テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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決起

その7

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それから3日ほど流れた夕方、ウィズ=ダムの冒険者ギルドは珍しく人で溢れていた。

並べられた椅子には年齢がバラバラの冒険者達が座っており、一番前には男女二人組が立っている。


「すいません、遅くなりましたの」

そう言いながら神官の少女と黒衣の青年が扉を開けて入ってきて、その後ろから商人風の男性がついてきた。

「あ、マレットちゃんこんにちは。ところで、後ろの方はどなた?」

前に立っていた女性の方───リズが入り口に出てきて3人を迎える。


「初めまして。私はマーン商会ジャスティン商団キャラバンを預かるジャスティンと申します」

「あ、リズといいます。こちらこそよろしくお願いします」

きれいなお辞儀をしながら名刺を差し出すジャスティン、そしてあわあわしながら一礼を返すリズであった。


「ところで、失礼ですが商人さんがここで何を?」

リズが問いかけたところ、横に立っていた少女が答える。

「それは、わたくし達が頼んで来てもらいましたの。とりあえずリズさん達には話し合いを進めてもらいたいですの」

リズは「そう?」といいながら前へと戻り、相方のラーズに声をかけていた。



「そろそろ時間なので開始します。一応馬車1台に12人乗ったとして─────」

前もってちゃんと下読みしていたらしく、淀みなく説明をしていくラーズ。

大体の費用、移動日数、ジュライでの滞在日数と大雑把な宿泊費用、などなど。


一通り説明が終わると、座ってる冒険者達へとなにか質問がないかとラーズが問うた。

手を上げてまでは言わないものの、思ったほど乗合でも安くないだの、ジュライの宿泊費が高いだの、移動日数がかかるだの、ネガティブな意見ばかりがボソボソと聞こえてきていた。



「ちょっとよろしいでしょうか?」

周囲から質問も上がらないようなのでと前置きをして、商人のジャスティンが前に出てきた。

「私はマーン商会のジャスティンと申します。仮に我が社、マーン商会で乗合馬車を用意したとしても、先ほどラーズさんのおっしゃった費用と日数がかかると思うので、とても適正な値段だったと判断します」

はっきり言われないものの、参加者から小声で文句を言われていたラーズは、顔を上げて少し表情を明るくした。


「話は変わりますが、10日ほど後に、我が社からジュライへと私の商団キャラバンが出発します」

座ってる冒険者達、前に立っている2人も含めて、何の話だと首をひねっている。

「ウィズ=ダムからジュライまで移動6日、ジュライで3泊して、3日移動でサンド=リヨンへと向かい、そこで2泊。そして3日かけてウィズ=ダムへと戻る予定です」

「…あのすいません、ジャスティンさん。ちょっと話が見えないのですが…?」

リズがさすがに口を挟んだ。

「あ、すいません、前置きが長かったですね。では本題を。この商団キャラバンの行程で納得して頂けて、荷物と一緒の荷台での移動でよろしければ、乗合馬車代金をいくらかお安く出来ると思っております」

座ってる冒険者達から「おーーー」と声が上がる。



「ただ、あくまでも商売のついでに乗っていただく形になるために、こちらの行程には従っていただきます。もし時間までにいらっしゃらない場合は、そこに置いていくことになるのはご納得ください」

ざわざわ声はするものの、たいていは仕方ないなと肯定的な意見であるように聞こえる。


「更に、そのように途中で離脱される方がいらっしゃると困りますので、全て前金で頂きます」

「乗れないかもしれないのに払うのか?」「いや、遅刻する方が悪い」と今回は賛否両論な声が上がりだす。


「そしてこれがある意味重要なのですが、乗られる皆様はお客様ではなく護衛として乗っていただく形になります」

商人がそう言うと、すこし強めな声量で席の方から声が上がり出した。

「おいおい、それは俺達に金を払ってまで馬車を護衛しろって事か?」
「いやいや、護衛させるなら、むしろ代金貰わないとおかしいだろう?」

今回はさすがに否定的な声ばかりが上がる。


結構な量の席からのブーイングに、商人は口ごもる。

前に立って話を進めていたラーズとリズも、「皆さん落ち着いて」となだめるが、なかなか効果を発していなかった。



「皆さん、ちょっと待つですの!」

並んで座る冒険者達の後ろから、凛とした少女の声が響いた。

「商団《キャラバン》に護衛20人超とか普通に考えておかしいんですの。あくまでもジャスティンさんは好意で言ってくれてますの!!」

聞こえてくる声量も語気も、どんどん荒ぶっていっているのが分かる。

「それなのに、よく話すら聞かないで文句を言う様なら、ご自分で勝手に行けばいいんですの!!!」

少女の声がする─────明らかに怒りがこもっている、そんな声だ。


自分よりぐっと年下の少女のまっとうな言葉に、座って文句を言っていた大人は何も言えなくなった。

静かになったのを確認すると、リズがジャスティンに「続きをお願いします」と話の続きを求める。



「では続けさせていただきます。こちらがこれだけ条件を出すのです。これを呑んでいただけるというのなら、当然ながら費用の方はかなり勉強させていただけると思います」

そういうと商人は、後ろの壁に金額の書かれた紙を貼り付けた。


その金額は、元々予定している乗合馬車の費用の1/3程でしかなかった。

 
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