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決起
その8
しおりを挟む「これを呑んでいただけるというのなら、当然ながら費用の方はかなり勉強させていただけると思います」
目の前に貼られた予定を遥かに下回る金額に、冒険者達はザワつき出した。
「この移動費なら、ジュライの宿泊費が少しかかっても」
「でも予定外のサンドの宿泊もあるぞ」
「でも護衛を無料でやれって事だろう…」
「日数が…」
かなり迷ってる感じだが、それでもあと一歩思い切れない様子だった。
「…俺は高位鑑定士《ハイウォッチャー》に見てもらって、自分の可能性を知りたい。そしてこの費用でジュライに連れていってもらえるって言うなら、俺は護衛でも何でもやる」
前に立っていたラーズが声をあげる。
「そもそも冒険者が乗るんだ、自分の身くらいは自分で守るだろう?。なんでそれに代金が払われないと文句を言う必要があるっ!?」
少し大げさなくらいに手を動かし、ラーズは目の前に座る冒険者に問う。
「あんた達は可能性を見たくないのか?。このままずっとこの街で過ごす位なら、数日位自分の為に時間を使ってもいいんじゃないか?。強く…なりたくはないのか?」
ラーズの語りにしばらく静まり、その後ぽつぽつと、最終的には座っていたほぼ全ての冒険者は拍手でラーズを称えた。
ごく一部の賛同できなかった冒険者だけは、「やってられるか」と席を立ち、扉から外へ出ていく。
「ジャスティンさん。もしさっきの条件でよければ、私は是非乗らせてもらいたいと思います」
リズがジャスティンの手を取り声をかけた。
席に座ってた冒険者達も「俺も」「私も」と続々賛同の声が上がる。
ジャスティンの「ありがとうございます」と返す顔は心の重荷が取れたように、すこし涙ぐんで見えた。
「上手くいったみたいですの。ジョンさんにもちゃんとお礼を言わないとですの」
神官の少女はジャスティンに群がる冒険者達をみながらぼそりと言う。
横にいた黒衣の青年は「そうだな」と、少女の頭に軽く手を乗せた。
そして受付カウンターに座ってる受付のお姉さんの顔は、なぜか涙でぐしょぐしょになっていた。
「では、今回はとりあえず代金は当日朝という事で」
「はい、それでお願いします。わざわざ来ていただいてありがとうございました」
ラーズがジャスティンの手を取り、頭を下げて感謝をする。
「マレットちゃん、シェイドさん。2人のおかげで一気に実現できたよ。本当にありがとうね」
「いえ、わたくし達も興味ありましたの。これでジュライに行けますの」
そうだね。いっしょに行けるねと、入り口の方ではリズと少女が手を取り合っていた。
「ではまた当日の朝に。皆様よろしくお願いします」
「では、またですのー」
そう残して、ジャスティンと少女と青年はギルドの外に出ると、一緒にマーン商会へと向かって歩いて行った。
「これで行けるね、ジュライに…」
「…そうだな。あ、終わったと思ったら急に疲れが」
へなへなと膝から崩れそうになるラーズを、笑いながら支えるリズ。
「もー。最後の最後で決まらないな、ホントに。まぁラーズらしいけどね」
ラーズは「そうだな」というと、シャキッと立ち上がり、使わせてもらったギルドの片付けをリズと2人でするのだった。
その頃、3人は何事もなくマーン商会へと到着する。
ジャスティンがジョン社長を呼んでくれたので、事務所前で「ありがとうでしたの」とお礼を伝えた。
「いやいや、これはあくまでもテストケースでして。もし上手くいきそうなら、1年に一度…いえ、半年に一度くらいで定期的にやれればと考えているんですよ」
ジョンは新しい商売の可能性を見つけて、少し興奮して見える。
「いつもなら支払う護衛費を浮かせた上に、代金をいただけるというのなら、1台や2台馬車を増やしても十二分に元が取れるのですよ」
ハッハッハとジョンは楽しそうに笑う。
アドルもそうだったが、商人は商売の話になると本当に機嫌がよくなる。
(…忙しいのに楽しいとは、不思議なものですの)
少女は楽しそうに笑うジョン達を不思議そうに見て、機会があればいつかは自分もやってみたいなと思っていた。
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