77 / 133
ジュライヘ
その9
しおりを挟むそれから10日ほど日は経過する。
まだ陽も上りきれない早朝、ひんやりと空気が心地良い。
集合場所としていたウィズ=ダム西門には、最終的に20人もの冒険者が揃っていた。
当初の予定通り、話し合いの時に表示された金額を各自払うと、座れる程度に少し空間を開けられた荷馬車へとバラバラに乗り込んでいく。
全ての冒険者が乗り込んだのを確認すると、集金役の社員から行ってらっしゃいと送り出されながら、ジャスティン商団《キャラバン》の馬車6台はウィズ=ダムを出発した。
2台目の馬車に、神官の少女と黒衣の青年、そして剣士のラーズと魔法使いのリズが乗り込んでいた。
青年は相変わらず、荷物に背を預け、リュートをポロンポロンと奏でている。
いつ出てくるか分からない魔物の襲撃への緊張感を持ち続けている2人に、青年は「少しは気を抜いておかないともたないぞ」と言う。
ただし、言葉を繋ぐと横でいつの間にか寝てしまっている少女を見る。
「…これは抜きすぎだ」
言われて少女を見る、ラーズとリズは顔を見合わせると、思わずぷっと吹きだしていた。
結局何事もなくその日の野営予定地へと到着する。
毎度のごとく青年の恐怖《フィアー》によって何も寄ってこなかった事に気付く者はいなかった。
食事の準備をする商人達、それを手伝う一部の料理にそこそこ自信のある冒険者達。
ちなみに今回は、冒険者達の分の材料も準備してくれたそうなので、皆で火を囲んで食事をした。
夜も更け、監視役の3人を残して他は馬車へ戻り眠りにつく。
実は神官の少女もそのメンバーだったが、眠気を訴え馬車へと戻っている。
「まぁ神官だし、いいか」と他の二人も渋々とはいえ了承していた。
火が消えない様にたまに拾ってきた枝を放り込みながら、中年くらいの男性二人が向かい合って座っている。
その足元にはそれぞれ片手斧と剣が置かれており、有事の際はすぐにでも手に取れる様にはしてある。
少し離れた倒木には黒衣の青年が座り、リュートを奏でていた。
「…しかし、なんかここは嫌な感じがするな。背筋がぞーっとするような嫌な感じがよ」
「なんだ、お前も思ってたのか。なんかやばい魔獣でも近くに居るのかもしれねぇ。気を抜くなよ」
少し落ち着きなく周囲を気にした後、2人は青年の方に見る。
「あんたも、そんな風に音鳴らしてると魔獣共が来るかもしれないだろう?。さっさと止めろよ」
今まで我慢してたぞと言わんばかりに、不満を含んだ物言いである。
「…これだけ暗い中で火を焚いておいて、今更だろう。気にするな」
青年は相手をせずに、そのまま奏で続ける。
「おいおいあんた、ちょっとあの商人を連れてきたからって、上から目線してんじゃねぇぞ、ゴラァ」
「おい、やめろって…」
斧を手に取り、青年に向っていこうとする相方を、もう一人が食い止める。
「少し黙れ、そして動くな」
「んだと、てめぇ!」
斧を持った方が向かって来そうになったので、青年は二人をキッと睨むともう一度繰り返す。
「黙れ、そして動くな」
そして青年は楽器を足元に置き、真っ暗で何も見えない林の方へと進みだす。
「小便か?」と問う男性に答えずに、青年は暗闇に向って低い声で言った。
「…さっさと出て来い、ブタ。お前らの臭いはちょっとやそっとの距離じゃ消えないので諦めろ」
男性二人が「こいつ何を言ってるんだ?」と頭を捻ってると、青年の前に巨大な人影が徐々に姿を現してきた。
緑の肌、丸く見えながらも鍛え上げられた肉体、手に持った大きな戦斧─────オークだった。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています
Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。
その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。
だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった──
公爵令嬢のエリーシャは、
この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。
エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。
ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。
(やっと、この日が……!)
待ちに待った発表の時!
あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。
憎まれ嫌われてしまったけれど、
これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。
…………そう思っていたのに。
とある“冤罪”を着せられたせいで、
ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる