだろうな?」

リオンが扉を開けると、ハッハッハと明るい口調で中の黒衣の青年に、アドルが声をかけた。


「あら、アドルさんこんにちはですの。今回は色々ありがとうございましたの」

神官の少女が立ち上がり一礼すると、青年は「おう」とだけ答えて手を上げるだけで応える。


「いやぁ、アンタに勝って貰えばオレの儲けが増えるからな、発破をかけにきた」

何が楽しいのか、アドルはとても機嫌がいい。

かなり無茶な仕事を頼んだはずなのに、元気なものだと少女は驚いていた。



「おー…アンタがアドルっていう商人か。かなりの手腕だな、ホント助かった」

奥で壮年の男性が立ち上がると、アドルに近づき手を差し出す。

アドルはその手を握り相手の顔を見ると、更にうれしそうな顔をする。


「いやいや、貴方の名声のおかげですよ。龍討伐《ドラゴンスレイヤー》殿」

これが大人の付き合いというものなのか、2人は笑いながら話していた。


「ところで、ダースさんのその龍討伐《ドラゴンスレイヤー》とはなんですの?」

ずっと気になっていたのか、少女は話してる2人に質問をしてみた。



「まだオレが若い頃、ある街に龍が何度も下りてくることがあってな。その時の組んでたパーティーで倒した時につけられた通り名さ…」

ただ、と言葉を続ける。

「仲間を失ってまで取りに行く名声《もの》ではなかったと、今でも反省の日々だがな」

そう言う男性の顔は、ふっと暗くなった気がした。


「ま、戦いに犠牲はあるさ。それを実感できるこの通り名はオレにとってもいい戒めになってるがな」

暗くなっちまったと、男性は再び笑った。



「では、何かあったら声をかけてください。貴方ほどの高名な方と知り合えて本当に良かった」

アドルは名刺をダースに渡し、「じゃあ旦那、頑張ってくれよ」と手を振ると、控室をでていった。


『それでは、只今より特別闘技大会を開始します』

「「「わーーーーーーーーっ!!!」」」

アナウンスが闘技場内に響き渡る。


パンっと乾いた音が控室に響いた。

「よし、いくかっ!!」

両手で自分の頬を叩き気合を入れると、大剣を背負い男性は控室を飛び出していく。


「では、わたくし達もまいりますの。シェイドさん、がんばってくださいですの」

少女は横の青年に声をかけ、「ああ」と青年は答えると、2人並んで控室を出ていった。



登場への通路に到着すると、男性は既に闘場へと出ており、観客席へとアピールをして盛り上げている。

遅れて青年が入ってくると観客席は更に盛り上がる。

『今大会優勝者、龍討伐《ドラゴンスレイヤー》ダース=D=スレイヤー選手!。冒険者ランク8!』

「「「わーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」

『前大会優勝者、漆黒の瞬殺王選手!。冒険者ランク3』

「「「わーーーーーっ!!!」」」


審判が2人に構えるように促した。

『それでは、特別闘技大会特別試合開始してください!』

開始の打鐘《かね》が鳴らされ、審判が「はじめっ!」と声をあげる。



「折角の戦いだ、急いで決める事もないよなぁ」

そう言うと大剣使いは横から軽く薙ぐ。

後ろに下がり避けると、格闘家《モンク》が距離を詰める。

振った遠心力を生かしたまま軌道を変え、袈裟斬り的に大剣使いが斬りかかる。

横に避けると、格闘家《モンク》は再び前に出る。

後ろに回した大剣を頭上に回し、大剣使いはそのまま叩きつける。

格闘家《モンク》は大きく後ろに下がって避ける。



あの大型武器を軽々と扱う龍討伐《ドラゴンスレイヤー》もさすがだが、あれに臆せずに果敢に前に出る格闘家《モンク》にも驚き、観客達は息をのみ一瞬歓声が止まる。

大剣をズーンと叩きつける音で我に返った様に、観客席から更にヒートアップした歓声が上がった。



「少しギア上げていくぜ。ちゃんとついて来いよ?」

先程と同じく横に薙ぐ、だがその剣速はさっきより明らかに速くなっている。

その速さを保ったまま袈裟斬り、足元への薙ぎ、逆袈裟斬り、背中でそのまま持ち上げると再び叩きつけ。

格闘家《モンク》も飛び込もうと何度か試みていたが、早い切り返しの前になかなか前に出れない様にも見える。


「もう一段階ギア上げるが、大丈夫か?」

「気にしなくていい。さっさとこい」

格闘家《モンク》はそう言うと、右手で「かかってこい」のジェスチャーをした。


(…いい度胸している)

大剣使いは大剣を肩に担ぐと、一気に格闘家《モンク》に接近していった。

 
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