テトテヲトッテ ~杖と拳と時々亜人~

更楽 茄子

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ジュライヘ

その10

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基本的に集団で行動するオークだが、たまに行軍からはぐれたり、軍が嫌になって逃げだしたりして単独で行動する場合がある。

それらは一般的に「はぐれオーク」と呼ばれ、街道をゆく旅人や行商人を襲っていたりする。

そしてそのはぐれオークが、3人の冒険者達の前に現れた。


「ひっ…はぐれオークだ…」
「ほ、他の奴を起こさないと…」

おたおた慌てだす2人を、青年はキッと睨みつけ再び「黙れ」とだけ言う。

その目で睨まれた2人は、何も言えなくなり、よなよなと腰砕けにその場に座り込んだ。



「…しかし、を向ってくるとは、よっぽど勘の悪いバカか、救いのない自惚れか。どっちだ?」

青年は強めにかけていた恐怖フィアーにも関わらず向ってきたオークに問う。

そう、男性たちが感じていた嫌な寒気の正体はだったのだ。


「あと1人か2人が居眠りでもし始めてから襲うつもりだったが、まぁいい。邪魔して死にたくなきゃさっさと逃げてもいいぜ」

オークは肩を回しながらどんどん近付いてくるが、青年はその場に立ったまま、動く気配はない。



(おい、早く逃げろって!)
(ヤバいって、オークになんか勝てるわけないって!)

腰が抜けて口もまともに動かせないらしく、声も出せずに座り込んだままの二人。

オークはある程度まで近づくと立ち止まると、目の前に立ったまま動かない冒険者を鬱陶しそうに睨んでいる。


「ビビッて動けないのか知らねぇが、邪魔だ…死ね!」

オークはその太い腕で握られた戦斧を、目の前の冒険者に向って力任せに叩きつける。

バキっという大きな衝撃音が響き、斧が叩きつけられた地面に深くめり込んでいた。


その腕に沿うように、青年が立っており、伸ばした左手がオークの顔面をとらえている。

拳で顔面を打ち抜かれて意識が飛んでいるのか、バランスを崩して寄りかかってくるオークの顎を、右手で真下から打ち上げる。

オークはそのまま、ドシーンと音を響かせて、真後ろに倒れ込んだ。


元々潰れていた豚の様な鼻は更に顔の中へとめり込み、鼻血が止めなく流れている。

顎を殴られた時に舌でも噛み切ったのか、口からもドクドクと血が流れだしており、どう見ても既に息は引き取ってるように見えた。


「朝起きてこんなのがあると、商人達も気分が悪いだろう。捨ててくる…」

それだけ言うと青年は、あの巨大なオークの足を掴むと、ずるずると林の奥へと運んで暗闇に消えていった。



なんとか動けるようになった二人は、各々武器を取りまた襲ってくるかもしれないオークに怯えていた。

しばらくすると暗闇に人影が見えたと思いビクッとしたが、それはさっきオークを引きずって林の奥に消えた黒衣の青年だった。

青年は置いておいた楽器を取ると倒木に座り、何事もなかったかのようにまたポロンポロンと奏でだす。

そんな姿を男性は二人、ポカーンと口を開けて間の抜けた顔で見ていた。


「漆黒の瞬殺王…」

剣を持っている方の男がボソッと口から漏らす。

ピクっと反応した青年がこちらに顔を向けた。

「その名で呼ぶな。色々面倒だ…」

邪険に返事をすると、再び楽器を奏でる。



男性は二人並んで座ると、コソコソと話しだす。

「おい相棒、その『瞬殺王』ってのはなんだ?」

「知らないのか、お前?。ちょっと前に闘技大会があったのは流石に知ってるだろう?」

あぁあれなと、斧男が頷く。

「確か龍討伐ドラゴンスレイヤーが優勝したとかだろう?。それがどうかしたのか?」

「そのあと、特別大会って事で、1試合だけやったんだよ、それも結構な規模でよ、露店とかも出てた」

はぁっ?と斧男が小さく驚きの声をあげる。

それはそうだろう、たった1試合だけのために露店とか並ぶとか普通に考えてあり得ない。


「それで、その時龍討伐ドラゴンスレイヤーの相手が黒衣をまとった格闘家モンクの瞬殺王…つまりあいつだったんだよ」

「へぇ…ってことはあいつはそれなりに強いのか?」

斧男が少し訝しい顔をして相棒に尋ねる。

「強いも何もあるかよ!。その時に
龍討伐《ドラゴンスレイヤー》を倒したのがその瞬殺王なんだよ!」

「はぁぁぁぁっ!!?」

流石に声が漏れた、それも大音量で。

楽器の音が止まり、青年がギロリとこっちを見る。

男性二人は口を手で押さえ、身をかがめてコソコソと話し出した。


「冗談だろう?。龍討伐ドラゴンスレイヤーってあの龍討伐ドラゴンスレイヤーだろう?」

「冗談なもんか、最終的に殴りかかったと思ったら裏拳一発でノックアウトって話だ」

まじかよと、2人はチラチラと青年を見ている。

そんな2人には全く気にも留めず、青年は楽器を奏で続ける。

表情は見えないものの、めんどくさそうにため息を吐いたのは確認できた。



それ以降は何も襲ってくることもなく、夜は明けていくのだった。

 
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